《魔女のハーブは、あんまり甘くない》 リサの願いごと Episode2−2
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
"A cozy fantasy story of a witch, her bitter herbs, and the gentle secrets they hold."
<2>
「あれ、光ってる?」
わたしは、胸のペンダントを見た。
ーなんだろう。
なにか、共鳴しているみたい。
わたしは、はっとした。
そうだ、あの紺色のフードの人物から、石を取り返さなくては。
わたしは、森のなかに入ると、足あとを、さがした。
すると、おくのほうから、小さな音がしたので、わたしは、そっちをむいた。
「え、リス?」
見ると、木のしたで、リスが、どんぐりをかじっていた。
わたしと目があうと、リスは、ぴたっと、かじるのをやめた。
「ねえ、あなた。だれかが通ったの、見なかった?」
わたしは、リスに、たずねた。
すると、リスは、どんぐりをくわえたまま、大きな木を、のぼっていき、枝のうえに見えなくなった。
しばらくすると、うえから、どんぐりが、おちてきた。
わたしは、思いついた。
「そうか、あそこからなら⋯」
わたしは、すばやく、つまさきをかけて、木に、のぼりはじめた。
「え? お姉ちゃん?」
赤い靴の子が、おどろいて、木のしたから、わたしを見上げている。
わたしは、木のてっぺんあたりまでくると、森のなかと外を、みまわした。
高いところでは、むかしから、よく遊んだ。
こうやって見れば、相手のうごきが、わかる。
「あれ⋯?」
あのリスが、となりの枝のうえから、わたしを見ていた。
「あ、ごめんね。おどろかしちゃって⋯、あ?」
ーいた。
「あそこに?」
フードをかぶった人物が、あの館のなかに、入っていった。
「え?」
わたしは内心、首をかしげたが、すばやく木からおりると、赤い靴の子が、カゴを持っていた。
「お姉ちゃん? いま、うえにいたの?」
赤い靴の子が、不思議な顔で、たずねる。
「あの館よ。わたし、先に、行ってるから」
わたしがいうと、赤い靴の子は、うなずいた。
わたしは、髪をほどくと、森のなかを、館にむかって走った。
木々のあいだを、すりぬけていくと、すぐに、館が目のまえにあらわれた。
「すごい、こんな、大きい⋯」
わたしは、玄関まで歩くと、思ったとおり、トビラには、一角獣のエンブレムが、ほってあった。
「やっぱり、ここは⋯」
わたしは、そういって、トビラに手をかけると、鍵が、かかっていた。
窓も、ぜんぶ閉まっていて、カーテンが、ひいてある。
わたしは、息を、ととのえた。
「ふふ。あまいあまい⋯」
わたしは、そういってヘアピンをだすと、さきを鍵穴にいれて、ゆっくりと、まわした。
これは、タイミングが、大事なのよね⋯。
3、2、1⋯⋯、よし。
がちゃり、と音がすると、トビラがひらいた。
「ほら、10秒で、おわり」
わたしは、ほほえんでトビラを大きくあけると、なかを見て、おどろいた。
広い居間には、青い絨毯がしきつめられて、天井には、シャンデリアと、おくには暖炉があった。
見えない貴族たちが、目の前で、くつろいでいるように感じた。
「あ、そうだ。いそがなきゃ⋯」
わたしは、耳をすましたが、あの気配は、ここにはない。
経験で、わかる。
となると、2階に、いるのか⋯。
わたしは、階段を、音をたてないようにのぼると、2階には、ひろい廊下がのびていた。
かべには、見たことのない絵画が、たくさんかざってある。
「わあ、これは、高そう⋯」
わたしは、歩きながら、1枚ずつ、目を通した。
1枚くらい、もらっても、だいじょうぶかな⋯。
ーいや、いけない、いけない。
わたしは、首を、ふった。
また、そんなことを。
はやく、あの人物を、見つけなければ。
でないと、窓から、外に逃げてしまうかもしれない⋯。
わたしは、つきあたりのドアを見ると、足をとめた。
ーまちがいない、あのなかだ。
ドアノブに、ゆっくりと手をかけると、わたしは、すばやく部屋のなかに、はいった。
ここも、大きな部屋⋯。
わたしは、部屋をみまわすと、1枚の絵画が、かべに、たてかけてあった。
「⋯?」
すると、かすかな気配を、感じた。
わたしは息をとめると、カーテンのかげが、ほんのすこし、ゆれた。
「そこね⋯」
わたしは、すばやく、カーテンのなかに、うでをのばすと、なにかをつかんだ。
ーやっぱり。
そのまま、わたしが、つかんだものをひきだすと、カーテンから、小さな少年が、姿をあらわした。
「え、男の子?」
長く赤みのかかった髪を、うしろでむすんでいた。
あどけなさをふくんだ瞳は、わたしを、じっと見ていた。
わたしは、いちど、息を、ととのえた。
「さ、とったものを、返してくれる?」
わたしは、少年から手をはなすと、顔を、ちかづける。
「わ、わかったよ。石は、かえすよ⋯」
少年は、息をはずませながら、ポケットから、石をわたしてきた。
わたしは、星の形の石を、手にのせた。
ーよし、だいじょうぶそうね。
「あなた、名前は?」
わたしは、少年に、たずねる。
「お、おれは、マーシュ」
この子、まちがいない。
おなじ、スラムエリアのにおいがする。
よく、こんな遠い街まで、きたものだ。
「どうやって、トビラを、あけたんだよ?ちゃんと、鍵は、したはずなのに⋯」
マーシュは、不思議な顔で、わたしを見る。
「ふうん。なかなか、盗みの腕は、いいわね。まあ、わたしには、かなわないけど」
「え?」
マーシュが、わたしを見る。
「い、いや、なんでもないわ」
よく見ると、部屋のおくの棚には、鉱石や宝石が、ならべてあった。
さっき、街で見たものも、あった。
「なぜ、こんなこと、したの?」
わたしは、マーシュを、じっと見る。
「これだよ⋯」
マーシュは、そういって、かべに、たてかけてある絵画のうらから、小さなうごくものをだした。
わたしは、それを見ると、思わず、目をひらいた。
「え、子猫?」
マーシュが手にしているのは、小さな黒猫だった。
つややかに、黒くひかっていた。
「この子が、どうかしたの?」
わたしは、マーシュを見る。
マーシュは、いちど、小さく息をはく。
「この子の声を、治したかったのさ」
「声?」
わたしは、おどろく。
「そう、この子は、声が、でないのさ」
マーシュは、黒猫の、のどを見ながらいう。
黒猫は、だまって、マーシュの手に、ほおをなすりつける。
どことなく、ココちゃんと、にているような。
まさか、兄弟ってことは⋯。
でも、あの、きれいな瞳なんて、そっくりだけど⋯。
黒猫が「?」と、不思議な目で、わたしを見た。
「1週間まえに、ここにきたら、この子がいてさ。びっくりしたんだけど」
マーシュが、黒猫のあたまを、なでる。
「たぶん、すてられたんだろうけど。ぜんぜん鳴かなくてさ」
その気品がある雰囲気は、持ち主から、ゆずりうけたのか。
でも、どうして、ここの主人や貴族たちは、でていったのだろう⋯。
それにまだ、館のすみずみまで、手が行きとどいているように見えるし⋯。
わたしは、館を、みまわす。
「治すお金が、ほしかったのさ」
マーシュが、わたしに、つぶやく。
わたしは、おどろいて、黒猫を見る。
「治すって、その子の、声を?」
「ああ。この街の小さな病院じゃ、むずかしいみたいなんだ」
マーシュが、窓のそとを、ながめる。
「だから、もうすこし、お金をつくって、大きな病院に、つれていけばと思って」
マーシュが、棚の宝石を見つめた。
これらは、ぜんぶ、この子のためなのか。
この短期間で、こんな⋯。
「まあ、気持ちは、わかるけど⋯」
わたしは、マーシュに、言葉をむける。
「ああ、申し訳ないとは、思っているよ。だから、おれが、いつか金持ちになったら、返すつもりさ」
マーシュが、小さく、目をふせる。
わたしは、じっと、マーシュの目を見た。
ちょっと、すねているが、澄んだ目をしている。
ーうん。
心は、くすんでいない。
すると、胸のペンダントが、光りだした。
「え、なんだい、それ?」
マーシュが、ペンダントを見る。
「これって⋯?」
わたしは、つぶやいた。
「ああ、やっと、おいついた」
ドアがあいて、赤い靴の子が部屋に入ってくると、ベリーの葉が入ったカゴを、テーブルのうえにおいた。
マーシュが、おどろいて、赤い靴の子を見る。
「ドアが開いていたから。あれ、その人が、盗んだ人なの?」
赤い靴の子が、マーシュを見て、おどろく。
「うん。でも、もう終わったから、だいじょうぶよ」
わたしは、星の形の石をわたすと、赤い靴の子が、ほほえむ。
「よかった。あ、その猫ちゃんは?」
赤い靴の子は、黒猫を見ると、目をかがやかせた。
「ね。あたしに、抱かせて」
赤い靴の子は、マーシュから、黒猫をだきあげると、嬉しそうな顔になった。
「ああ、欲しかったら、その子、あげるよ」
マーシュは、赤い靴の子にいう。
すると、赤い靴の子は、黒猫に、キスをした。
黒猫が、嬉しそうに、口をあける。
ま、この子たちも楽しそうだから、よしとしようかな⋯。
わたしは、小さく息をはいて、そばのイスに、すわった。
窓のそとを見ると、外が、暗くなりはじめていた。
そして、夜空のなかには、小さな星座が、うかんでいた。
「あれは⋯?」
わたしは、不思議に思った。
なんだろう、見たことない、星座だ。
「あれ、あの星座って、見たことある」
赤い靴の子が、星座を見て、つぶやく。
「え、知ってるの?」
「たしか、魔女の形をした星座が、あるって」
わたしの言葉に、赤い靴の子が、ほほえんでこたえる。
そんな、星座が、あるのね。
でも、どこかで、聞いたような⋯。
「あれ、ペンダントが?」
胸のペンダントが、つよく光りだした。
「あれ、また、光ってるの⋯?」
マーシュが、わたしを見る。
「え、お姉ちゃん、あれって?」
わたしは、夜空を見ると、魔女の形をした星座が、光っていた。
「あれにむけて、光ってるの?」
わたしは、ペンダントに、つぶやいた。
すると、魔女の形をした星座から、あわいピンク色の光が、窓から、さしこんできた。
「え、これって?」
赤い靴の子が、おどろくと、黒猫が、しっぽをたてた。
やがて、カゴのなかのベリーの葉が、あわいピンクの光につつまれた。
マーシュが、信じられない顔で、目の前のカゴを見ている。
しばらくすると、光は、ゆっくりときえた。
「いったい、いまのは⋯」
赤い靴の子が、窓のそとを見る。
夜空に、魔女の形した星座は、もう、なかった。
「なんだろう⋯?」
マーシュが、つぶやく。
「このハーブに、ふりそそいだの?」
カゴのなかのベリーが、まだ、あわく光っていた。
わたしは、はっとした。
「ね、となりのキッチンは、使えるの?」
わたしは、マーシュを見た。
「ああ、だいじょぶだよ。おれも、使ってるし」
マーシュが、となりの部屋を指さす。
わたしは、カゴを手にして、部屋のなかに入ると、まぶしさに、おどろいた。
テーブルもカップも、すべて、ピカピカに、みがかれているし、蛇口をひねると、水も、たくさんでてきた。
「ほんとに、この館って、なに⋯?」
わたしは、つぶやきながら、お湯をわかすと、棚から、ティーポットをだした。
そして、ベリーの葉と、お湯をいれると、すばやくフタをした。
「香りを、にがさないようにね⋯」
トレイに、カップとティーポットをのせて、となりの部屋にもどると、赤い靴の子とマーシュと黒猫が、遊んでいた。
わたしは、ほほえむと、テーブルにトレイをおいた。
「よかったら、あなたも、飲まない?」
わたしは、マーシュに、声をかける。
「こんなの、飲んだことないよ」
マーシュは、手をひろげ、すこし困った顔。
「ね、お姉ちゃんが、さきに飲んでみて」
赤い靴の子がいうと、わたしはうなずいて、カップに、ハーブティーをそそいだ。
「わ、すっごい、いい香り」
赤い靴の子が、楽しそうにいう。
わたしは、ハーブティーを、ひとくち飲んだ。
「ああ、あんまり甘くなくて、気持ちいい⋯」
からだが、そらに、ういているみたい。
すると、胸のペンダントが、あわいピンクに光った。
「お姉ちゃん、それって?」
赤い靴の子が、ペンダントを見る。
「え、この色の光って⋯?」
わたしは、つぶやくと、はっと気づいた。
黒猫が、わたしを見ていた。
「?」
もしかして⋯。
わたしは、そう感じると、ペンダントに指さきをつけた。
すると、わたしの指さきに、小さなピンクの光が、ともった。
「それは?」
赤い靴の子とマーシュが、わたしの指を、見ている。
わたしは、2人にうなずくと、指さきの小さな光を、黒猫の口にあてた。
「魔女の光よ、ほほえんで⋯」
わたしは、自然と、つぶやいていた。
「あれ、黒猫ちゃんの、からだが⋯?」
赤い靴の子が、つぶやく。
すると、黒猫の小さなからだが、ほのかに光った。
「これって⋯?」
マーシュが、おどろいて黒猫を見る。
そして、だんだんと、光は、小さくなっていくと、指さきからきえた。
窓から、夜の風が、ながれてきた。
「ミャ」
とつぜん、黒猫が、小さく声をだした。
赤い靴の子が、目をひらく。
「え、いま、鳴いたの?」
マーシュが、黒猫を見る。
「ミャオ」
黒猫が、さらに大きな声を、だした。
「すごい、どうして」
マーシュが、黒猫を、だきあげた。
黒猫が、マーシュのほおを、小さくなめる。
「よかったな、声が、でるようになったんだ」
マーシュが、大きくわらう。
黒猫が、しっぽをふる。
「いまのって、あたらしい魔法⋯?」
わたしは、ペンダントに、つぶやく。
「お姉ちゃん、なんだか、魔女みたいだったよ」
赤い靴の子が、ほほえんで、わたしを見つめる。
わたしは、ゆっくりと、うなずく。
「魔女⋯。そうね、そうかもね」
ーだって、それが、わたしの願いだもの。
もうすでに、魔女の知り合いは、いるけどね⋯。
わたしは、わらいながら、ハーブティーを、のんだ。
ーおいしい。あんまり甘くなくて。
やがて、赤い靴の子と黒猫が、部屋のなかで、遊びはじめる。
わたしは、窓のそとを見ると、たくさんの星が、かがやいていた。
「さ、あまり遅くなるまえに、もどりましょうか⋯」
わたしがそういうと、マーシュが、わたしのまえにたった。
「ねえ、ちょっと、お願いが、あるんだけど⋯」
マーシュが、わたしに、つぶやく。
「?」
わたしは、マーシュを見た。
「おれを、弟子に、してほしいんだけど⋯」
赤い靴の子が、ぴたりと、うごきをとめる。
マーシュが、そっと、ほほえむ。
「ええ?」
わたしは、おどろいて、声をだした。
「ニャオ」
黒猫は、楽しそうに、ないた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Thank you for reading Episode 2!😊🩷🔔
See you in Episode 3!🌈🐈⬛🤗
《魔女のハーブは、あんまり甘くない》
リサの願いごと Episode2
END
