「まほろば」ってなんなん?奈良でやたら主張してくるあの言葉の意味。
前々回の記事では、奈良の枕詞「あをによし」が、実は「(平城)京、ビジュイイじゃん!」という当時の人たちの感動から生まれた言葉だった!?、というお話をしました。👇
さて、奈良の街を歩いていると、「あをによし」と同じくらい、いや、それ以上によく見かける超メジャーな言葉があります。
そう、「まほろば」です。
JR線の「万葉まほろば線」をはじめ、特急「まほろば」、他にもお店や催し物の名前など、奈良にいると本当にあちこちでこの文字が飛び込んできますよね。あまりにも日常に溶け込みすぎていて、「まほろばってどういう意味?」と聞かれると意外と答えに詰まってしまいます。
漢字で書くと「真秀らば」。言葉を分解してみると……
「まほろば」は「真秀らば」が訛ったものだそうです。 これを当時の言葉のパーツに分解してみると、その構造がよく分かります。
「まほ(真秀)」=「本当に(真)、ひときわ優れている(秀)」
「ら」=場所に関する接尾語。あちら・こちらの「ら」
「ば」=「場所」
つまり、すべてを組み合わせると、「これ以上ないほど優れている、最高の場所」という意味になります。単に「良い土地」というだけでなく、「こここそが至高の場所だ」と大絶賛するような、最大級の褒め言葉なわけです。
この言葉を初めて出てきたのは古事記で、使ったのは、歴史上のヒーロー、ヤマトタケルノミコトでした。
最強の戦士が最期に遺した、望郷のメッセージ
当時の最強の戦士だったヤマトタケルは、天皇の命で全国を飛び回って戦い続けていましたが、遠い旅先でついに病に倒れてしまいます。「もう自分の命は長くないかもしれない」と悟った彼が、故郷である奈良(大和)を思い、最期に遺した有名な歌があります。
「倭(やまと)は 国のまほろば たたなづく 青垣(あをかき) 山隠(やまこも)れる 倭し麗(うるわ)し」
これを、当時の彼の状況を踏まえて現代語に訳してみます。
「大和(奈良)は、この国の中で最も優れた、素晴らしい場所だ。幾重にも重なった青い垣根のような山々に囲まれている大和は、本当に美しい(あぁ、あの場所に帰りたい……)」
命の灯火が消えかけるその瞬間まで想った望郷の念。それが今も残る「まほろば」という言葉の原点です。
意味を知ると見えてくる、奈良の「ギャップ」
……さて、この「まほろば=最高に優れた至高の場所」という意味を頭に入れた上で、今の奈良の街を見渡してみると、少し面白いギャップに気づきます。
現代の奈良県民は、近隣の都道府県の際立った個性やパワフルさに少し圧倒されがちで、「いやいや、ウチなんて鹿と大仏くらいしかないので……」と、謙遜する傾向がありますよね。 しかも、教科書に載るような歴史的遺産が生活圏に当たり前にありすぎるため、風景として完全にマヒしており、普段から特別感を意識することは滅多にありません。
それなのに、自分たちが暮らす街のいたるところで、 「ここは国の中で最も優れた最高の場所である!!!(ドヤッ)」 と、「まほろば」という単語だけがやたらと強い自己主張を放っているのです。
住民は一歩引いて謙遜しているのに、街に溢れる言葉だけは1300年前のヤマトタケルの熱量のまま、最大級の自画自賛をキープしている。このコントラストを客観的に観察してみると、なんだかジワジワと面白く感じます。
奈良だけじゃない、全国の「まほろば」
ちなみに、ヤマトタケルが恋しがったのは大和の土地でしたが、この「まほろば」という言葉、現代では奈良以外でも広く愛されています。
アーティストのアルバム名になっていたり、北海道の旅館の名前になっていたり、福岡県のバスの名前になっていたりと、全国各地の素敵なモノやサービスにその名が冠されています。
「ここが一番落ち着く」「この土地のこれが最高なんだ」と思えるような素晴らしい場所は、きっと日本中のいたるところにあるのでしょう。
もし次に、奈良の街中で、あるいは全国のどこかで「まほろば」の文字を見かけたら。 「おっ、ここも『至高の場所』だと胸を張っているんだな」と、そのちょっとした熱量を感じてみてくださいね。
