今日から蒼い 第30話 同じ空の下
放課後、アオイは駅までの道を歩いていた。
空はまだ明るい。
少し傾いた光が、
建物の窓に細く残っている。
学校を出てから、
何人かの生徒を追い越した。
反対に、何人かには追い越された。
みんな同じ方向へ歩いているようで、
途中の交差点で少しずつ別れていく。
アオイもいつもの角を曲がる。
その先で、一度だけ足を止めた。
少し離れた道を、
見覚えのある姿が歩いていた。
教室では、いつもすぐ近くにいる人。
今日は少し遠くに見える。
まだこちらには気づいていない。
アオイは声をかけず、そのまま歩いた。

次の交差点を曲がるころには、
その姿は見えなくなっていた。
それだけだった。
学校では、すぐ隣にいる。
ページをめくる音も、
椅子を引く音も聞こえるくらい近い。
でも学校を出れば、
歩く道も、帰る場所も違う。
アオイは信号を待ちながら空を見る。
雲がひとつ、ゆっくり動いていた。
さっき歩いていた道の上にも、
たぶん同じ雲がある。
離れた場所にいても、
見上げれば同じものが見える。
そんな当たり前のことを、
アオイは少しだけ考えた。
信号が青になる。
アオイは横断歩道を渡った。

駅に着くころには、
空の色が少し深くなっていた。
ホームには、帰る人たちが並んでいる。
アオイは列の後ろに立つ。
電車が来るまで、あと少し。
向かいのホームにも人がいる。
名前を知らない人ばかりだった。
今日、同じ電車に乗る人。
もう二度と会わないかもしれない人。
その上に、ひとつの空が続いている。
アオイは少しだけ顔を上げた。
誰かと同じ場所にいることと、
誰かと同じものを見ることは、
たぶん少し違う。
隣にいなくても、
同じ時間の中にいることはある。
遠くで電車の音がした。
ホームに風が入ってくる。
アオイの髪が少しだけ揺れた。
知らなかった声が、
いつの間にか知っている声になっていた。
話したことは、まだ少ない。
それでも、前より少しだけ
教室の中に気づくものが増えた。
世界はほとんど変わっていない。
ただ、誰かがそこにいることを、
前より少しだけ覚えている。
アオイは近づいてくる電車の光を見る。
そのずっと上で、
今日も同じ空が蒼かった。
