ヘッドスライディング

吉澤嘉代子の一角獣をヘッドホンで、電線の影をつま先でなぞる。
これはほんまに電線ですか?と見上げる12:27。
サングラス越しに入る日差しから、はっきり見えた黒い影。
間違いなく電線であった。
納得して、嬉しくなって、頬があつい。
日焼けでしょうか?頬を手の甲で触って、体の熱を確かめる。
そんなことを繰り返して、今日は電車に乗車。


今日の就活は終了。
最寄駅よりひとつ手前で降車。
美味しいコーヒーで機嫌をとる。

気分が上向きになったとき。
ガラス越しの景色も空気を変えた。

白い一瞬のモヤ、金色に走るあみだくじ。
瞬きが勿体無い、しゃがんで見上げる重い雲。
気まぐれな雷は驟雨を連れて、短気な嵐。
落ちる夏の緑の葉っぱ、不自然な自然。
コンクリートの道路を走るのは車ではなく、激しい雨水。
あっという間に出来ていく水たまりに興奮した。


ヘッドホンを持っていたから、とびだせなかったけど、雨足が弱くなって、私は夏の湿気た空気にジャンプした。


ソワソワがワクワクに変わる。
お散歩しよう。
ヘッドホンを耳に当てて、私だけのものにした。

数えられるほどの小さな雨粒。
肩に落ちる思ったよりも重い水滴。
視線を上げると深い緑と黄緑の葉が茂っている。
あぁ、穴の空いた傘か、と納得して歩を進める。
少し先を見れば、出来たばかりの水たまりがあって、電線を映していた。
つま先でなぞってみれば、揺れてしまって、スニーカーも濡れて、頬が緩む。
自宅までの曲がり道で山の方を向けば、遠くで雷が、おこってた。

雨はなんだって言い訳させてくれるから、好き。
大好き。
電線は何度も姿を変えて、私と自宅までを繋いでいく。

途中の濡れた公園。
落ちるはずない葉っぱたち。
この緑から落ちたら、負け。ルールを決めて真剣にあげる右足。水滴が落ちる。私は葉の上、草の上。
ふと存在を感じて見る正面。
お散歩してる犬がきたから、道をゆずった。
絶対勝てない大きさやったから。犬はこわい。
私は緑から落ちて、負けた。
電線を見てれば勝てたんかなぁ。
私はまだ鳴っている雷神の唸り声に、ねぇ?って声をかけてみた。
もちろん、返事はなくって「ただいま」って、ヘッドホンを外した。

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