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蕎麦湯を水筒に詰めて

妻と蕎麦屋に行った。僕はつけ鴨、妻はもりそばと御稲荷さんひとつ。
食後に蕎麦湯を妻が飲む。妻は蕎麦湯が大好きだ。妻は、蕎麦湯を飲みたいがために蕎麦屋に来てる節がある。

「あー…、蕎麦湯、好きだわ。飲み物の中で一番好きかもしれない。んーなんだろ、味じゃないんだよね。分かる?お腹に入ったときの感覚が丁度いいんだよね。分かる?あれ!あれさ!お風呂と同じ。分かる?一番風呂って嫌でしょ。さら湯。肌がピリピリする感じで。あれとおんなじ。胃の中にさ、いきなり冷たい水とか入ると嫌じゃない。蕎麦湯だと、なんか安心するんだよね。丁度いいの。分かる?お風呂と同じ」

分からない。

家でお風呂が沸くと、「お風呂沸いたよ、入って!」と妻から声がかかる。僕がモタモタしていると「早く入って!」と怒られる。
一番風呂を夫に入れさせたいという、妻の優しさでは決してない。妻は一番風呂が嫌いなのだ。一番風呂のさら湯は肌に刺激が強いと言う。入浴剤入れれば分からないんだけどなぁと思うが、必ず僕が一番に入る、というか入らされる。

妻の実家でも、義父が「お風呂沸いたよ。入りなさい」と僕に一番風呂を勧めてくれる。最初は僕に気を使って一番風呂を勧めてくれていると思っていた。優しい義父だなぁと。
妻と同じで義父も一番風呂が嫌いだった。
誰かが入らないと義父は風呂に入ろうとしない。
妻の一番風呂嫌いは義父に似たのだろう。


昔は家に風呂のない家庭が多かった。銭湯の時代だ。僕の家には、たまたま風呂があったので、銭湯が休みの日などは隣の家の子たちが、たまに風呂に入りに来た。

僕の家だけかもしれないが、今と違って風呂の水は毎日は変えなかった。風呂も毎日は入らない。何日かするとお湯が汚れてくる。
湯に浸かって、動かずにじっと我慢する。アカや汚れが浮いてくる。顎のあたりまでゆっくりと体を風呂に沈める。表面に浮いたアカや汚れがゆっくりと溢れ、お湯が綺麗になる。

風呂の温度は40度ぐらいのぬるめのお湯が体にいいとか、副交感神経がなんたらかんたらとか気にしない時代。焚いたが最後、温度調節は出来ない。熱湯みたいな風呂に入って、熱すぎたら水を入れる。後から入る人のためにぬるくは出来ないから極力熱さに我慢する。交感神経爆上がり、運動のような入浴。

一番風呂。蓋を開けると湯気が立ち昇る。
一番風呂のお湯は輝いて見えた。


「お風呂沸いたよ、入って!」

肌にピリピリの一番風呂に入って、キンキンに冷えたビールを胃に流し込む。
妻と真逆の体に悪いだろう僕の楽しみ。


妻が言う。
「あー…蕎麦湯、水筒に入れて持って帰りたい」


今日の妻の一言


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