なんてったってアイドル
「いやー!私、無理だわ!絶対に」
テレビで婚活パーティの様子が流れていた。
男女5人が自己紹介したり、互いに質問したりして、最後はフリートーク。婚活女子がぐいぐい攻め込んで行く。
「絶対、無理!婚活パーティとか無理!」と妻が強く言う。
「いやいや、貴方はもう結婚してるから、婚活パーティ関係ないでしょ」僕が呆れる。
「わかってるけど、私が父ちゃんと結婚してなくて、もしもって話さ」
「絶対に無理だなぁ…。行かないな、私なら」
妻が真底嫌そうに続ける。
「父ちゃんも、苦手でしょ?こういうの」
妻が僕に聞く。
ま、僕も嫌だけど、長年教師として培ったノウハウを持ってすれば、何とかしのげる自信もなくもないが、うーん、やはり無理だろう。会話が続かない。そもそも話しかけに行けない。多分、一人壁際で立ちすくみ、気を殺して壁に同化して、『ジョジョ』第2部のカーズのように永遠の時間に閉じ込められて、考えるのをやめてしまうだろう。
「でもさ、母ちゃんはさ、人前で何か演るのは得意だろ?歌ったり踊ったり…」と、僕が言う。
妻は平然と言い切った。
「そりゃ、私アイドルタイプだから」
絶句する僕。アイドルタイプ??
どこがアイドルだ、妻よ…
妻は子供の頃、松田聖子に憧れていた。
今でもテレビに映る松田聖子を観て、
「やっぱり聖子ちゃん、かわいいわー」とうっとりとしている。
妻は聖子ちゃんになりたかった。
いかんせん、妻のスタイルはアイドル路線とはかけ離れていた。
ギリ、ちいかわにはなれるかもしれないが、聖子ちゃんはなれない。
「もう少し首があったらな」
鏡を見て妻が言う。
首だけの問題ではないと僕は思う。
妻は人前に出るのが好きだ。目立ちたがり屋さん。
たしかに、アイドルタイプなのかも。
学校祭で、生徒の前で歌を一曲歌わなければならなくなった。
妻は若者受けする歌を選曲し、YouTubeで研究して歌い込む。踊りも完璧にマスターする。更に、サプライズで、歌の前奏をリコーダーで演奏しながら生徒の前に颯爽と登場しようと、猛特訓する。
のりのりでリコーダーを吹き踊り歌い、生徒からの笑いをとる。
一生に一度でいいから、武道館で歌を一曲歌ってみたいなぁ…と夢想する妻。
老後はヘビィメタルの歌手でもやろうかと言う。名前はすでに決まっている。オジー・オズボーンにあやかってババー・オズボーン。
「なんで婚活そんなに嫌なのさ?」僕が妻に聞く。
妻はきっと言うだろう。
「アイドルは婚活しないものなの
私、なんてったってアイドルだから」

