【03顧客管理-入門#4】UBO(実質的支配者)とは──法人の「真の所有者」を特定する犯収法の判定フロー
法人口座の開設手続きで「実質的支配者を教えてください」と聞かれて、固まった経験はありませんか。
以前、ある新設法人の口座開設に立ち会った時のことです。
銀行の担当者が「御社の実質的支配者はどなたですか」と聞くと、お客様は「代表取締役の私です」と即答しました。株主構成を聞いてみると、出資比率は3人の個人株主がそれぞれ40%・35%・25%。話は思ったほど単純ではありませんでした。
この記事では、実質的支配者(UBO)の定義と判定の考え方を5分で解説します。
この記事でわかること
実質的支配者(UBO)の定義と、なぜ確認が必要なのか
議決権25%超ルールと、該当者がいない場合の判定順序
FATFが日本に厳しく指摘してきた「法人の透明性」の論点
目次
実質的支配者(UBO)とは何か
犯収法の判定順序:3段階のステップ
なぜ25%なのか、間接保有とは
FATF第4次対日審査での指摘
まとめ
本記事では犯収法第11条に基づくUBO判定の詳細フローを解説します。KYB全体像との関係は【入門・顧客受け入れ#03】KYB実務ガイドをあわせてご覧ください。
実質的支配者(UBO)とは何か
実質的支配者(UBO:Ultimate Beneficial Owner)とは、法人の背後にいて、その法人を実質的に支配している自然人のことです。日本の犯収法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)では「実質的支配者」と呼ばれています。
なぜ確認が必要なのか。
ペーパーカンパニーを使ったマネー・ローンダリングを防ぐためです。
犯罪者は、自分の名前を表に出さずに犯罪収益を動かしたいと考えます。
複数の法人を重ねて持ち株構造を複雑にし、誰が本当の所有者か分からなくする。実質的支配者を特定する制度があれば、「この法人を実際に動かしているのは誰か」を金融機関が把握でき、マネー・ローンダリングの入口を塞げます。
日本では犯収法に基づき、金融機関等の特定事業者は法人顧客の取引時確認において、実質的支配者の本人特定事項(氏名・住居・生年月日)を確認する義務があります。
犯収法の判定順序:3段階のステップ
法人の実質的支配者をどう特定するか。犯収法施行規則の考え方としては、以下の3段階で判定するのが一般的です。

Step 1:議決権25%超の自然人
議決権の25%超を直接または間接に保有する自然人がいるかを確認します。
例:株式会社Aの株主が「自然人X氏(30%)」「法人B社(70%)」という構成の場合、X氏が実質的支配者の第一候補になります。
Step 2:50%超を有する自然人
Step 1で該当者が複数いる場合、議決権50%超を有する自然人がいれば、その者を優先します。
冒頭の事例で言えば、株主が「X氏(40%)」「Y氏(35%)」「Z氏(25%)」なら、50%超の自然人はいないため、X氏とY氏の両方が実質的支配者となる場合があります。ただし、別途50%超を有する自然人がいれば、その者が最優先です。
Step 3:該当者がいない場合
議決権25%超の自然人が存在しない場合、契約その他により法人の事業活動に支配的な影響力を有する自然人を確認します。
それでも該当者がいない場合は、その法人を代表し業務を執行する自然人(代表取締役等)を実質的支配者とみなします。
「該当者がいない場合は代表取締役」というルールがあるため、最終的に必ず誰かが実質的支配者として特定されます。判定不能で終わることはありません。
なぜ25%なのか、間接保有とは
「なぜ25%超なのか」という質問はよく受けます。これはFATFが2012年に改定した勧告24・25の基準に基づくもので、「25%超の保有があれば、一般に法人に対して実質的な影響力を行使し得る」という国際的なコンセンサスから来ています。
間接保有の考え方
「直接または間接に」という表現がポイントです。
例えば以下のケースを考えてみます。
X氏が法人A社の株式を100%保有
A社が法人B社の株式を30%保有
X氏はB社の株式を直接は保有していませんが、A社を通じて間接的にB社の30%を支配しているとみなされます。X氏はB社の実質的支配者に該当する可能性があります。
こうした多層的な持ち株構造を解きほぐすのが、金融機関の実務担当者の仕事です。海外の法人が絡むと書類の入手自体が難しくなり、現場で最も頭を悩ませるテーマの一つです。
海外子会社が3層4層と重なっている案件で、株主名簿の取り寄せに2か月かかったこともあります。
その間も取引は止められない。現場の苦労は、制度の条文だけでは見えてきません。
FATF第4次対日審査での指摘
日本は2021年8月に公表されたFATF第4次対日相互審査で、「法人の実質的支配者の透明性が不十分」という厳しい指摘を受けました。その結果、日本は「重点フォローアップ国」(強化観察対象)という評価になりました。
この指摘を受けて、日本政府は制度強化を進めています。
2022年1月:商業登記所による実質的支配者情報一覧の保管制度が開始
2027年4月1日施行:令和7年共同命令第3号・令和8年共同命令第1号による本人確認方式の見直し(画像送信型eKYC等の廃止・ICチップ読取要件の追加)
継続的顧客管理は現行犯収法第11条第1項・施行規則第32条第1項第3号に基づく努力義務であり、2027年4月施行の改正(本人確認方式の見直しが中心)後もこの位置づけは変わりません
次の第5次対日相互審査は2028年に予定されています。今の日本は「法人の透明性」の実効性を高めるフェーズにあります。
金融機関・FinTech事業者は、単に形式的な確認を行うだけでなく、実質的支配者の情報が正確か・最新かを検証する運用が求められるようになります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
読んだ内容を、今すぐ実務に使う2ステップ
ステップ1:無料ツールで実際に判定してみる
この記事で学んだことを実際の取引先で試せる無料ツールを用意しています。
登録不要・ブラウザ完結。入力データはサーバーに送信されません。
▼ UBO(実質的支配者)判定ツール(犯収法施行規則第11条ベース)
https://aml.rushbbit.com
▼ 2027年4月 犯収法改正 影響度チェッカー(43業種・5問)
https://aml.rushbbit.com/kaisei
ステップ2:社内展開できるレベルまで引き上げる
ツールで判定した後、「その結果をどう記録し、社内に定着させるか」まで
完全整備したい方は、実務マニュアルをご活用ください。
▼ KYC実務はこれ1本で完結|全10章+付録Excel
第1章(用語整理)は無料でお読みいただけます
https://note.com/amlcftmukudori/n/n162a9cbb490a
▼ 全10章+付録Excel マガジン一括購入(¥4,980)
https://note.com/amlcftmukudori/m/mdba8a5b96ffa
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
まとめ
実質的支配者(UBO)とは、法人を実質的に支配する自然人のこと。ペーパーカンパニーを使ったマネー・ローンダリングを防ぐために確認が義務化されています
議決権25%超の自然人を起点に、該当者がいない場合は契約上の影響力、最終的には代表者を実質的支配者とするのが一般的な判定順序です
日本はFATF第4次審査で「法人の透明性不十分」と指摘されました。2027年4月施行の改正犯収法で対応が強化され、2028年の第5次審査に向けて実効性のある運用が求められています
「実質的支配者」という言葉は硬く聞こえますが、やっていることは「このビジネスの裏で、実際に動かしているのは誰か」を明らかにする作業です。
この記事を書いている人
AML/CFT実務の現場経験をもとに、犯収法・FATF対応の実務ノウハウをnoteで発信しています。「現場で使える」をモットーに、法令の読み方から具体的な対応手順まで、実務担当者目線で解説します。AML実務の最新情報を受け取りたい方は、ぜひフォローしてください。
あわせて読みたい
🔧 実質的支配者チェッカー(無料ツール)
法人の実質的支配者(UBO)を犯収法施行規則第11条ベースで自動判定できます。株主構成を入力するだけで間接保有も計算。
![AMLコンプラの人[むくどり]](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/269984189/profile_a694b97fdf2e3af577347c2e5675d2e6.png?width=60)