【03顧客管理-完全版#11】犯収法の本人確認(ICチップ義務化・ホ方式廃止)|全43業種の対応手順+Excelチェックリスト50問
現在の非対面本人確認フローを使い続けて、令和9年4月1日以降も法令上問題がないと言い切れますか。
令和9年4月1日に施行される犯収法施行規則改正で、画像送信型eKYC(業界通称「ホ方式」、犯収法施行規則第6条第1項第1号ホ)、書類写し郵送方式(業界通称「リ方式」、同号リ)、および写真のない本人確認書類による対面方式(同号ハ・ニ)が廃止されます(計4方式)。
現在これらの方式を採用しているにもかかわらず、代替手段の検討をまだ開始していない場合、令和8年中に発注を完了させないと施行に間に合わない可能性があります。
eKYCベンダーの仕様変更・システム改修・社内規程改訂・研修実施を含む移行作業には、最短でも3〜6か月が必要です。
実質的なタイムリミットは令和7年内に動き出すことが現実的なラインとなります。
対象は金融機関だけではありません。宅地建物取引業者・古物商・貴金属等取扱事業者・ファイナンスリース事業者をはじめとする43業種の特定事業者すべてが対応を迫られます。
この記事では、施行規則の条文を直接参照しながら、改正の全体像・廃止される方法の代替手段・業種別の実務対応を体系的に整理します。
この記事でわかること
廃止される4方式(ホ方式・リ方式・ハ方式・ニ方式)の条文上の根拠と、なぜ今廃止されるのかの背景
ICチップ読取方式(ヘ方式)に移行するための技術的要件と業種ごとの選択肢
【有料パート】自社の対応状況を10分以内で確認できる部門別チェックリストと業種別判断フロー、ベンダー打診メールテンプレ
目次
【無料】改正の全体像を掴む
なぜ今、犯収法施行規則が改正されるのか
廃止される本人確認方法の法令上の位置づけ
残る方法・強化される方法の整理
ICチップ読取方式(業界通称「ヘ方式」)の仕組みと要件
【有料 ¥980】実務対応の全リソース
業種別の実務影響と対応パターン(金融機関・宅建業者・古物商・貴金属等)
移行のタイムラインと優先順位(令和8年前半〜令和9年4月1日施行)
よくある疑問と実務上の注意点(現行確認の遡及・書類別対応可否等)
対応状況確認チェックリスト(経営/コンプラ・IT・窓口の3部門別・証跡資料併記)
業種別 代替方法選択フロー(金融機関・宅建業者・古物商・貴金属等の業種別判断基準)
eKYCベンダー選定・切替の実務ポイント(確認15項目)
付録. 2027年改正対応チェックリスト50問(Excelダウンロード)
1. なぜ今、犯収法施行規則が改正されるのか
犯罪収益移転防止法(犯収法)は、マネー・ローンダリング(ML)およびテロ資金供与(TF)を防止するため、「特定事業者」に取引時確認や疑わしい取引の届出等を義務づける法律です(犯収法第4条・第8条)
施行規則はこの法律の委任を受け、本人特定事項の確認方法を具体的に列挙しています。
今回の改正はこの施行規則の一部改正であり、施行日は令和9年4月1日です。
改正の背景には二つの要因があります。
第一に、なりすまし犯罪の高度化です。
偽造運転免許証や、生成AI・ディープフェイク技術を利用した本人確認書類の画像偽造が増加しています。
警察庁の「犯罪収益移転防止に関する年次報告書」(令和7年版)によれば、令和7年中に特定事業者から届け出られた疑わしい取引の件数は101万9,405件と過去最多を記録し(令和6年:84万9,861件)、なりすましを疑う案件も多数報告されています。
画像情報だけを確認する方式では、こうした高度な偽造を検知することが技術的に困難になっています。
第二に、FATF(金融活動作業部会)からの指摘です。
FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)は、マネー・ローンダリング対策の国際基準を策定する政府間機関です。
日本は令和3年(2021年)8月のFATF第4次対日相互審査で「重点フォローアップ国」と評価されました。
さらに令和10年(2028年)にはFATF第5次対日相互審査が予定されており、本人確認の精度向上は引き続き国際的に求められています。
FATF勧告10では、金融機関に対して確実な顧客確認(CDD:Customer Due Diligence)の実施を求めており、偽造リスクの低い本人確認方式への移行はこの要請に沿うものです。
2. 廃止される本人確認方法の法令上の位置づけ
今回の改正で廃止される方法は、犯収法施行規則第6条第1項第1号(自然人の本人特定事項の確認方法)に現行規定されているもののうち、ホ・リ・ハ・ニの4つです(いずれも令和9年4月1日施行)。
廃止される方法その1:画像送信型eKYC(業界通称「ホ方式」)
現行:犯収法施行規則第6条第1項第1号ホ
条文の概要を説明します。特定事業者が提供するソフトウェアを使用して、顧客等の容貌および写真付き本人確認書類(氏名・住居・生年月日・写真を確認できる書類)の画像情報を撮影させ、その送信を受ける方法です。
いわゆる「セルフィー+本人確認書類の撮影」方式で、銀行口座の開設やフィンテックアプリの登録で広く使われてきました。
なぜ廃止されるのか。理由は条文が要求する確認内容にあります。
この方式は「画像情報」を受け取ることで本人確認とする仕組みのため、偽造された本人確認書類の高精細画像やディープフェイク加工された容貌画像が送信されても、システム側での検知が困難な場合があります。
物理的なICチップを持たない画像ベースの確認は、偽造技術の進化に対して構造的な限界があると判断されました。
廃止される方法その2:書類写し郵送方式(業界通称「リ方式」)
現行:犯収法施行規則第6条第1項第1号リ
条文の概要を説明します。顧客等の現在の住居が記載された本人確認書類の写し2点の送付(または本人確認書類の写し1点と補完書類の写しの送付)を受けるとともに、その住居に書留郵便等により転送不要郵便物等として取引関係文書を送付する方法です。
なぜ廃止されるのか。この方式は書類の写しをもとに確認を行うため、精巧な偽造書類への対応に限界があります。
また、書留郵便等による住居確認は本人到達の確認としては有効ですが、書類自体の真正性を物理的に担保する仕組みとなっていません。
ICチップ読取方式と組み合わせない単独の郵送方式は廃止対象となります。さらに、写真のない本人確認書類を対面で提示する方式(同号ハ)と、写真のない書類の提示に書類等の送付を組み合わせる方式(同号ニ)も廃止されます(廃止は計4方式・いずれも令和9年4月1日施行)。
参考:健康保険証の本人確認書類としての取り扱い
令和7年12月2日以降、健康保険証は新規発行が停止されており、マイナ保険証への移行が進んでいます。
健康保険証を本人確認書類として使用する「ホ方式」の実質的な適用可能性はすでに変化しており、今回の廃止と合わせて理解する必要があります。

3. 残る方法・強化される方法の整理
施行規則第6条第1項第1号に列挙されている方法のうち、令和9年4月以降も継続して使用できるものは次の通りです(改正案に基づく整理であり、正式な施行規則改正公布後に最終確認してください)
対面取引で継続使用可能な方法(主要なもの)は次の通りです。
イ方式:写真付き本人確認書類の直接提示を受ける方法(施行規則第6条第1項第1号イ)。原則として継続使用可能です。マイナンバーカード・運転免許証・パスポート等の提示を直接受ける基本形です。
ヘ方式(ICチップ送信型eKYC):容貌画像の送信を受けるとともに、ICチップに記録された情報(氏名・住居・生年月日・写真)の送信を受ける方法(施行規則第6条第1項第1号ヘ)。改正後の非対面取引における中心的な方法として位置づけられます(号は現行ヘから改正後ハに繰り上がります)。
ワ方式(認定電子署名型):電子署名法(平成十二年法律第百二号)第四条第一項に規定する認定を受けた者が発行した電子証明書による電子署名の送信を受ける方法(犯収法施行規則第6条第1項第1号ワ)。継続使用可能です。
カ方式(JPKI公的個人認証型):地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が発行した署名用電子証明書と電子署名が行われた情報の送信を受ける方法(犯収法施行規則第6条第1項第1号カ、根拠:公的個人認証法第3条第6項・第16条の2第6項)。
ただし、利用条件として「特定事業者が公的個人認証法第17条第4項に規定する署名検証者であること」が必要です。
署名検証者登録(J-LIS登録)を行っていない事業者はカ方式を利用できません。継続使用可能ですが、新規導入時は署名検証者登録の手続きが前提となります。
ヨ方式(認定特定認証業務型):内閣総理大臣および総務大臣の認定を受けた者が発行した電子証明書と電子署名の送信を受ける方法(犯収法施行規則第6条第1項第1号ヨ)。継続使用可能です。
ル方式・ヲ方式(カード代替電磁的記録型):スマートフォン上のデジタル運転免許証等に対応した方法(施行規則第6条第1項第1号ル・ヲ)。比較的新しい方法であり、対応ツールの普及を前提とした方法です。
チ方式(書類送付+書留郵便):書類または書類の写しの送付を受けるとともに、ICチップ情報または書類画像を確認し、書留郵便等で取引関係文書を送付する方法(施行規則第6条第1項第1号チ)。
単純な書類写しの郵送方式(旧リ方式)と異なり、ICチップ情報または画像を組み合わせる方式であり、継続使用可能です。
4. ICチップ読取方式(業界通称「ヘ方式」)の仕組みと要件
改正後の非対面取引における本人確認の中心となるのが、ICチップ読取型eKYC(業界通称「ヘ方式」)です。施行規則第6条第1項第1号ヘの内容を整理します。

条文の要件
施行規則第6条第1項第1号ヘは次の二つの情報を組み合わせて受け取ることを求めています。
第一に、特定事業者が提供するソフトウェアを使用して顧客等の容貌の画像情報の送信を受けること。
第二に、顧客等の写真付き本人確認書類であって、氏名・住居・生年月日・写真の情報が記録されている半導体集積回路が組み込まれたものに組み込まれた半導体集積回路(ICチップ)に記録された当該情報の送信を受けること。
ここで「半導体集積回路が組み込まれた写真付き本人確認書類」とは、主にマイナンバーカードと、ICチップ搭載の運転免許証が該当します。
パスポートについては、ICチップには写真情報等が記録されているものの、住居情報は記録されておらず、本方式に直接使用できない点に注意が必要です。
なぜICチップが偽造に強いのか
ICチップに記録された情報は、発行機関(地方公共団体情報システム機構・J-LIS等)が電子的に署名しており、その真正性を検証できます。
物理的なICチップを破壊せずに内部のデータを改ざんすることは技術的に極めて困難です。
また、紛失届が出されたカードは失効処理がなされるため、盗難カードの不正利用リスクも低減されます。
画像の加工やディープフェイクは「視覚的情報」への攻撃ですが、ICチップ内の電子証明書を偽造することはほぼ不可能であり、構造的に異なるレベルの安全性を持っています。
実務上の留意点
ICチップ読取方式を導入するには、eKYCシステム側でのICチップ通信機能(NFC対応)が必要です。
また、スマートフォンのNFC機能を通じてICチップを読み取る仕組みのため、NFC対応のスマートフォンをお客様が保有していることが前提となります。
マイナンバーカードの利用時は、カード内に格納された電子証明書のPINコード入力が必要です。このため、顧客体験(UX)の設計においては、PINコード忘れや入力エラーへの対応フローも必要となります。
無料パートのまとめと有料パートのご案内
ここまでで、改正の背景・廃止される4方式の条文上の根拠・代替方法の概要・ICチップ読取方式の仕組みをご理解いただけたかと思います。
次に残る問いはこちらです。
「では、自社の業種・規模・取引量に応じて、具体的にどの方式を選ぶべきか。今どの段階にあり、何から手をつければよいのか」
有料パートでは、この問いに答えるための実務リソースを4点収録しています。
第1の収録物は「業種別 代替方法選択フロー」です。金融機関・宅建業者・古物商・貴金属等取扱事業者・ファイナンスリース等の業種ごとに、自社の取引量や体制に応じてヘ方式移行・公的個人認証型・対面集約のどれを選ぶべきかを判断するフローチャートを提供しています。
第2の収録物は「移行のタイムラインと優先順位」です。令和8年前半〜令和9年4月1日施行までの実務フェーズ別対応スケジュールを整理しています。
第3の収録物は「対応状況確認チェックリスト50問」です。経営/コンプラ・システム/IT・業務/窓口の3部門別に今すぐ確認すべき項目を50問にリスト化し、証跡資料の具体名も併記しているため社内進捗確認や監査対応の証跡としてそのまま使えます。
第4の収録物は「eKYCベンダー選定・切替の実務テンプレ」と「よくある疑問Q&A」です。ベンダーへの問い合わせ時に確認すべき15項目・打診メール雛形・現場でよく出る疑問への回答を収録しています。
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