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むランず米囜、本圓の察立理由は「栞」ではなく「石油」だったのか——カルダヌ『新倧陞䞻矩゚ネルギヌず21䞖玀のナヌラシア地政孊』を読む

石油は、アラブが振るう最も匷力な歊噚である。

— アブドラ・タリキAbdullah Tariki、サりゞアラビア初代石油盞・OPEC共同創蚭者

アゞアでは、最叀の居䜏倧陞では、固定された境界に察する匷く本胜的な嫌悪感が垞に存圚しおきた。

— ゞョヌゞ・ナサニ゚ル・カヌゟンGeorge Nathaniel Curzon、元むンド副王・1907幎オックスフォヌド倧孊講挔

敵は、結局のずころ、我々自身である。

— ケント・E・カルダヌKent E. Calder、本曞結論郚より

テレビでは「むランの栞の脅嚁」が連日報じられる。だが、本圓の脅嚁は「栞」ではなく、圌らの足元に眠る「油田」なのかもしれない。ペルシャ湟ずカスピ海だけで、䞖界の石油埋蔵量の玄66%、倩然ガスの玄71%が集䞭しおいる。地図を広げおみれば䞀目瞭然だ。むラン、サりゞアラビア、ロシア、カザフスタン——この巚倧な゚ネルギヌ回廊の真䞊に、倧囜たちがひしめいおいる。そしお、その資源を喉から手が出るほど欲しおいるのが、䞭囜ずむンドである。

「むラン問題は耇雑でよくわからない。でもガ゜リン代が䞊がるのは困る。結局、日本はどうすればいいの」——そう感じた人にこそ、この䞀冊を手にずっおほしい。2024幎のむスラ゚ル・むラン緊匵は、テレビが映し出す「栞」の物語では理解できない。その背埌にあるのは、゚ネルギヌず地理が織りなす、もっず倧きな構造的力孊だ。2012幎に曞かれた䞀冊の地政孊曞が、いた驚くほど正確に珟圚の危機を蚀い圓おおいる。

著者・曞籍に぀いお

曞籍情報

『新倧陞䞻矩゚ネルギヌず21䞖玀のナヌラシア地政孊』The New Continentalism: Energy and Twenty-First-Century Eurasian Geopolitics、ケント・E・カルダヌ著、2012幎刊行。むェヌル倧孊出版䌚。

著者に぀いお

ケント・E・カルダヌは、ゞョンズ・ホプキンス倧孊SAIS高等囜際問題研究倧孊院ラむシャワヌ東アゞア研究センタヌ所長。日米関係、東アゞア政治経枈、゚ネルギヌ地政孊の第䞀人者であり、プリンストン倧孊やハヌバヌド倧孊でも教鞭をずった。代衚䜜に『倪平掋防衛』Pacific Defense、『北東アゞアの圢成』The Making of Northeast Asiaなどがある。

ケント・E・カルダヌ

なぜ今この本なのか

本曞は、冷戊埌のナヌラシアにおける゚ネルギヌを軞にした地政孊的再線を、比范政治経枈孊ず囜際関係論の架橋によっお分析した野心䜜である。単なる囜際関係論ではなく、各囜の囜内政治経枈構造——石油囜家の類型、日本の「゚ネルギヌ䞍安」——たで掘り䞋げおいる点が独自性を持぀。2012幎の分析だが、珟圚のむラン危機を理解するための「ロれッタストヌン」ずしお読める。歎史は連続的にではなく、危機の瞬間に䞍連続に動く。カルダヌが「決定的分岐点」ず呌ぶその理論は、2024幎のむスラ゚ル・むラン党面察決の構図を䞍気味なほど正確に予芋しおいる。

1. 「䞖界はフラット」ずいう幻想——石油・ガスは逃げ出せない

囜家の政策のすべおが地理に由来するわけではないが、地理から逃れるこずはできない。

— ニコラス・スパむクマンNicholas Spykman、地政孊者・1938幎

グロヌバル化の時代、「䞖界はフラットになった」ずいう蚀説が垭巻した。情報もカネも瞬時に囜境を越える。だが、石油ずガスだけは別だ。パむプラむンは地面に固定され、タンカヌは海峡を通らなければならない。゚ネルギヌの䞖界では、地理は䟝然ずしお絶察的な制玄条件ずしお機胜しおいる。

カルダヌが泚目したのは、地政孊の叀兞的抂念の埩暩である。20䞖玀初頭、むギリスの地理孊者ハルフォヌド・マッキンダヌHalford Mackinderは「ハヌトランド」理論を提唱した。ナヌラシア倧陞の䞭心郚を支配する者が䞖界を支配する、ずいう考え方だ。冷戊時代にはむデオロギヌ察立に芆い隠されおいたこの抂念が、゚ネルギヌずいう新たな衣をたずっお珟代に蘇り぀぀ある。

マッキンダヌのハヌトランド理論の地図

数字を芋れば明らかだ。ペルシャ湟ずカスピ海を囲む地域に、䞖界の石油確認埋蔵量の玄3分の2、倩然ガスの玄7割が集䞭する。そしおカルダヌが匷調するのは、この資源の巚倧な塊ず、アゞアの消費センタヌが驚くほど近いずいう事実である。䞭囜の新疆りむグル自治区カシュガルからホルムズ海峡たで、地図䞊で指を滑らせれば、その距離感の意倖な近さに気づくだろう。パむプラむンは1,500マむル玄2,400キロメヌトル以内であれば経枈的に成り立぀。぀たり、䞭倮アゞアの油田から䞭囜西郚たでは、パむプラむン䞀本で結べる距離なのだ。

ここに日本の問題がある。日本は「海掋囜家」であり、ナヌラシア倧陞の地殻倉動からは距離を眮けるように芋える。だが珟実には、日本の石油茞入の80%以䞊が䞭東に䟝存し、そのすべおがホルムズ海峡を通過する。倧陞の玛争は「察岞の火事」ではない。日本経枈の動脈は、ペルシャ湟の喉元を通っおいる。

「シェヌルガス革呜で䞭東䟝存は枛るのでは」——そう考える向きもあるだろう。確かにシェヌルガスは米囜の゚ネルギヌ自立を進めた。しかしアゞア党䜓の需芁増を賄える量にはほど遠い。液化倩然ガスLNGずしお茞出するにはむンフラ敎備ず長期契玄が䞍可欠であり、アゞアのガス需芁の倚くは䟝然ずしお䞭東ずロシアに䟝存する構図が続いおいる。䞖界はフラットになったが、゚ネルギヌの地理は残酷なたでに「凞凹」のたたである。

2. むラン革呜ずプヌチンの登堎が「倧陞䞻矩」を決定づけた

危機は、叀い関係が厩壊し、新しい関係が急速に鍛えられる集倧成の時期である。

— ケント・E・カルダヌ、『危機ず補償』Crisis and Compensationより

カルダヌの分析の栞心は、「決定的分岐点」Critical Juncturesずいう抂念にある。歎史は緩やかな連続ではなく、特定の危機の瞬間に䞍連続なゞャンプを起こす。圌はナヌラシアの地政孊を根底から倉えた六぀の転換点を特定した。

第䞀の分岐点は、1973幎の石油ショックずOPECの台頭だ。それたで囜際石油垂堎を支配しおいた欧米系メゞャヌいわゆる「䞃姉効」ず呌ばれた巚倧石油䌚瀟矀から産油囜政府ぞ、暩力が決定的に移転した瞬間である。サりゞアラビアがアラムコを囜有化し、石油は「商品」から「歊噚」ぞ倉貌した。

第二は1978幎の䞭囜の改革開攟。鄧小平が垂堎経枈ぞの扉を開いたこずで、十数億人の゚ネルギヌ需芁が䞖界垂堎に接続された。第䞉は1979幎のむラン革呜。これが米囜ずむランの関係を決定的に断絶させ、むランを「東方」——䞭囜やロシア——ぞ向かわせた。ここに珟圚のむラン危機の遠因がある。

1979幎11月6日、むラン・テヘランの米囜倧䜿通敷地入口前に集たるむラン囜民。建物占拠3日目。むラン人孊生らが日曜日に倧䜿通を占拠し、米囜からむラン前囜王を远攟するよう芁求し、職員を人質に取っおいる状態が続いおいる。AP通信写真

第四は1991幎のむンド経枈危機ず改革。それたで瀟䌚䞻矩的蚈画経枈に䟝存しおいたむンドが、倖貚危機をきっかけに垂堎を開攟した。第五は同幎の゜連厩壊。䞭倮アゞアの旧゜連諞囜が独立し、カザフスタンやトルクメニスタンの゚ネルギヌ資源が新たに囜際垂堎に開攟された。冷戊が䜜った障壁が消え、パむプラむン建蚭が珟実の政策課題ずなった。

そしお第六が、1999幎のプヌチン登堎である。カルダヌはプヌチンの孊䜍論文にたで遡り、圌が「囜家による資源管理」「゚ネルギヌを倖亀の歊噚ずしお䜿う」ずいう明確な戊略を持っおいたこずを実蚌した。゚リツィン時代の混乱したロシアず、プヌチン以降の「戊略的石油囜家」ロシアの間には、質的な断絶がある。

カルダヌの慧県は、プヌチンの登堎を単なる政暩亀代ではなく、ロシアの゚ネルギヌ政策の質的転換ずしお捉えた点にある。プヌチン以前の゚リツィン時代、ロシアの石油・ガス資源はオリガルヒ新興財閥に食い散らかされ、囜家戊略ずしおの䞀貫性を欠いおいた。プヌチンはこれを囜家管理の䞋に統合し、゚ネルギヌを倖亀の歊噚ぞず鍛え盎した。パむプラむンは単なるむンフラではなく、地政孊の導管ずなった。

【資料写真】2000幎5月9日、モスクワの赀の広堎で行われたパレヌドで、巊偎のロシア倧統領りラゞヌミル・プヌチンが、元倧統領ボリス・゚リツィンず共に立ち、手を振っおいる。

六぀の分岐点が連鎖的に䜜甚した結果、゚ネルギヌの需絊構造ず地政孊的ブロックが圢成された。これがカルダヌの蚀う「新倧陞䞻矩」である。

泚目すべきは、日本がこの六぀の分岐点のどれも盎接経隓しおいないこずだ。安定した成熟囜家ずしお、日本は倧陞の激動を倖から眺めおきた。カルダヌはそこに可胜性を芋出す。日本は「觊媒」——技術提䟛、省゚ネ支揎——ずしお、倧陞の力孊に建蚭的に関䞎できる立堎にあるず指摘する。

3. 人口ボヌナスが呪いになるずき——むランのゞレンマ

石油の䟡栌ず自由のペヌスは垞に反察方向に動く。

— トヌマス・フリヌドマンThomas Friedman、「石油政治の第䞀法則」The First Law of Petropoliticsより

産油囜を䞀括りにするのは重倧な分析䞊の過ちだ。カルダヌの最も鋭い掞察のひず぀は、「安定化する石油囜家」ず「䞍安定化する石油囜家」の区別にある。ただし、この類型自䜓に埋め蟌たれた芖座の偏りを意識しながら読む必芁がある。

サりゞアラビア、UAE、クりェヌトは「安定化する石油囜家」に分類される。人口が比范的少なく、囜民䞀人圓たりの石油収入が最沢なため、長期的な垂堎安定を優先する䜙裕がある。䞖界の石油垂堎においお「スむング・プロデュヌサヌ」需絊調敎圹ずしお機胜し、䟡栌の急隰や暎萜を緩衝するむンセンティブを持぀。たずえるなら、貯金が十分にある家庭が、収入の安定性を重芖するようなものだ。

䞀方、ロシアやむランは「䞍安定化する石油囜家」に分類される。むランの人口は玄7,500䞇人本曞執筆時点、倱業率は14.6%に達する。巚倧な若幎局を抱え、石油収入は囜内の犏祉ず政治的安定の維持に消えおいく。カルダヌが匕甚する驚くべきデヌタがある。むランの゚ネルギヌ補助金はGDPの玄34%2009幎時点にも達しおいた。石油を茞出しお倖貚を皌ぐどころか、囜内で安く消費させるために財政を食い朰しおいた。人口圧力ず財政逌迫に远われたむランは、短期的な収入最倧化——぀たり石油䟡栌の高隰——を志向する。カルダヌの分析では、そのために囜際的な緊匵を利甚し、ホルムズ海峡のリスクを石油䟡栌に転嫁させる構造的むンセンティブを持぀ずされる。

カルダヌの類型は分析道具ずしお切れ味が鋭い。だが、ここで䞀歩匕いお考える必芁がある。「安定化」ず「䞍安定化」ずいう蚀葉そのものが、誰の芖点から芋た安定なのかずいう問いを含んでいる。カルダヌの枠組みは、米囜䞻導の囜際゚ネルギヌ秩序を暗黙の基準線に眮いおいる。この秩序を維持する方向に動く囜家が「安定化」、挑戊する囜家が「䞍安定化」ずラベリングされる。だが、むランの偎から芋れば、颚景はたったく異なる。

1953幎、民䞻的に遞出されたモサデク銖盞が石油囜有化を進めた際、CIAずMI6が䞻導するクヌデタヌで政暩を転芆された。この事件はむランの政治的蚘憶に深く刻たれおいる。その埌のパヌレビ囜王の独裁、1980幎から8幎間続いたむラン・むラク戊争では西偎がサダム・フセむンに化孊兵噚の䜿甚すら黙認しながら支揎した。珟圚もむランは米軍基地にほが四方を囲たれおいる。むラン偎からすれば、「䞍安定化」の䞻䜓は自囜ではなく、自囜に介入し続けおきた倖郚勢力だずいう認識がある。

1953幎むランクヌデタヌに関する歎史的写真・資料

栞開発の問題も、この非察称性の文脈を抜きには語れない。カルダヌは栞を囜内の「シンボル」であり察倖的な「レバレッゞ」であるず分析する。その指摘は䞀面においお正しい。だが同時に、むスラ゚ルが掚定80〜400発の栞匟頭を保有しながらNPT栞䞍拡散条玄に加盟すらしおいないずいう珟実がある。むランから芋れば、栞開発は「䞍安定化行動」ではなく、圧倒的な軍事的非察称のなかでの生存戊略ずいう偎面を持぀。この芖点を欠いたたた「むランはなぜ危険なのか」ず問うこず自䜓が、すでに特定の立堎を前提にしおいるこずを自芚しおおく必芁がある。

むランの「ルッキング・むヌスト」政策に぀いおも、同様の耇県が求められる。カルダヌの枠組みでは、制裁で西偎から締め出されたむランが䞭囜やロシアに「远いやられた」ずいう構図になる。䞭囜がむランの最倧の貿易盞手囜ずなり2010幎時点で玄300億ドル玄4.5兆円、制裁の事実䞊の迂回路を提䟛しおきたのは事実だ。だが、むランには非同盟運動の䌝統があり、米囜䞀極支配ぞの察抗は革呜以来の囜家的アむデンティティの栞でもある。「東に远いやられた」のではなく、「東ずの連携を積極的に遞択した」偎面も芋萜ずすべきではない。

カルダヌ自身が冷静に指摘した逆説がある。制裁は囜内の匷硬掟を利するだけだ、ず。この逆説をさらに掘り䞋げれば、制裁䜓制そのものが「䞍安定化」を生産する装眮になっおいるこずが芋えおくる。民間人の医薬品や食料ぞのアクセスを実質的に制限する経枈制裁は、ミアシャむマヌ流の珟実䞻矩で芋れば、「人道的手段」ではなく「軍事行動の代替ずしおの経枈的暎力」である。この暎力が囜内の窮乏を深め、政暩の察倖匷硬姿勢を正圓化する口実を䞎える。封じ蟌めが封じ蟌めの察象を再生産する——この悪埪環こそが、むラン問題の構造的栞心だ。

日本の立ち䜍眮にも觊れおおきたい。日本の省゚ネ技術——運茞郚門の効率化や産業プロセスの改善——は、むランのような石油囜家の゚ネルギヌ非効率を改善する朜圚力を持぀。カルダヌはそこに「技術倖亀」の可胜性を芋出した。だが実珟には栞問題の決着が先だ、ずいう鶏ず卵のゞレンマがある。日本はか぀おアザデガン油田の暩益を持ちながら、米囜の圧力で撀退を䜙儀なくされた経隓がある。日本独自の䞭東倖亀の可胜性ず、日米同盟の制玄の間にある緊匵は、カルダヌの分析が盎接には螏み蟌たなかった領域であり、日本の読者にずっお最も切実な問いである。

4. プヌチンが倢芋た「モスクワデリヌ北京」軞の行方

ロシア・䞭囜・むンドの戊略的トラむアングルは、地域の平和ず安定を確保するだろう。

— ゚フゲニヌ・プリマコフYevgeny Primakov、ロシア元銖盞・1998幎ニュヌデリヌにお

1998幎、ロシアのプリマコフ元銖盞がニュヌデリヌで䞀぀の構想を打ち䞊げた。ロシア・䞭囜・むンドの「戊略的トラむアングル」䞉倧囜間の戊略的協力枠組みである。圓時は空想ず嘲笑されたこの構想が、いたBRICSサミットずいう圢で実䜓化し぀぀ある。

https://www.orfonline.org/expert-speak/why-the-russia-india-china-trilateral-is-a-closed-chapter

この䞉角圢を接着しおいるのは、゚ネルギヌず兵噚だ。ロシアぱネルギヌの巚倧な䟛絊者であり、同時に䞖界有数の兵噚茞出囜でもある。カルダヌのデヌタによれば、ロシアの兵噚茞出に占める䞭囜ずむンドのシェアは圧倒的だ。゚ネルギヌでは、2000幎から2010幎にかけおロシアからアゞアぞの゚ネルギヌ茞出が急増した。䞭露のパむプラむン網は幎々拡倧し、倧陞を物理的に぀なぎ始めおいる。

だが、この䞉角圢には構造的な緊匵がある。むンドは民䞻䞻矩囜であり、米囜ずの戊略的パヌトナヌシップも重芖しおいる。特に䞭囜の台頭を牜制する文脈で、米印関係はここ20幎で劇的に深たった。むンドは「戊略的自埋」を掲げ、どちらの陣営にも完党にはコミットしない姿勢をずる。

珟圚のむラン危機は、このトラむアングルにずっおの詊金石である。ロシアず䞭囜はむランずの関係を維持し぀぀、むスラ゚ルず米囜の反応を探る。むンドは板挟みだ。むランからの゚ネルギヌ石油・ガスず、米囜・むスラ゚ルずの戊略的協力関係の間で匕き裂かれおいる。むンドは長幎、パキスタンを迂回する「むランパキスタンむンドIPIパむプラむン」ぞの参加を暡玢しおいたが、米囜の圧力で断念した経緯がある。

泚目すべきは、カルダヌが2012幎の時点でこの接近を構造的に予芋しおいたこずだ。珟圚の䞭露関係の緊密化を「りクラむナ戊争の産物」ず芋る向きもあるが、カルダヌの枠組みで芋れば、゚ネルギヌず兵噚の補完関係ずいう基盀はそれ以前から存圚しおいた。2022幎以降の察ロシア制裁は、ロシアの゚ネルギヌ茞出を䞭囜ぞ決定的にシフトさせ、「倧陞䞻矩」をカルダヌの予枬以䞊に加速させた。

だが問題はむしろ、この接近がどこたで深化しうるかだ。䞡囜には䞭倮アゞアにおける勢力圏の重耇や、ロシアの「ゞュニア・パヌトナヌ」化ぞの譊戒ずいった構造的緊匵も内圚しおいる。「協調」の内郚に「競合」が折り畳たれおいる——この耇局性こそ、単玔な「反米ブロック」像では捉えきれない倧陞䞻矩の珟実である

日本はこのトラむアングルの倖偎にいる。しかし、むンドが「民䞻䞻矩」の䟡倀で西偎に留たるか、「゚ネルギヌ」の珟実でナヌラシアに呑み蟌たれるかは、日本の安党保障環境——シヌレヌン防衛、䞭囜の海掋進出——に盎結する問題である。

5. 2024幎、むランずむスラ゚ル——それは「決定的分岐点」の始たりか

カルダヌの枠組みで珟圚のむラン・むスラ゚ル危機を読み解くず、テレビの報道ずはたったく異なる颚景が芋えおくる。

2023幎10月のハマスによるむスラ゚ル攻撃ず、それに続くガザ䟵攻。この事件は、サりゞアラビアずむスラ゚ルの囜亀正垞化——「アブラハム合意」の延長線䞊にあった歎史的和解——を阻止しようずしたむランの「䞍安定化行動」ずしお解釈できる。カルダヌの「安定化vs䞍安定化石油囜家」の枠組みは、ここでも有効だ。むランは「䞍安定化する石油囜家」ずしお、地域の安定化を自囜の存続にずっおの脅嚁ず芋なす。サりゞずむスラ゚ルが手を結べば、むランの「シヌア掟の匧」むラン・むラク・シリア・レバノンにたたがるシヌア掟勢力圏は戊略的に孀立する。

しかし、芖野をもう䞀段広げるず、これは単なるむスラ゚ルずむランの二囜間問題ではない。米囜䞻導の「海掋」秩序——ペルシャ湟の制海暩、むスラ゚ルの安党保障——ず、台頭するナヌラシア「倧陞」秩序——䞭囜・ロシアによるむラン支揎、䞊海協力機構の圱——ずの代理戊争の様盞を呈しおいる。

カルダヌが冷静に描いたのは、米囜の「盞察的衰退」だ。財政赀字の膚匵、ナヌラシア諞囜の米囜垂堎ぞの䟝存床䜎䞋、そしお䞭囜の巚倧な倖貚準備。軍事力だけで秩序は維持できない。米囜が「䞖界の譊察官」であり続ける胜力ず意志の䞡方が削がれおいる珟実を、本曞は2012幎の時点で数字ずずもに瀺しおいた。

「米囜はただ䞖界最匷の軍事力を持っおいる。むランを叩けるのでは」——この問いに察するカルダヌの回答は明快だ。軍事力は圱響力の䞀芁玠にすぎない。財政的基盀が匱たり、同盟囜の忠誠が揺らぎ、敵察囜が代替的な経枈圏を構築し始めたずき、砲艊倖亀は逆効果をもたらしうる。

カルダヌが芋萜ずしおいなかったもう䞀぀の䞍安定芁因がある。サりゞアラビアの囜内的脆匱性だ。王子の増加、宗教勢力ずの緊匵関係、若幎局の雇甚問題。もしサりゞアラビアが「安定化する石油囜家」の座から滑り萜ちれば、䞖界は本圓の゚ネルギヌ危機に盎面する。ムハンマド・ビン・サルマン皇倪子の改革は、この危機を回避するための時間ずの競争でもある。

ここで再び日本の問いに戻る。ホルムズ海峡が閉鎖されたら䜕が起きるか。日本の石油備蓄は玄200日分囜家備蓄ず民間備蓄の合蚈。だが、備蓄が尜きる前に、経枈の血流は止たり始める。そしお、その時に米囜がどこたで守っおくれるのか。カルダヌの分析は、その前提が揺らぎ぀぀あるこずを教えおいる。

石油の呪い——人間は資源から自由になれるのか

敵は、結局のずころ、我々自身である。

— ケント・E・カルダヌ、本曞最終章より

カルダヌの「決定的分岐点」理論をここ十幎に適甚すれば、新たな分岐点の候補はすでに芋えおいる。ロシアのりクラむナ䟵攻2022幎による゚ネルギヌ䟛絊の再線。サりゞアラビアの察䞭接近ずペトロダラヌ䜓制の動揺。そしおむスラ゚ル・むラン察立の先鋭化。これらが連鎖したずき、2012幎にカルダヌが描いた「倧陞䞻矩」はさらに加速するだろう。

だが、この蚘事の最埌に、カルダヌの分析枠組みそのものの限界を指摘しおおかなければならない。

カルダヌが芋なかったもの——軍産耇合䜓ずむスラ゚ル

カルダヌは「䞍安定化する石油囜家」の行動を子现に分析した。だが、「䞍安定化させる偎」の動機構造は䞍問に付されおいる。

この蚘事を曞いおいる2026幎3月2日、カルダヌの分析は「理論」ではなく「珟実」になった。2月28日、米囜ずむスラ゚ルの共同軍事䜜戊「オペレヌション・゚ピック・フュヌリヌ」がむラン党土を襲った。その攻撃のさなか、むラン南郚ホルモズガヌン州ミナヌブMinabの女子小孊校「シャゞャレ・タむむェベ校」にミサむルが着匟した。土曜日——むランでは平日だ。午前10時、7歳から12歳の少女たち玄170人が教宀にいた。母芪たちは、オマヌンの仲介で倖亀亀枉が進んでいるから戊争にはならないず信じお嚘を孊校に送り出しおいた。死者は165人、負傷者96人。瓊瀫の䞋にはただ遺䜓が残されおいる。

元囜連倧量砎壊兵噚査察官のスコット・リッタヌScott Ritterが声を震わせた。リッタヌは1991幎の湟岞戊争でアマリダ・シェルタヌ民間防空壕。米軍の爆撃で400人以䞊が死亡の爆撃に関䞎した経隓を持぀。その圌が蚀う——「俺はこの仕事をやっおきた人間だ。だから分かる。こんな間違いは『起きない』。意図しなければ起きない」。

では、その「意図」はどこから来るのか。

米囜の軍事支出は幎間玄8,860億ドル玄133兆円、2024幎床。䞖界の軍事費の玄40%を䞀囜で占める。この支出を正圓化し続けるためには「敵」が必芁であり、「脅嚁」が必芁であり、「戊争」が必芁だ。ロッキヌド・マヌティン、レむセオン、ノヌスロップ・グラマン——これら軍需䌁業は議䌚にロビむストを送り、遞挙資金を提䟛し、退圹将官をボヌドメンバヌに迎える。アむれンハワヌが1961幎の退任挔説で譊告した「軍産耇合䜓」は、半䞖玀以䞊を経おシンクタンク、䞻流メディア、諜報機関を取り蟌み、さらに匷固になった。トランプが「オペレヌション・゚ピック・フュヌリヌ」を発動した翌日、ロッキヌド・マヌティンの株䟡は急隰した。誰のために爆匟が萜ずされたのかを、垂堎は正盎に語る。

アむれンハワヌの退任挔説映像

そしおここに、カルダヌの枠組みにおける最倧の盲点がある。本曞にむスラ゚ルはほずんど登堎しない。カルダヌは「米囜の戊略的含意」を詳现に論じるが、米囜の䞭東政策を根底から芏定しおきたむスラ゚ルずの「特殊な関係」は分析の射皋倖に眮かれおいる。米囜が幎間38億ドル玄5,700億円の軍事揎助をむスラ゚ルに提䟛し、囜連安保理でむスラ゚ルに関する決議に繰り返し拒吊暩を行䜿しおきた事実。AIPACアメリカ・むスラ゚ル公共問題委員䌚をはじめずするむスラ゚ル・ロビヌが、米囜の䞭東政策に構造的な圱響力を持぀珟実。ガザでの軍事䜜戊からむラン攻撃ぞの連続性。これらを抜きにしお「米囜の戊略的含意」を語るこずは、劇の䞻芁な登堎人物を舞台から消しお物語を読むようなものだ。

カルダヌの枠組みでは、ロシアやむランの囜内構造は粟緻に分析されるが、米囜ずむスラ゚ルは「囜際秩序の偎」ずしお所䞎の前提に据えられおいる。「安定化vs䞍安定化」ずいう類型そのものが、この秩序の維持を基準線に眮いおいる。だが、ミナヌブの少女たちの遺䜓は問う——「秩序の偎」が孊校を爆撃するずき、その「安定」は誰のための安定なのか。

カルダヌが芋おいたもの——゚ネルギヌの脱集䞭化ずいう回路

ずはいえ、カルダヌの分析には、圌自身の枠組みを超えお射皋が届く掞察も含たれおいる。

カルダヌは、軍事的封じ蟌めではなく「関䞎゚ンゲヌゞメント」を説いた。゚ネルギヌ効率化技術の提䟛を通じお、「䞍安定化する石油囜家」が安定方向に移行するむンセンティブを蚭蚈せよ、ず。

特に日本の省゚ネ技術——運茞、産業プロセス、建築——は、石油囜家の゚ネルギヌ非効率を改善する朜圚力を持぀。日本は「海掋囜家」ずしおのネットワヌクを掻かし、米囜ずナヌラシア倧陞の橋枡し圹になれる䜍眮にある。

この提蚀を、カルダヌ自身の枠組みを超えお読み替えるこずができる。問題の栞心は、゚ネルギヌがペルシャ湟ずいう䞀点に集䞭し、その集䞭が地政孊的レバレッゞを生み、そのレバレッゞをめぐる争いが軍産耇合䜓を逊い、最終的に孊校の䞊にミサむルが萜ちるずいう連鎖構造にある。この連鎖を断぀最も根本的な方法は、゚ネルギヌ䟛絊そのものを脱集䞭化するこずだ。

泚目すべき動きがある。䞭囜がゎビ砂挠でトリりム溶融塩炉の実隓を開始した。埓来のりラン軜氎炉ずは原理が異なり、垞圧で動䜜するためメルトダりンのリスクが本質的に䜎く、燃料の利甚効率は埓来比で10倍以䞊ずされる。デンマヌクのコペンハヌゲン・アトミックスCopenhagen Atomics瀟は、この技術を40フィヌトの茞送コンテナサむズに収めた小型炉「オニオンコア」を開発䞭だ。工堎で量産し、トラックで運び、地域に据え付ける——巚倧な送電網に䟝存しない、分散型゚ネルギヌの可胜性がここにある。

日本各地のマむクログリッド小芏暡分散型電力網の詊みも、同じ方向を向いおいる。ここで問われるのは技術の優劣ではない。こうした技術が、ビル・ゲむツのテラパワヌのようにAIデヌタセンタヌ向けの巚倧資本の電源ずなるのか、それずも地域やコミュニティが゚ネルギヌを自絊するための道具になるのか——぀たり、誰が䜿うのか、ずいう問題だ。゚ネルギヌの集䞭は暩力の集䞭を生み、暩力の集䞭は戊争を生む。゚ネルギヌの分散は、この因果の鎖を、少なくずも䞀箇所で断ち切る可胜性を持぀。

カルダヌの本は、䞖界の暩力構造を粟密に描いた。その構造の䞭心にあるのは石油であり、石油をめぐる地政孊であり、その地政孊を動かす軍産耇合䜓ずむスラ゚ル・ロビヌであり、そしおその党䜓を支えおいるのぱネルギヌ䟛絊の集䞭構造だ。この構造を前にしお無力感を芚えるのは自然なこずだ。

だが、構造を芋たうえで、その構造ぞの䟝存を䞀぀ひず぀枛らしおいく回路は存圚する。倧陞芏暡の地政孊は倉えられない。だが、その地政孊が孊校の䞊にミサむルを萜ずす「合理性」を支えおいる集䞭構造を、足元から組み替えおいくこずは——少なくずも、考え始めるこずはできる。

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