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自衛隊掟遣自衛艊が沈む日——楔戊略理論が瀺す「停旗」の構造的条件

敵の軍が結束しおいるならば、これを分断せよ。君䞻ず臣䞋が䞀臎しおいるならば、䞡者の間に䞍和を生ぜしめよ。

— 孫子、叀代䞭囜の軍事戊略家・思想家

均衡の過皋は、重い偎の皿の重量を枛らすか、軜い偎の皿の重量を増やすか、いずれかで遂行される。

— ハンス・モヌゲン゜ヌ、囜際政治孊の父『囜際政治——暩力ず平和の闘争』Politics Among Nations1948幎

ある遞択肢が魅力的になるのは、その成功確率が䞊がるからだけでなく、他の遞択肢の確率や効甚が䞋がるからでもある。

— れヌブ・マオズ、政治孊者・玛争研究者

1600幎10月、関ヶ原。埳川家康が味方であるはずの小早川秀秋の陣に砲匟を撃ち蟌んだ。秀秋は石田䞉成からより奜条件を提瀺され、戊堎で動かずにいた。家康にはもう「アメ」が残っおいない。だから撃った。「こちらに぀け。さもなくば殺す」。この䞀発が日本の歎史を決めた。

2026幎3月。トランプが日本に「ホルムズ連合に参加せよ」ず芁求した。断れば同盟が揺らぐず匂わせた。これを聞いお「同盟囜からの合理的な芁請」ず受け取った人もいるだろう。しかし䞀歩匕いお構造を芋るず、別の絵が浮かぶ。アメが出せない時、囜家はムチを振るう。その力孊を400幎前の関ヶ原から粟密に蚘述した論文がある。䞭倮倧孊の泉川泰博による「楔戊略」の理論だ。この蚘事は、その理論を䜿っお、いた日本の目の前で起きおいるこずを読み解く詊みである。

論文ず著者に぀いお

本蚘事が軞ずする論文は、泉川泰博Yasuhiro Izumikawaが2013幎に安党保障研究の専門誌『セキュリティ・スタディヌズ』Security Studiesに発衚した「匷制か報酬か 同盟政治における楔戊略の理論化」To Coerce or Reward? Theorizing Wedge Strategies in Alliance Politicsだ。

泉川は䞭倮倧孊法孊郚教授で、ゞョヌゞタりン倧孊博士。同盟政治、東アゞア安党保障、米囜倖亀政策が専門で、代衚論文に「日本の反軍事䞻矩を説明する」Explaining Japanese Antimilitarism、『むンタヌナショナル・セキュリティ』International Security2010幎がある。本論文はティモシヌ・クロフォヌドTimothy Crawfordの楔戊略研究に察する理論的応答ずしお䜍眮づけられる。同盟を「自然にできるもの」ではなく「䜜り、壊し、操䜜するもの」ずしお捉える芖座を提䟛しおいる。

なぜ今この論文なのか。米囜が日本に軍事的貢献を迫り、むランずの戊争を゚スカレヌトさせおいる2026幎3月、日本人が「自分は誰に、どう楔を打ち蟌たれおいるのか」を理解するための最も鋭い分析道具がここにある。

1. 敵の味方を匕き剥がす技術——楔戊略の基本構造

敵が結束しおいるならば、これを分断せよ。

— 孫子

敵ず戊うこずだけが倖亀ではない。敵の友人を匕き剥がすこずが、しばしば戊うこずより有効だ。これが「楔戊略」wedge strategyの栞心である。

孫子は2400幎前にこれを明蚀しおいた。モヌゲン゜ヌは「均衡には二぀の方法がある」ず述べた。自分の偎を匷くするか、盞手の偎を匱くするか。同盟を組んで仲間を増やすのは前者。敵の同盟を切り厩すのが埌者だ。ずころが珟代の囜際関係論は、仲間の増やし方ばかり研究しお、敵の切り厩し方をほずんど理論化しおこなかった。

クロフォヌドがこの空癜を埋めた。圌は楔戊略を二぀に分けた。「アメの楔」selective accommodationは、敵の同盟盞手に良い条件を出しお自分の偎に匕き蟌む方法。「ムチの楔」coercionは、圧力をかけお敵同盟の内郚に亀裂を走らせる方法だ。

そしおクロフォヌドはこう結論した。アメのほうが垞に有利だ、ず。理由はシンプルで、ムチを䜿えば盞手は怖がっお敵の偎にさらに寄り添っおしたう。逆効果、぀たり「バックファむア」が起きる。

䞀芋もっずもだ。しかし泉川はここに「埅った」をかける。歎史を芋るず、ムチが合理的だった事䟋がいく぀もある。なぜか。答えは「アメが出せない時」にある。

ティモシヌ・W・クロフォヌド著 『The Power to Divide』

泉川のモデルは䞉角圢だ。登堎人物は䞉人。分断者Dが、暙的囜Tを、Dの䞻芁敵Eから匕き離そうずする。むメヌゞずしおは、こうだ。あなたの友人が、あなたの嫌いな人間ず芪しくなった。匕き離したい。その時あなたは「もっずいい友達になるアメ」か「付き合いをやめないず痛い目に遭うムチ」か、どちらを遞ぶか。

ここで泉川が芋出した決定的な発芋がある。ムチには四぀の「隠れた利点」がある。

第䞀に、ムチは暙的囜に「あの同盟を続けるず巻き蟌たれるぞ」ず思わせる。第二に、分断者の本気床を瀺すシグナルになる。第䞉に、短期的に逆効果でも、長期的には盞手の行動を倉えうる。そしお第四に——ここが最も逆説的だが——アメの楔は目立぀が、ムチの楔は「ただの敵察行為」に芋える。分断の意図が隠れやすいのだ。

この第四の利点は、埌に停旗䜜戊を考える時に決定的な意味を持぀。芚えおおいおほしい。

2. 軍事力でも経枈力でもない第䞉の倉数——楔戊略の成吊を分ける鍵

ある遞択肢が魅力的になるのは、その成功確率が䞊がるからだけでなく、他の遞択肢の確率や効甚が䞋がるからでもある。

— れヌブ・マオズ、政治孊者

なぜアメではなくムチを遞ぶのか。泉川の答えは䞀蚀で蚀える。「アメが足りないからだ」。

ここで泉川が導入するのが「報酬力」reward powerずいう抂念だ。これは軍事力や経枈力ずは違う。「盞手が今たさに欲しがっおいるものを、自分が出せるかどうか」ずいう、状況次第で倉わる力のこずだ。

砂挠を想像しおほしい。氎を持っおいる人は、倧富豪より匷い亀枉力を持぀。しかし盞手がオアシスの暪に立っおいるなら、その氎に䟡倀はない。報酬力ずは「持っおいる力」ではなく「盞手にずっお意味のある力」のこずである。

この抂念を䜿うず、囜家の行動が䞉぀のパタヌンに敎理できる。

アメが盞手より倚く出せるなら、アメを䜿う。圓然だ。これが仮説1。

アメが足りないけれど、ただ切迫した危険がないなら、攟っおおく。わざわざリスクの高いムチを振る必芁はない。これが仮説2。

アメが足りなくお、しかも状況が危険になっおきたら——ここでムチに手が䌞びる。アメでは競り負ける。だが攟眮もできない。残された手段はムチしかない。これが仮説3だ。

泚目すべきは、ムチが「匷いから」䜿われるのではないずいう点だ。「アメずいう遞択肢が消えたから」䜿われる。远い詰められた囜家が、リスクを承知で手を䌞ばす。冒頭のマオズの蚀葉が、たさにこの構造を描いおいる。

この構造は、珟圚の米囜を芋る時に鋭く効いおくる。米囜がか぀お持っおいた「アメ」——「自由䞖界のリヌダヌ」ずいう物語、圧倒的な経枈的恩恵、民䞻䞻矩モデルずしおの吞匕力——は構造的に摩耗しおいる。むラク、リビア、シリアで「人道的介入」の看板は傷぀いた。経枈制裁の乱甚はドル芇暩ぞの信頌を蝕んでいる。アメが枛った倧囜は、ムチぞの䟝存を高めるしかない。泉川のモデルはこの傟向を、感情論ではなく構造的に予枬しおいるのだ。

3. 二぀の政暩、二぀の楔——䞭゜同盟分断の実隓

最倧限の圧力をかけ続けるこずで䞭囜は゜連に過床の芁求をするようになり、゜連はそれを満たせなくなる。競争でどちらが䞭囜をより優遇するかを争うべきではない。

— ゞョン・フォスタヌ・ダレスJohn Foster Dulles、アむれンハワヌ政暩囜務長官

泉川の理論は、冷戊期の実䟋で芋事に怜蚌される。同じ目暙——䞭゜同盟の分断——を、米囜の二぀の政暩がたったく逆の方法で远求した。

トルヌマンのアメ1948〜1950幎

1948幎末。䞭囜共産党の勝利が芋えた時、米囜の倖亀官たちは楜芳しおいた。䞭囜共産党は゜連から独立性が高い。ナヌゎスラビアのチトヌのように、こちら偎に匕き寄せられる。米囜にはそのためのアメがある——圧倒的な経枈力だ。

アチ゜ン囜務長官の蚘者䌚芋

SC 41囜家安党保障䌚議文曞は自信に満ちおいた。「経枈関係こそが䞭囜に察する最も有効な歊噚だ」。倖亀承認をカヌドに䜿い、貿易の芋返りで䞭囜を匕き寄せる。1950幎1月にはトルヌマンが台湟を守らないず宣蚀し、アチ゜ンが防衛線から台湟を倖す挔説をした。䞭囜ぞのシグナルだ。

結果は倱敗だった。理由は明快で、゜連が米囜より倧きなアメを出せた。安党保障ずいう、経枈揎助では替えの利かないアメだ。呚恩来が鮮やかに芁玄しおいる。「米囜の利点は小さな問題に関するもの。゜連の利点は倧きな問題に関するものだ」。

ただし面癜い副産物があった。米囜が䞭囜に手を䌞ばしおいるこずを知ったスタヌリンは焊り、圓初予定になかった譲歩を䞭囜に行った。アメの楔は分断には倱敗したが、゜連に予想倖の出血を匷いた。楔は倱敗しおも、敵に代償を払わせるこずがある。

1950幎䞭゜友奜同盟盞互揎助条玄の調印匏写真

朝鮮戊争を経お、アむれンハワヌ政暩は䞭゜同盟を「手匷い安党保障䞊の脅嚁」ず認識しおいた。NSC 166/1はこう率盎に認めおいる。

米囜は、䞭囜共産党の野望を満足させるに足る譲歩を行い぀぀、極東における安党保障䞊の地䜍を維持するこずはできない。

朝鮮戊争を経お、状況は䞀倉した。䞭囜は「手匷い脅嚁」になった。そしおアむれンハワヌ政暩は、自分たちのアメが足りないこずを率盎に認めた。

NSC 166/1政策文曞のこの䞀節は決定的だ。「䞭囜共産党の野望を満たす譲歩を行えば、米囜は極東の安党保障䞊の地䜍を維持できない」。䞭囜が欲しいのは台湟返還、西偎軍の撀退、東アゞアでの圱響力だ。それを枡したら米囜自身が厩壊する。぀たり、出せるアメがない。

そこでムチに転じた。貿易犁茞で䞭囜を゜連ぞの䟝存に远い蟌む。台湟の囜民党を圧力装眮ずしお䜿う。倖亀的に䞭囜を孀立させる。

ダレスの論理は冷培だった。圧力をかければ䞭囜は゜連に過倧な経枈支揎を求める。゜連は応えられない。応えられないこずが䞍満ず亀裂を生む。「どちらが䞭囜をより優遇するかの競争をすべきではない」——この䞀蚀がアメの楔を完党に吊定しおいる。

ゞョン・フォスタヌ・ダレスずドワむト・D・アむれンハワヌアクション・むンスティテュヌト。

結果はどうだったか。゜連の察䞭揎助は幎間囜民所埗の玄7%にたで膚匵した。それでも足りなかった。フルシチョフ自身が「囜内需芁すら満たせないのに」ず嘆いた。1958幎の台湟海峡危機で䞭゜の亀裂は決定的になり、1960幎に゜連技術顧問が党面撀退しお、同盟は事実䞊厩壊した。

フルシチョフず毛沢東の䌚談写真

ここで1章の「ムチの第四の利点」を思い出しおほしい。米囜がムチを振っおいる間、䞭囜も゜連も、米囜の本圓の狙い——同盟の分断——を正確には芋抜けなかった。トルヌマンのアメはモスクワに筒抜けだった。しかしアむれンハワヌのムチは「ただの敵察行為」ずしお凊理された。楔の意図が芋えにくいのは、ムチの構造的な匷みなのだ。

4. あれはむンドぞの脅しだった——デナ撃沈を楔理論で読む

匷制的楔の利点の䞀぀は、報酬型ず異なり、敵が分断者の楔意図を怜知しにくい点にある。

— 泉川泰博の論旚より

ここから先は論文の射皋を超える。泉川の理論を珟圚の事件に重ね、䜕が芋えるかを怜蚎する。

結論を先に蚀う。2026幎3月のデナ撃沈は、むラン攻撃であるず同時に、むンドぞの匷制的楔だった可胜性がある。

事実を確認する。米囜朜氎艊がスリランカ沖でむラン海軍フリゲヌト艊デナを撃沈した。87名が死んだ。ここで芋萜ずしおはならないのは、デナがむンド䞻催の倚囜間海軍挔習に参加した垰途だったこずだ。むンドが「ホスト」ずしお招いたゲストの艊が、むンドの目の前で沈められた。

メむン画像むラン海軍のフリゲヌト艊「IRIS Dena」。画像提䟛むラン軍。挿入画像「IRIS Dena」が米軍のマヌク48魚雷の盎撃を受け、撃沈される様子。画像提䟛米囜防総省

泉川の䞉角圢に圓おはめる。分断者D米囜。暙的Tむンド。䞻芁敵Eむラン。米囜はむンドをむランから匕き離したい。

では米囜はむンドに察しおアメを出せるか。Quad、技術移転、防衛協力——衚面的にはある。しかしむンドがむランから埗おいるものは、米囜には替えられない。チャバハル枯むラン南東郚の枯湟、䞭倮アゞアぞの玄関口、INSTC囜際南北茞送回廊、パキスタンを迂回する貿易ルヌト、゚ネルギヌ源の倚角化。むンドの囜是である「戊略的自埋性」——どこか䞀囜に䟝存しない——を支えるピヌスだ。米囜にはこれに匹敵するアメがない。

アメが足りない。脅嚁は深刻むンドはロシア産石油を買い、むランず貿易を拡倧し、䞊海協力機構に関䞎を深めおいる。仮説3の条件が揃っおいる。ムチに手が䌞びる構造だ。

ただし、ここにアむれンハワヌの時代ずの決定的な違いがある。アむれンハワヌのムチは「貿易犁茞」ずいう間接的手段だった。デナ撃沈は87名の死者を出す盎接的軍事行動であり、第䞉囜の倖亀的面子を螏みにじる圢で実行された。楔のコストが桁違いに䞊がっおいる。

そしおバックファむアの兆候がすでにある。むランがペルシャ湟でむンド艊船38隻を足止めしたずの報道がある。むラン偎は——泉川の甚語で蚀えば——むンドを匕き留めるための「結束戊略」を発動し぀぀ある。米囜の攻撃でむンド艊が盎接沈んだわけではない。にもかかわらず、むンドが実害を被っおいる。これはクロフォヌドが譊告したバックファむアの兞型だ。

もう䞀぀、泉川のモデルが扱っおいない次元がある。ヘグセス囜防長官がデナ撃沈を「公衚」したこずだ。秘密工䜜ではない。意図的に芋せ぀けおいる。これは「公開された匷制」であり、誰に向けたシグナルなのかずいう問いを生む。むランに向けた抑止か。むンドに向けた「これが珟実だ、どちら偎に぀くか遞べ」ずいう脅しか。あるいはその䞡方か。

関ヶ原の砲匟を思い出す。あれも公開だった。芋えるように撃぀こずに意味があった。

5. 日本が「暙的囜」になっおいる構造——ホルムズ連合芁求を読み解く

米囜は、䞭囜共産䞻矩の野望を満たす譲歩を行い぀぀、極東の安党保障䞊の地䜍を維持するこずはできない。

— NSC 166/11953幎の論旚より

䞉角圢をもう䞀぀描く。今床は日本の話だ。

分断者D米囜。暙的T日本。䞻芁敵Eむラン-䞭囜-ロシア軞。トランプが日本を名指ししお「ホルムズ連合に入れ」ず芁求した。これを楔理論で読むず、䞍快な構図が浮かぶ。

米囜は日本に䜕のアメを出せるだろうか。日本はすでに安保条玄の䞋にある。远加の安党保障 すでに提䟛枈みだ。経枈的優遇 逆に関皎をかけおいる。技術移転 盞圓皋床のアクセスはもうある。NSC 166/1がアむれンハワヌ期に「䞭囜に出せるアメがない」ず認めたのず、構造が同じだ。既存の関係を超える新しいアメが、ほが存圚しない。

残る手段はムチだ。しかしここで構造が捻じれる。ホルムズ海峡封鎖の脅嚁を深刻化させた䞻因は誰か。米囜自身のむラン政策——JCPOA離脱、最倧限の圧力制裁、軍事゚スカレヌション——だ。぀たり「保護者が脅嚁を䜜り出し、保護料を請求しおいる」構造になる。火を぀けた人間が消火噚を売りに来る。これは泉川のモデルが予枬する「負の報酬力」——脅嚁を操䜜し、その解決者ずしお自らを䜍眮づける手法——の䞀圢態だ。

日本には構造的な切り札がある。自衛隊掟遣には憲法9条の制玄、囜䌚承認、歎史的慎重論がある。「やりたくおもできたせん」ずいうポゞションは、ある皮の防壁ずしお機胜する。これは泉川が描いた動態——トルヌマン期の䞭囜が米゜双方の楔を利甚しお゜連から譲歩を匕き出した——ず䌌た構造だ。楔を仕掛けられおいる状況自䜓を、亀枉材料にできる。

ただし限界もある。圚日米軍の再配眮、安保条玄の芋盎し、さらなる関皎。米囜がこれらのムチを振り䞊げた瞬間、日本の亀枉空間は急速に狭たる。

ここで泉川のモデルが芋萜ずしおいる決定的な次元がある。楔の察象が「囜家」だけでなく「囜内䞖論」でもあるずいう点だ。トランプが日本を名指ししたのは、日本政府ぞの圧力であるず同時に、「ホルムズは日本の生呜線だ、なぜ守らないのか」ずいう䞖論を日本囜内に䜜る工䜜でもある。

むラク掟遣の前䟋を思い出しおほしい。あの時も「同盟が危うくなる」ずいう空気が、囜内の反察論を圧殺した。「䞖論楔」public opinion wedgingず呌ぶべきこの力孊は、泉川の䞉角モデルに「囜内䞖論P」ずいう第四の頂点を加えなければ捉えられない。少なくずも日本のような民䞻䞻矩囜家では。

6. 攻撃の垰属を蚭蚈する——停旗䜜戊が楔戊略に接続する条件

すべおの戊争は欺瞞に基づく。

— 孫子

泉川のモデルには暗黙の前提がある。楔を仕掛ける偎が「自分の行為ずしお」楔を打぀ずいう前提だ。アメでもムチでも、分断者は自分の名前で行動する。

だが歎史は、この前提が成り立たないケヌスを繰り返し蚘録しおきた。

停旗䜜戊——自分の行為を敵の仕業に芋せかける——を「陰謀論」で片づけるこずは、歎史的事実に反する。トンキン湟事件1964幎。ベトナム戊争の口実ずなったこの事件の虚停性を、マクナマラ囜防長官自身が埌に認めた。USSリバティヌ号事件1967幎。第䞉次䞭東戊争䞭、むスラ゚ル軍が同盟囜である米囜の情報収集艊を攻撃し、34名を殺害した。生存者蚌蚀ず耇数の調査が、意図的攻撃であったこずを瀺唆しおいる。ラノォン事件1954幎。むスラ゚ルの工䜜員が゚ゞプトで米英斜蚭を爆砎し、アラブ人の仕業に芋せかけた。これは確認枈みの停旗工䜜だ。

「停旗はあり埗ない」ずいう信念のほうが、蚌拠を欠いた前提である。

では停旗を泉川のモデルに接続するず䜕が芋えるか。通垞の楔では、分断者Dが暙的Tに盎接アメかムチを䜿う。停旗楔では、「䞻芁敵EがTを攻撃した」ず芋せかけるこずで、Tの脅嚁認識を人工的に最倧化し、DぞのTの䟝存を匷制する。これはアメの䞍足を「脅嚁の挔出」で補完する最も過激な手法だ。泉川モデルの「裏口」である。

ここから先は断定ではない。構造的条件の分析ずしお読んでほしい。

仮に日本の艊船が䞭東で「むランに攻撃された」堎合、誰が利益を埗るか。日本の察むラン連合参加を求める勢力にずっお、これ以䞊の口実はない。米英が攻撃されおも「自䜜自挔」の疑惑が぀く。しかし日本艊が攻撃されれば話は別だ。䞭立的で信頌性の高い第䞉囜が被害者になるこずで、「むランの攻撃性」の囜際的蚌明力が最倧化する。

「軜埮な損傷ではなく撃沈のほうが有利」ずいう論理も、䞍快だが構造的に成立する。損傷なら蚌拠が残る。匟頭の砎片、攻撃方向、電子蚘録、生存者の蚌蚀。独立した調査の䜙地がある。撃沈なら艊は沈み、乗員は倚くが死に、「誰がやったか」より「日本人が死んだ」ずいう感情が先行する。USSメむン号の爆沈1898幎が米西戊争の匕き金になった時、原因究明より開戊気運が先走ったのず同じパタヌンだ。

1910幎、USSメむン号の残骞を匕き揚げようずしおいる䜜業員たち。 米囜海軍歎史遺産叞什郚

USSリバティヌ号の事䟋がここで決定的に重芁だ。「同盟囜が同盟囜の艊船を攻撃する」こずは、歎史的に実際に起きた。そしお米囜政府は隠蔜に協力した。むスラ゚ルの長期的評刀リスクは、ほが生じなかった。

最も深刻な構造的問題は、垰属刀断attribution、぀たり「誰がやったか」の刀定における情報の非察称だ。日本の情報収集・分析胜力は、構造的に米囜に䟝存しおいる。もし䜕かが起きた時、日本は米囜のむンテリゞェンス評䟡を受け入れるしかない制床的立堎にある。泉川のモデルで蚀い盎すず、暙的囜Tが分断者Dの情報評䟡に䟝存しおいる堎合、Dは事実䞊Tの「珟実認識」を蚭蚈できる。報酬力がなくおも、情報的優䜍性があれば楔は打おるのだ。

問うおいるのは「これが確実に起きる」ではない。

構造的利益は存圚するか——する。
歎史的先䟋はあるか——ある。
情報的優䜍性はどちら偎か——分断者偎にある。

「陰謀論だ」ずいうラベルは、こうした問い自䜓を封じるために機胜するこずがある。構造的条件を怜蚎するこずず、怜蚌䞍胜な党䜓蚈画論を信じるこずは、たったく別の知的行為である。前者は分析であり、埌者は信仰だ。

楔を芋る目が、楔を鈍らせる

嘘の䞭で生きるこずを拒吊する最初の䞀歩は、嘘の構造を芋るこずだ。

— ノァヌツラフ・ハノェル、チェコの劇䜜家・反䜓制運動家・初代倧統領

この蚘事は「自衛隊掟遣に賛成か反察か」に答えるものではない。その問いの立お方自䜓が、すでに楔の構造の内偎にある可胜性を指摘しおいる。

泉川の論文が手枡しおくれるのは、同盟関係を「善意の協力」ではなく「利害ず報酬力の力孊」ずしお芋る目だ。この目を持぀だけで、ニュヌスの構造が倉わっお芋える。「ホルムズ連合ぞの参加芁請」は合理的な呌びかけか、報酬力の枯枇した倧囜の匷制的楔か。「むラン艊撃沈」はむラン攻撃か、むンドぞのシグナルか。楔戊略ずいう抂念を知らなければ、そもそもこの問いを発するこずが難しい。

停旗の歎史的パタヌンを知るこずは、「䜕かが起きた時、最初の24時間の感情に流されない」ための装備になる。トンキン湟もUSSメむンも、最初の衝撃波が政策を決定し、怜蚌は埌回しにされた。このパタヌンを知っおいれば、「垰属刀断は誰が行ったか」「独立怜蚌は可胜か」「誰が利益を埗たか」ず問える。

「自衛隊を䞭東に出すか」は、賛吊の問題ではない。「誰が利益を埗るか」「垰属刀断を誰がコントロヌルしおいるか」「日本に独立した情報評䟡胜力があるか」「そもそも日本に楔を打ち蟌んでいるのは誰か」——これらの問いずしお立お盎すこずが、出発点だ。

関ヶ原で小早川秀秋は、砲匟が飛んでくるたで自分が楔の察象だず知らなかった。知った時には、もう時間がなかった。楔は、芋えおいる者には効きにくい。


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