名産は「迷産」にあらず
北海道は言わずと知れた昆布の産地。
私の住む町は、全国でも有名な「日高昆布」のお膝元です。
私は知り合いの昆布漁師の手伝いに行っています。
昆布採りの日になる条件を大まかに言うと、
① 天気が良いこと
② 波が高くないこと
この二つが大原則です。
どんなに晴れていても、波が高ければ昆布採りは中止になります。
条件がそろうと、その日の朝4時30分頃、漁師から電話がきます。
「今日、採るわ。頼むね」
「わかったよ〜」
実に簡単な会話です。
支度もそこそこに車を走らせ、15分ほどで漁師の家へ到着します。
昆布を手伝う人を、この辺では「陸回り」と呼びます。
そう、私は陸回りなのです。
やがて、水揚げされたばかりのピカピカの昆布が軽トラックに積まれ、干し場へ運ばれてきます。
さあ、ここから一本一本、昆布を干していきます。
長いものでは6〜7メートル。
両腕で昆布を持ち、軽く振りながら真っすぐ整え、砂利浜へ丁寧に並べていくのです。
中腰での作業に加え、砂利の上をシャカシャカと小走りするので、なかなかの重労働です。

しかも炎天下では昆布がすぐ乾き、昆布同士が「ねっぱって」(くっついて)干しづらくなります。
まさに時間との勝負です。
時には昆布干しの長老から、
「昆布、曲がってるべや。もっと真っすぐ干せ」
と叱られることもあります。
心の中では「うっせぇなぁ」と思っていますが、浜の長老はたいてい怖い人。
「すいません」と返事だけはして、柳に風と受け流しています。
それでも、昆布を真っすぐきれいに干せた時は、
「俺の性格みたいに真っすぐだな」
などと、一人で少しうれしくなるのです。
昆布は海で育つ海藻ですが、長い年月、この町の暮らしを支え、多くの家庭の生活の糧となってきました。
そして昆布を取り巻く私たち陸回りも、地域を支える大切な一員です。
どれだけ時代が進歩しても、昆布は今も一本一本、人の手で丁寧に干されています。
そこには、ゆっくりと流れる時間と、たおやかな浜の暮らしがあります。
日高昆布は「だし」が美味しいことで知られています。
でも、その一本一本には、炎天下で汗を流す人たちの思いも染み込んでいることを、少しだけ思い出していただけたらうれしいです。
もしかしたら、その昆布は長老に、
「もっと真っすぐ干せ!」
と叱られながら干した一本かもしれません。
