「ボトルネックは、私だ」と痛感した非エンジニアの私が、AIエージェントに仕事を任せるまで【前編】
はじめまして。AlpacaTechでUI/UXデザインを担当しているMaruです。
普段は、金融系のWebサービスの企画や画面デザインをしています。デザイン担当は、この数年間ずっと私1人。今も1人です。
デザイン担当とは言いつつも、使えるツールはほぼFigma(Webやアプリの画面をデザインする定番ツール)だけで、それも独学で4年ほど。IllustratorもPhotoshopも触ったことがありません。
そんな私が、今年に入ってAIエージェントにかなり仕事を任せるようになりました。
この記事は、その数ヶ月の記録です。デザインやAIの専門知識は必要ありません。聞き慣れない道具の名前が出てきても、その都度説明を挟むので大丈夫です。なにしろ始まりの時点では、パソコンの中のファイルといえば、ダウンロードした資料か、スクリーンショットか、たまに保存するGoogleドキュメントやスプレッドシートくらい。「ローカルにファイルを作る」ことすら普段の仕事にはない世界で生きていて、「mdファイルって何?」というところからのスタートでした。
2月末、ボトルネックは私だと言われた
いきなり不穏な見出しですみません笑
きっかけは、2月末に出た社内の宿題でした。
テーマは「AI活用をチームや組織に導入するときの課題や問題点」。いくつかの資料を読んで、感想文を提出するというものです。
資料に共通していた主張は、こういうものでした。
AIでエンジニア個人の仕事は速くなりました。なのに、組織全体は速くなりません。ボトルネックが別の場所に現れるからです。
そして部内の議論では、その「次のボトルネックになりがちな仕事」として、デザインやPM業務が挙げられていました。
つまり、私です。
は?
いやいやいや。
エンジニアはCodex(OpenAIのAIエージェント。指示すると自分でコードを書いて作業を進めてくれる)のようなツールに仕事そのものを任せられるかもしれない。でも、デザイナーにはそんな道具まだないじゃん。
実際に提出した感想文が残っています。
「エンジニアのスピードに追いつくようなものはまだないから――」
この後ろには、そのまま載せられない勢いの嘆きが続きます(我ながら物騒だったので、スクショの該当部分にはマスクをかけています笑)。
「相談相手としては使っているけど…作業はまだ手作業が多い」

道具がないのにボトルネック扱いされる理不尽への、ささやかな抵抗でした。
ちなみにこの感想文の締めはこうでした。エンジニアのみなさんみたく、
「自分で書いてない、チェックしてるだけのフェーズに行きたい」
この願いが数ヶ月後、思わぬ形で叶うことになるのですが、このときの私はまだ知りません。
まず、Figma系のAIでつまずいた
ちょうどそのころ、あるWebサービスの画面を作る仕事が始まっていました。入力した内容に応じて結果が変わる、動きのあるWebページです。
Figmaでワイヤー(画面の設計図)はすでに作ってありました。次は見た目のデザインです。
最初に試したのは、CodexではなくFigma Make(Figma社のAI。専用のチャット画面で指示すると、動くWebページを作ってくれるツールです)でした。ワイヤーを渡して「参考サイトと同じデザインを施して」と依頼してみたのです。
結果は、惜しい。惜しいけど、まだ仕事には使えない。
当時の私はSlack(社内で使っているチャットツール)にこう書いています。
「惜しい感じもするけど、まだ使い物にはならなかった。あとちょっとだとは思うけど」
デザイナー向けのAIから試して、ダメだった。ほらやっぱり、という気持ちも少しありました。
「生成AIはHTMLを作る方が得意そう」
翌朝、流れが変わります。
Slackのスレッドで、エンジニアの同僚がこう言いました。
「生成AIは、HTMLを作る方が得意そうな印象です」
Figmaの中でデザインを描かせるのではなく、いきなり動くWebページ(HTML)を作らせた方がいいのでは、という提案です。
それを見た上司が「画像をはってもらえれば、こっちでもやってみるよ」と乗ってくれて、私は参考デザインとワイヤーの画像を送りました。
30分後、「Codex頑張り始めた。出力されたら渡します」。
さらに十数分後、「でてきた」。
本当に、動くWebページのファイルが出てきました。
…のですが。
正直に書くと、このときの私の感想は「え、すご」半分、「これで行けるのか…?」半分でした。
たしかに驚くほど速い。でも、見た目は参考デザインを踏襲できているとは言えず、そのままお客様に見せられるものではない。それに、エンジニア出身の上司がAIを使いこなしているからこういうものが出せるのであって、自分に同じことができるイメージは、まだまったく湧いていませんでした。
mdファイルって何?
そこからが本番でした。今度は私が、自分の環境で続きをやることになりました。
Codexは、作業の内容を「mdファイル」というテキストファイルに書き出しながら進めます。デザインのルールも、修正の指示も、引き継ぎのメモも、ぜんぶただの文章ファイル。エンジニアには常識らしいのですが、当時の私がmdと聞いて思い浮かべたのは、音楽を録音していた懐かしのMDでした。年代がバレそうですね笑
上司がSlackに貼ってくれたmdファイルを開いてみると、見たことのない黒い画面(あとで知りましたが、Visual Studio Codeというエンジニア御用達のツールです)が突然立ち上がりました。この画面で何か作業をするのだろうか?私は画面の一部を赤丸で囲んで、「ここで調整するんですか?」と質問しました。
上司から「ちょっとまったー」という感じで呼び出されたのは、そのすぐ後です。
お昼過ぎ、Codexと付き合うための簡単なレクチャーを受けました。結論から言うと、あの黒い画面では何もしなくてよかった。ファイルをローカルのフォルダに入れて、あとはCodexに日本語でお願いするだけ。フォルダの使い方と、引き継ぎメモの作り方も教わりました。そして一番大事なことを言われました。
「わからなかったら、AIに聞けば教えてくれるから」
半信半疑のまま、その通りにしました。Codexへの指示の出し方をCodexに聞き、ファイルの置き場所をCodexに聞き、夕方まで手を動かし続けました。
18時22分、私はSlackに「なんとなくできました」と書いています。
入力すると結果が変わる。ボタンが押せる。表示が切り替わる。まだ粗いけれど、普通に動くWebページが、私のパソコンの中にありました。
ちなみにこの日、Codexは「この作業には5〜9日かかります」という趣旨の計画書も律儀に書いてくれていました。その見積もりは、この夜のうちに現実に追い越されることになります。
一晩でひっくり返った
その夜は、上司と2人でSlack越しに画面デザインを詰めていました。その日も普通に仕事を終えて、夜ご飯を食べていました。ただ、食べている途中に「ああすればうまくいくんじゃ?」が浮かんでしまって、やらずにはいられませんでした。
「ここの余白」「このフォントじゃない」「この文字が気になる」と私が指示を出し、Codexが直す。上司からはこんな感想が出ました。
「生成AIでここまでいけるのはすごいな…一方で、そこはかとない生成AI味を感じてしまうのはなぜなんだろう」
わかる。どこがとは言いにくいのに、確かに漂う「AIが作りました感」。このとき上司がCodexに書かせた「生成AIっぽさを減らすための修正指示書」の話は、後編でもう一度出てきます。AIっぽさの正体を、AIに言葉にさせていたわけです。
夜遅く、私はこう書いています。
「お客様に提示するには若干勇気が必要な感じ。なので、明日は一からFigmaで作っておこうかなと思っています」
そう、この時点ではまだ、翌日はFigmaに戻るつもりでした。
ところが翌朝、一晩寝かせて見直した上司からメッセージが届きます。
上司:「起きてから改めてみたら、かなりいいな。もうすこし手直ししたら全然OKになりそう」
私:「そしたらfigmaやらずに、今日この調整してみます!」

続けて、案件をリードする同僚からも細かいフィードバックが届きました。その中に、大事な問いが混ざっていました。最終的にFigmaで仕上げる前提なのか、Codexで最後までやりきる前提なのか。どちらで進めるかによって、詰め方もやり方も変わってくる、と。
実は前日、HTMLをFigmaに変換する無料プラグインも試していました。結果は、思い通りのものにならず、結局一から作り直しになることが確認できただけ。つまり、Figmaに「戻る」には、思った以上に手間がかかると分かっていました。
答えは決まっていました。私はSlackにこう書きました。
「Figmaはもうやらないと思います。」

この同僚からの返信は「なんて思い切りがいいんだ、普通にかっこいい笑」。
あの感想文を出した人間が、その9日後にこれです。我ながら手のひらの返しっぷりがすごい。
でも、あの朝の判断は今でも正しかったと思っています。目の前に「動くもの」がある。これをFigmaで静止画として描き直して、状態違いの画面を並べて「ここを押すとこうなります」と説明する。その作業のほうが、どう考えても遠回りでした。
楽しい。でも、ちょっと怖い
このころ、忘れられない光景があります。
Codexが、自分で作ったHTMLを自分で開いて、画面をクリックしながら動作確認している様子が、私のパソコンにリアルタイムで映っていたのです。
自分のPCの中で、AIが画面を開いて、触って、確かめている。
唐突にSFの世界が来たような感じがして、ちょっとゾワっとしました。
そして同時に、こうも思いました。
「もう少し先だと思っていた “自分の仕事のやり方がガラリと変わる日” が、すぐそこまで来ているのかも」
楽しいか怖いかで言うと、両方でした。
遠慮なく「やっぱり戻して」と言える
一方で、時間の短縮とは別の変化にも気づき始めていました。
実装後の画面についてエンジニアに「ここをもう少し詰めたい」「やっぱりこっちに戻したい」と細かい修正をお願いするのは、必要な仕事だと分かっていても、相手が人間である以上どうしても気を遣います。
でも相手がCodexなら、
「違う」
「戻して」
「もう1案」
を、遠慮なく無限に繰り返せる。
試行錯誤の心理的なハードルが消えたことは、私にとって制作時間の短縮と同じくらい大きな変化でした。
調子に乗った私は、Codexが作った画面をChatGPTとGeminiに見せて意見をもらい、それをCodexに伝えて直させる、ということまでやり始めました。デザイン案も複数に分岐させて、お客様のご要望に沿った案は、参考にする素材まで私が細かく指定して作らせました。AIに任せていても、「どれが良いか」「何を参考にすべきか」を決めるのは結局人間なんだな、と思い始めたのもこのころです。
ところが、Figmaが恋しくなった
じゃあもうFigmaはいらないのかというと、そんなに単純ではありませんでした。
大きく作るのは、Codexは圧倒的に速い。でも、細かい調整に入ると話が変わります。
「ここの余白を少し狭くしたい」
「この色だけ変えたい」
Figmaなら自分でクリックして数秒です。ところがCodexにお願いすると、直してほしいところ以外まで変わってしまうことがある。1つ直したら別の場所が崩れ、そこを直したらまた別のところが変わる。
そのうち毎回、「該当部分以外は変えないで」と書き添えるようになりました。
「フォントサイズは偶数」「余白は8の倍数」といったデザインルールをmdファイルにまとめたりもしましたが、私の使い方では「これさえ渡せばずっと守ってくれる」という感じにはなりませんでした。
自分なら秒で直せることを、いちいち言葉にしてAIにお願いする。そのもどかしさの中で、何度も思いました。
こういうとき、Figmaって便利なんだよな。
無性にFigmaをいじりたくなる。そんな瞬間が、確かにありました。
ボトルネックは、私だ
この案件のWebページは最終的に、私が作ったHTMLをもとにエンジニアが本番環境の技術構成で組み直してリリースされています。私とCodexだけで世に出したわけではありません。それでも、「デザイナーがFigmaで描いてからエンジニアに渡す」と信じていた工程の一部が、ごそっと変わったのは事実でした。
そして実装が始まると、もっと驚くことがありました。
一緒にサービスを作ってきたエンジニアの開発スピードが、桁違いに上がっていたのです。
これまでは「この修正をお願いしたら、返ってくるのは数時間後か、明日かな」というなんとなくの読みがあって、その間に別の作業をしていました。それが、数十分で返ってくる。数十分かかると思っていたものは、ほぼ一瞬で返ってくる。
しかも、確認して終わりではありません。返ってきた画面を整えて、お客様に見せる。「やっぱりもう少しこうしたい」が出てくる。今度は私がCodexと地道なHTML調整に時間をかけて、直したものをエンジニアに渡す。すると、また一瞬で返ってくる。この繰り返しで、1日が終わるとぐったりするような日々になりました。
AIで個人は速くなるのに、組織は速くならない。ボトルネックが別の場所に現れる。あの宿題の資料が言っていたことが、今、自分の目の前で起きている。
ボトルネックは、私だ。
あの感想文の嘆きは、悔しいけれど、方向としては正しかったのです。ただ1つ違ったのは、「デザイナーに仕事を任せられるAIなんてない」という前提の方でした。CodexはHTMLなら作れる。だったら。
じゃあ、FigmaそのものをAIに触らせれば?
HTMLで済む仕事はCodexが速い。でも細部を整えるのはFigmaが楽。そして私の手元には、数年間の1人体制でツギハギを重ねた末に、増築しすぎたサグラダ・ファミリアのようになった巨大なFigmaファイルがありました。本家はついに完成したそうですが、こちらは完成のめどすら立っていません。いつか整理しようと思い続けて、手をつけられずにいたものです。
「CodexにFigmaを触ってもらえばいいのでは?」
これをAIに任せられたら。
結果を先に言うと、この挑戦は一度、かなり手痛く失敗します。
ちなみにこの3月、上司はSlackでこんなことも言っていました。
「いまのところ、Claudeからデザインをつくるのは全然むりそう」
この言葉が数ヶ月後、綺麗にひっくり返ることになります。
(後編につづく。9月16日公開予定です)
