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物の値段は、消費税だけでは決まらない

飲食料品にかかる消費税を、現在の8%から1%へ引き下げる案が議論されている。

生活者の立場からすれば、税率が下がることは歓迎したくなる話である。

例えば、税抜き1万円分の食料品を買った場合、消費税が8%なら800円だが、1%なら100円になる。目の前の支払額だけを見れば、700円安くなる。家計にとって小さくない金額である。

しかし、私はこの話を単純に「税金が下がるから、生活が楽になる」と考えてよいのだろうかと思っている。

なぜなら、物の値段は消費税だけで決まるものではないからだ。

減税すれば、国の収入も減る

日本は、毎年の税収だけで国の支出を賄えているわけではない。

不足する分を国債の発行によって補っている。国債は国の借金ともいえる。もちろん、国債を発行すること自体が、直ちに悪いわけではない。

将来の成長につながる投資や、大きな災害への対応など、必要な場面もある。

ただし、収入以上の支出が恒常的に続き、その上でさらに減税や給付を重ねていけば、財政に対する不安は強くなる。

消費税を下げれば、少なくともその分、国の税収は減る。減った収入を何で補うのかが示されなければ、結局は新たな国債の発行に頼ることになるかもしれない。

私が心配しているのは、消費税減税そのものよりも、財源をはっきりさせないまま減税だけを先に進めることである。

市場は政策全体を見ている

政府が減税すると発表すれば、私たちは買い物の際に支払う税金が減ることを考える。

一方、金融市場はそれだけを見ているわけではない。

減税によって税収がどれだけ減るのか。

その穴を何で埋めるのか。

国債の発行額は増えるのか。

将来、国は借金をきちんと管理できるのか。

こうしたことを総合的に見て、日本という国や円、国債を持ち続けてよいかを判断している。

財政への信頼が低下すれば、日本国債を買いたい人が減る可能性がある。買い手を集めるためには、より高い金利を提示しなければならなくなる。

金利が上がれば、国が国債保有者に支払う利息も増えていく。借金を返すための負担が増え、それを補うために、さらに国債を発行するような循環に陥ることも考えられる。

もちろん、減税だけを理由に円安や金利上昇が起きるわけではない。為替も金利も、海外の経済状況や金融政策、貿易収支、市場参加者の予想など、数多くの要因によって動いている。

それでも、財源の見えない減税策が、財政に対する市場の不安材料になることは十分にあり得る。

円安になれば、輸入価格が上がる

日本は、エネルギーや食料、原材料など、多くのものを海外から輸入している。

円安になれば、同じ商品を海外から買うために、より多くの円が必要になる。原油や小麦、飼料、肥料、包装資材などの輸入価格が上がれば、それらを使って作られる商品の価格にも影響が出る。

仮に消費税が下がって、店頭価格が一時的に安くなったとしても、円安によって仕入れ価格が上昇すれば、その効果は薄れてしまう。

税率が下がった分以上に、商品の本体価格が上がる可能性さえある。

例えば、税抜き1000円の商品にかかる消費税が8%から1%になれば、支払額は1080円から1010円になり、70円安くなる。

しかし、円安や原材料高によって本体価格が1100円になれば、消費税が1%でも支払額は1111円になる。

減税前よりも高い。

これは単純化した例だが、物の値段が消費税だけでは決まらないことは分かる。

住宅ローンや企業経営にも影響する

長期金利の上昇は、国の利払いだけに影響するものではない。

住宅ローンや企業向け融資の金利にも影響が及ぶ。借入金利が上がれば、住宅を購入する家庭の負担は重くなり、企業も設備投資をしにくくなる。

企業の金利負担が増えれば、その一部は商品やサービスの価格に転嫁されるかもしれない。あるいは、賃上げや新規採用を抑える企業も出てくるだろう。

消費税が下がったとしても、住宅ローンの返済額が増えたり、物価が上がったり、賃金の伸びが鈍ったりすれば、生活が楽になるとは限らない。

生活者の負担は、レジで支払う消費税だけで決まるわけではないのである。

減税の是非ではなく、全体像を考えたい

私は、消費税減税をすべて否定したいわけではない。

物価高に苦しんでいる人に対して、何らかの支援は必要だと思う。消費税は所得の低い人ほど負担感が大きくなりやすいともいわれており、見直しを議論すること自体には意味がある。

ただし、減税するなら、その財源をどうするのかまで同時に示してほしい。

ほかの支出を減らすのか。

別の税収を増やすのか。

経済成長による税収増を目指すのか。

国債に頼るなら、どこまでなら持続可能なのか。

そこまで含めて示されなければ、減税の本当の効果は判断できない。

「税金が下がるから得だ」

「給付金がもらえるから助かる」

それだけで政策を評価するのは危うい。

物の値段も、私たちの暮らしも、一つの数字だけで決まるわけではない。税金、為替、金利、国の信用、企業の仕入れ価格、賃金などが複雑につながっている。

政治が分かりやすい利益を提示したときほど、その裏側で何が起こるのかを考える必要がある。

消費税が何%になるかだけではなく、その政策によって日本の財政や円の信用がどう変わり、最終的に私たちの生活にどのような影響が及ぶのか。

目の前の700円だけでなく、その先まで見て判断したいと思う。

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