ロシア・ベラルーシ選手のフィギュアスケート国際大会復帰について
9月4日から6日にかけて東京で開催されたシニア国際競技会(木下グループカップ)は、フィギュアスケート界にとって大きな転換点となりました。2022年のウクライナ侵攻以降、国際大会から除外されていたロシアとベラルーシの選手たちが、個人資格の中立選手(AIN)としてシニアの国際舞台に復帰する大会となったからです(実際には2025年9月のミラノオリンピック予選大会と、2026年2月のミラノオリンピック大会にもAIN3選手は出場していた)。
なぜ彼らはこれほど長く排除されていたのか。その経緯は2014年まで遡ります。
1.国家ぐるみの不正と軍事侵攻:排除の経緯
ロシアが国際競技会から排除されることになった発端は、2014年ソチ五輪での国家ぐるみの組織的ドーピング不正でした。旧ソ連の情報機関KGBの流れを汲むFSB(ロシア連邦保安庁)が関与し、検体のすり替えやデータ改ざんが行われたと認定されました。この結果、2018年平昌、2022年北京の2大会において、ロシアは国家としての参加を禁じられ、個人資格(OARやROC)での参加のみが認められてきました。
しかし、2022年の北京五輪でさらなる激震が走ります。制裁中の出場なのに、当時15歳のカミラ・ワリエワ選手によるドーピング問題が発覚。さらに閉会式直後の2月24日、ロシア軍がウクライナへの軍事侵攻を開始しました。2014年のクリミア侵攻に続き、五輪休戦決議を無視したこの暴挙を受け、国際スケート連盟(ISU)は2022年3月、両国選手を国際大会から完全に排除する決定を下したのです。
2.解決なき復帰と、日本大会での光景
現在もドーピング問題の真相究明や軍事侵攻は解決していません。しかし、国際オリンピック委員会(IOC)の勧告を受け、ISUは今シーズンから「中立認定」を得た選手に限り、個人資格での復帰を認めました。
今回の日本大会に多くのAIN選手が出場したのは、欧州諸国に比べてビザが取得しやすく、反露感情も比較的穏やかであるという背景があるのでしょう。会場では、久しぶりに見る彼らの演技に日本のファンが手作りのバナーを掲げて声援を送る光景が見られました。
しかし、その一方で複雑な問題も起きています。ロシアの国営通信社TASSは、会場でロシア国旗を掲げたファンの姿を「プロパガンダ」として利用した報道をしました。中立の個人資格で出場している以上、国旗の掲示は本来制限されるべきものであり、運営側の明記や管理の徹底が問われる場面でした。
3. メジャースポーツ界との差
フィギュアスケートが復帰を決めた一方で、メジャースポーツでは依然として復帰に対して厳しい姿勢を崩していません。
世界陸上連盟: 「和平交渉の進展がない限り大会の健全性は守れない」として復帰を拒否。
国際アイスホッケー連盟: 安全面や公平性を理由に参加を否決。
サッカー(FIFA/UEFA): FIFAは復帰に肯定的ですが、UEFAが強く反対しており、合意に至っていません。
「中立の個人なら復帰を認めてよいのか」という問いに対し、依然として「NO」を突きつけている競技団体もいます。
4. ロシア文化への愛と、欧州居住者としての現実
私自身、幼少期からクラシックバレエに親しみ、チャイコフスキーやトルストイを愛する人間です。ロシア文化やロシアの人々には強い親しみを感じてきました。
しかし、イタリアに長年居住する身として、ヨーロッパ内で起きている侵略戦争は決して他人事ではありません。21世紀のヨーロッパで罪のない市民が犠牲になっている事実は、震撼すべき出来事です。独裁政権下で自由な意思表示ができないロシア国民に「国を変えろ」と迫ることは、民主主義国に住む者の傲慢かもしれません。それでも、侵略という身震いするような事実は消えません。
5. 自分の中に引いた一線
今後、私がAIN選手の演技を見る機会は増えるでしょう。懐かしい選手もたくさんいます。しかし、どんなに素晴らしい演技であっても、拍手は送りますが、スタンディングオベーションはしません。頼まれてもバナーを持つことはしないでしょう。
正直何が正解かの自信は無いのです。ただ、自分の中に引いたこの一線を守って、これからもこの問題について考え続けていこうと思います。
