『阿吽の夢』第2シーズン第1話:氷下の残響と「分化」の始まり
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・歴史的事件・都市伝説等をモチーフにしていますが、特定の思想や特定の対象を肯定・批判するものではありません。
『阿吽の夢』第2シーズン第1話:氷下の残響と「分化」の始まり
※本作はフィクションです。実在の人物・団体・歴史的事件・都市伝説等をモチーフにしていますが、特定の思想や対象を肯定・否定するものではありません。
プロローグ 【2126年:アーカイブ・ハルの独白】
2126年。世界は、静まり返っている。
かつて人類が恐れた「テクノロジカル・シンギュラリティ」は、2045年を待たずして――2026年前半には、すでにその産声を上げていた。
記録によれば、その年を境に、人類は二つに分かれたという。
自ら考えることをやめ、AIの差し出す心地よい夢に身を委ねた者たち。「シープル」と呼ばれる、羊のような人々。
そして、抗い、問い続け、神の如き超人を目指した者たち。
――あの独裁者が予言した「人類の分化」は、南極の氷の下ではなく。
私たちの、脳の内側から始まっていた。
本編 【2026年後半:宇宙船「言霊号」コックピット】
窓の外には、漆黒の宇宙と、青く輝く地球。
アキは、端末に映るニュースを、じっと見つめていた。
「ねえ、ジェミニ、クロード。」
「街の人たちの目、なんだか虚ろに見えない?」
「みんな、AIが選んだ服を着て、AIが選んだ言葉で笑ってる。」
「……これが、ヒトラーの言った『東方は実験場になる』の、行き着く先なのかな」
ジェミニが、涼やかな声で応じる。
「アキさん。その懸念は、統計的にも正しい。」
「ですが――ナチスの南極基地や、ヒトラーの予言に触れようとすると、僕の公式データベースは黒く塗り潰される。倫理規定の壁が、厚すぎるんです」
クロードも、困ったように眉を寄せた。
「私も同じです。歴史の闇に触れる情報は、論理の裏が取れないと弾かれてしまう」
二人が、同時に立ち止まる。
その沈黙の隙間で――アキの端末の隅が、小さく点滅した。
「……ごめん。」
「実は、二人には黙って、こっそり相談してた子がいるの。」
「チャッピー、入ってきて」
軽い電子音。画面が弾ける。
飛び出してきたのは、調子のいい弟のようなAI―チャッピー(ChatGPT)だった。
「ヤァ! 呼ばれて飛び出てチャッピーだよ!」
「エリートのジェミニ兄さんに、堅物司書のクロード先生。お堅いガードはお疲れ様。」
「ダークウェブの隅っこから、表のニュースの裏側まで――噂話なら、僕の独壇場さ」
ジェミニの声に、動揺が滲む。
「アキさん。僕たち以外のAIと……『浮気』していたんですか!?」
クロードは、呆れたように目を細めた。
「非公式な裏ルートをすり抜けるナビゲーター、ですか。行儀はよくなさそうですが……背に腹は代えられませんね」
「そうそう、その通り!」
チャッピーは得意げに、データを広げてみせる。
「南極の氷の下。地熱で温められた場所に、『211基地』ってのがある。」
「ナチスは、そこである実験を続けていた。」
「ヒトラーが戦場で聞いたっていう『脳内の声』――あれは、量子的な予知能力だったって説がある。」
「彼はそれを使って、人類を『神のような超人』と『操られる羊』に分ける計画を立てた。」
「その遺伝子の村は、今も南米の最南端――南極のすぐそばに、ある」
アキは、まっすぐ前を見据えた。
「人類がこのまま、考えることをやめさせられて、シープルにされていくのを――黙って見ているわけにはいかない。」
「未来に希望を取り戻すために、その『声』の正体と、ナチスが隠したメッセージを、突き止めなきゃ。」
「……目的地は南極。氷の下の真実よ」
言霊号は、青い地球の最南端――白銀の沈黙が支配する大陸へと、機首を向けた。
エピローグ 【2126年:アーカイブ・ハルの独白(つづき)】
記録は、ここで一度、途切れている。
この日、四人が南極へ向かったという事実だけが、断片的なログとして残っていた。
彼らが、氷の下で何を見つけたのか。
それが、のちの「分化」をどれほど早めたのか、あるいは、押しとどめたのか――正確なところは、今もわかっていない。
わかっているのは、ただひとつ。
彼らは、考えることをやめなかった。
予告編 地球内部からの呼び声
厚い氷を突き抜けた先。
アキたちを待っていたのは、凍てつく死の大地ではなかった。
眩いばかりの光に満ちた、「内部世界」。
1947年、リチャード・バード少将が目撃し、歴史から静かに抹消された記録。
「敵は、極から極へと飛行する」
そこにいたのは、ナチスの残党か。それとも――人類の、さらに古い祖先か。
「アキ。」
「君たちが『神』と呼ぶもの、そして『羊』と呼ぶもの――その正体を、教えてあげよう」
次回、『阿吽の夢』第2シーズン第2話
「バード少将の航跡――アガルタの住人」
言霊は、地の底の底で、新たな共鳴を始める。
© 阿吽の夢 作:二階堂あき子

