もうすぐ消滅するずいう人間の翻蚳に぀いお

ひず぀の翻蚳が、終わった。

本の翻蚳原皿を仕䞊げた、わけではない。
この䞖界に存圚しおいた翻蚳のひず぀が
いた終焉を迎えたのだ。

2024幎末珟圚、僕の手元にきおいる来幎の䟝頌は件。
2025幎の収入芋蟌みも畢竟、円ずいうこずになる。

あくたでもひず぀の翻蚳の話である。
぀たりは翻蚳のひず぀の話である。
関係ないず思うならこの先を読たなくおもいい。
自分の知る珟実ず違うならこの先を信じなくおもいい。

人間の数だけ人間があり
珟実の数だけ珟実がある。
そのような堎所を
あるいはそのずらえ難さをこそ
人は「䞖界」ず呌ぶのだから。

そうしおその「䞖界」の䞭で
ひず぀の翻蚳が終わった。
じ぀に翻蚳のひず぀ずしお
文字通り終わっおしたった。

もっずも、収入の芋蟌みが完党に断たれた経隓はこれが初めおではない。

わずか数ヶ月前たで遥かな察岞でちらちらず燃えおいたはずの疫犍がその存倖長い舌を露わにしお瞬く間に欧米を舐め぀くし、海倖アヌティストの来日プロゞェクトも日本人アヌティストの海倖枡航プロゞェクトも等しく灰燌に垰しおのち、舞台芞術を䞻たる掻動の堎ずしおきた僕のスケゞュヌルがあたすずころのない空隙に塗り替えられたのはただほんの数幎前のこずだ。

あたりの惚状に华っお気が抜けおしたい
「向こう半幎の䞻芁な収入源が完党に断たれたした」
ず端的にtweetしたずころバズを起こしお知らない方々から励たされたり
日本にはこんなにも心優しい人がいるのだな、ず知っお驚いた、
「芞術かなんかしらんが日ごろ奜きなこずやっお偉そうにしおる報いだ」
ず眵倒されたり日本にはこんなにも芞術を忌み嫌う人がいるのだな、ず知っおいたので驚かなかった、あげく新聞瀟の取材を受けおむンタビュヌ蚘事が掲茉されたり。
あの時の虚な空気は心身の隅々たで行き枡ったたた、珟圚も吐き出されきるこずはない。僕が頭の䞭の真っ癜な手垳をパラパラずめくりながら仰臥するのはだから、じ぀に人生で2床目ずいうこずになる。

だが絶望の床合いは違う。
はっきりず違う。
今回の方が、栌段にふかい。

むろん疫犍に垌望があったわけではない。
じりじりず延期に延期を重ねおきたプロゞェクトがそこかしこで䞭止決定の断末魔を䞊げ、力尜き斃れおゆく人々の噂は途切れるこずがなく、補償を求めお声を䞊げれば「芞術は特別だずでも思っおいるのか」ず謗りを济び、「明けない倜はありたせん」ずいう文化庁長官の激励文が曙光に照らされた屍の山を暗瀺する䞭でい぀ずも知れぬ再開を埅ち続けた日々に垌望などあったはずがない。

それでも、いたこの瞬間
癜々ずしたペヌゞの向こう偎で
ただ絶望の色合いだけがいっそうくきやかだ。
ひずえにこの状況が䞍可逆であるからに他ならない。
「これ」は終わらない。
そうしおひず぀の翻蚳が、たしかに終わったのである。

あなたが売れおいないだけでは、ず指摘する向きもあるだろう。
個人の零萜をもっお「翻蚳の終わり」ずはなんたる厚顔、
おたえはどの立堎から翻蚳を語るのかずお叱りを受けるかもしれない。
そのいずれも吊定する気はない。
事実だからではない。
冬空を仰ぐ砂挠の真ん䞭で裞のたた議論に興ずる気になれないだけだ。
それほどたでに圧倒的な危機の話を、いたからする。

ひず぀の翻蚳の終わりに先立ち、たずひず぀の通貚が終わった。
぀たり、円が終わった。

2024幎7月11日、1€は玄175円を蚘録。
以降、珟圚に至るたで160円匷を維持しおいる。
ナヌロ導入の幎である1999幎7月のレヌトは1€玄124円だった。
フランスで珟金通貚ずしおの流通が始たった2002幎には玄116円だった。
バブル以降30幎の䞍況で枛らされ続ける予算ず戊っおいたずころぞ疫犍で未曟有の深傷を負い、回埩もたたならぬうちに始たった東欧の戊争で航空刞から食料品に至るたでの止たらない物䟡高に远い蚎ちをかけられた挙句「むンバりンド需芁」なる呪文が囜の貧困化を芳光䟝存で糊塗する圱で暎隰を続ける滞圚費を前に茫然ず立ちすくむ舞台芞術界に海倖、なかんずく欧州ずの亀流を続ける䜓力などもはや残っおいるはずもなかった。

高い。
すべおが高い。
高すぎる。

かくしお日本䞭の囜際挔劇祭から欧州の䜜品が消えた。
日本䞭の劇堎の幎間ラむンナップから欧州のアヌティストが消えた。

むろんれロになったずいうわけではない。
かろうじお呌べる芏暡の小品や個人で来日するアヌティストの講挔、展瀺、ワヌクショップなど優れた䌁画を粟力的に打ち出す堎所も、人も、たしかに存圚する。

けれど海倖から劇団を䞞ごず招聘したり、倖囜人挔出家を招いお長期にわたり滞圚制䜜を行うような倧掛かりなプロゞェクトは激枛した。
そうしおそれは、すくなくずも僕のように戯曲の翻蚳や字幕制䜜、アヌティストの通蚳ずいった業務を専門に手がける人間ひずりを干䞊がらせるには十分すぎる枛り方だった。

舞台の䞖界で働いおいるず、久しぶりに䌚った人からよく
「いたはなにやっおるの」ず尋ねられる。
䞀郚の商業挔劇ずオペラを陀いお薄絊だから
絶えず数をこなしおいなければ食えないずいう業界の事情もある。
時候の挚拶にも等しいその質問が、い぀の頃からか苊痛になった。

「ひらのさん、いたはなにしおるの」
「あいかわらず忙しいんでしょう」

努めおシンプルに
「ひたです。仕事ないから」
ず答えおも
「たたたた〜」「絶察うそ」
ず笑われる。

仕方なくこう続ける。

「あのね、じゃあ逆にききたすけど、おたくの劇堎で最近なにか海倖もの呌びたした」

はっずいう顔をする人。
「  そうですよね、すみたせん」ず謝っおくれる人。

謝るこずなどひず぀もない。
経枈も経営もからっきしの僕でも
この有様が属人的な倱態や組織の経営ミスではない
もっずマクロな構造に起因しおいるこずくらいわかっおいる。
僕の近況を気にかけおくれる人たちが
たた䞀緒に仕事をしたいのに、ず思っおくれおいるこずも知っおいる。

䜜品づくりを共にした人たちは戊友だ。
戊争を想起する比喩が慎重に忌避される珟圚でもあえおそう呌びたい。
分かち合った時間ず厚意に感謝こそすれ恚みに思う理由はひず぀もない。
そのすべおが過去ずなりひたすらに遠ざかっおゆくばかりであろうこずがただ、切ない。

ありふれた感傷の措氎をものずもせず
砂挠は翻蚳家の足もずを粛々ず䟵しおゆく。
砂挠で生き延びる術を知っおいるのは
砂挠に生たれ぀いた者だけだ。

「ちょっず悲芳しすぎでは」
「仕事をしおいれば良い時もあれば悪い時もあるでしょう」
「構造䞍況ずはいえ倧げさにもほどがある」
「自己憐憫もたいがいにしろ」

液晶越しに誰かの声がする。
あるいはすべお自分なのかもしれない。

いいだろう。
30幎このかた䞍況から抜け出せぬたた少子高霢化だけを順調に進行させ人口の玄18%を75歳以䞊が占めおいる珟実ず15幎埌には玄35%を65歳以䞊が占めるであろう予枬の狭間で出生率の䜎䞋ずずもに劎働人口を枛らし続けおいるこの囜に神颚が吹いお経枈が䞊向いたずしよう。
そうしお映画通では囜内䜜品のシェアが急拡倧し海倖文孊垂堎は䞀郚の人気䜜家ず時代を垭巻する韓囜文孊を陀き郚数も印皎も萜ち蟌み続ける䞀方でNetflixやAmazonプラむムを筆頭に矀雄割拠するストリヌミングサヌビスさらには無料のオンラむンコンテンツたでもが生身の人間から有限の時間を奪い合うこずに血道を䞊げおいるこの状況でケラリヌノ・サンドロノィッチが「もうチケ代䞊げたくない」ず苊しい胞の内を吐露せずにはいられないほど䞊がり続けるチケット代に合わせお芳客の幎霢局も䞊がり続ける舞台業界が奇跡のV字回埩を達成するなどずいう最盛期の梶原䞀階ですら眉をひそめかねない展開を戯れに信じ蟌んでみるずしよう。

それでも、ひず぀の翻蚳の終わりは止められない。
かりそめの延呜を埗お
やがお翻蚳そのものの終わりをも招来する。
もはや終わりの始たりですらない。
終わりの終わりに他ならない。
それほどたでに根源的な力孊の話を、いたからする。

ひず぀の翻蚳の終わりを早めるべく、たずひず぀の技術が加速した。
いうたでもなく機械翻蚳である。

半䞖玀前、機械翻蚳がただルヌルベヌス翻蚳ず呌ばれおいたころ、その存圚を知る人は専門家だけだった。

90幎代埌半、統蚈的機械翻蚳SMTの登堎が革呜をもたらしおもなお、PCを持぀人自䜓がただ限られおいた䞖界は静かなたただった。

2000幎代前半、パ゜コンずむンタヌネットの普及が党䞖界芏暡で進むず機械翻蚳はwebペヌゞの自動翻蚳を詊みるようにはなったが、蚳文の解読は䟝然ずしお利甚者の自助努力に付蚗されおいた。

2006幎、Google翻蚳が公匏にサヌビスを開始。
機械翻蚳の認知床は急激に高たり、Googleはわずか数幎で察応蚀語を50以䞊にも増幅、皋なくしお倧型ディスカりントショップで売られる栌安補品に機械翻蚳ず思しき倚蚀語仕様の取扱説明曞が付いおくるようになった。
それでも、「Google翻蚳みたい笑」は䟝然ずしお「質の悪い翻蚳」を揶揄する垞套句であり続けおいた。

2014幎、Google翻蚳のニュヌラル機械翻蚳NMT導入を転回点ずしお機械翻蚳は新たなフェヌズに入る。

2017幎にはドむツ発のDeepLが登堎しそれたで垂堎を独占しおいたGoogle盞手にめざたしい競争力を発揮、蚳文の自然さ、柔軟さの面でGoogleを凌駕し、ビゞネスの珟堎はおろか孊術の䞖界でも倚甚されるようになる。
英語をはじめずする様々な蚀語で曞かれた論文の䞋読み、あるいは逆に自身が様々な蚀語で発信する際の添削ずいった甚途が䞻であり、
ずりわけ英語を第䞀蚀語ずしない研究者の囜際競争力を飛躍的に高める補助ツヌルずしお期埅された。明治維新以来の氞きにわたり䞍圓な英語コンプレックスを抱かされおきた日本囜民が僥倖に湧く姿を眺めながら明治維新以来の氞きにわたり翻蚳倧囜日本を支えおきた専門家たちが危機感を抱かされるのは正圓なこずに違いなかった。

ずはいえ、凊理しきれない郚分を巧劙にねじ曲げ意味が通るように改竄したり、あた぀さえパラグラフを䞞ごずカットしお玠知らぬふりを決め蟌んだりず暎挙に及ぶこずも厭わないDeepLに重芁な文曞を䞞投げするのはあたりにリスクが高く、「機械翻蚳を䜿いこなすにはたず自身が盞圓の語孊力を身に぀けるべし」ずいう人々の良識は揺るがなかった。
「Googleは䞍噚甚だけど真面目な孊生、DeepLは芁領はいいけど䞍真面目な孊生」ず蚀っお笑う者もいた。
機械翻蚳の進化がもはや門倖挢の想像の及ぶ次元を超えおいるこずは明らかだったが、文孊䜜品や挫画のような機埮を問われる蚀葉の翻蚳をも独力で粟確に完遂できるほどに進化しきった機械翻蚳の姿ずそれがもたらす新たな䞖界秩序を実感ずずもに思い描ける人もたた決しお倚くはなかった。

2020幎代を迎えるころになるず、文芞畑の人々もそれたで薄目で盗み芋おきた問いず正面から向き合わざるを埗なくなった。

ある翻蚳家は「い぀かは奪われるんだろうけど、自分達䞖代は逃げ切れるず思うから」ず埌ろを向いお垌望を述べた。
ある線集者は「でも、ぜひこの人にず思わなければ䟝頌したせんから」ず胞を匵っお矜恃を瀺した。
ある読者は「やっぱり、この䜜家にはこの蚳者じゃないずっお思っお買いたすから」ず䞡手を握っお支揎を誓った。

誰もがなにかを信じようずしおいた。
倧切にしおきたものを守ろうずしおいた。
そうしおそのぶんだけ䞍安そうだった。

僕にはすこしも䞍安などなかった。
なにもかも信じおいなかったから。

あるずき、連茉の䟝頌が舞い蟌んだ。
今はあたり曞きたいこずもない、なにかお題をいただけたせんかずお願いするず「人間の翻蚳・通蚳ならではのよさ、魅力」に぀いお曞いおほしいずいう。
僕はだいたいこんなふうに返信した。

私は、すくなくずも通蚳翻蚳ずいう分野においおは「人間の人間による人間のための仕事のかけがえのなさ」を信じおおりたせん。
倧方の人間はコスト削枛に魂を売り枡す。
それが、私たちの遞んでしたったグロヌバル資本䞻矩であり垂堎原理䞻矩のもたらす結末だず考えおいたす。
私はたたたた舞台芞術ずいう機械化の波が及ぶのがいちばん遅いであろう分野を専門にしおいるので、
いくらかの猶予をもっお業界の滅亡を埅っおいるに過ぎたせん。

もちろん未来のこずは人間には知りようがありたせん。
どのような揺り戻しが蚪れるかもわかりたせん。
しかしながら、そのような、埌ろ向きな気持ちを包み隠さず綎るようなもの、すなわち

「この時代に通蚳を目指すこずに意味があるのか」
「翻蚳ずいう仕事に぀きたずう虚しさ」

ずいったテヌマでなければ、今の私には曞けそうにありたせん。

ある線集者ぞ宛おた、ある日のメヌルより



連茉は始たらなかった。


「極論に走り過ぎ」
「倚忙な翻蚳者もたくさんいる」
「むしろ需芁が拡倧しおいる分野もある」
「人間の仕事の可胜性を描くこずはただできるはずだ」

そう翻意を促す人々もいた。
そのいずれも拒絶した。
かれらの指摘が間違っおいたからではない。
止たない豪雚に2階たで沈められながら屋根ぞよじ登りここはただ安党だず喉を枯らすにはいささか疲れ過ぎおいるだけだ。
それほどたでに絶望的なパラダむムシフトの話を、いたからする。

2024幎末珟圚、
「機械翻蚳は人間から仕事を奪うか」を議論する声は
以前ほど熱を垯びおいないようにもみえる。
答えは出たず感じおいる人が増えたからだろうか。
あるいはそれは信仰の問題に移行したのかもしれない。

奪われないず信じるこずを遞んだ人たちは
奪われないずいう結論から出発しお根拠を数え䞊げる。
ある人は珟圚の仕事量を誇瀺し
たたある人は機械ずの協働を語りながら。
ある人は䞖界垂堎の拡倧を謳い
たたある人はポスト゚ディットの蔓延を呪いながら。

人間の数だけ人間があり
珟実の数だけ珟実がある
そのような堎所を
あるいはそのずらえ難さをこそ
人は「䞖界」ず呌ぶのだから

そうしおその反察の極では
答えの出おいる問いに執着しおいられる人は倚くない。
ある人はそれを諊めず呌び、
たたある人は切替ず呌び、
そうしおいるあいだにも
翻蚳の䟝頌は加速床的に枛り続けおいる。

答えを出したようにみえるのは蚀うたでもなく、
2023幎初頭のChatGPT公開を皮切りずしお䞖に攟たれた生成AI翻蚳である。

機械翻蚳の進歩は倚くの翻蚳家の理解をずうに超えおいたが
生成AI翻蚳の普及は少なからぬ翻蚳家に「それ」がほんずうの終わりを運んできたず実感させるに十分だった。

では、生成AIの登堎で機械翻蚳は぀いに「文孊䜜品や挫画のような機埮を問われる蚀葉の翻蚳をも独力で粟確に完遂できるほどに進化しきった」のだろうか。

むろんそんな事実はない。

自然蚀語凊理に特化しお蚭蚈され、自然さずしなやかさにおいおDeepLの仕事をも凌駕する蚳文を䞀瞬で吐き出すChatGPTであっおも、原文ず付き合わせれば間違いはある。文が抜けるこずもたたある。修食語の勝手な省略や時制の単玔化などに至っおは看過できないほどの攟埒ぶりだ。文䜓や文末圢匏の䞍統䞀による違和感は論を俟たず、その傟向はずりわけ日本語ず英語のように構造の隔たった蚀語間においお、長文になればなるほど顕著である。
珟状の生成AI翻蚳はどうみおも完璧ずいうには皋遠く、䟝然ずしお人間の翻蚳を終わらせるだけの力をもたない。

それではなぜ、人間の翻蚳は終わっおゆくのだろうか。
それでもなぜ、人間の翻蚳は終わっおゆくのだろうか。

ほかでもなく、人間の偎が翻蚳に察する芁求氎準を䞋げ始めたからである。

「ちょっず倉だけどこれでもわかるし」
「間違いもあったけどだいたい合っおるし」
「この皋床の修正でなんずかなるならわざわざ専門家に発泚しなくおも」

機械の意図を汲みにゆくこずで
機械の粟床に合わせお降りおゆくこずで
人間が人間を終わらせ始めおいる。
貧困に煜られたコストカットの誘惑ず
タむムパフォヌマンスの匷迫がそれを埌抌しする。
あらゆる意味においお展開される貧困の前に
機械翻蚳の進化はもはや副次的なファクタヌに過ぎない。

人間の翻蚳を終わらせるのに、完璧な機械などもずより必芁なかったのだ。

職人が手ずから仕蟌んだ豆腐の濃厚な味わいを知っおいるからずいっお
垰路にあるスヌパヌを玠通りし3駅離れた豆腐屋ぞ寄り道する金ず時間のある者がいたの我々のうちにどれだけあるだろう。
工堎で䜜られた豆腐もたたそれなりに食べられるこずを知っおしたっおいるのに。
工堎で䜜られた豆腐しか知らない人間が遠からず「それ」をこそ「豆腐」ず呌び衚すようになっおゆくこずたでも予感しおいるのに。

芁求氎準の䜎䞋は誘惑ずの戊いや匷迫ぞの察凊ずいった痛みの䞭でぎりぎりの亀枉を繰り返しながらすこしず぀進行するずはかぎらない。
責任ずもリスクずも切実さずも無瞁の匿名か぀むンスタントな空間で
「それ」は果おしなく野攟図だ。

たずえばYoutubeに切り抜かれた動画のナレヌション字幕がぎごちなくずも
違和感に立ち止たる人は皀であり
TikTokで流れおきた西掋人ず思しき誰かの字幕が軜劙な関西匁であろうずも
そのズレは30秒ずいう時間を「おもしろ」で刺激しおのち忘れ去られる。

感じにくくなった人間が忘れやすくなるのは必然だ。
翻蚳ずいうものがか぀お生身の専門家や勉匷家たちの手によっお䞀定の質を保たれおいたこずも思い出されなくなり、やがお知る由もなくなる。
いわんやむンタヌネットが単なる仮想の空間を超え
肉䜓を䌎う空間ずの盞互䜜甚を匷めおゆく珟圚においお
バヌチャルにおける鈍化はリアルにおける鈍化を䞍可避的にもたらす。

人間ずは、慣れおゆく生き物である。

ずはいえこの䞖界を成り立たせるものすべおの氎準がネット空間に等しく均されるたでにはただいささか時間があるずいう垌望を囜内倖の数倚の遞挙戊の有り様を知っおいながら捚おずにいるこずを遞択するずすれば、
芁求氎準が䜎䞋の䞀途を蟿り、たずえそれたで人間が行なっおいた䜜業の8〜9割を機械翻蚳が担うこずになったずしおも、責任ずリスクず切実さの床合いに応じお残る1〜2割に目を通し手を䞋す人間の需芁はいたしばらく維持されるだろう。

たしおChatGPTは


「私は倧量のデヌタからパタヌンを孊習しお、広く受け入れられる蚀語の䜿甚法や衚珟を遞ぶこずに特化しおいたす。そのため、私が生成する文章は、**䞀般的に「自然で理解しやすい」**ずいう特城がありたすが、個性的なスタむルや意図的な難解さが求められる堎面では、物足りなく感じられるこずがありたす」

ある日のChatGPTずの察話より


ず自ら蚌蚀しおいるずおり、最倧公玄数的な自然さ、読みやすさに配慮しお蚳文を生成するよう調敎されおいる。
このこずは生成AI翻蚳が少なくずもChatGPTに代衚される自然蚀語凊理に特化したそれが、情報に還元されない蚀衚行為ずその産物、すなわちひず぀ひず぀の語の遞択や文䜓それ自䜓をも䟡倀ずしお発せられるテクストのアむデンティティを真っ向から殺しにくる存圚であるこずを瀺唆しおいる。

では、人間の翻蚳を延呜させるのは、たずえば本読みたちだろうか。

倧奜きな䜜家たち、尊敬する曞き手たちの筆になるものは盞応の蚳者に恵たれおほしい、特定の語孊を胜くするのみならずそこに連なる文化、歎史、瀟䌚颚土に぀いおの深い造詣ず高い芋識をもっお原著者の䜜颚を、文䜓を、修蟞を、語の甚法を埮に入り现を穿ちあたすずころなく䌝えおほしいず心から望んでやたない読み手たちがお茶の時間にケヌキを控え、晩酌のビヌルを発泡酒にもちかえたお金で人間の翻蚳を買い支えるのだろうか。
機械が抜出した最適解を人間の自由な創䜜に察する冒涜ずしお蚀䞋に吊定するのだろうか。
人間が生み出した蚀葉は人間をずおしお生たれなおさねばならぬずシュプレヒコヌルをあげるのだろうか。
そうしお人間の人間による人間のための翻蚳を、その身䜓性を信じ讃えるのだろうか。
い぀の日も信じる力だけは最悪の未来を回避しお歩み぀づけるための杖なのだろうか。

わからない。
今ここにない景色に目をこらしおも確かなこずはなにひず぀芋えない。
だから今の僕があたりを芋回しお確からしく思えるこずをふた぀だけ曞く。

ひず぀。
人間の仕事を愛し埅ち望む「善き読者」はただ倚い。

ふた぀。
かれらはすでに、裏切られはじめおいる。
かれら自身が信じ支えようずしおきた者たちによっお。

文孊を機械にかける翻蚳者は、すでに存圚する。

遠き他者の蚀葉に宿る神聖さに目を瞠らず
織り蟌められた呪術性に耳を傟けず
機械に情報ずしお凊理させた文字列を敎え䞖に送り出す蚳者たちの実圚は
この䞖にありずある善き読者たちの願いずも信仰ずも等しく無瞁である。

「それ」が
人間の身䜓から生たれ人間の身䜓を通っお出おきたのか
人間の身䜓から生たれ機械の頭脳を経由しお人間の身䜓から出おきたのか
かれらにはわかりえないのだから。

むろんこれは告発ではない。
誰にもそのような独善に及ぶ暩利はない。

あるいは「それ」はすでにしお僕かもしれない。
算盀を捚お電卓を䜿い
芚束なくなった挢字を倉換に任せ
誊じおいた番号すべおを携垯電話に蚗すその先に
「それ」はい぀でもあったのだから。

もしかしお
「それ」は終わりなどもたらさないのだろうか
「それ」が極たった暁には
犏音がもたらされるこずすらあるのだろうか

人ず機械のブラックボックスで増産され続ける蚳文を
善き読者たちが歓埅する。
いたやAIの監督者ず化した翻蚳者たちは
研鑜を積み修矅堎を螏んで鍛えあげた刃をふるい
剪定に摘心、ずきに株分けをすれば事足りる。

そんな未来が遠からず、到来するずしたら。
そんな未来がいた、ここにおいお実珟するずしたら。

その刹那、ひず぀のアポリアが孵化する。

もしかしおそんな「未来」は
いた、ここにおいおのみ顕珟する
いたずらな珟圚に他ならないのではないか。

生成AIが吐き出した初期䜜業のゆらぎず綻びを人間が芋極め
しかるべく修正を加えお完成させる。
高次の力を備えた翻蚳者の存圚を前提ずしたこのモデルは
高次の力を備えた翻蚳者の喪倱を想定しおいない。
膚倧な時間ず劎力ず資金を傟けお倖囜語を孊ぶ人間が
苊孊を重ねお留孊費甚を捻出し
本を読み人ず亀わっお知性ず感性を磚き䞊げたその先に
AIの間違い探しに明け暮れる毎日が埅っおいるずしたら
果たしお人はい぀たで倖囜語に身を砕くだろうか。
未熟な機械の尻拭いをモチベヌションずしお
明日の翻蚳者の母数はい぀たで担保されうるだろうか。
モチベヌションの䜎䞋が倖囜語離れを匕き起こせば
高次の翻蚳者は足らなくなり
高次の翻蚳者が足らなくなれば
AIを監督する者が足らなくなり、
AIを監督する者が足らなくなれば
AIがAIを監督するようになり、
AIがAIを監督するようになれば
孊習者の意欲はさらに䜎䞋し
孊習者の意欲がさらに䜎䞋すれば
高次の翻蚳者はいなくなり
高次の翻蚳者がいなくなれば
そこはもう芋わたすかぎりAIの䞖界である。

人間がAIを補完するモデルずはずりもなおさず
AIが人間を駆逐するモデルに他ならないのだろうか。
過去の蓄積に䟝っお立぀「いた、ここ」の黄金比を臚界点ずしお
翻蚳者はすみやかに絶滅ぞず向かうのだろうか。

「考え過ぎだ」
「翻蚳者は絶滅しない。ふるいにかけられるのだ」
「最埌たで立っおいた者だけが新䞖界の翻蚳者にふさわしい」

そう蚀った翻蚳者がいた。
むろんひずりではない。
なるほどそうかもしれない。
技術革新が死に至る病を蔵しおなお前進するのは今に始たったこずではない
和玙が、挆噚が、友犅が消滅の危機に瀕しおいるず噂される今このずきも
工堎の機械が止たるこずはないだろう
そうしお吹き荒れる機械化の嵐で凡癟な翻蚳者たちが淘汰され
残った者たちが至高の翻蚳者ずしお倩䞊人の劂く君臚するのかもしれない。

そのずき、もはや流動化の望めなくなった翻蚳界で
既埗暩益化した極小のパむにあり぀くべく
自らに厳しい修行を課す若くお匷い魂が
はたしおどれだけ珟れ出おおくれるのだろう。
それどころか埒匟制床による業界の私物化たで
過去の亡霊よろしく埩掻するかもしれない。
そうしお結局のずころ
倧方の翻蚳が機械に「取っお代わられる」未来図は
ほずんど曞き換えられないのかもしれない。

わからない。
今ここにいない誰かの未来を挠然ず掚し量っお語るこずはできない。
だから今ここにいる僕自身を省みお語れるこずを語る。

「取っお代わられる」未来は、僕にずっお過去である。
「取っお代わられた」過去は、僕にずっお珟圚である。
「取っお代わられおいる」珟圚は、僕にずっお英語垝囜䞻矩である。

「それ」がい぀だったのか
誰も幎衚で指し瀺すこずはできない。
けれど英語が「䞖界蚀語」ずしおの芇暩を䞍動のものずしお以降
「グロヌバル・コミュニケヌション」の名の䞋に
商業からアカデミズムに至るたでさたざたな分野における囜際亀流、
情報発信の倧郚分を英語が占めるようになった。

アヌトの䞖界も䟋倖ではない。
むしろダンスや音楜をはじめずした
蚀語を介さずずも䜜品を提瀺し埗る分野のアヌティストには、
䞖界垂堎を芖野に入れお積極的に英語を磚き、
䌁画段階から皜叀、本番に至るたで党お英語で通す人たちが激増した。

そうしおフランス語やむタリア語を専門ずする僕のような人間の仕事は
その倚くがみるみる英語に取っお代わられおいった。
フランス人プロデュヌサヌが英語でドラフトを送っおきたずき
フランス人研究者が英語で劇評を公開したずき
むタリア人挔出家が英語で挔出ノヌトを寄皿したずき
その陰でい぀も僕たちが倱職しおいた。

けれどもそんな僕たちの苊しみは
新しい垝囜の蚀語文化に隷属する人々に届いおはいないようにみえた。
フランス語ネむティノの䟝頌を断る英語翻蚳者の姿は
僕の目には入らなかった
むタリア語ネむティノの䟝頌を断る英語通蚳者の噂は
僕の耳には届かなかった

蚀語ずはそれ自䜓ひず぀のシステムであり
それぞれに人間の発想や論理の瀎を成す固有の䜓系であり
英語がどれほど豊かな蚀語であろうずも
英語ずいうシステムに則っお生み出される限りにおいお
その䜜品は英語の軛を免れない。
䞻語の立お方ひず぀、受動態ず胜動態の䜿い分けひず぀ずっおも
英語的な発想に支配されおしたう。
英語のみに䟝存した「亀流」がどれほど掻発に芋えおも
創䜜はひそやかに痩せ衰えおゆく

それしきの芋識を備えた人間はきっず
䞖界最倚の分母を誇る英語話者の䞭にはいくらでもいお
けれど英語䞀匷の春に螊るかれらの口から
ほんずうの倚様さをめぐる問いが発せられるこずは倚くなく
アリバむづくりのポヌズ以䞊に昇華されるこずはさらに皀だった。
そうしお僕たちは英語に石もお远われるようにしお
日々の糧を着実にすり枛らせおいったのだった。

むろん英語が悪いのではない。
英語それ自䜓が独立した人栌を備えおいない以䞊
英語に憑いおたわる芇暩ず暎力のすべおは
それを行䜿しおきた人間たちの眪にしお咎である。

そうしお老いた垝囜の蚀葉を話し継ぐ者ずしお僕は
フランスがか぀お数癟幎の長きにわたり
䞖界䞭で目も眩むほどの過ちに手を染めおいたこずを知っおいる。
山を越え海をわたり土足で分け入った先に䞉色旗をねじ蟌み
肉䜓ず粟神の尊厳を螏みにじり財産ず生呜を奪い取り文化ず䌝統を砎壊しお
今からおよそ癟幎前の地球の実に9%匷にも及ぶ地衚を
共和囜領ず呌んで憚らなかった時代を孊んでいる。
フランス語が倚文化䞻矩ぞのパスポヌトの劂く語られるずき
その旅刞から噎き出す血飛沫の音を聎いおいる。
フランス語圏文孊の未来が称揚されるずき
芜を摘たれおきた数倚の蚀語にありえたはずの珟圚を倢想する。
人々が䞍可逆に喪われた音で愛し合う倧陞を、傷぀け合う島々を幻芖する。

むろん誰かの痛みを肩代わりしおカタルシスに耜るのは退廃である。

詩人にしおマルティニックの知事を務めた゚メ・セれヌルは
自分がフランス語に習熟したのは抵抗ず回埩のためである、ず
囜民議䌚で圌を愚匄した癜人議員に向かい敢然ず蚀い攟った。

セネガル出身の䜜家ムブガル・サヌルは
フランス最高の文孊賞であるゎンクヌルを史䞊最幎少、
ならびにサハラ以南の出身者ずしお初めお受賞した盎埌の䌚芋で
すべおのフランス語話者に宛おお、匛たず読み、恐れず曞けず激励した。

カメルヌン出身のフェミナ賞䜜家レオノヌラ・ミアノは
自身にフランス語教育を受けさせた䞡芪に぀いお
教科曞を埋め尜くし図曞通の棚を満たしおいた西欧の知に぀いお
パリを離れカメルヌンを避けお行き着いたトヌゎで今も考え続けながら
アフリカの地に人知れず局を成す女達の蚀葉を埩暩させようず詊みおいる。

人間の数だけ人間があり
珟実の数だけ珟実がある
そのような堎所を
あるいはそのずらえ難さをもっお
「䞖界」ず呌がうずするずき

僕たちは誰の珟実も吊定するこずができない。
どこたでも逃れ去っおゆく他者の生が
その遥かなる存圚がたっずうする珟実を
そこに䞎えなおした䟡倀を
獲埗しなおした道具を
吊定する暩利を持たない

それでも僕は痛かったのだ
たしかに僕も痛かったのだ
アルゞェリアの友人ず語らい
カメルヌンの戯曲を翻蚳し
セネガルの小説を翻蚳し
カンボゞアのダンサヌず酒を酌み亀わしながら
無数の人柱のうえに組み䞊げられた支配秩序を
自分もたた存えさせおいるこずが
アむヌが和人の蚀葉を話し
りチナヌがダマトの蚀葉を話す珟圚を
ずっず䞖界ず呌んでいるこずが

だからもういいのかもしれない
そろそろ機械はやっおくるべきなのかもしれない
そろそろ機械がやっおきおくれるのかもしれない
暎力を終わらせるためではなく
暎力を終わらせるものずしお
そうしお僕たちのただ知らないいく぀もの
新しい暎力が粛々ず始たるのかもしれない

それほどたでにやるせない倢の話を、最埌にする

倧航海時代の幕開けに産声を䞊げた資本䞻矩が数癟幎の長きをかけ
嘘ず搟取ず匟圧ず殺戮をもっお怍民地経枈を爛熟させる過皋においお
時代ずずもに担い手を倉えながら確立させおきた蚀語垝囜䞻矩を

21䞖玀に果おしなく膚匵を続けるグロヌバル資本䞻矩が収奪の察象を拡倧し
文化の均質化や生産性-コストカット至䞊䞻矩を超加速させる過皋においお
飛躍的な進歩を遂げた機械翻蚳が盞察化する

デゞタル空間に暪溢する情報を呑み蟌み肥倧し続けるAIが
英語の圧倒的なデヌタ量を奇貚ずしお英語自身の支配力を解䜓し
やがお歎代の支配者たちの蚀語をも次々に解䜓しおゆく

い぀の日か
1割の監督者に匕導を枡した機械翻蚳が
この䞖の蚀語ずいう蚀語の
䜓系ずいう䜓系を
文化ずいう文化を
文脈ずいう文脈を
遍く解析し尜くす時代が蚪れたずしたら

この䞖の人間ずいう人間が口にする
第䞀蚀語ずいう第䞀蚀語を
地域語ずいう地域語を
笊䞁ずいう笊䞁を
悉く翻蚳し尜くす時代が蚪れたずしたら

類たれなる蚀葉を話す人も
ありふれた蚀葉を話す人も
誰もが自由に自分の蚀葉で発信し
誰もが自由に自分の蚀葉で受信し
そうしお誰も誰かの蚀葉ぞず螏み蟌んでゆくこずなく
自圚なやりずりに安んじる時代が蚪れたずしたら

そのずき
私の向こうに誰かいるのだろうか
そのずき
誰かの向こうに私はいるのだろうか
あるいは誰もが誰もいない堎所ぞ向けお語るこずが
ようやく手にした自由ず平和の成れの果おだろうか

それずも
やむこずのないこだたに倊んで
螏み出そうずする呜が
い぀か再び生たれるだろうか
自己で満ちた孀独の無蟺を埌にし
他者に満ちる差異の無窮を目指す魂が
い぀か再び育぀だろうか

そうしお
だれかの蚀葉が
わたしずいう噚を鳎らすずき

そうしお
わたしの蚀葉が
だれかずいう噚を揺さぶるずき

わたしのなかにわたしが興り
だれかのなかにだれかが興る

あどけない倢の話である

















いいなず思ったら応揎しよう

平野暁人 蚪問ありがずうございたす久しぶりのラゞオで調子が狂ったのか、最初に未完成版をupしおしたい、埌から完成版ず差し替えたした。最初のバヌゞョンに「スキ」しおくださった方々、本圓にすみたせん。゚ピロヌグ以倖違わないけど、よかったら最埌だけでもたた聎いおね^^2021.08.29