掌編 「嘘」 #チャレがや杯2026
嘘で固めて生きてきた。
僕が歩いた道はアスファルトのように嘘で固めて出来ている。
…この時点で嘘だ。
でも「嘘まみれ」という事実だけは本当という、どうしようもない皮肉は間違いなく僕の血肉だ。
という嘘。
でもそんな”嘘のミルフィーユ”こと僕の黒歴史は嘘ではなくて、確かに存在した。
ただしそれを証明するものは、自称嘘つきの僕しかいない。
この場合、真実は嘘になるのだろうか。
例えば…大学生にもなって告白経験ゼロの僕が、バレンタイン企画のライターコンテストに実名応募した。泳げないのに「水中から月を見たらどうなるんだろう」とプールに飛び込んで死にかけた。好きな女優のブログで読んだ“ホテルのモーニング”を食べに行ったら上下スウェットで門前払いされた。
嘘っぽい嘘は嘘だけど、嘘っぽくない嘘も嘘。
本当っぽい嘘は嘘だけど、本当っぽくない嘘は本当だとしても嘘。
そんな”嘘のデパート”こと僕は心が病んでいるのでは?という指摘を受け、クリニックで受診した。
先生は「鬱一歩手前です」と一言。
僕は「一歩って足なのに手の前って笑えますね」と返した。
その瞬間、出禁になった。一昨年の話だ。
その翌年のある日、どこかのお母さんが子どもに言った。
「嘘はいけない」
そのシンプルな言葉が、嘘の代名詞こと僕に突き刺さった。完全に存在を否定されたようなものだった。
僕は思わず叫んでいた。
「いやいや、嘘はいけないんじゃない!使い方の問題だろ!お前は一度も嘘をついたことがないのか!」
お母さんを罵倒していた。
嘘のオンパレードの僕が、僕にとっての“真実”をぶちまけていた。
結果、逮捕。
被害届は出されなかったらしく、三日で釈放された。
警察署を出ると、真っ青な空が僕を待っていた―なんてことはなく、ただただ蒸し暑い空気が在った。あまりの暑さに立ちくらみを覚えた。
でも「あぁ、まだ立ってるんだな僕」
と妙に冷静になった。
そして「まだ大丈夫」と、僕は僕に嘘をつく。
その嘘は、背中にそっと翼を描いた。
羽ばたく力はない。
けれど、生きる重さをほんの
少しだけ忘れさせてくれる。
嘘という真実の中で、僕は生きる。
そして、これも嘘になる。
完
(本文1449字※ルビ含む)
あとがき
コッシーさんとみくまゆたんさんと一緒に運営している企画『チャレがや杯2026』に参加させて頂きました。ルビというドーピングを使い応募規格内に収めました。お題が嘘なので、それもありかとゆるく応募させて頂きました。よろしくお願いいたします。
