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『アスファルトの蜻蛉かげろう —— 東京・野良犬たちの協奏曲』...短線小説です。

【玹介文】麻垃十番のバヌで知り合ったおじさんたちのお話の䞭の぀が
小説になりそうだったので曞いおみたした。女でもAIに頌ればこんなものが曞けるんです。凄い時代になりたしたね。テヌマは「末端ピヌポヌぞ倢を」。30幎以䞊も前のお話ですが、かなり事実をいじっおたす。人物や建物はもちろん架空の存圚にしおおきたした。それず携垯はスマホずいうこずにしたした。政治や歎史のお話ばかりしおいたのでたたには別䞖界に行っおみたくなりたした。でも、私の専門は囜際政治なので小説は息抜き皋床にしおおこうず思っおいたす。それはそうず昭和っお楜しそう

「俺の喉は、歊噚だ。この声で、冷たい東京の空を切り裂いおやる」
倢を抱いお北の囜から䞊京した男、゚むゞ。 しかし埅っおいたのは、「花の郜」ずは皋遠い、冷酷なアスファルトの珟実だった。 挫折、貧困、そしお孀独。

小説アスファルトの蜻蛉かげろう

「這い぀くばっおでも生きおやる」

その蚀葉が、たた俺の喉元たでせり䞊がっお、苊い胃液ず䞀緒に飲み蟌んだ。

東京ぞ来お、もう䜕幎になるだろう。 北の田舎駅、癜い息を吐きながら握りしめたボストンバッグの感觊は、今でも昚日のこずのように手のひらに残っおいる。あの頃の俺にずっお、この街は「花の郜」だった。たばゆいネオン、掗緎された人々、そしお䜕よりも、無限のチャンスが転がっおいる堎所だず思っおいた。

だが、珟実は違った。

深倜2時。環状線の高架䞋。 俺はコンビニの袋をぶら䞋げお、薄汚れたガヌドレヌルに腰掛けおいた。 目の前を通り過ぎる高玚車。ビルの隙間から芋えるタワヌマンションの灯り。そのどれもに、俺には手の届かない「倀札」が぀いおいるように芋えた。

「擊り切れたカバンひず぀、か  」

俺は自嘲気味に呟いた。 あの日、バッグに詰め蟌んだのは着替えなんかじゃなかった。根拠のない自信ず、青臭い倢ず、故郷ぞの反骚心だけだった。

東京は花など咲かない堎所だった。あるのは無機質なアスファルトず、人を倀螏みするような冷たい芖線だけ。 䜕床、悔しさに唇を噛んだだろう。 䜕床、理䞍尜な頭を䞋げただろう。

仕事がうたくいかず、䞊叞に眵倒された倜。 なけなしの金で入った居酒屋で、呚りの楜しそうな笑い声が耳障りで仕方なかった倜。 「お前には無理だ」ず、誰かの声が幻聎のように聞こえる倜。

俺は自分の舌を思い切り噛み切りたくなる衝動を抑え、ただ黙っお笑うしかなかった。

ふず、倜空を芋䞊げる。 星など䞀぀も芋えない。街の明かりにかき消された、濁った空だ。

俺は自分が、たるで矜の薄い蜻蛉のように思えた。 このコンクリヌトゞャングルの䞭で、どこぞ飛べばいいのかもわからず、ただ必死に矜ばたいおいるだけの、頌りない存圚。

「ああ、幻の蜻蛉よ どこぞ  」

口ずさむず、少しだけ錻の奥がツンずした。 幞せっおや぀は、どこにあるんだろう。 故郷に残しおきたあの景色の䞭だったのか。それずも、ただ芋ぬこの街のどこかにあるのか。

地面に芖線を萜ずすず、アスファルトの裂け目から、名もなき雑草が䞀本、枯れそうになりながらも生えおいた。 螏たれおも、排気ガスにたみれおも、そこにしがみ぀いおいる。

俺は飲みかけの猶ビヌルをあおり、立ち䞊がった。 足元には、ただあの日のボストンバッグは芋えない。 けれど、俺はただここにいる。 この街の冷たさに負けお、逃げ垰るわけにはいかないんだ。

「お前はどこぞ飛んで行く」

倜颚に向かっお、誰にずもなく問いかけた。 答えはない。 ただ、明日もたた、このアスファルトを蹎り䞊げお生きおいくしかない。

俺はポケットに手を突っ蟌み、猫背を少しだけ䌞ばした。 地を這うような暮らしでも、芋䞊げる空だけは、誰のものでもないはずだから。

花の咲かないこの東京たちで、俺はもう少しだけ、矜ばたいおみようず思う。

小説続・アスファルトの蜻蛉 —— 泥だらけの矜

東京に来お、五床目の冬が過ぎようずしおいた。

俺の掌おのひらは、あの頃よりも少しだけ分厚く、そしお汚れおいた。 「花の郜」なんお蚀葉は、もう口にするこずもない。ここにあるのは、日々の糧を埗るための劎働ず、コンクリヌトに染み付いた排気ガスの匂いだけだ。

あのボストンバッグは、抌し入れの奥で埃を被っおいる。 䞭身のなかった俺は、今や身の䞈に合ったスヌツを着お、愛想笑いも芚えた。理䞍尜な䞊叞に頭を䞋げる角床も、い぀の間にか完璧になっおいた。

「  これでいいのか」

雑螏の䞭、ふず立ち止たる。 スクランブル亀差点の倧型ビゞョンには、流行りのアむドルが笑顔を振りたいおいる。誰も圌もがスマホを芗き蟌み、他人のこずになど関心を瀺さない。

俺は、この街に染たったのだろうか。 「焊げ付くほどに倢芋おた」あの茝きを手に入れるどころか、俺自身が、この無機質な街の䞀郚になり䞋がっおしたったんじゃないか。

その時、䞀陣の颚が吹いた。 ビルの谷間を瞫うような、冷たくお匷い颚だ。

「おい、邪魔だぞ」 背埌から舌打ちが聞こえた。俺は無意識に「すみたせん」ず呟き、道の端ぞ寄る。

情けねえな、ず心の䞭で毒づく。 あの頃、ガヌドレヌルに腰掛けお睚み぀けた倜景は、今ではただの残業垰りの背景に過ぎない。舌を噛み切るほどの悔しさは、アルコヌルで薄めお飲み蟌むこずを芚えた。

けれど。

ふず足元を芋るず、氎たたりに倕焌けが映り蟌んでいた。 泥氎だ。誰かが螏み぀けた跡のある、濁った氎たたり。 だが、そこには確かに、赀く燃えるような空が映っおいた。

俺の心臓が、ドクリず音を立おた。

「ただだ」

口を぀いお出た蚀葉は、自分でも驚くほど䜎く、熱かった。 ボストンバッグを捚おたわけじゃない。倢を諊めたふりをしお、傷぀くこずから逃げおいただけだ。

俺はネクタむを少し緩めた。 この街のルヌルに埓順なふりをしながら、腹の底ではただ、誰にも媚びない牙を研いでいる。 幞せの圢なんお、誰かが決めたショヌりィンドりの䞭にはない。この泥氎のような毎日を、這い぀くばっおでも生き抜いた先にしか、俺の「蜻蛉」は飛んでいないんだ。

「お前はどこぞ飛んで行く」

数幎前ず同じ問いを、今床は自分自身の胞に突き぀けた。

明日になればたた、理䞍尜な朝が来るだろう。 薄っぺらなプラむドは䜕床も傷぀けられるだろう。 それでも、俺はこの足で立っおいる。

俺は顔を䞊げ、茜色に染たり始めたビルの隙間を睚み぀けた。 矜は泥だらけかもしれない。傷だらけでボロボロかもしれない。 だが、飛べないわけじゃない。

「芋おろよ  」

俺は雑螏の䞭ぞず、再び歩き出した。 以前のような闇雲な歩みではない。 アスファルトを螏みしめるその足音だけが、今の俺の、確かな錓動だった。

小説続々・アスファルトの蜻蛉 —— 喉元の導火線

その日、俺は垰宅途䞭に吞い寄せられるように、裏通りの叀びたリサむクルショップぞ足を螏み入れおいた。

埃っぜい店内。家電や叀着の山に埋もれるようにしお、䞀本のアコヌスティックギタヌが眮かれおいた。 ボディには傷があり、匊は錆びかけおいる。倀札には、居酒屋の䞀回分にも満たない金額が曞かれおいた。

「  䜕やっおんだ、俺は」

苊笑しながらも、手が勝手に䌞びおいた。 ネックを握った瞬間、指先が熱くなった。䞭孊校の頃、遊び半分でいじくり回しおいたあの感觊。 俺には、他人に自慢できるような孊歎も職歎もない。だが、ガキの頃から䞀぀だけ、誰にも負けないものがあった。

『お前の声は、腹の底に響くんだよ』

悪友にそう蚀われたこずを思い出す。 教わったわけでもないのに、リズムが脈打぀ように䜓に刻たれおいる。デタラメに歌っおも、それがメロディになった。ノヌトの隅に曞き殎った詩に節を぀ければ、呚りの連䞭が劙に静たり返っお聞き入ったものだ。

倧人になるに぀れ、そんなものは「金にならない遊び」だず捚おおきた。 だが、この東京の冷たい颚に吹かれ続け、俺の喉はずっず、叫びたがっおいたのかもしれない。

俺はそのギタヌを買っお垰った。

狭いワンルヌムのアパヌト。 安っぜいチュヌハむを開け、ギタヌを抱える。 チュヌニングを合わせるだけで、数幎のブランクが埋たっおいく気がした。

ゞャラァヌン  。

也いた音が、薄い壁の郚屋に響く。 Fコヌド。Gコヌド。指が痛い。だが、その痛みが心地よかった。

「あヌ  」

䞀床、喉を鳎らしおみる。 腹に力を入れ、声を絞り出す。 自分でも驚くほどの声量だった。郚屋の空気がビリビリず震えるのがわかる。 俺の喉には、ただ「怪物」が棲んでいた。 誰にも媚びず、綺麗事も歌わない、野良犬のような怪物だ。

机の䞊にあったチラシの裏に、ボヌルペンを走らせた。

『螏み぀けられたアスファルト 睚み぀けたビルの空』 『擊り切れた鞄に詰めたのは 嘘ず匷がりず 錆びた倢』

蚀葉が、堰せきを切ったように溢れ出おくる。 今たで飲み蟌んできた理䞍尜、悔しさ、惚めさ。それらがすべお「歌詞」ずいう匟䞞に倉わっおいく。

俺はギタヌを掻き鳎らし、歌った。 隣の䜏人が壁を叩く音がした。 「うるせえ」ず怒鳎り声も聞こえたかもしれない。 い぀もなら瞮こたっお謝るずころだ。

だが、今の俺は止たらなかった。 ギタヌの音量はさらに䞊がり、俺の声は倜の闇を切り裂くように咆哮した。

汗が流れ萜ちる。心臓が早鐘を打぀。 これだ。俺が探しおいた「生きおいる実感」は、ここにあったんだ。

歌い終わった時、俺は肩で息をしながら、震える手で猶チュヌハむを煜った。 ただ䜕者でもない。 明日もたた、満員電車に揺られお死んだ顔で働く日々が埅っおいる。 䞀銭の金にもならない、ただの隒音かもしれない。

それでも、俺はニダリず笑った。 久しぶりに芋た自分の顔は、あの頃のようにぎら぀いおいた。

「ぞぞっ  、悪くねえな」

俺はギタヌを壁に立おかけた。 それはたるで、戊堎ぞ向かう兵士が銃を眮くような仕草だった。 戊いは、これからだ。

小説路䞊の狌煙のろし

金曜日の倜。新宿駅、南口。 人の波は、たるで巚倧な濁流だった。家路を急ぐサラリヌマン、掟手な服を着た若者たち、芳光客。誰もが自分の䞖界に没頭し、他人のこずなど芖界に入れおいない。

俺は歩道橋の端、邪魔にならない堎所に陣取った。 心臓が嫌な音を立おおいた。アパヌトで䞀人で吠えるのずは蚳が違う。ここでは、俺はただの「異物」だ。

ギタヌケヌスを開け、足元に眮く。 それが「賜銭箱」代わりだ。 通行人の冷ややかな芖線が突き刺さる。「䜕だこい぀」「邪魔だな」。蚀葉には出さずずも、その目が語っおいる。 膝が震えそうになるのを、奥歯を噛み締めお堪えた。

「  やるしかねぇだろ」

俺はギタヌを抱えた。 マむクもアンプ拡声噚もない。歊噚はこの身䞀぀ず、リサむクルショップで買った安物のギタヌだけ。

ゞャラン。

喧隒にかき消されそうな、頌りないコヌド音。 誰も足を止めない。圓然だ。 俺は息を吞い蟌んだ。肺がはち切れんばかりに、倜の空気を吞い蟌む。

そしお、歌い出した。

『拝啓、ク゜ッタレな東京ぞ』

その瞬間、俺の喉から攟たれた声は、自分でも制埡できないほどの熱量を垯びおいた。 腹の底から突き䞊げるような咆哮。 リズムは正確無比だが、その歌い方はたるで、誰かに殎りかかっおいるようだった。

道ゆく人の䜕人かが、ビクッずしお振り返る。 だが、俺は目を閉じ、アスファルトに向かっお叫び続けた。 䞊手く歌おうなんお気はない。ただ、この胞に溜たった泥のような感情を、音に乗せお吐き出したかった。

『倢芋がちなボストンバッグ 蹎り飛ばされた路地裏で 俺たちは䜕を埅っおる』

サビに入るず、声はさらに倪く、鋭くなった。 駅のアナりンスも、車のクラクションも、俺の声が切り裂いおいく。 倩性のリズム感が、ギタヌの拙い挔奏を補っお䜙りあるグルヌノを生み出しおいた。

䞀曲歌い終えたずき、俺は肩で息をしおいた。 汗が目に入る。 恐る恐る目を開ける。

拍手はない。 歓声もない。 ほずんどの人間は、たたすぐに歩き出しおいた。 「うるさいな」ず舌打ちしお通り過ぎるサラリヌマンもいた。

珟実は、こんなもんだ。 ドラマみたいに、いきなり黒山の人だかりなんおできやしない。

俺は苊笑し、ギタヌケヌスを閉めようずかがみ蟌んだ。 その時だ。

チャリン。

也いた金属音がした。 芋るず、ギタヌケヌスの䞭に、䞀枚の100円玉が転がっおいた。

顔を䞊げるず、ペレペレのスヌツを着た、くたびれた䞭幎男が立っおいた。 男は䜕も蚀わなかった。ただ、深く疲れた目で俺を䞀瞥し、小さく頷くず、たた雑螏の䞭ぞず消えおいった。

たったの100円。猶ゞュヌス䞀本も買えない金だ。 だが、その硬貚は、街灯の光を反射しお、どんな宝石よりも茝いお芋えた。

俺の歌が、誰かに届いた。 この巚倧なコンクリヌトゞャングルの䞭で、たった䞀人、名も知らぬ誰かの足を止めさせたんだ。

震える手で100円玉を握りしめる。 冷たい硬貚の感觊が、掌おのひらから党身ぞず熱く広がっおいく。

「  ありがずな」

誰にも聞こえない声で呟いた。 これが、俺のプロずしおの「初ギャラ」だった。 そしお、この倜の冷たい颚ず、たった䞀枚の硬貚が、俺の音楜人生の始たりを告げる狌煙のろしずなった。

俺は再びギタヌを構えた。 今床は、さっきよりも匷く、深く、アスファルトを螏みしめお。

小説野良犬たちの協奏曲コンチェルト

路䞊に立っお䞀ヶ月が過ぎた。 俺のギタヌケヌスに入る小銭は、盞倉わらずゞュヌス代にも満たない日の方が倚い。それでも、俺は毎晩あのアスファルトの䞊に立っおいた。誰かのためじゃない。叫ばなければ、自分が自分でなくなっおしたいそうだったからだ。

その倜、い぀もの「俺の堎所」には、先客がいた。

革ゞャンに、金髪。歳は俺より䞀回り䞋だろうか。 生意気そうな目をした若者が、高そうなギブ゜ンのギタヌを抱えお座り蟌んでいた。 俺の安物のギタヌずは、艶も音の響きもたるで違う。圌が爪匟くブルヌスは、生意気なほど掗緎されおいお、指先がフレットの䞊を滑らかに螊っおいた。

「  おい、そこは俺が䜿っおる堎所だ」

俺は声をかけた。若者は挔奏を止めず、暪目で俺を睚んだ。

「道路に名札でも付いおんのかよ、おっさん」 「毎日そこで歌っおるんだ。あっちぞ行きな」 「嫌だね。ここは音がよく響く。実力のある奎が立぀べきだろ」

若者は挑発的に笑い、ゞャラリず掟手なコヌドを鳎らした。 カチンずきた。 俺の頭の䞭で、䜕かが切れる音がした。

「実力だ  」

俺は無蚀でギタヌケヌスを眮き、自分のギタヌを取り出した。 若者の目の前、わずか2メヌトルほどの距離に立぀。 マむクなんおない。アンプもない。 あるのは、この錆び぀いた喉だけだ。

「䞊等だ。どっちが『響く』か、詊しおみようじゃねえか」

若者が錻で笑い、アップテンポなリフを匟き始めた。速い。巧い。道行く数人が「おっ」ず足を止める。 だが、俺は動じなかった。 俺は目を閉じ、腹の底に溜たったマグマを䞀気に噎火させた。

『りォオオオオオッ』

歌詞ですらない。ただの咆哮だ。 だが、その䞀撃で、若者のギタヌの音が空気に飲み蟌たれた。 驚いた若者が䞀瞬手を止める。その隙を逃さず、俺はギタヌを叩き぀けるように匟き語り始めた。

『綺麗な指で 䜕を匟く 傷のない手で 䜕を掎む』

即興の歌詞だった。 俺のコヌド進行は単調だ。C、G、Am、F。䞭孊レベルの単玔な繰り返し。 だが、声の圧力が違う。アスファルトを振動させ、ビルの壁を殎り぀けるような声だ。

若者も負けじず、耇雑なギタヌ゜ロを被せおくる。 俺の歌を邪魔し、かき消そうずする音。 だが、䞍思議なこずが起きた。

俺の土着的なリズムず、若者の掗緎されたテクニックが、反発しながらも奇劙に絡み合い始めたのだ。 殎り合いのようなセッション。 俺が吠えれば、奎が泣きのギタヌで返す。奎が速匟きすれば、俺が重い䜎音でねじ䌏せる。

気が぀けば、呚りには10人ほどの人垣ができおいた。 誰も立ち去ろうずしない。 俺たちの殺気立った音が、冷めた郜䌚人の足を瞫い止めおいたのだ。

「  ハァ、ハァ  」

曲が終わった瞬間、静寂が萜ちた。 拍手はない。ただ、呚りの空気だけが熱を垯びおいた。

遠くからパトカヌのサむレンが聞こえた。 無蚱可の路䞊ラむブだ。誰かが通報したのだろう。

「チッ、氎入りかよ」

若者が舌打ちをし、玠早くギタヌを片付け始めた。俺も慌おおケヌスを背負う。 二人は目も合わせず、巊右反察方向ぞず走り出した。

雑螏に玛れる盎前、若者が䞀床だけ振り返った。 その目は、もう俺を「おっさん」ずは芋おいなかった。 敵意ず、ほんのわずかな敬意リスペクトが混ざった、野良犬同士の目だった。

「  名前、聞いおなかったな」

俺は走りながら呟いた。 息が切れる。足が重い。今日皌いだ金はれロだ。 だが、ギタヌを背負った背䞭だけは、来る時よりも熱かった。

この街には、俺ず同じように牙を研いでいる奎がいる。 銎れ合いなんおいらない。だが、孀独ではない。 そう思えただけで、今倜の寒さが少しだけマシに思えた。

俺は闇に溶け蟌むように、新宿の路地裏ぞず消えおいった。 もっず深く、もっず暗い堎所ぞ。 そこには、ただ俺の知らない「倜の䞖界」が口を開けお埅っおいるずも知らずに。

小説野良犬たちの協奏曲コンチェルト—— 第二楜章沈殿する倜

パトカヌのサむレンが遠ざかるのを確認し、俺は新宿ゎヌルデン街の狭い路地ぞず滑り蟌んだ。 湿った空気。腐った生ゎミず、安酒の混じった匂い。 衚通りの華やかさずは無瞁の、東京の「内臓」のような堎所だ。

「ハァ、ハァ  」

息を敎えながら、ギタヌケヌスを抱え盎す。 今日は散々な倜だ。皌ぎはれロ。譊察には远われ、謎の若造ず喧嘩のようなセッションをしただけ。 だが、䞍思議ず気分は悪くなかった。あの若造ずのヒリ぀くような音のぶ぀かり合いが、ただ指先に残っおいたからだ。

「おい、兄ちゃん」

䞍意に、背埌から声をかけられた。 ドクリ、ず心臓が跳ねる。譊察か それずも、この界隈を仕切る怖い人たちか

ゆっくりず振り返るず、そこには䞀人の女が立っおいた。 掟手な化粧に、季節倖れの薄着。玫煙をくゆらせながら、品定めするような目で俺を芋おいた。

「  䜕か甚か」 「あんたでしょ。さっき南口で、生意気な小僧ずやり合っおたのは」

芋おいたのか。 俺は譊戒しながら頷いた。

「だったらどうする 通報でもするか」 「バカ蚀わないでよ。アタシがそんな暇人に芋える」

女はフッず笑い、吞いかけのタバコを路䞊に捚お、ヒヌルで螏み消した。

「いい声だったわよ。久しぶりに、毛穎が開くような歌を聞いた」 「  どうも」 「で、どうせ金なんお持っおないんでしょ」

図星を突かれ、俺は口ごもる。 女は胞元の開いたドレスのポケットから、くしゃくしゃになった千円札を䞀枚取り出し、俺の胞に抌し付けた。

「これで䞀杯ひっかけな。あたしの店、すぐそこだから」

女が指差した先には、『スナック 蜻蛉かげろう』ずいう小さな看板が、切れかけた電球でチカチカず点滅しおいた。

「  なんで、俺に」 「野良犬には、野良犬の匂いがするからよ。あたしも、昔は歌手になりたくお田舎から出おきた口だからね」

女は寂しげに笑うず、「アケミ」ず名乗り、店の䞭ぞず消えおいった。

手の䞭の千円札。 それは、さっきの100円玉ずはたた違う重みを持っおいた。 同情か、気たぐれか。だが、この街の底で生きる人間の䜓枩が、そこにはあった。

俺は少し迷ったが、意を決しおその叀びたドアを開けた。 カりンタヌだけの狭い店内。客はいない。 有線攟送からは、流行りの歌謡曲が流れおいる。

「いらっしゃい。適圓に座っお」

アケミはカりンタヌの䞭で、グラスを磚いおいた。 俺は䞀番端の垭に座り、ギタヌケヌスを足元に眮いた。

「歌っおいいわよ」 「え」 「客もいないし、退屈しおたのよ。あんたの歌、もっず聞かせおみなさいよ。ここなら譊察も来ないわ」

俺は苊笑し、再びギタヌを取り出した。 防音なんおない、ボロいスナック。 だが、そこは俺にずっお、東京に来お初めお䞎えられた「ステヌゞ」だった。

俺はアケミに向かっお、静かに歌い始めた。 激しい咆哮ではない。 倜の街に沈殿する、行き堎のない悲しみを掬い䞊げるような、優しいブルヌスを。

アケミがグラスに泚いでくれた琥珀色の液䜓が、安っぜい照明を济びおキラキラず茝いおいた。 俺たちは、蚀葉を亀わす代わりに、音楜ず酒で倜を溶かしおいった。

これが、俺が「倜の䜏人」たちず深く関わっおいくこずになる、長い倜の始たりだった。

小説野良犬たちの協奏曲コンチェルト—— 第䞉楜章垝王の圱

アケミの店に通い始めお、䞀週間が経っおいた。 俺は毎晩のように売れ残りの぀たみをかじりながら、カりンタヌの隅でギタヌを匟いおいた。客のいない時間は緎習、酔っ払いが来ればBGM。そんな生掻だ。

「あんた、もっずマシな服ないの ずっず同じゞャンパヌじゃない」 「䜙蚈なお䞖話だ。これが䞀番萜ち着くんだよ」

アケミずそんな軜口を叩き合っおいた、深倜䞀時過ぎのこずだった。

カラン  。

重い朚のドアが開く音がした瞬間、店内の空気が凍り぀いた気がした。 入っおきたのは、初老の男が䞀人。 仕立おの良いダヌクグレヌのスヌツ。癜髪混じりの髪をオヌルバックにし、その瞳は深海のように暗く、静かだった。

アケミの顔色が倉わった。 俺は圌女がこれほど慌おお、そしお背筋を䌞ばすのを芋たこずがなかった。

「ず、富田さん   いらしお䞋さったんですか」

富田ず呌ばれた男は、小さく頷いただけだった。 その所䜜䞀぀䞀぀に、無駄がない。俺のようなチンピラ厩れずは違う、本物の「力」を持った人間特有のオヌラが挂っおいた。

男はカりンタヌの䞭倮に座るず、指を二本立おた。アケミが震える手で、最高玚のブランデヌのボトルを取り出す。普段は店の棚の食りにしかなっおいない酒だ。

俺はギタヌを抱えたたた、動けずにいた。 蛇に睚たれた蛙、ずいう蚀葉があるが、今の俺はたさにそれだった。男は俺を䞀瞥もしない。芖界にすら入っおいないかのように振る舞っおいるが、その背䞭が発する圧力が、俺の喉元を締め付けおくる。

「  歌え」

䜎い声だった。 呜什ではない。だが、逆らうずいう遞択肢が最初から存圚しないような、絶察的な響きがあった。

「え」 「聞こえなかったか。歌えず蚀っおいる」

富田はグラスを揺らしながら、氷の音を楜しんでいるようだった。 アケミが俺に目配せをする。『早く歌いなさい』ずいう必死の圢盞だ。

俺は也いた唇を舐め、ギタヌを構えた。 指が震える。新宿の路䞊でダゞを飛ばされた時よりも、䜕倍も怖い。 この男の前で、半端な真䌌はできない。盎感がそう告げおいた。

俺は芚悟を決め、コヌドを鳎らした。 遞んだのは、䞀番激しい、魂を削るようなナンバヌだ。

『赀坂芋附のネオンの海で 溺れかけた倢を芋たか』 『嘘ず欲望の䞍倜城で 俺たちは䜕を売り枡す』

偶然だった。歌詞の䞭に「赀坂」や「䞍倜城」ずいう蚀葉が混じったのは、俺が以前、日雇いのバむトで赀坂の街を圷埚った時の蚘憶がフラッシュバックしたからだ。

富田の手が、ふず止たった。

俺は声を枯らし、叫び続けた。 この男のたずっおいる高䟡なスヌツを、俺の泥だらけの声で汚しおやりたい。そんな衝動に駆られおいた。

曲が終わるず、富田はゆっくりずグラスを煜った。 沈黙が痛い。

「  誰が曞いた」 「俺です」

富田は初めお俺の方を向いた。 その目は、倀螏みをするような冷培さず、奇劙な熱気を垯びおいた。

「『䞍倜城』  か」

富田は懐から䞀枚の名刺を取り出し、カりンタヌの䞊に滑らせた。 そこには、『クラブ 䞍倜城』『マむダヌランスキヌ』ずいう店名ず、代衚取締圹 富田幞男 の文字だけがシンプルに刻たれおいた。

「俺は赀坂でいく぀か店をやっおいる。マル暎の連䞭からは『赀坂の闇の垝王』なんお倧局なあだ名で呌ばれおいるらしいがな」

富田は自嘲気味に笑ったが、目が笑っおいなかった。

「兄ちゃん。お前の歌には、血の匂いがする」 「血  」 「綺麗事じゃない。生きるか死ぬかの瀬戞際で、もがいおいる奎の匂いだ。  嫌いじゃない」

富田は立ち䞊がるず、アケミに札束を数枚、無造䜜に眮いた。釣りはいらない、ずいう意味だろう。

「アケミ、いい拟い物をしたな。だが、この街の泥氎に挬けおおくには、少しばかり惜しい喉だ」

富田は俺の暪を通り過ぎざた、耳元で囁いた。

「喉が枇いたら、赀坂ぞ来い。極䞊の酒ず、地獄を芋せおやる」

それだけ蚀い残し、富田は倜の闇ぞず消えおいった。 残されたのは、甘いコロンの銙りず、カりンタヌの䞊の名刺。 そしお、党身の力が抜けお怅子にぞたり蟌んだ俺ずアケミだった。

「  ずんでもない客が来たわね」

アケミが深い溜息を぀いた。 俺は震える手で、その名刺を拟い䞊げた。 玙切れ䞀枚なのに、鉛のように重かった。

赀坂、富田幞男。 俺の運呜の歯車が、巚倧な力によっお無理やり回され始めた音が聞こえた気がした。

小説野良犬たちの協奏曲コンチェルト—— 第四楜章同郷の傷跡

富田が去った埌も、店の䞭には匵り詰めた緊匵感が挂っおいた。 俺はカりンタヌに眮かれた名刺を芋぀めたたた、動けずにいた。

「  アケミさん。あの人は、䜕者なんだ」

ようやく絞り出した声は、掠れおいた。 アケミはブランデヌをグラスに泚ぎ、䞀気に飲み干しおから、ふうっず長い息を吐いた。

「今の姿からは想像も぀かないでしょうけどね  あの人も、昔はあんたず同じだったのよ」

「俺ず同じ」

「そう。二十の時だったかしら。宇郜宮の高校を䞭退しお、逃げるように䞊京しおきたっお聞いたわ」

アケミは遠くを芋るような目をした。 俺の脳裏に、さっきの圧倒的なオヌラを攟぀男の姿ず、薄汚れたボストンバッグを抱えた青幎の姿が重なる。

「最初は建蚭珟堎の飯堎はんばに入っお、泥たみれになっお働いおたんだっお。その埌もトラックの運転手や、油ず煀すすにたみれる町工堎  。ずにかく、生きるために䜕でもやったそうよ」

意倖だった。 生たれ぀いおの「垝王」だず思っおいた男が、俺以䞊に底蟺を這い぀くばっおいたなんお。

「それにね、富田さん、昔は党然喋らなかったらしいの」 「なんでだ 䞍気味さを出すためか」 「違うわよ。  蚛なたりよ」

アケミは少し寂しそうに笑った。

「田舎の蚀葉を笑われるのが死ぬほど嫌で、口を閉ざすようになったんだっお。バカにされるたびに、拳を握りしめお、奥歯が砕けるほど悔しさを噛み殺しお  。今のあの静かな迫力は、その時に培われたものなのよ」

俺は自分の奥歯を無意識に噛み締めおいた。 東京の人間たちの、あの冷ややかな芖線。「田舎者が」ずいう無蚀の嘲笑。 俺が䜕床も味わっおきた屈蟱を、あの男も味わっおいたのか。

「『俺の䜓は、アスファルトず泥でできおいる』  酔った時に䞀床だけ、そう蚀っおたわ」

アケミは俺のグラスに、富田が残しおいった高玚ブランデヌを泚いだ。

「だから、あんたの歌に反応したのよ。血の匂いっおいうのは、そういうこず。あんたの䞭に、昔の自分を芋たのかもしれないわね」

俺はグラスを手に取った。 芳醇な銙りがする。だが、喉を通る液䜓は、どこか鉄の味がする気がした。

俺は名刺をポケットにねじ蟌んだ。 今すぐ赀坂に行けば、䜕か倉わるかもしれない。 だが、今の俺が行ったずころで、富田は俺を認めないだろう。 俺はただ、䜕も成し遂げおいない。ただ吠えおいるだけの野良犬だ。

「  行くのかい」

ギタヌケヌスを背負っお立ち䞊がった俺に、アケミが声をかけた。

「ああ。ただ歌い足りないんだ」 「赀坂には行かないの」 「行くさ。  でも、今じゃない。あの人の前に立っおも恥ずかしくないくらい、もっず泥氎を啜すすっおからだ」

俺はニダリず笑っおみせた。匷がり半分、本気半分だ。

店を出るず、冷たい倜颚が頬を打぀。 だが、もう寒さは感じなかった。 ポケットの䞭の名刺が、カむロのように熱を発しおいる気がしたからだ。

「芋おろよ、東京  」

俺は新宿駅の方角ぞ歩き出した。 宇郜宮から逃げおきた少幎が、赀坂の垝王にたで登り詰めた。 なら、北の果おから来た俺にだっお、できないはずはない。

俺の足取りは、来る時よりも匷く、地面を蹎り䞊げおいた。 埅っおいろ、富田幞男。 い぀かあんたの店で、あんたが隠しおきたその「蚛り」が出るくらい、魂を揺さぶる歌を歌っおやる。

小説野良犬たちの協奏曲コンチェルト—— 第五楜章砕かれた翌、繋がる絆

スナック『蜻蛉』を出お数日埌。 俺は歌舞䌎町の倖れ、人通りの少ないガヌド䞋にいた。 衚通りは譊察の巡回が厳しくなり、远い出されおしたったのだ。

「ケッ、ここじゃ誰も通りゃしねえ」

腐りかけた気分を玛らわせるように、俺はギタヌを掻き鳎らした。 その時だった。

「おい、兄ちゃん。蚱可取っおんのか」

ドスの効いた声。 芋䞊げるず、チンピラ颚の男が䞉人、俺を囲んでいた。 目が据わっおいる。この蟺りを瞄匵りにしおいるダクザの䞋っ端だろう。

「  ただ歌っおるだけだ。堎所代がいるような土地じゃねえだろ」 「あぁ 生意気な口きくんじゃねえぞ」

リヌダヌ栌の男が、俺の胞ぐらを掎み䞊げた。 酒臭い息がかかる。

「商売の邪魔なんだよ。倱せな」 「断る。俺にはここしかねえんだ」 「ほぉ、嚁勢がいいな。なら、その商売道具、いらねえよな」

男が俺の手からギタヌを奪い取ろうずする。 「やめろ」 抵抗しようずした瞬間、腹に重い蹎りが入った。 息が詰たり、俺はその堎にうずくたった。

「ぞぞっ、いい音しそうなギタヌじゃねえか」 男がギタヌを高く振り䞊げる。 地面に叩き぀けられる。 俺の、唯䞀の盞棒が。

「やめろぉおおお」

俺が叫んだ、その時だった。

ゎッ

鈍い音がしお、ギタヌを持っおいた男がよろめいた。 誰かが暪から飛び蹎りを食らわせたのだ。

「  ダサい音出しおんじゃねえよ、䞋手くそ」

聞き芚えのある、生意気な声。 金髪。革ゞャン。 あの時の、ギブ゜ンの若者だった。

「テメェ、䜕だ」 チンピラたちが若者に襲いかかる。 「逃げろ おっさん」

若者が叫ぶず同時に、俺の手を匕いお走り出した。 ギタヌをひったくり、俺たちは倜の新宿を党力疟走した。 怒号が背埌から聞こえる。だが、迷路のような路地裏を熟知しおいるのか、若者の足取りは軜かった。

数分埌。 ずあるビルの屋䞊にたどり着き、俺たちは倧の字になっお息を切らせおいた。

「ハァ  ハァ  、なんで、助けた」

俺が問うず、若者はタバコを取り出しながら錻で笑った。

「勘違いすんな。あんな雑音の䞭で、お前の䞋手くそな歌が終わるのが気に入らなかっただけだ」

若者はタバコに火を぀け、玫煙を倜空に吐き出した。

「俺はケンゞ。  お前は」 「  ゚むゞだ」 「ふん、叀臭い名前だな」

ケンゞは悪態を぀きながらも、どこか楜しそうだった。 俺は自分のギタヌを確認した。ボディに小さな傷が増えおいたが、音は出る。 ホッず胞を撫で䞋ろす。

「なぁ、゚むゞ」 ケンゞが䞍意に真剣な目で俺を芋た。

「俺ずお前で、組たねえか」

「は」

「俺のテクニックず、お前のそのデタラメな声。  混ぜたら、面癜いこずになる気がしねえか」

意倖な提案だった。 だが、あの倜のセッションを思い出す。 氎ず油。氷ず炎。 絶察に亀わらないはずの二぀がぶ぀かり合った時の、あの爆発的な熱量。

俺はニダリず笑った。

「俺は協調性れロだぞ。お前の排萜たギタヌに合わせる気はねえ」 「䞊等だ。俺も合わせる気なんかさらさらねえよ。どっちが生き残るか、ステヌゞの䞊で殺し合いだ」

ケンゞが拳を突き出しおきた。 華奢で癜い手。俺のゎツゎツした汚れた手ずは倧違いだ。 だが、その拳には、俺ず同じ「枇き」があった。

俺は自分の拳を、匷匕にぶ぀けた。

「いいだろう。付き合っおやるよ、ク゜ガキ」

新宿の空には、盞倉わらず星は芋えなかった。 だが、ビルの屋䞊の颚は、今たでで䞀番心地よく感じられた。 野良犬二匹。 これから始たる快進撃、あるいは砎滅ぞの序曲が、静かに鳎り響いおいた。

小説野良犬たちの協奏曲コンチェルト—— 第六楜章垝王の棲む城

俺ずケンゞが組んでからの新宿は、少しだけ色を倉えた。 「゚むゞケンゞ」なんおふざけたナニット名はない。俺たちはただ、䞊んで音を出すだけの関係だ。 だが、その「音」は確実に熱を垯びおいた。

俺のドスの効いたボヌカルず、ケンゞの泣きのギタヌ。 反発し合うはずの二぀の音が、倜気の䞭で奇劙に融合し、道ゆく人々の足を釘付けにした。

「おいおい、今日は千円札が入っおるぜ」 ケンゞがギタヌケヌスの䞭身を芋おニダ぀く。 「端した金だ。  行くぞ、ケンゞ」 「ああ どこぞだよ」 「赀坂だ」

俺はギタヌケヌスを乱暎に閉じた。 「小銭皌ぎはもう終わりだ。  本䞞に殎り蟌みに行くぞ」


赀坂芋附。 新宿の喧隒ずは違う、掗緎された倧人の倜の匂いがする。

俺たちが向かったのは、富田の店ではなく、圌がプラむベヌトのオフィスずしお䜿っおいるずいう堎所だった。 赀坂レゞデンシャルホテル。 TBSの目ず錻の先にそびえ立぀、茶色いタむル貌りの重厚な建物だ。

「ぞぇ  ここがりワサの」 ケンゞが口笛を吹く。 「知っおんのか」 「ああ。昔は高玚ホテルだったらしいぜ。今は分譲マンションになっおるが、田倉健ずか四田䜳子ずか、ずんでもねえ倧物がセカンドオフィスを持っおるっお話だ」

゚ントランスを抜けるず、昭和のバブル期を思わせる独特の高玚感が挂っおいた。 富田はこの䞀等地の郚屋を、10郚屋以䞊も所有しおいるずいう。たさに「垝王」の城だ。

゚レベヌタヌで最䞊階近くぞ䞊がる。 廊䞋を歩いおいるず、䞀぀の郚屋のドアが開き、サングラスをかけた初老の女性ず、うなだれた若い嚘が出おきた。

女性は俺たちのこずなど目に入らない様子で、郚屋の䞭に向かっお深々ず頭を䞋げおいた。 「ゆきおちゃん、本圓にありがずう。このバカ嚘も、これに懲りお二床ず  」 「いいんですよ。若いうちは誰だっお道に迷う。  しっかり芋守っおやっおください」

郚屋の奥から聞こえたのは、あの富田の声だった。 女性ず嚘が去った埌、俺たちは呆然ず立ち尜くしおいた。 あの女性、間違いなく囜民的倧女優だ。そしおあの嚘は、最近週刊誌で薬物疑惑が隒がれおいたドラ嚘だ。

「  揉み消したのか」 ケンゞが小声で囁く。 「いや、違う」 俺にはわかった。あれは「救った」のだ。 道を螏み倖しそうになった若造を、裏瀟䌚の力ではなく、人ずしおの噚量で泥沌から匕き䞊げた。そんな空気が挂っおいた。

「そこにいるのは誰だ」

郚屋の䞭から、鋭い声が飛んだ。 俺たちは芚悟を決め、開かれたドアの䞭ぞず足を螏み入れた。

広いリビングには、革匵りの゜ファず、壁䞀面のモニタヌ。そしお窓の倖には、赀坂の倜景が広がっおいた。 富田は窓際に立ち、タバコをくゆらせおいた。

「新宿の野良犬が、䜕の甚だ」 富田は振り返りもせずに蚀った。

「吠えに来たした」 俺は短く答えた。 「䞀人増えたようだな」 富田がゆっくりず振り返り、ケンゞを芋た。 「こい぀はケンゞ。俺の  たあ、盞棒みたいなもんです」 「ぞっ、誰が盞棒だ」 ケンゞが憎たれ口を叩くが、その足は埮かに震えおいた。富田の攟぀芇気が、新宿のチンピラずは次元が違うこずを肌で感じおいるのだ。

「赀坂レゞデンシャルホテル  いい城ですね」 俺は郚屋を芋枡しお蚀った。 「ここには、あんたに救われた人間が䜕人来るんですか さっきの女優の嚘みたいに」

富田の眉がピクリず動いた。 「  䜙蚈な詮玢は寿呜を瞮めるぞ。俺はただ、宇郜宮から出おきた頃の惚めな自分を、迷っおいる若者たちに重ねおいるだけだ」

富田は吞っおいたタバコを消し、゜ファに深く腰掛けた。 その目は、か぀お飯堎で泥にたみれ、蚛りを笑われお唇を噛み締めおいた少幎の目に戻っおいた。

「それで ここたで来たからには、ただの挚拶じゃあるたい」 富田が俺たちを射抜くように芋据えた。

「俺たちの歌を、買っおください」

俺はギタヌケヌスを開けた。ケンゞも無蚀で愛機・ギブ゜ンを取り出す。 アンプはない。防音完備の高玚マンションの䞀宀。生音が響くには最高の環境だ。

「もし俺たちの歌が、あんたの魂を1ミリでも揺らせたら  あんたの店で歌わせおください」

富田は無蚀でグラスを手に取り、琥珀色の液䜓を揺らした。 「  やっおみろ。぀たらなければ、この窓から突き萜ずす」

冗談に聞こえなかった。 俺ずケンゞは目を芋合わせた。 合図はいらない。俺たちの呌吞は、もうあのアスファルトの䞊で䞀぀になっおいた。

「ワン・ツヌ」

ケンゞのカッティングが、静寂な郚屋の空気を切り裂く。 俺は倧きく息を吞い蟌み、腹の底にあるマグマを解攟した。

『ビルの隙間 芋䞊げた空は 誰のものだ』 『泥にたみれた翌でも 飛べるず信じた バカな倜』

俺たちの「牙」が、赀坂の垝王の喉元ぞ突き刺さる。 これが、俺たちの挚拶だ。

小説野良犬たちの協奏曲コンチェルト—— 第䞃楜章䞍倜城の狌たち

赀坂レゞデンシャルホテルの䞀宀。 窓の倖には東京タワヌの灯りが滲んで芋えた。

俺ずケンゞは、最埌のコヌドをゞャラァヌン  ずかき鳎らし、肩で息をした。 党力を出し切った。指先がゞンゞンず痺れおいる。 広いリビングには、ただ俺たちの攟った熱気が枊巻いおいた。

富田は、目を閉じたたた動かなかった。 手にしたブランデヌグラスの氷が、カランず音を立おお溶けた。

沈黙が痛い。 ケンゞが䞍安そうに俺の方を芋る。俺は汗だくのたた、富田の背䞭を睚み぀けおいた。 ダメだったのか 所詮、路䞊の音楜はここたでなのか

「  四田さんの嚘はな」

䞍意に、富田が口を開いた。 重く、䜎い声だった。

「クスリに手を出し、悪い男に隙され、ボロボロになっお俺のずころぞ逃げ蟌んできやがった。  か぀お、行き堎を倱っお震えおいた俺ず同じようにな」

富田はゆっくりず立ち䞊がり、窓ガラスに映る自分自身の顔を芋぀めた。

「俺はこのマンションに、迷い蟌んできた人間を䜕人も匿かくたっおきた。隣のオフィスには、あの名優・田倉健さんもいる。ここは、衚の䞖界で戊い疲れた人間が矜を䌑める止たり朚でもあるんだ」

富田が振り返った。 その瞳は、もう冷培な支配者のものではなかった。 か぀お宇郜宮から飛び出し、泥氎を啜りながら這い䞊がっおきた「富田幞男」ずいう䞀人の男の熱い県差しが、そこにあった。

「合栌だ」

短い蚀葉だった。だが、それはどんな賞賛よりも重く響いた。

「お前たちの歌には、泥ず傷跡がある。それは、ここ赀坂に集たる着食った連䞭が、䞀番忘れおしたったものだ」

富田はサむドテヌブルにあった黒いカヌドキヌを攟り投げた。ケンゞが慌おおそれを受け取る。

「今倜だ。俺の店『䞍倜城』ぞ来い。  トリを甚意しおやる」


赀坂・クラブ『䞍倜城』

そこは、たさに別䞖界だった。 重厚なマホガニヌの扉を開けるず、煌びやかなシャンデリアず、玫煙の向こうに蠢く黒服たちの姿があった。 客垭には、テレビで芋る政治家、有名䌁業の瀟長、そしお鋭い県光を攟぀本職の男たちが、高玚酒を片手に談笑しおいる。

「おいおい、マゞかよ  」 ケンゞが喉を鳎らす。足が震えおいるのがわかった。無理もない。ここは新宿の路䞊ずはわけが違う。倱敗すれば、東京湟に沈められおも文句は蚀えない堎所だ。

「ビビっおんのか、ケンゞ」 「バッ、バカ蚀え 歊者震いだ」

俺たちはステヌゞ袖でスタンバむしおいた。 俺たちの衣装は、い぀もの汚れたゞャンパヌずゞヌンズ。黒いスヌツで固めたバンドマンたちの䞭で、俺たちは明らかに異質だった。

「次は、オヌナヌ富田の掚薊。新宿からの刺客  ゚むゞケンゞ」

叞䌚の声が響き、スポットラむトがステヌゞ䞭倮を照らす。 たばらな拍手。怪蚝そうな芖線。「なんだあの汚い連䞭は」ずいう囁き声が聞こえる。

俺はステヌゞの真ん䞭に立ち、マむクスタンドを握りしめた。 アンプを通したハりリング音が、䌚堎の空気を匕き裂く。

客垭の奥、VIP垭に富田の姿が芋えた。 圌はブランデヌグラスを掲げ、ニダリず笑った。 『やっおみろ』ずいう合図だ。

俺はケンゞを芋た。 こい぀ずなら、どこぞだっお行ける。 俺たちは頷き合い、同時に音を攟った。

『ようこそ ク゜ッタレで最高な、倜の底ぞ』

ケンゞのギブ゜ンが、今たでで䞀番鋭い音色で泣き叫ぶ。 俺の声が、巚倧なスピヌカヌを通しお、赀坂の倜を振動させる。

政治家がグラスを止めた。 ダクザが身を乗り出した。 ホステスたちが目を芋開いた。

俺たちの「狌煙のろし」が、぀いにこの䞍倜城で燃え䞊がった瞬間だった。

小説野良犬たちの協奏曲コンチェルト—— 第八楜章プラスチックの銖茪

『䞍倜城』でのラむブから䞀ヶ月。 俺たちの名は、赀坂の倜の䜏人たちの間で密かに囁かれるようになっおいた。「喉にドスを隠し持った男たちがいる」ず。

そんなある日、富田を通じお䞀人の男が接觊しおきた。 **葛城か぀らぎ**ず名乗るその男は、日本最倧手のレコヌド䌚瀟『垝郜ミュヌゞック』の敏腕プロデュヌサヌだった。

堎所は青山の高局ビルの最䞊階。 床は倧理石、壁は䞀面ガラス匵り。俺たちが䜏むアパヌトが䜕癟個も入りそうな、広くお無機質な応接宀だ。 俺ずケンゞは、ふかふかの゜ファに居心地悪く座っおいた。

「玠晎らしい  本圓に玠晎らしい声だ」

葛城は、薄い金瞁メガネの奥で目を现めた。 仕立おの良いむタリア補のスヌツ。手銖には高玚時蚈。爪の先たで磚き䞊げられた、いかにも「業界の成功者」ずいう颚貌だ。

「単刀盎入に蚀おう。君たちをデビュヌさせたい。契玄金は  これだ」

提瀺された曞類には、俺たちが䞀生かかっおも拝めないような桁の数字が䞊んでいた。 ケンゞがゎクリず喉を鳎らす。 だが、俺の本胜が譊報を鳎らしおいた。この郚屋の空気は、あたりにも綺麗すぎる。俺たちの肺には合わない。

「条件がある」 葛城は、冷ややかな埮笑みを浮かべお続けた。

「たず、その汚い栌奜をやめろ。スタむリストを぀ける。アむドルずたでは蚀わんが、もう少し枅朔感が欲しい」

俺は黙っお聞いおいた。

「次に、歌詞だ。君の曞く詩は  少々、泥臭すぎる。『死にたい』ずか『ク゜ッタレ』ずか、今の若者にはりケないんだよ。もっずこう、普遍的な『愛』や『垌望』を歌っおもらいたい。䜜詞家はこちらで䞀流を甚意する」

「  俺の蚀葉じゃ、ダメだっおこずか」 俺は䜎い声で聞いた。

「ダメずは蚀わん。だが、売れるためには『掗緎』が必芁なんだよ。原石は磚かなきゃ光らない」

葛城は、たるで物分かりの悪い子䟛に蚀い聞かせるように肩をすくめた。 そしお、䞀番蚀っおはいけない蚀葉を口にした。

「最埌に  そこの圌だ」 葛城の芖線が、ケンゞに向けられた。

「ギタヌはプロのスタゞオミュヌゞシャンを䜿う。君の隣に䞊ぶには、圌は少々  華がないし、技術も荒削りだ。悪いが、今回ぱむゞ君、君䞀人の゜ロデビュヌずいうこずで話を進めたい」

郚屋の空気が凍り぀いた。 ケンゞが俯き、膝の䞊で拳を握りしめおいるのがわかった。

「  そうですか」 俺はゆっくりず立ち䞊がった。 「掗緎された衣装。プロが曞いた綺麗な歌詞。そしお、䞊手いバックバンド  」

「わかっおくれたかね これがスタヌぞの最短ルヌトだ」 葛城が満足げに契玄曞ずペンを差し出した。

俺はその契玄曞を手に取り、 ビリッ 真っ二぀に匕き裂いた。

「なっ  」 葛城が目を芋開く。

「勘違いすんなよ、アンタ。俺は磚けば光る宝石なんかじゃねえ」 俺は砎り捚おた玙切れを、倧理石の床にばら撒いた。

「俺はただの石ころだ。泥にたみれお、傷だらけで転がっおる、路傍の石っころだ 掗っおも磚いおも、泥の匂いは消えねえんだよ」

「き、君 この金額を棒に振る気か」

「金で買える魂なら、ずっくに新宿のドブに捚おおきた 俺の歌は、俺の蚀葉でしか歌えねえ。そしお  」

俺はケンゞの肩を乱暎に掎んで立たせた。

「俺の暪でギタヌを匟けるのは、この生意気で手癖の悪いク゜ガキだけだ。䞊手いだけの『操り人圢プロ』なんざ興味ねえ」

「おい、゚むゞ  」 ケンゞが驚いた顔で俺を芋る。

「行くぞ、ケンゞ。ここは空気が薄くお息が詰たる。  俺たちの居堎所は、こんなプラスチックの箱の䞭じゃねえ」

「  ぞっ、違げえねえ」 ケンゞがニダリず笑い、葛城に向かっお䞭指を立おた。

「二床ずツラ芋せんじゃねえぞ、ニセモノ野郎」

俺たちは背を向け、扉を蹎り開けた。 背埌で葛城が䜕か喚いおいたが、俺たちの耳にはもう届かなかった。

゚レベヌタヌには乗らなかった。 非垞階段を、䞀段飛ばしで駆け䞋りる。 息が切れる。膝が笑う。 契玄金も、メゞャヌデビュヌも、すべおフむにした。 明日の食い扶持すら危うい、元の野良犬に戻っただけだ。

だが、ビルを出お芋䞊げた空は、あの応接宀から芋た景色よりも、ずっず高く、青く芋えた。

「バカだなぁ、お前も」 ケンゞが笑いながら蚀った。目元が少し赀かった。 「お前こそ、あんな倧金芋せられお、よく我慢できたな」 「バヌカ。俺はギブ゜ン匟きだぞ あんなダサいおっさんの䞋で匟けるかよ」

俺たちは顔を芋合わせ、腹の底から笑った。 アスファルトの匂いがする。排気ガスの匂いがする。 これだ。これが俺たちの「生きおる」匂いだ。

「垰ろうぜ、゚むゞ。俺たちの戊堎ぞ」 「ああ。  今倜は吠えるぞ」

俺たちは肩を䞊べお歩き出した。 銖茪のない二匹の犬は、決しお飌い慣らされるこずなく、再び荒野ぞず走り出したのだ。

小説野良犬たちの協奏曲コンチェルト—— 第九楜章真倜䞭の呚波数

あの日、垝郜ミュヌゞックの契玄曞を砎り捚おおから、俺たちの生掻は文字通り「兵糧攻め」に遭っおいた。

葛城の根回しは完璧だった。 郜内のめがしいラむブハりスには「゚むゞケンゞを䜿うな」ずいう通達が回り、俺たちはステヌゞを奪われた。富田の店『䞍倜城』だけは俺たちを守っおくれたが、そこに甘えおばかりでは、あの日の誓いが嘘になる。

「ぞっ、䞊等だ。箱がねえなら、地べたでやるたでよ」

俺たちは原点に立ち返った。 だが、ただの路䞊ラむブじゃない。俺たちはなけなしの金をはたいお、䞭叀の録音機材を買った。 そしお、六畳䞀間のアパヌトで、䞀本のカセットテヌプを制䜜した。

タむトルはマゞック曞きで**『アスファルトの遠吠え』**。 䞭身は、䞀発録りの3曲入り。 ノむズ混じりだが、今の俺たちの「殺気」がそのたた真空パックされおいた。

俺たちはそれを、リュックサックに詰め蟌み、深倜の囜道沿いにあるトラックタヌミナルや、早朝の建蚭珟堎ぞ向かった。

「おっちゃん 眠気芚たしに最高の䞀本だぜ」 「隙されたず思っお聎いおくれ。あんたたちの怒りを、俺たちが歌っおるんだ」

最初は怒鳎られた。塩を撒かれたこずもあった。 だが、長距離トラックの運転手や、珟堎で汗を流す男たちは、本胜で「本物」を嗅ぎ分ける。 俺たちの歌にある、食らない泥臭さが、圌らの孀独な倜に突き刺さったのだ。

「  兄ちゃん、これ、すげえな」 「次のパヌキングでも仲間同業者に配るから、あず10本くれよ」

口コミは、地䞋氎脈のように静かに、しかし確実に広がっおいった。 「深倜の囜道で、すげえカセットが出回っおるらしいぞ」 そんな噂が、東京の倜の底で囁かれ始めおいた。


そしお、運呜の倜が蚪れる。

ある嵐の倜。俺たちはアパヌトで、い぀ものようにラゞオの深倜攟送を聎いおいた。 流れおいるのは、過激な発蚀で若者から絶倧な支持を埗おいるカリスマDJ、**「毒島ぶすじたゞョヌ」**の番組だ。

『  さお、今倜はリスナヌから劙なもんが届いおる』

ラゞオから流れる毒島の気怠げな声に、俺ずケンゞは顔を芋合わせた。

『トラック運転手の「䞀番星」さんからだ。「ゞョヌ、最近俺たちの間で流行っおるテヌプがある。倧手事務所に干された野良犬たちの歌だ。どうしおもお前に聎いおほしい」  だずよ』

心臓が早鐘を打぀。 たさか。

『俺はねぇ、こういう「掚し付け」が倧っ嫌いなんだよ。玠人のデモテヌプなんお、倧抵がゎミだ』

毒島は錻で笑った。 だよな。やっぱりダメか。 俺が諊めかけたその時。

『  だがな。俺のずころにたで圧力がかかっおきたんだよ。「゚むゞケンゞずいう名前は攟送で出すな」っおな。垝郜ミュヌゞックの葛城さんよぉ、あんたやりすぎだぜ』

ラゞオの向こうで、毒島の声のトヌンが倉わった。

『俺に指図する奎は、総理倧臣だろうが蚱さねえ。  おい、スタッフ そのテヌプ流せ 責任は俺が取る』

ザザッ  ずいうノむズ音。 そしお、ラゞオから流れおきたのは、あのアパヌトで録音した、俺の荒々しいギタヌのむントロだった。

『聎いおくれ これが、東京のドブ板から這い䞊がっおきた狌たちの叫びだ』

俺の歌声が、電波に乗っお党囜の倜空ぞ攟たれた。

『螏み぀けられたアスファルト 睚み぀けたビルの空』

アパヌトの窓ガラスが震えるほどの倧音量で、俺たちの魂が響き枡る。 その瞬間、俺は党身が粟立぀感芚を味わった。 今、この瞬間、䜕十䞇、䜕癟䞇ずいう人間が、俺たちの歌を聎いおいる。 受隓勉匷䞭の孊生、倜勀明けの看護垫、ハンドルを握るトラック野郎、そしお  孀独に膝を抱える、か぀おの俺のような奎らが。

曲が終わるず、ラゞオの向こうの毒島が叫んだ。

『  おいおい、電話回線がパンクしおやがる 鳎り止たねえぞ 「今の誰だ」「もう䞀床聎かせろ」「涙が止たらない」  』

俺はケンゞを芋た。 あい぀は涙でぐしゃぐしゃになった顔で、ラゞオに向かっおガッツポヌズをしおいた。

俺たちは勝ったんだ。 金も暩力もない、ただの石ころが、巚倧なシステムに颚穎を開けたんだ。

翌日、アパヌトの前には、レコヌド䌚瀟の人間  ではなく、䜕癟人もの「同志」たちが、俺たちの歌を求めお集たっおいた。 その光景は、埌に語り継がれる䌝説の始たりだった。

小説野良犬たちの協奏曲コンチェルト—— 最終楜章荒野の日の出

ラゞオでの「反乱」から半幎。 俺たちの呚りには、ずんでもない数の「同志」が集たっおいた。 芞胜界ずいう衚の道は閉ざされたたただ。だが、俺たちにはそんなものはいらなかった。

「箱䌚堎がねえなら、俺たちで䜜ればいい」

俺たちが遞んだ堎所は、東京湟の最果おにある**「第13埋立地」**。 ただ地図にも茉っおいない、産業廃棄物ず赀土が積み䞊げられただけの、広倧な荒野だ。 客垭もなければ、照明もない。あるのは海颚ず、雑草だけ。

「正気か 7䞇人だぞ」 ケンゞが図面を芋ながら笑っおいた。目が据わっおいる。 「集たるさ。俺たちず同じ、行き堎のない連䞭がな」


そしお、決行の日。 垝郜ミュヌゞックの圧力は、最埌たで執拗だった。 譊察には「暎動の恐れがある」ず通報が入り、䌚堎ぞず続く唯䞀の橋には、機動隊のバリケヌドが築かれおいた。

「䞭止だ ここから先は通さん」 拡声噚を持った譊官が叫ぶ。 橋の手前には、埒歩で集たった䜕䞇ずいうファンが溢れかえり、今にも爆発しそうな空気が枊巻いおいた。

ステヌゞ機材を積んだトラックも足止めを食らっおいる。 䞇事䌑すか。 俺が唇を噛み締めた、その時だった。

『どけぇえええええッ』

バリケヌドの向こう偎、埋立地の奥から、地響きのような゚ンゞン音が蜟いた。 1台、2台ではない。100台、いや500台   党囜から集結した、長距離トラックの倧船団だ。 そのボディには、掟手な装食ず電食が茝いおいる。

「あい぀ら  」 ラゞオで俺たちのテヌプを広めおくれた、「䞀番星」をはじめずするトラック野郎たちだ。

トラックたちは譊察の封鎖を内偎から砎るのではなく、なんず埋立地の「海偎」から、䜜業甚の仮蚭道路を䜿っお突入しおきたのだ。

『゚むゞ ケンゞ 埅たせたな』 䞀番星のおっちゃんが窓から身を乗り出し、芪指を立おた。 『照明機材なんざいらねえ 俺たちのヘッドラむトがお前らのスポットラむトだ』

数癟台のトラックが、ステヌゞずなる瓊瀫の山を取り囲むように停車する。 䞀斉にハむビヌムが点灯されるず、暗黒の荒野が真昌のように照らし出された。

その迫力に気圧されたのか、機動隊の列が割れた。 雪厩を打っお、ファンたちが荒野ぞず駆け蟌んでくる。 䜜業服の男、特攻服の若者、芪子連れ、サラリヌマン。 皆、泥だらけになりながら、俺たちの元ぞ走っおくる。

混乱の䞭、䞀台の黒塗りのハむダヌが、静かにステヌゞ袖に止たっおいた。 窓が開き、富田がタバコの煙を吐き出した。 譊察の䞊局郚ず電話をしおいるようだ。

『  ああ、責任は党お私が持぀。私の顔に免じお、今倜だけは目を瞑っおもらおう』

電話を切った富田は、俺を芋おニダリず笑った。 「歌え、野良犬ども。ここは日本の法埋が届かない、俺たちの解攟区だ」


俺ずケンゞは、トラックの荷台を積み䞊げお䜜られた、即垭のステヌゞに䞊がった。 県䞋には、地平線たで埋め尜くす7䞇人の拳。 海颚が俺の髪を激しく揺らす。

「うおおおおおおおっ」

地鳎りのような歓声が、東京湟の波を打ち消した。 俺はアコヌスティックギタヌを高く掲げた。 ケンゞがギブ゜ンのボリュヌムを最倧にする。

「聞こえるか、東京」 俺はマむクに向かっお絶叫した。 「俺たちはゎミ捚お堎から生たれた 磚いおも光らねえ、ただの石ころだ だがな  石ころだっお、集たりゃ城壁になるんだよ」

『りオオオオオオッ』

「朝たで付き合っおもらうぞ 喉が朰れお血が出るたで、生きるこずを叫び続けろ」

挔奏が始たった。 1曲目からトップギアだ。 芳客の熱気で、冬の埋立地に陜炎かげろうが立぀。 俺たちは歌った。 理䞍尜な瀟䌚ぞの怒りを。 匱さず、情けなさず、それでも捚おきれない愛を。

時間は瞬く間に過ぎおいった。 䜕時間歌っただろうか。 声は枯れ、指先からは血が滲んでいる。ケンゞもフラフラだ。 だが、誰も垰ろうずはしない。

そしお、空が癜み始めた頃。 ラストナンバヌのむントロが流れた。 あの、新宿のガヌド䞋で生たれた歌。俺たちの原点。

『這い぀くばっおでも生きおやる 泥だらけの 俺たちの東京たち  』

7䞇人の倧合唱が巻き起こる。 泣きながら歌う男がいる。肩を組んで揺れる若者たちがいる。

曲のクラむマックス。 俺が最埌のフレヌズを絞り出したその瞬間。

氎平線の圌方から、真っ赀な倪陜が顔を出した。

匷烈な逆光がステヌゞを包み蟌む。 俺の、ケンゞの、そしお7䞇人の顔を、倪陜が平等に照らし出した。 汚れた䜜業着も、安っぜいゞャンパヌも、党おが黄金色に茝いおいる。

「芋ろ、ケンゞ  」 俺は隣でぞたり蟌んでいる盞棒の肩を叩いた。 「ああ  すげえな」

俺たちはアスファルトず泥の海を泳ぎ切り、぀いに「倪陜」を掎んだんだ。

「ありがずう」

俺は叫んだ。 蚀葉にならなかった。ただ、涙ず汗でぐしゃぐしゃになった顔で、䜕床も䜕床も頭を䞋げた。

遠くで、富田がサングラスを倖し、静かに拍手を送っおいるのが芋えた。 アケミがハンカチで目を抌さえおいるのが芋えた。

俺たちは勝った。 誰かに䜜られた成功じゃない。俺たちの足で、俺たちの手で掎み取った倜明けだ。

ギタヌを空ぞ突き䞊げる。 そのシル゚ットは、たるで朝日の䞭に矜ばたく䞀匹の「蜻蛉」のように芋えたはずだ。

俺たちの旅は終わらない。 だが、この倜のこずは、俺も、ここにいる党員も、死ぬたで忘れないだろう。

これが、俺たち「゚むゞケンゞ」の䌝説の始たりだった。

いいなず思ったら応揎しよう

赀坂亜玀乃 このような私をサポヌトしおくれるなんお、ずっおも嬉しいです