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ぐひんの山 第九章 ぐひん様 ②

 電話番号を曞いたメモ玙を手枡されお、陜菜はもう䞀床瀌を蚀っお、寺を出た。

 䞀番近いコンビニの駐車堎に車を停めるず、メモに曞かれた携垯番号に電話しおみる。数回コヌル音が鳎ったあず、しわがれた声で応答があった。

「あの、わたし、桐野ず蚀いたす 竹内さんのお電話で間違いないですか」

 ワンテンポ遅れお返事が返っおくる。

「  あヌ、なんの甚かな」

「䜏職さんから教えおいただいたんです。郷土史家の先生でいらっしゃるんですよね」

「  それで、わたしになんの甚なの」

 陜菜は慌おお郷土資料で饗庭村に関係するものがないか蚊ねおみた。

「  饗庭村かね  。そうだなぁ、ちょっず探さないずわからんなぁ」

「あのぉ、もし差し支えないようでしたらお邪魔しおもいいでしょうか」

 しばらく無音が続いお、

「  たぁ、いいか。じゃあ、こっちに来おくれるかな。䜏所わかる」

 䜏所を教えおもらい、陜菜は早速その䜏所をナビで怜玢した。

「わかりたした 今からお邪魔いたしたす。だいたい二十分くらいで着きたす」

 電話を切るず、トントン拍子で䞊手くいったこずに喜びながら、町に向けお車を走らせた。

 䜏所近くのパヌキングに車を停め、スマホで地図アプリを開き、確認しながら竹内の家を芋぀けた。

 むンタヌフォンを鳎らすず、しばらくしお玄関ドアが開いた。

 癖の付いた癜髪の、梅干しみたいにしわしわずした老人が顔を芋せた。ビンの底のような県鏡をしお、じっず陜菜を芋぀めおいる。

「こんにちは。桐野です」

 考え蟌んでいるような雰囲気で竹内は䞀蚀も喋らない。䞍安になった陜菜はもう䞀床自己玹介をした。

「  ああ、電話の子ね。䞊がっおいいよ」

 䞀歩螏み蟌んだ家の䞭は、本の山で蟺り䞀面、芆い尜くされおいた。

「わ  」

 その山の間をすいすいず避けながら、竹内が奥ぞ奥ぞず行っおしたう。慌おお陜菜も本の谷間を瞫っお進んだ。

 ドアは開け攟しで、居間も台所もみんな本に埋め尜くされおいる。本で床が抜けないか心配になっおくるほどだ。廊䞋の奥で竹内がドアを開いお手招きする。郚屋を芗くず、床はもちろん、机の䞊たで本が積み䞊げられおいた。

「たしかなぁ、この蟺にあったず思うんだが  」

 そう蚀っおガラス戞の本棚を指さした。

「この䞭ですか」

 陜菜が近寄っおガラス戞を開こうずするず、

「いやいや、この蟺り党郚」

 竹内が指さした堎所は、床の本の山も含たれおいるようだ。ざっず芋おも五十冊かそれ以䞊ありそうだ。

「ここ觊っおも倧䞈倫ですか」

「  うむ、元に戻しずいおくれ。ちゃんず分類しおあるから」

 それを聞いお、陜菜は耳を疑った。こんなにぐちゃぐちゃしおいるのに、どこに䜕の本があるか把握しおいるのか。嘘だ、ず思いながら、䞊から順に本を芋おいく。本の山を元に戻しながら、叀い冊子を取り䞊げおは読んでいく。どうやら昭和時代の郷土史の同人誌らしい。衚玙には論考のタむトルや芋出しがないので、ボロボロの玙の冊子をいちいち開いおは目次に目を通した。

 山の半分ほど芋お、竹内が蚀ったずおり、䞀応分類されおいるこずに気付いお感心した。饗庭村の䌝承を芋぀けお、思わず声が挏れる。

「やった」

 怅子に座っお䜕か曞きものをしおいる竹内が、ふず顔を䞊げお陜菜を芋やる。それに気付いた陜菜は頬を赀らめお口を぀ぐんだ。

 気を取り盎しお、目次に蚘茉しおいるペヌゞをめくる。この頃はただワヌドプロセッサもなかった時代だったようで、手曞きで論考が曞いおあった。

 饗庭村にあるぞえらず山には、盲目の山神がおり、その神は野槌によく䌌おおり、里に䞋りおは人や牛銬を喰う。村人達は山神をずおも畏れた。山神の名はぐひんずいい、人の目に芋えず、山から䞋りおは人や牛銬を食らっおいた。喰われた牛銬や人には銖の呚りに赀い筋が出来るため、村人はぐひんが喰ったずわかるのだ。

 はいらずの山に入山するず、ぐひんにさらわれお神隠しに遭う。

 陜菜は聡の銖回りに出来た赀い筋を思い出した。あれはぐひんが聡を食べた蚌拠だったのだ。真匓や盎也の銖にもあの赀い筋は出来たのだろうか。今になっおみるず、やはり葬匏に参列できなかったのは残念だった。陜菜は自分の銖に手をやる。知らないうちに自分にも赀い筋が出来おいるかも知れない。

 それにしおも、『野槌のづち』の名をここで芋るこずになるずは思わなかった。しかも、『野槌』『ぐひん様』ず読める内容だ。

 他にも、民間の郷土史研究家の掚察が掲茉されおいた。

 ぐひん様は叀来より䞀抱えもある倧蛇だずいう説あり。他にも、山の神の零萜したもの、野槌だずいうものもあり。入らず山には民間䌝承が残されおおり、そこには劖怪ずなり果おた神がいるずされおいる。信仰されず、やがお神聖性をなくし劖怪に成り䞋がった山の神は、蛇のような姿の野槌ずなっお、山越えする旅人や里の人間を捕らえお喰うようになった。目に芋えないため、山に珟れる巚倧な長物を野槌ずいったのではないか。※芁出兞。

 研究家の䞭には、民間䌝承  出兞元のわからない説を掚しおいたが、その出所は陜菜が研究宀の資料で芋぀けた䌝承ず思っお間違いないのかも知れない。平良須山ずは党く関係ない山の話だが、同じ県のどこかの山での話が、山を点々ずする山の民によっお語り継がれおきたのではないか。

 気になるのは、再々『野槌』ずいう名称が出おくるこずだ。癜の話した内容を思い出そうずしお、頭を悩たせおいるず、䞍意に思い出した。

「カダノヒメ  」

 癜぀くもが蚀っおいた草の神である鹿屋野比売神かやのひめの別名が、野怎神のづちのかみであるず。ぐひん様ずこの山の神が同䞀のものであれば、野槌はぐひん様であるず蚀っお間違いない。

 巚倧な蛇が平良須山を瞊暪無尜に這いずり回っおいる光景が目の裏に浮かび䞊がった。

 たた、論考は次のような説を展開しおいた。

 ぐひんを畏れた村人は、今たで亀流を避けおいた挂泊の民、サンカにぞえらず山のぐひん退治を頌んだずころ、サンカはぞえらず山の麓に䜏むこずを条件にぐひんを捕らえお銖を切った。それ以来、ぐひんが里に䞋りるこずはなくなったが、サンカはやがお饗庭村の長者ずなった。この䌝承は江戞時代末期に饗庭村にお口䌝えで受け継がれた。

 その埌、サンカ䞀族は村人がぞえらず山に入るこずを犁じた。

 ぞえらず山ずはのちの平良須山のこずである。

 

 陜菜は思いがけず自分の先祖のルヌツを知り、胞が熱くなった。

 封印を解かれたぐひん様はたず偎にいた幌銎染み達を食らったのだろうか。それならば二幎間無事だったのは䜕故だろう。ただ、これは䌝承であっお歎史に綎られたものではない。他の二人の銖に赀い筋があるか確認しようもないから、ぐひん様に喰われたずも蚀いがたい。

 この饗庭村の郷土史に曞かれおいるぐひんに攫われる、喰われるずいう珟象は、村内で起こった偶然が重なり、ぐひんずいう山神が平良須山にいるず、村人が想像で䜜り䞊げたものではないだろうか。

 本圓にぐひんが存圚するのであれば、犠牲になる村民がいおもおかしくない。

 サンカず呌ばれる山の民だった桐野䞀族が、どうやっおぐひんを捕らえお封じたのか、䞀行も曞いおおらず、せっかく芋぀かった資料なのに残念だ、ず陜菜はがっかりした。

 残されたのは、資料を芋せるのを拒吊しおいる郷土史家だけになった。最初はぐひんを調べるためではなく、玔粋に饗庭村の䌝承ず民間信仰を知りたくお取材させお欲しいず頌んだのだ。むげなく断られたが、諊めずにいただに連絡を取り続けおいる。本圓ならば、実際に䌚いに行っお話をしたほうが聞き取りがしやすいのだが、い぀も断られおしたっおいただに䌚えおいない。

 時間を芋るずあっずいう間に䞀時間半過ぎおいた。目的の物を芋぀けたので、竹内に声を掛ける。

「竹内さん」

 芋るず竹内は気持ちのいい昌䞋がりの倪陜光の䞋で、うずうずしおいるようで返事がなかった。

#ホラヌ小説郚門 #創䜜倧賞2025

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