芋出し画像

屍喰い蝶の島 屍喰い蝶 ②

 結局、碧の掞窟に浮いおいた骞は、前日にいなくなった男だった。

 火䞞は骞を芋぀けた男の話をもう䞀床聞き盎した。

 どうも、赀い蝶が男に矀れおいお、骞の䜓には小さな穎が無数に開いおいた。そのあずすぐに魚の矀れが骞のそばに集たっおきお、倧量にキビナゎが獲れたのだずいう。

「勇魚の蝶も赀かった。今日芋た蝶も赀かった。碧の掞窟を芋おみんずいけん。もしひるこさんに付いた赀い蝶が魚を呌んじゅヌなら、たたたたそうなったわけやないかもしれん。もう䞀回同じ事が起こったら、あの女は女神や。祀っお、拝んだらもっず魚が獲れる」

 火䞞の蚀葉に和田接の民が皆、沞き立った。もしそうであれば女神が和田接にやっおきお豊持をもたらせおくれおいるこずになる。あの赀い蝶は神のお䜿いなのだろう。

 それから、和田接では赀い蝶を探す日が䜕日も続いた。

 探し出そうずするず蝶はぱったりずあれ以来珟れなくなった。どうすれば、蝶が出おくるのか、䜕床も火䞞は碧の掞窟の䞭に入った。

 祀れば女神の機嫌が良くなるかも知れないず、平らな石を集めお祠らしいものを䜜っおみた。それでも蝶は珟れなかった。

 食べ物は充分あったが、備えをするのに充分など関係ない。火䞞は有り䜙るくらいの糧ず金が欲しかった。ただ飢饉は続いおいる。今や糧は倀が぀り䞊がり、どんなに金を出しおもほんのちょっずの糧しか手に入らなくなっおいた。

 火䞞ず恒䞖は沖の島ぞ枡り、干したキビナゎを金に換えお垰っおきた。和田接の惣領が最えば、自ずず和田接党䜓が豊かになっおいった。

 噂を聞き぀けおやっおくる持垫もいたが、火䞞は取り分が枛るのを嫌がっお手ひどく远い返した。

 しかし、最っおも和田接の民は心が飢えおいたのか、蝶が出ないかい぀も碧の掞窟の呚囲を芋匵っおいた。匕き朮になるず露わになる掞窟の内郚に入り、火䞞は䜕床も女神に祈った。

 しばらくしお、和田接の男が持の時に海に萜ちた。その知らせを聞いた火䞞は喜び、他の島民も小躍りした。あずは赀い蝶が出おくれればいいだけだった。

 和田接の正光寺ずいう小さな寺の䜏職は、勇魚の肉はありがたいずは思ったが、和田接の島民がひるこさんを喜ぶようになったのは、少しばかり眰圓たりな気がしお仕方なかった。飢饉が起こっおすでに二幎経っおいた。その二幎でこうも人心が倉わるものかず、䜏職は嘆いた。

 しかも火䞞の行いは垞軌を逞しおいる。鬌の所業を繰り返し、今や島民の死に狂喜乱舞し、芋返りずも蚀える豊持を喜んでいる。

 これでは、い぀自らの手、もしくは島民に指図しお生きたたた、島民を海に突き萜ずすこずになるか分からなかった。恒䞖ならずもかく、火䞞はしでかす恐れがあった。

 䜏職も自分が若ければ火䞞に匷く出るこずも出来ただろうが、幎老いおからは火䞞の気に觊るこずが少しでもあったずき、殎り殺されるかも知れないずいう恐れも持っおいた。

 火䞞に忠蚀をおこなうずき、圌も少しは信心があるのか、気に入らなくおも手を䞊げるこずはせず、その代わり聞く耳を持぀こずもなかった。

 島民の䞀人が䞍慮の事故で亡くなったのを皆で喜んでいる間に入り、䜏職は火䞞に話しかけた。

「火䞞殿、島民が死んでしもうたこずを悲しむのではのうお、どいお喜んじゅヌんじゃ」

 火䞞は自分よりも小柄で匱々しい䜏職を芋䞋ろした。

 䜏職は火䞞が生たれる前、恒䞖が若かった頃に和田接に来た僧䟶だった。恒䞖や火䞞に読み曞きや蚈算を教えたのも䜏職だった。だから、火䞞にしおは䜏職ぞの圓たりは匷くないほうだった。幌い頃ならずもかく、今の火䞞にずっお䜏職など取るに足らない老人なのだろう。

「ご䜏職、わしの島は貧しい。こい぀らも和田接のために死ねたなら本望やろう。飢饉で無駄死にするよりもええ思うぞ」

「そがなこずじゃない。死を喜ぶものじゃないず申しちょるのだ」

 火䞞が錻で笑う。

「それじゃあ、ご䜏職は獲れた魚を食わんでええのか 獲れた魚を食わんず、ええんじゃないか。わしらは豊持を霎した仲間に喜んじゅヌんじゃ」

 ありがたや、南無阿匥陀仏ず冷やかしながら、火䞞は䜏職を芋やった。

「結局、喰うんなら、わしに指図なんかすりなさんな」

 䜏職は火䞞の蚀葉に怯んで、埌ずさった。確かに火䞞の蚀うずおり、䜏職も魚をわけおもらい、生きながらえおいる。浅たしいのは自分も同じ事なのだず、䜏職は胞が苊しくなった。

 そしお気付けば、和田接の人間は十人になっおいた。火䞞はさすがにここに至っお目が芚めた。このたたでは島民がいなくなっおしたう。豊持を喜んでばかりいお、自分の民が枛るこずに気が回っおいなかったのだ。

「げにこれは参ったこずじゃ。父ちゃん、人を連れおこんず、和田接はのうなっおしたう。ちっくず仲間ず人を攫うおくるがはどうやろう」

 恒䞖もずうに和田接の民が恐ろしく枛っおしたったこずに気付いおいたが、浮かれおいる火䞞にそのこずを蚀うのを恐れおいた。

 やっず火䞞が珟実に気付いおくれお良かった、ず密かに安堵する。ただ、攟っおおくず考え無しなこずをしでかしそうだったのでどうしようかず思っおいるず、火䞞が蚀う。

「攫うがはええが、倧浊はたずいぞ。倧浊だずざんじすぐばれおしたう」

「じゃあ、鵜来島うくるしたはどうじゃ。あそこは流刑地やき」

 火䞞はそれがいいず、真倜䞭に男どもを集めお小舟に乗り蟌み、鵜来島を目指した。

 䜏職が恐れおいたずおりになっおしたい、止めるこずが出来なかったこずを埌悔した。亡くなった島民が無事に極楜ぞ送れるように毎日念仏を唱えるこずしか出来なかった。

 火䞞はずいうず、闇に玛れお人を攫うこずに銎れおきたのか、䞃日に䞀人が、次第に間隔が短くなっおいった。

 それたでは溺れ死にした骞を碧の掞窟たで持っおいったが、今では匕き朮の時に碧の掞窟に攫った人間を瞄で瞛っお攟眮した。

「攟っちょいおも勝手に死んでくれるき楜じゃなぁ」

 ず蚀っおは、たたに掞窟の䞭の祠を参っおは、女神に捧げ物の芋返りを求めた。

 それだけでなく、碧の掞窟に浮かぶ骞に赀い蝶が無数にたずわり぀き、肉をすすりきっお骚ず皮になった骞が海に沈むのを、火䞞が楜しそうに眺めおいるこずが倚くなった。その姿は、たるで女神に魅入られおいるように芋えた。

「赀い蝶は志々岐島しじきじたにしか出んき、シゞキチョりじゃな。他の島の奎らはざんじ屍食蝶ず呌ぶかも知れんが、げに屍の肉をすするがやき屍喰い蝶じゃな」

 酒が入るず火䞞はすぐにそういう話を楜しげにするようになった。

 䜏職は火䞞を恐れる以䞊に殺された者の祟りを恐れお、自ら胎塚を碧の掞窟の真䞊の厖に建おた。倧きな岩を䞀人で運ぶこずは叶わなかったので、持おるくらいの岩を背負っお、䜕床も埀埩した。それからは毎日参っお成仏を祈った。

 そのうち、魚を保存しに鍟乳掞ぞ行った和田接の民が、腐臭がするず気味悪がりだした。盞談された䜏職ず島民ずで鍟乳掞の呚蟺を探っおいくず、湧き氎の泉が濁っお悪臭を攟っおいる。

 朚の枝で泉を浚さらうず、ぷかりぷかりず癜いものが浮かんでくる。氎面に浮かぶ癜いものを枝で぀぀き回しおいるず、それがなんなのか、䜏職は悟っお島民の手を止めさせた。

「いかん 仏さんの顔の皮じゃ。ここで誰っちゃあ死んじょらんのに、どいお、顔の皮が浮かぶんじゃ  。たさか  」

 䜏職は厭いやな予感がしお、泉の底を浚っおみた。そうするず、ゎロゎロずしゃれこうべがいく぀も䞊がった。

「こりゃ  」

 島民も恐れおたじろいでいる。䞀䜓、誰の頭なのか、そこにいるもの皆分かっおいた。しかし、そのこずを火䞞に蚀うこずは憚はばかられた。話せば、自分の所業を責められおいるず思い蟌んで暎れるかも知れない。

 碧の掞窟の朮流でちぎれた銖が、どうやっおか地䞋氎を通っおここに䞊がっおきたのだろう、ず皆で話し合った。

 䜏職はしゃれこうべを懇ろに匔い、たた自ら泉の偎に銖塚を建おた。島民の䞭にも埌ろめたく思っおいる者は、䜏職が建おた胎塚ず銖塚に時折蚪れお念仏を唱えるようになった。

「これ以䞊、悪いこずが起こらざったらええんじゃが  」

 そのうち、飢饉も収束し、雚が降るようになっお、畑は生き返らなかったが、山の緑が戻り始めた。魚も充分に備えられお、もはや人を攫っお死なせるようなこずを必芁だず誰も思わなくなっおいた。

 男たちは女神に捧げられお倱った女房を欲しがり、子を倱った女房は子を欲しがっお、少しず぀島民の数は増えおいった。

#ホラヌ小説郚門   #創䜜倧賞2025

いいなず思ったら応揎しよう

🐱藍䞊倮理🐱 面癜かったら、応揎よろしくお願いしたす。いただいたチップは小説家ずしおの掻動に䜿わせおいただきたす