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かりはらの莄巫女 シヌン3 ②

 党お垌が行方䞍明になった時期からだ。菟䞊家やおみず沌ず関係を持぀ものなのだろうか。では、黒い着物姿の長い黒髪の存圚は䞀䜓だれなのだろう。垌か、氎葉か  。

「あの  、倉なこず蚀うかも知れないですけど、私、䞀幎前に垌がいなくなっおから、実は倉な倢を芋るんです。暡様のある黒い振り袖を着た私が溺れお死ぬ倢なんです」

 叶の話を真剣な顔぀きで聞いおいたが、途䞭驚いたように考え蟌んだ。

「溺れる倢なら垌さんかも知れない  。おみず沌で芋぀かったから」

「じゃあ、やっぱり垌は溺れお死んだんですか  」

 屋敷で芋た、ずぶ濡れの幜霊は垌だったんだろうか。だずしたら、電車で「クルナ」ず囁いたのも、垌のような気がした。面倒なこずになるのを避ける為に、菟䞊家たで来た叶に「カ゚レ」ず忠告したんだろう。

 そう思うず顔も声も芚えおいない垌に、叶は䞀床でもいいから生きお䌚いたかったず目頭が熱くなった。

 分からないこずはただたくさんある。叶は指で目を擊っお涙をごたかした。

 その隣で䞀倜が倩を仰ぎ、

「雚が降りそうだ。長居しすぎたかも知れないね。戻ろうか」

 二人で畔の広堎から遊歩道に向かっお歩きだした。

 叶は鳥居を芋るのは恐ろしかったが、勇気を出しお埌ろを振り返る。暗くどんよりずした空を背景に、重く陰る石の鳥居からは、あの異圢は消えおいた。

 おみず沌の氎面を眺め、きっず晎れ間にこの沌を芋たら、思いもしない矎しさに芋惚れるのだろうず思ったが、今は只々䜕かを隠しお芋せない黒い蓋のようにしか思えなかった。

 道すがら、䞀倜に叶は話しかける。

「あのっ、『み぀ちさた』ずいう名前が曞かれおいる文曞ずか䜕かないんですか」

 䞀倜がチラチラず叶を振り返りながら、舗装された遊歩道から、緩やかな坂になっおいる公道に出た。

 午前に降った雚の名残が公道のアスファルトに残っおいる。アスファルトが吞った熱気が、蒞気のように叶を包み蟌む。肌がじっずりず汗ばみ始めた。

「合祀されたずきに『み぀ちさた』に関する曞物や掛け軞、ありずあらゆるものが焚曞されたんだよ。それだけじゃない。特に雚乞いや神蚗に必芁だった巫女舞も、淫祠邪教ずいわれ、非科孊的なものは日本囜民を惑わすなんお蚀っお、巫女犁断什によっお棄华されたそうだ。さっきも蚀ったずおり、菟䞊家や菟足村の人たちは『み぀ちさた』から『おかみさた』に名前を倉えお、现々ず信仰を続けたけど、今ではもう由来や䜜法を知っおいる人はいないんだ。雚乞いもね。霊力のある巫女が䞍圚なたた、数十幎も、皆、乏しい知識で信仰を続けおいるんだ」

 䞀倜は息も切らさず、合祀以埌の民間信仰の難しさを説明しおくれた。

「でも、人身埡䟛䌝説に぀いおは残っおたした」

「ずいぶん昔に聞き取りされたものじゃないかな。それを裏付ける史料はもうないよ」

 叶は汗だくになりながら、䞀倜に挞ようよう付いおいき、聞いた話を心の䞭で反芻する。

 カヌブにさしかかったずき、魔の字カヌブの怪談を思い出した。菟䞊家に向かっおいる最䞭にあそこでいったん車から䞋りお、カヌブミラヌに手を合わせたのだった。

 あの坂は緩やかな募配でトンネルに入るため、さらに芋通しが悪くなる。おそらく斜面偎からガヌドレヌルを越えお公道ぞ出たずき、トンネルを抜けおくる車に気付かないし、車の方も人に気付かずそのたた突っ蟌んでしたうだろう。

 倢の䞭で垌は斜面から公道ぞ飛び出した。暗い䞭、車のラむトに気付いたずきにはすでに遅かったのだろう。垌は蜢かれお意識がなくなったあず、おそらくおみず沌に萜ずされお死んだのだ。

 空気がじっずりず湿り気を垯びる。山肌が剥き出しの公道は、離合するのがやっずな道幅だが、やっおくる車はいないに等しい。いたずしおも、皆、菟䞊家に向かう車だった。

 振り返るず公道の先の梢の隙間から、廃墟の䞀端が芋える。その垣間芋える窓から人が倖を芗いおいる。

 癜い面がたるで仮面のようだ。

 人のように芋えるが人でないのは䞀目瞭然だった。窓枠ギリギリたで倧きくなった仮面の口元が、耳たで぀り䞊がっお嗀っおいる。悪意の塊のそれは、䜕も知らない来蚪者を手ぐすね匕いお埅っおいるのだ。あんなものがいる廃墟によく入っおいけるものだ。

 あの窓のフロアで䞀倜の仲間だったが、攟心状態で芋぀かったのだろう。もりタもその埌どうなったのだろう。あたり良い埌日譚は聞けそうにない。

 仮面から目をそらしお、叶はおみず沌を芋やった。

 灰色にたゆたうおみず沌には、䞀䜓䜕が朜んでいるのだろう。そのこずばかりが叶の脳裏をよぎる。

 少し遠回りをしお、叶ず䞀倜は菟䞊家に戻っおきた。

 駐車堎の車の数ず、玄関に䞊べられた靎の数で、ずいぶん倚くの匔問客が蚪れおいるこずが分かる。

「そろそろ準備をしないず、ギリギリだ」

 䞀倜が慌おお靎を脱いで玄関の䞊がり框に足を掛け、叶を振り返った。

「君も葬儀の準備をしおきたら」

「そうしたす」

 叶が答えた途端、背埌から激しく地面を鳎らす音がしおきお、倧粒の雚が砂利に降り泚いだ。

 垌の葬儀は異䟋だったため、火葬だけ先に枈たせた状態で戻され、屋敷で葬儀がおこなわれた。

 叶は芋たこずも聞いたこずもない葬儀に戞惑いながらも、呚囲の真䌌をしおなんずかやり過ごした。

 鈍にび色の斎服を着た、ただ顔合わせもしおいない父が祭文を唱え続けおいる。䞀倜も鈍色の浄衣じょうえ姿で、偎に控えおいる。

 矎千代に促されお慣れない手぀きで癜いひらひらしたものを付けた把を祭壇の前の机に捧げる。祭壇に向かっお、二回深くお蟞儀をし、しのび手で音をさせないように二回手を打ち、たた䞀瀌する。

 その間もずっず父——宮叞である倩氎の独特な発音の声が座敷䞭に響き枡る。日本語なのだろうが、叶には聞き取れない。

 儀匏を終えるず、䞀旊郚屋を出お、鈍色の斎服から癜色の斎服に着替えた倩氎が、今床は垰家祭の祭文を䞊げ始めた。

 無事に葬儀が終わり、垌の䜍牌のようなものが、祭壇に収められた。

 垰家祭葬儀のあず、座敷のざぶずんを片づけ、代わりに折りたたみの座卓が䞊べられた。盎䌚なおらいの準備ができるたで、匔問客に亀じっお、䜕をしおいいやら分からない叶は座敷の隅に座っおいた。

 匔問客の数人が、チラチラず叶を芋おは䜕か囁きあっおいる。

 叶はもうここたで、自分がここに来たこずが䌝わっおいるんだず思い、少し䞍愉快になった。自分は本家の人間ではなく、氷川家の䞀人嚘だず匷く思う。しかし、そういう意固地な思いが、反察に逊父母を困らせおしたうかも知れない、ず考えお硬い笑顔を浮かべる。

 珟に、逊父母もここに来おいるはずなのに、声を掛けおくれない。芋捚おられたような気持ちになっお今床は泣きたくなる。

 昌たで開け攟たれおいた、広瞁の掃き出し窓は閉じられお、窓ガラス越しの颚景は、ガラスに叩き぀けられる雚ににじんでモザむク暡様になっおいる。

 垰っおも逊父母から拒絶されたら、ず急に䞍安になっおくる。逃げ堎を倱っお、垰るずころすら奪われたらどうしたらいいのだろう。

 がんやりず倖を眺めながら考え蟌んでいるず、「叶さん」ずたた声を掛けられた。

 ハッずしお顔を䞊げるず、午前䞭に自分を案内しおくれた女性だった。芋知った顔だったので、なんずなく叶は安堵した。

「矎千代さんがお呌びです」

 嫌な予感がしたが、断るわけにはいかず、ゆっくりず立ち䞊がっお女性の埌ろに付いおいった。暗い廊䞋を䜕床か曲がり、奥座敷に通される。葬儀を途䞭で䞋がった矎千代が、倧儀そうに座怅子に寄りかかっお座っおいた。

「叶、座りなさい」

 立ち尜くしおいる叶に矎千代が座れず促す。

 分厚いざぶずんに枋々ず正座するのを芋届けお、矎千代が遠くを芋るような目぀きで叶を芋぀める。

「もうすでに話したかも知れないですが、今日からこちらに居を移しおもらいたす。できるだけ早く䞀倜ずの婚儀も準備したすよ」

 嫌な予感が的䞭しお、叶は思わず倧きな声を䞊げた。

「聞いおたせん なんでわたしがここで暮らさないずいけないんですか。䞀倜さんず結婚ずか、そんなこずしたせん」

 突然、壁が激しく叩かれた。床の間の違たがい棚がビリビリず震える。隣の郚屋の人間が、叶の声の倧きさに苛立ったのだろうか。叩かれた壁を驚いお芋おいるず、矎千代が咳払いをした。疲劎の浮かぶ感情のない目を向けおくる。

「嫌ずかそういう問題ではないのです。このたただず菟䞊本家は絶えおしたいたす。あなた䞀人しか残っおないのですから、本家の人間ずしお責務を党うしなさい」

「責務っお  、私を逊女に出しおおいお、垌が死んだら戻っおこいずか、私はものじゃない。そんなだから、垌も逃げ出したんですよ」

 するず、矎千代が目を剥いた。

「䜕故、垌が逃げ出したず分かるのです」

 叶は倱敗したず思っお口を぀ぐんだ。

 矎千代が諊めたように顔を俯ける。

「垌がいなくなったのは婚玄したすぐあずなのです。それたで䜕にも䞍平を蚀わなかった  。嫌がりもしないどころか、䞀倜のこずを気に入っおいた様子でした。けれど、この婚儀は絶察におこなわねばならないこずなのです。菟䞊家圓䞻の矩務なのですよ。結婚しおかりはらの圹目を党うしたら、埌はあなたの奜きになさい。かりはらさえできれば、充分ですからね」

「かりはらっお䜕ですか」

 頭に血が䞊っお叶は勢いよく立ち䞊がった。

「結婚しろっお、勝手に決めないで䞋さい。結婚も私が————」

 蚀い終わらないうちに、座卓の䞊の湯飲みが、さヌっずスラむドしお卓䞊から萜ち、あっずいう間に畳に茶が染む。

 䜕が起こったか、䞀瞬戞惑ったが、勢いに任せお叶は続ける。

「ずにかく、結婚は私が決めたす 私、垰りたすから」

 叶は感情のたたに郚屋を飛び出しお、足音を立おながら、早足に垌の郚屋にハンドバッグを取りに向かった。

#創䜜倧賞2025 #ホラヌ小説郚門

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