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過去の自分に背中を押されて、旅に出る

初めてのカナダで、警察のお世話になった。
と書くと大事件のようだが、犯罪に巻き込まれたわけではない。

大学生のときに短期留学でカナダを訪れた。学校のプログラムに参加した形ではあったが、同級生との時間は限られていて、ほとんどの時間を現地のホストファミリーと共に過ごした。

わたしのホストファミリーは、お父さん、お母さん、幼稚園と小学生の元気いっぱいな3姉妹、イタリアから来た留学生という構成だった。

日本からカナダに着いた初日、家に入るやいなや、3姉妹に「プールに行こ〜!」と声をかけられ、「長時間のフライトで疲れているから家で寝たい」とは言えず、いきなり水着に着替えてプールに直行した。

疲れ果てて迎えた翌日、事件は起きた。オリエンテーションを受けるために、語学学校へ。テストと説明を受けて、昼過ぎには解散となった。

バスに乗って家に帰り、インターフォンを押すが、誰も出ない。確か子どもたちの習い事があると言っていたような……と思いながら、ドアノブを回すと、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。

携帯のアラームを10倍にしたようなとんでもないボリュームで、一刻も早く止めたいがその方法がわからない。そもそもこんな警報が付いていることさえ聞かされていない。

玄関口でオロオロしていると、ほどなくしてパトカーのサイレンが遠くから聞こえてきた。

まさか.....!銃を持った警察官がこの家にやってくる?ホストファミリーの家に帰宅しただけで、何も悪いことはしていないのに、心臓が飛び出そうだった。

カナダの一軒家では、防犯のためにアラームをつけている家が多く、来客の人が間違ってアラームを鳴らしてしまうケースも少なくないらしい。「システムがわからなくて、留学生の子がアラームを鳴らしちゃうこともあるんだよね」と、警察官の人も慣れている様子だ。

怒られなかったことに肩を撫で下ろしつつ、ホストファミリーの帰りを待った。

しばらくすると、ホストマザーと元気な子どもたちが帰ってきた。やんちゃな子どもたちに「大丈夫だった?」と聞かれた途端、安心して涙が溢れてきた。

一人で心細く、とにかく怖かったのだ。「今日、学校が早く終わると知らなくて。ごめんね」と謝りながら、ホストマザーもなぐさめてくれた。

仮に、日本で友人の家に遊びに行き、アラームが鳴って警察が駆けつけたとしても「怖い」とは思わないだろう。自分の言葉で状況を説明することができるからだ。

でも、海外では違う。慣れない英語を使って、うまく状況を説明できる自信がない。アラームが鳴ってから数分で警察が来て、パニック状態に陥った。

大学生になって号泣して、子どもたちになぐさめられるとは思ってもみなかった。

愛しのパワフルガールズたち

異国の地で怖い思いをしたはずなのに、それでも懲りずに翌年には、イギリスに短期留学をした。

留学早々、ロンドンのパブで友人と飲んだ帰りに電車で寝てしまい、終電を逃した。日本の治安なら駅で寝ている人がいても、多くの人は気にも留めないが、海外ではそうもいかない。なかなか焦ったが、幸いバスはまだ走っていたので、遠回りをしてなんとか深夜に家に帰ることができた。

ロンドンから足を延ばしてパリに小旅行をする予定が、国際高速鉄道「ユーロスター」の予約が間違っていたこともあった。

日付も違う上に、1泊する予定がなぜか数時間の日帰りチケットになっていて頭を抱えた。しょうがないので、セーヌ川のクルーズに飛び入り参加して、パリの名所を一気見した。

ロンドン郊外に出かけた際には、また違う失態を犯した。ひとりで観光地を巡っていたら、地元のおじさんに「案内するよ」と言われ、一緒に街を巡っていたら「調律師をしているから、アトリエに来ない?」と言われ、のこのこと着いていった。

「調律師のアトリエってどんなところだろう?ピアノがずらりと並んでいるのかな」と呑気に考えていると、案内された先はおじさんが住んでいるただのアパートだった。

鍵をかけられた瞬間に二人きりの密室が怖くなり、出された飲み物も拒んで逃げ出したこともある。(真相は闇の中)

大体のトラブルはわたしの注意不足で、日本では大ごとにならないようなことかもしれない。

でも、言葉という武器も持っていないまま、文化が違う場所に放り出されたら、戦闘力は皆無に等しく、小さなトラブルでも致命傷になりかねない。

それでも、海外というダンジョンで出会う人、景色、文化はとびきりおもしろくて、失敗や恐怖よりも好奇心が優って、また冒険の旅へと出かけることをやめられない。

年齢を重ねても、新しい場所に行くときは少なからず不安を感じるけれど、今よりも英語が話せず、経験も少なかった過去の自分が旅をしてきたことを思うと、なんだか背中を押されるのだ。

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