芋出し画像

英囜玳士ず、沖瞄の颚

今回のお話は「我が家の゚コシステムは、沖瞄の颚に乗っお」の続線です。

冷蔵庫のドアポケットで、その茶色い瓶は、涌しい顔で静かに僕を埅っおいた。

茶色いガラス瓶に、無骚なラベル。酞っぱい盞棒の、A1゜ヌスである。

手に取るず、ずしりずした重みがある。野菜や果実の旚味に、容赊ないお酢のキックが効いた、あのドロッずした液䜓がたっぷり詰たっおいる重みだ。なんだか、この瓶の䞭に小さな沖瞄が詰たっおいる気がする。

急がねばならない。食卓では、癜ニガりリのチャンプルヌず劻のトラ子さんが埅っおいる。

けれど、このラベルの赀い「A1」の文字を芋るず、どうにも蚘憶の栓が抜けおしたうのだ。

◇◇◇

思い出すのは、䞀人暮らしをしおいお本圓にお金がなかった頃のこず。圓時の゚ンゲル係数は、今思い出しおも涙ぐたしいものがある。

A1゜ヌスずいえば、僕の䞭ではポヌクランチョンミヌトず完党にセットになっおいる。あの頃は、そればかり食べおいた気がする。

圓時䜏んでいたアパヌトの近所にあった少しレトロで雑倚な雰囲気の茞入スヌパヌ。自動ドアの前に立぀ず、お銙ずスパむスが混ざったような甘ったるい銙りが挂っおくるような、䞍思議な空間。

僕の食の支えになっおいたその店で出䌚っおしたったのが、激安ポヌク猶。スパムだったか、チュヌリップだったか、正盎もう蚘憶は溶けおいるのだけれど、ずにかく安くお頌もしい、あの四角い猶詰である。

圓時、確か䞀猶癟円皋床だったず思う。お金がなかった僕にずっお、これさえあれば生きおいけるず思える、頌もしい呜綱だった。

僕は食費節玄のために、毎日、ポヌクをいかに薄く切るかに呜を懞けおいた。ポヌクずいえば、こんがり焌いた䞀センチくらいの分厚いや぀を想像するず思うが、あの頃の僕は限界たで薄いハムの厚みを目指しおいたのだ。

もし「ポヌク薄切り遞手暩」があったなら、参加者䞀名でぶっちぎりの優勝を果たしおいたず思う。

たな板の䞊で、鉋がけをする宮倧工の域にたで達しおいたあの芋事な包䞁さばき。䞀切れの厚みに䞀喜䞀憂し、少しでも分厚く切っおしたった日には、自分の未熟さを呪ったものだ。たあ、今ずなっおは誰にも披露する堎のない秘技であるけれど。

僕の倕食の定番は、薄切りポヌクの野菜炒めだった。朝は極薄のポヌクをカリカリに焌いお食パンに乗せたりした。同じものを違う顔で食べる工倫だけは、やけに䞊達した。

そこに、たたに安売りでゲットしたキャベツひず玉を四぀に割っお、コン゜メキュヌブだけで煮蟌んだスヌプが加わったりするず、「今日は祭りみたいだな」ず䞀人浮かれおいた。

ずころが、今やポヌクは五癟円ずか平気でするのだから驚く。先日芋かけたずき、思わず倀札を二床芋しおしたった。時代が倉わったんだなぁ。

うヌん  。でも今の倀段を考えるず、圓時癟円で売っおたっおのは、もしかしお僕の郜合のいい勘違いだったのだろうか 安かったから食べおいたはずのものが、い぀の間にか高玚品になっおいた。

その激安ポヌクの茞入スヌパヌは、なぜか沖瞄食材の宝庫でもあった。芋たこずもない食材のゞャングルに戞惑う僕に、日に焌けた店員のおばちゃんが「適圓でいいさぁ、炒めればなんでも食えるよ」ず笑いながらいろいろず教えおくれた。

そこで知った、沖瞄の食の豊かさ。
もずくの圧倒的な旚さ。居酒屋のお通しで出おくるような现々ずしたものじゃない。沖瞄産の倪さず、しっかりずした歯ごたえ。やっぱりもずくは沖瞄産が䞀番奜きだ。

そしお、ラフテヌの脂の甘みには、ただただひれ䌏しお感動したし、豆腐逻を爪楊枝の先でちびちびやりながら、オリオンビヌルで流し蟌むのも良かった。

ナヌベヌラヌヘチマのどろりずした舌觊りや、テビチ豚足のむっちりずした独特な食感には、倧人の階段の険しさを思い知らされたけれど、ダギ汁ずずもに、たた今床ゆっくり味わいたい。

それず、デザヌトには、青いロゎのブルヌシヌルアむスや、パむナップルに憧れた。圓時はなかなか手が出なかったのだけど。

時々、おばちゃんが「これ、持っおいっお食べおヌ」ず、パックに入ったクファゞュヌシヌ沖瞄の炊き蟌みご飯を笑顔で持たせおくれた。あの時の優しさが、胃袋だけでなく心たで満たしおくれたのだ。

お金のなかったあの頃、僕は間違いなく沖瞄に育おられたのだ。いや、正確にはあのお店の、おばちゃんたちにか。

◇

そんな日々の傍らには、い぀もA1゜ヌスがあった。
ただ、この゜ヌスは酞味がめっぜう匷いので、人を遞ぶ。トラ子さんは党然だめだ。゜ヌスの瓶を芋せただけで、皿ごず囜境線の向こうぞ遠ざけおしたう。

かくいう僕も、実は酞味マむルド掟である。䞀番最初は、正盎ちょっず苊手だった。でも、ケチャップを混ぜおフラむパンで少し加熱するずいう僕流の「手なずけ方」を芚えおから、だんだんず奜きになっおいったのだ。

ずころが、この「加熱」には倧きな萜ずし穎があった。
熱を加えるず、匷烈な酞っぱい匂いが家䞭に充満するのだ。

料理をしおいる時は党く気付かないのだが、ちょっずコンビニに行ったりしお垰っおくるず、玄関の扉を開けた瞬間、顔面に「酞の壁」が抌し寄せおくる。

「うわ、たたすっぱい」
トラ子さんが顔をしかめお、急いで窓を開け攟぀。

垰宅した瞬間、家が䞞ごず巚倧なピクルスになっおいたみたいだ。目には芋えないけれど、間違いなく酞味の劖粟が家䞭を我が物顔で飛び回っおいた気がする。いや、酞味の劖粟なんお可愛いものじゃない、匷酞の魔神が家䞭をドスドスず飛び回っおいたのかもしれない。

我が家の「すっぱい譊報」の発什だ。被害者は垞にトラ子さんで、加害者は僕だ。「うちが酢の物になっおるかず思った」なんおトラ子さんに蚀われたこずもあった。
空気たで味付けしおしたうのが、この゜ヌスの怖いずころだ。

そんな愛すべきA1゜ヌスなのだが、ここ数幎、どういうわけかどこにもA1゜ヌスが売っおいなくお、僕はひどく寂しい思いをしおいた。

頌みの綱のカルディに行っおも、A1゜ヌスの䞊ぶべき棚はい぀も空っぜ。あるはずの堎所の空癜を芋぀めお、ぜっかりず空いた心の穎にため息をこがし、䜕床肩を萜ずしたこずか。

噂によれば品質の問題だの茞入の郜合だの色々蚀われおいたけれど、僕にずっおは倧切な盞棒の倱螪事件だった。

けれど、最近になっおたた手に入るようになった。スヌパヌの棚で茶色い瓶を芋぀けた時は、旧友ず肩を叩き合うような気分だった。

ちなみにトリビア的な䜙談だが、A1゜ヌスはアメリカや沖瞄のむメヌゞが匷いけれど、実は十九䞖玀にむギリスの囜王の料理人が䜜ったのが始たりらしい。それが沖瞄に枡り、ステヌキの盞棒ずしお定着したずいう。

ずいうこずは、僕の食卓には英囜玳士ず沖瞄の颚が同居しおいるこずになる。シルクハットを被っお䞉線を匟いおいるような姿を想像するず、無駄に囜際的でちょっずおかしい。

◇

僕は、ずしりずした瓶を手にしお、食卓ぞ戻った。

「ぞぞ、持っおきた」
するず、トラ子さんは「絶察それ持っおくるず思った」ず、すでに酞っぱい顔をしおいる。圌女の皿は、今日も囜境線の向こうで平和である。

今日のメニュヌは、玄関脇のグリヌンカヌテンで育った癜ニガりリのチャンプルヌ。

自分の皿の、癜ニガりリず卵の黄色が混ざり合う優しい色圩の䞊に、茶色いドロッずした液䜓をずろりず掛ける。癜ず琥珀のコントラストが矎しい。

䞀口食べるず、酞味の向こうから、ニガりリの爜やかな苊みが立ち䞊がっおくる。字面だけ芋れば、ただの眰ゲヌムなのに、これが䞍思議ず旚いのだ。

僕はこの苊みず酞っぱさの合唱はずおも合うず思うのだけれど  うん、蚀いながら、やっぱりすっぱ過ぎかな、ず自分でも少し思う。でも、ずきどきこの味が恋しくなっおしたう。僕にずっおこの酞っぱい味は、あの頃の味なのだ。

トラ子さんは呆れ笑いを浮かべながら、自分の平和な皿を぀぀いおいる。

玄関脇のグリヌンカヌテンで育った沖瞄ず、冷蔵庫で埅っおいた酞っぱい思い出の沖瞄が、皿の䞊で芋事にチャンプルヌされおいく。

家䞭に満ちるこの匂いこそが、僕の、そしお我が家の倏の正解だったりする  かな。 涌しい顔でたたずむA1゜ヌスの瓶を眺めながら、そんなこずを思った。

 
  
盞生゚ッセむ


â–œ 今回のお話の前線はこちらです。

 

â–œ note創䜜倧賞2026応募䜜品はこちらにたずめたした。



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