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「早稲田、9時からだったんだ。息子がそう言った。」

早稲田大学オープンキャンパス一日目。

戸山キャンパスに着いて、タイムテーブルを見た息子が、ぽつりと言った。
「9時からだったんだ」
なんだか悔しそうだった。
「9時から、聞きたい講義があったの?」
そう聞いたけど、スルーされた。

この日が始まるまでに、少し前の出来事があった。

「名古屋大学、はずれた」
息子がそう言ってきた。

この春、高1になった息子。
通っている四谷学院高等学校の担任の先生から「名古屋大学のオープンキャンパス、抽選申し込み始まってるよ」と教えられて申し込んだけど、抽選にはずれたという。

息子がオープンキャンパスに行きたかったとは知らなかった。

私はスマホでオープンキャンパスを検索し始めた。 

すると、昔から私が憧れていた早稲田大学が、予約なしで誰でも参加できると書いてある。私も行けるんだ。
「私も行ってみたいんだけど、一緒に行かない?」
そう誘うと、息子は少し考えてから言った。
「ママちゃんも行くなら、行くよ」

こうして、この夏の旅行先は東京になった。

◆文学部にこだわる息子と、ラーメン狙いの母

息子は文学部一本にこだわっていた。
正直、息子はこのオープンキャンパスには、そこまで興味はないだろう。一コマくらい聞いたら、あとは原宿の行列ラーメン屋に行こうかなと思っていたくらいだ。

「せっかくだから、いろんな学部も見てみない?」
「こんなチャンスなかなかないよ」
そう誘って、一日目は戸山キャンパスから回ることにした。


◆メガネをかけた息子

自宅から始発のバスに乗り、在来線新幹線と乗り継いでようやくたどり着いた東京。

早稲田についたのは10時半すぎ。

早稲田駅前の日高屋。いつも東京に行く時に一度は日高屋へ行く私たち。当然のごとく帰りに行こうと言って通りすぎた。

気を取り直して向かった、戸山キャンパス。

11時、文学部の「映画学への誘い」という講義。

会場はほぼ満席で、息子とは隣同士に座れず、通路を挟んで隣になった。

ふと横を見ると、息子が普段はめったにかけないメガネをかけていた。

当時の貴重な映像を見せながらの講義は、あっという間だった。
私はもっと聞いていたいと思うくらい面白かった。

息子にどうだったか聞くと、
「よかった」
ひと言だけ返ってきた。

タイムテーブルの前に戻ると、息子が「次は◯◯に行こう」と言い出した。

それまで時間があったので、お腹が空いていた私たちはキャンパス内のパン屋に入り、焼きたてのパンを食べた。

学生気分に戻っていて、何でもおいしく感じるのか、息子と食べるからおいしいのか、とにかくおいしかった。

あとからパンフレットを読み返すと、このパン屋が早稲田名物だと知った。

時間になって次の会場に向かうと、もう満席だった。
残念だったけど、あんなにおいしいパンが食べられたのだから、仕方ないと諦められた。

これからどうしようか息子に聞くと、
「早稲田キャンパスに行こう。ママちゃんが聞きたい講義に並ぼう」

◆誘う側から、誘われる側へ

13時前に早稲田キャンパスに移動した。

14時からの商学部の講義に並んだ。すでに100人以上が並んでいた。

なんとか入れたのは、「『良い』企業とは? 見える化の会計」という講義。
大学内の優秀な講義をする人に贈られるアワードを受賞したという教授の講義。

さすが、話術も画像資料もとても分かりやすかった。

私がもう一度受験するなら商学部かもしれない、と本気で思うほどだった。

翌日も別の受賞教授の講義があると知り、絶対に私一人でも聞きに行こうと決めた。
翌日の予定は未定だった。
東京観光はまたの機会でよい。早稲田のオープンキャンパスは、明日までだ。

◆パンフレットを見て、走った

このあと、もうひとつ講義を聞いた。

パンフレットをめくっていた息子が、「これ、行きたい」と言い出した。人間科学部の「話すだけで人は変われるのか、心理学で読み解くカウンセリング」という講義。

会場は満席に近く、あわてて走った。

なんとか席につくと、講義が始まるまでの数分、息子はまたパンフレットを見て、「これ、早稲田や戸山キャンパスじゃないって」と、今度は息子が私に教えてくれた。

さすが早稲田の教授だからか、カウンセリングの選び方など、本当にわかりやすく丁寧に話してくださった。

「このあとどうする?」と息子に聞いた。
「疲れたから日高屋でごはん食べて、ホテルへ行こう。明日は朝からオープンキャンパスに行こうよ」

私が明日商学部の講義を受けたいとはまだ言ってなかった。
息子が自ら発した、明日は朝から受けようよと。

「早稲田のオープンキャンパスは明日しかないから」
さすが親子。考えてることは同じだな。

日高屋で商学部の講義の感想を聞くと、息子はぽつりと言った。

「すごいと思ったけど、自分にはできないと思う」

ビールと餃子を前にして私は言った。
「ママの夢に付き合ってくれてありがとう。本当に東京の大学の講義、聞いてみたかったから」
息子はうなずいた。

息子が「できない」と言った言葉の重さは、私にはわからない。
それでも、隣同士に座れなかった講義室で、通路を挟んで見た息子の横顔と、普段はかけないメガネのことは、たぶんこの先も覚えている。

二日目、私たちが何時に間に合うように早稲田に向かったかは、また今度書こうと思う。

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