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300万回以上拡散した地震予知デマ、その裏にある人の心理を読み解く

大きな地震のニュースを目にしたとき、あなたはどこで、どんな情報に触れましたか。

テレビよりも先に、スマートフォンの画面越しに動画や投稿を見た、という方も多いのではないでしょうか。

実は、2026年7月に起きた熊本地震でも、発生直後からSNS上に数えきれないほどのデマや偽情報が広がりました。人工地震説から生成AIによる偽動画、存在しない住所を使った偽の救助要請まで、その手口は驚くほど多様です。

今日は医療の現場に身を置き、心理を学んできた立場から、なぜ私たちはこうした情報についつい心を動かされてしまうのか、そして次の災害にどう備えればよいのかを、一緒に考えていきたいと思います。


令和8年熊本地震で、SNSに何が起きていたのか


2026年7月28日16時27分ごろ、熊本県熊本地方を震源とする最大震度7の地震が発生しました。気象庁はこの地震とその後の一連の活動を「令和8年熊本地震」と命名しています。

発生から数時間のうちに、SNS上には数多くの偽情報が現れました。地震の原因を人為的なものとする言説、生成AIによる偽の被害映像、被災者を装った偽の救助要請や送金要求まで、その種類は実にさまざまです。

事態を重く見た総務省は、主要なSNSプラットフォーム事業者に対して利用規約に基づいた対応を要請しました。熊本県警察も「非常時にインプ稼ぎの偽情報は許されません」と、SNS上で異例の警告を発しています。

災害という非常時に、なぜこれほどまでに人はデマに心を動かされてしまうのでしょうか。私は、そこには3つの心理的な理由があると考えています。

デマが広がる、3つの心理的な理由

1つ目は、不安が視野を狭くするということです

強い不安や恐怖にさらされると、人の注意は「今すぐ安心できる情報」に向かいやすくなります。これは弱さではなく、危険から身を守るために備わった、ごく自然な心の働きです。

けれど、その働きが強く出すぎると、情報の真偽をじっくり確かめる余裕そのものが失われてしまいます。「本当かどうか」より先に「怖い」「大変だ」という感情が動いてしまうのです。

医療の現場でも、不安な状況にある方ほど、断片的な情報に強く反応される場面を見てきました。それは決してその方が判断力に欠けているからではなく、不安という感情がそれだけ強い力を持っているからだと、私は感じています。

2つ目は、損失回避という心の癖です

行動経済学でよく知られるプロスペクト理論では、人は「得をすること」よりも「損をすること」を強く避けたがる傾向があるとされています。

たとえば、実在しない住所を使った「助けてください、生き埋めになっています」という投稿は、NHKの取材によれば30万回以上閲覧されたと報じられています。もしこれが本物だったら見過ごせない、という良心が、検証よりも先に拡散という行動を後押ししてしまうのです。

同じように、日本地図を添えた「地震を予測していた」という投稿は、報道によれば発災当日の夜までに300万回以上、別の報道では340万回以上閲覧されたとされています。「知らずにいたら損をするかもしれない」という感覚が、真偽の確認よりも早く、指を拡散ボタンへと動かしてしまうのだと思います。

3つ目は、承認欲求という新しい要因です

SNS時代ならではの理由として、拡散されること自体が目的化してしまうケースがあります。熊本県警が「インプ稼ぎの偽情報」という異例の言葉で注意を呼びかけたのは、まさにこの点でした。

災害という多くの人が関心を向けるタイミングは、残念ながら注目を集めたい発信者にとって「稼ぎどき」にもなってしまいます。この構造を知っておくだけでも、目にした情報への向き合い方は変わってくるはずです。

思えば、災害の後に根拠のない噂が広がるのは、今にはじまったことではありません。1923年の関東大震災の際にも、「井戸に毒が入れられた」という流言が広まり、多くの混乱を招いたことが知られています。人はいつの時代も、大きな揺れの後には、心の中にも別の種類の揺れを抱えてしまう生き物なのかもしれません。

実際に確認された偽情報、8つのパターン


今回の熊本地震で確認された偽情報を整理すると、おおよそ次の8つのパターンに分けられます。

・人工地震や地震予知をめぐる陰謀論(「HAARPによるものだ」「予測していた」など)
・生成AIによって作られた偽の被害映像(建物の爆発・倒壊映像、ニュース番組を装った動画)
・過去の災害映像の使い回し(2024年の能登半島地震の映像が転用された例など)
・被害状況に関する事実と異なる情報(列車の脱線、噴火、動物の脱走など) ・実在しない住所を使った偽の救助要請
・QRコードや電子マネーを使った寄付
・送金の要求 ・特定の属性の人々に責任を負わせる根拠のない主張
・生成AIの回答を鵜呑みにして、本物の映像を「偽物」だと誤って断定してしまう現象

最後の一つは、今回とくに興味深い点だと感じています。AIによる偽情報だけでなく、AIを使って本物の情報を誤って否定してしまう。技術が便利になるほど、その使い方そのものにも慎重さが求められる時代になってきているのだと実感します。

次の災害で、私たちにできる3つのこと


ここまで読んで、「自分も同じように反応してしまうかもしれない」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。それは決して恥ずかしいことではありません。むしろ、人として自然な反応です。

そのうえで、次に同じような場面に出会ったとき、少しだけ立ち止まるための工夫を3つお伝えします。

1つ目は、「もし本当だったら」と感じた瞬間こそ、公式の情報源を確認する習慣を持つことです。気象庁や自治体、警察の公式アカウントは、こういうときのために存在しています。

2つ目は、拡散する前に一呼吸置くというルールを自分の中に持つことです。「今すぐ広めなければ」という焦りこそ、損失回避の心理が働いているサインだと捉えてみてください。

3つ目は、たとえ一度デマを信じて拡散してしまったとしても、自分を責めすぎないことです。不安な状況で心が動くのは、弱さではなく人間らしさの証です。大切なのは、そこから気づき、次にどう行動するかだと私は思います。

おわりに


今日お伝えしたかったことを、あらためて整理します。

・熊本地震でも、人工地震説から生成AI偽動画、偽の救助要請まで多様な偽情報が拡散した
・その背景には「不安による視野の狭まり」「損失回避」「承認欲求」という3つの心理がある
・確認された偽情報は大きく8つのパターンに分類できる
・デマに心を動かされること自体は、決して弱さではなく自然な反応である ・次に備えて、公式情報の確認・一呼吸置く習慣・自分を責めないことの3つを意識してみてほしい

大きな災害は、地面だけでなく、私たちの心も揺らします。だからこそ、揺れた後にどう情報と向き合うかを、平時のうちから少しずつ準備しておくことができれば、次の場面ではきっと今より落ち着いて動けるはずです。

あなたにも、その力は十分にあります。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。

#熊本地震 #情報リテラシー #フェイクニュース対策 #防災 #公認心理師


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