芋出し画像

あんたの倢の蛇は、台所の䞋

五月の終わりの金曜、朝五時を少し回ったころに、倖でキャリヌケヌスの車茪がゎロゎロ鳎った。桑原が窓から芋るず、駐車堎のたんなかに麻衣が立っおいお、癜い軜のうしろで、開いた蓋のほうぞ服を投げ蟌んでいた。

店から垰っおきたたたの化粧だった。空はもう癜くなりかけおいお、隣の棟のどこかで、目芚たしが鳎りっぱなしになっおいる。

サンダルを぀っかけお、倖階段を降りた。

「どうした」

麻衣は、桑原のほうを芋なかった。「出お行くで。党郚知っずるから。あんた、嘘぀いたでしょ」

そこぞ䞹矜さんが、青い袋を提げお珟れた。隣の郚屋にもう十八幎䜏んでいる人で、ゎミの日を毎週たちがえる。今日は可燃の日なのに、手にあるのは瓶ず猶の袋だった。

「あら、匕っ越し 若い人は身軜でええねえ」䞹矜さんは、桑原の郚屋のほうを芋䞊げた。「うちも片づけんずかんわ。段ボヌルをい぀たでも机にしずったら、いかんでね」

桑原はうなずいた。玄関を入っおすぐのずころに眮いた段ボヌルが、サむドテヌブルになっお二幎ちかくになる。䞊には目薬ず、期限の切れた駐車刞が茉っおいた。

䞹矜さんはゎミ眮き堎のほうぞ歩いおいっお、猶を朰すかどうかに぀いお、誰にずもなく喋りはじめた。

「仕事のこずなら」ず桑原は蚀った。「探す。貯金もあるし、たあ、がちがちやる」

「仕事の話じゃない」麻衣は、たたみかけたシャツを䞞めお抌し蟌んだ。

「浮気したでしょ」

桑原の腹の底が、すずんず䞋に抜けた。䞉月の終わりの送別䌚、䞉次䌚、埌茩に腕を匕かれお入った、照明の青い店。䞀床きりだった。

「それは、誀解だ――」

麻衣は腕を組んだ。「昚日、倧須の易者さんに蚀われたの。この人には別の人がおるっお。それにきのう、蛇の倢を芋た。党郚぀ながったわ」

そしお、泣き出した。

桑原は軜のボンネットに手を぀いお、そこにしばらく䜓重を預けた。蚌拠は、倢ず、占いだけらしい。

キャリヌケヌスの底から、えびせんべいの倧袋が転がり出た。茪ゎムで留めおある、封を開けお二週間になるや぀だ。桑原はそれを拟っお、緩んだ茪ゎムを二重にしおから、麻衣に枡した。麻衣は受け取っお、手の甲で目のふちを拭いた。

ゎミ眮き堎のほうで、䞹矜さんがただ喋っおいた。

䞃時半、通りを二本入ったずころの喫茶店に、癜い軜を停めた。「かもめ」は十䞀時たでモヌニングで、コヌヒヌを頌むず厚いトヌストずゆで卵が二぀付いお、倀段のほうは倉わらない。

マスタヌは桑原の泚文を毎回たちがえる。今朝もアむスコヌヒヌがアむスココアで来た。桑原はそのたた飲んだ。二幎通っおいお、盎ったこずがない。

トヌストは端が焊げおいお、バタヌが真ん䞭だけ溶けお萜ちおいた。小倉あんは小皿で別に来る。麻衣は、ゆで卵の殻をカりンタヌの瞁で割った。塩をふっお、十秒で䞀぀食べた。それから二぀目に手を䌞ばしかけお、桑原の皿のほうも芋おいた。

「䞀個やる」ず桑原は蚀っお、皿ごず抌した。

桑原の離婚が決たったのは䞉月で、盞手は実家のある町ぞ垰った。刀子を抌した週に、桑原はこの店のモヌニングを䞉日続けお食べおいる。

マスタヌがカりンタヌの奥から、「ゆで卵、もう䞀個いるかね」ず蚀った。それから、砂糖の壺を䞊べ替えはじめた。

麻衣はおしがりで指を拭いおから、口を開いた。「今日、面接に行っおくるで。䞀時から。車出しお」

「面接」

「䞍動産屋だわ。昌の仕事。倜だけだず、あんたの分たで出んでしょ」

「俺の分は芁らん」ず桑原は蚀った。「たあ、がちがち探す」

麻衣は、バッグからえびせんべいの袋を出しお、カりンタヌに眮いた。マスタヌが䞀枚取っお、湿気っおるね、ず蚀った。

十䞀時半、麻衣は䞉時間しか寝おいない顔で起きおきお、床にあぐらをかき、ノヌトを広げお、片っ端から電話をかけはじめた。盞手は店の客ず、その客の知り合いず、知り合いの匟らしかった。

桑原は台所で、二杯目のむンスタントを淹れおいた。

回芧板を持っお䞹矜さんが䞊がっおきお、そのたた䞊がり框に腰を䞋ろした。えびせんべいの袋を膝に茉せお、去幎の町内䌚の旅行の話をはじめた。バスが二台出お、うしろの䞀台が高速の出口をたちがえた話だった。

「はい、䞀緒に䜏んどる人が仕事を探しずっお」ず麻衣が電話に蚀っおいた。「歳は四十二です。パ゜コン たあたあ、できたす」

麻衣は送話口を抌さえお、桑原を振り返った。「あんた、パ゜コンできる」

桑原はむンスタントの瓶の蓋を閉めた。二十幎、芋積曞ず提案曞で飯を食っおきた。閉めた蓋を、もう䞀床締め盎した。

「たあたあだ」

麻衣は電話に戻った。「たあたあです。はい。はい」それから、もう䞀床、送話口を抌さえた。「営業っお、やったこずある」

䞹矜さんは、バスの話を続けおいた。

電話が終わるず、麻衣はノヌトを裏返しお芋せた。「ネゞの卞。あんた営業でしょ、ぎったりだがね」

「俺が売っずったのは、機械に入れる仕組みだ」ず桑原は蚀った。「ネゞずは、たぶん違う」

「ネゞも機械に入るがね」

䞹矜さんが、それはそうだわ、ず蚀った。

䞀時半、䞍動産屋の駐車堎で、桑原は癜い軜の䞭で埅っおいた。埌ろの垭には去幎の曞類が積んであっお、その䞊に麻衣のサンダルが片方茉っおいる。窓の倖では、若い瀟員がのがり旗を立お盎しおいお、颚でもないのに䞉回倒しおいた。

自動ドアが開いお、麻衣がスキップで戻っおきた。

「採甚」麻衣は助手垭に座っお、シヌトベルトを匕いた。「絊料は高くないけど、瀟長の秘曞だで。瀟長、䞉十四だっお。ボヌナスもあるし、出匵にも連れおっおくれるっお」

桑原の握ったハンドルが、みしりず鳎った。

麻衣はえびせんべいを袋から䞀枚出しお、半分に割り、片方を桑原の膝の䞊に眮いた。

のがり旗が、たた倒れた。

桑原は膝のそれを぀たんで、半分だけかじった。

「別のを、探し盎そうか」

翌日の土曜、店が䌑みの日で、六時を回っおも商店街のアヌケヌドはただ明るかった。招き猫の前で、たこ焌き屋の兄ちゃんが、遠くから来たらしい客に爪楊枝の䜿い方を教えおいる。

易者は、赀い垃をかけた小さな机の向こうに座った老婆だった。老県鏡を頭に茉せたたた、机の䞊を探しおいた。麻衣に背䞭を抌されお、桑原は折りたたみ怅子に腰を䞋ろした。

老婆は生幎月日を蚊かなかった。手も芋なかった。桑原の顔を長く芋お、それから話しはじめた。䞉月の終わりの晩の話だった。人がたくさんいる郚屋で、桑原がネクタむを倖したこず。そのあずに連れお行かれた、照明の青い店のこず。桑原が誰にも話しおいない晩のこずだった。

老婆は銖を振った。「でも、違うわ。この人に、女はおらんよ」

麻衣が䜕か蚀うより先に、老婆は続けた。「それずな、あんた。蛇の倢は、浮気の倢じゃないわ。蛇は氎の神さんの䜿いだで。倢の䞭で、蛇はどうした」

「腕に巻き぀いた」ず麻衣は蚀った。「ほどけんくらい、匷く」

老婆は、机の䞋から急須を出しお、湯呑みに䜕か泚ぎながら蚀った。「そりゃ、氎回りだわ。あんたの倢の蛇は、台所の䞋におる。ほっずいたら、来月えらいこずになるよ」

桑原が千円札を出すず、老婆は釣りを探しはじめお、頭に茉せた老県鏡を䞉床さわり、それからたこ焌き屋のほうぞ「五癟円、厩せる」ず声を匵った。

商店街を出るたでに、桑原のスマホが二床光った。前の䌚瀟の同期からで、来週、飯でも食おうずいう話だった。仕事の話かどうかは曞いおいなかった。

䞃時前、郚屋に戻っお、桑原は流しの䞋の扉を開けた。ホヌスの継ぎ目が指䞀本ぶん倖れおいお、その䞋の板が、抌すずやわらかく沈んだ。

回芧板を取りに来た䞹矜さんが、うしろから芗き蟌んで、去幎の自分のずころの話をはじめた。バケツを䞉぀䞊べお、二日で満杯になった話だった。壁の向こうでは、䞹矜さんの郚屋のテレビが぀けっぱなしになっおいお、倩気予報の音がしおいる。

麻衣は、えびせんべいの袋の茪ゎムを倖しおいた。

桑原は流しの䞋から顔を䞊げた。「圓たっずったな、あの人」

「でしょ」麻衣はせんべいを割った。「浮気のほうは倖れずったけどね」

桑原は、冷蔵庫からホヌムセンタヌのチラシを剥がしお、軜のキヌの䞊に眮いた。

「倢のほうが、間違えたんだろ」

「そう。倢が悪い」

いいなず思ったら応揎しよう