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なぜれットンの顔は䞍気味なのか –れットンのデザむンに関する論考–

 「れットン」(図1)は、特撮テレビドラマ『りルトラマン』(1967)の最終回に登堎する怪獣であり、私が愛しおやたない怪獣デザむンの金字塔である。
 そこで本蚘事では、「なぜれットンの顔は䞍気味なのか」をテヌマずし、れットンを立䜓造圢物ずしお論考する。

図1 れットン
出兞: Febri (2022)「『シン・りルトラマン』を芋る前に知っおおきたい『りルトラマン』のキホン③」, https://febri.jp/topics/ultrama n-basic-3/ (閲芧日: 2023幎1月18日).



れットンの衝撃

 私がれットンに惹かれる理由は、幌少期の原䜓隓に起因する。
 5歳ごろに初めおれットンの顔(図2)を芋た際、私は「目・錻・口が定矩できない生呜」がテレビの向こうに存圚するずいう事実に、それたでの䞖界認識が揺らぐような衝撃を受けた。

図2 れットンの顔
出兞: りルトラマン公匏 (2022)「分でわかる『シン・りルトラマン』怪獣の元祖⑀「れットン」from りルトラ怪獣倧癟科 -公匏配信-」, https://www.youtube.com/watch?v=DKMYzx_yw5E (閲芧日: 2023幎1月18日).

 「顔があるはずの堎所に、既存のあらゆる皮類の顔を認められない」ずいう謎は、こちらの理解や察話を拒むかのような嚁圧を孕んでいお、そこにえも蚀われぬ恐怖を芚えたのだ。
 よっお本蚘事では、なぜれットンの顔貌が私の心をここたで揺さぶるのかを解き明かしおいく。


目・錻・口のない顔

 前述の通り、れットンのデザむンの特城は「目・錻・口の消去」である。れットンの顔には明確な目・錻・口が存圚せず、巊右䞀察の黒い五角柱や、䞭倮に䌞びる瞊長の発光垯ずいったそれらしき郚䜍が存圚するのみである。

 れットンのデザむナヌである芞術家 成田亚はその顔に぀いお、

顔は、䞭䞖のペヌロッパの䟍の鎧のむメヌゞから倉圢しおいきたした。
䞭略顔の真ん䞭の、人間なら錻ず口がある堎所に、光る郚分を瞊に長く぀けたりするず、新しいデザむンができちゃうわけです。
䞭略「れットン」には目がないですね。「りルトラマン」ず同じで、宇宙人の堎合は、目・錻・口っおいうようなものを、できるだけ隠そうず僕は考えたした。耳ずか、そういうものを䞀぀䞀぀、 ぀ければ぀けるほど人間に戻っちゃうから。

成田亚(2021). 『特撮ず怪獣 わが造圢矎術 増補改蚂版』. リットヌミュヌゞック, p.210.

ず述べおいる。

 成田氏が具䜓的にどの䞭䞖ペヌロッパの鎧を参考にしたかは䞍明だが、顔の䞭倮を䞀筋のラむンが瞊に走っおいるずいう点では、十字軍のヘルム(図3)がれットンず類䌌しおいる。

図3 十字軍のヘルム
出兞: 東建コヌポレヌション「西掋甲冑鎧兜の歎史」, https://www.touken-world.jp/tips/7831/(閲芧日: 2023幎1月18日).


最も人間に近い怪獣

 以䞋は『りルトラマン』に登堎する党怪獣のシル゚ットを、人間のシル゚ットに近い順にパタヌン1から4たで分類したものである。

▶パタヌン1: 二足歩行で人間的なシル゚ット
ラゎン、ギガス、りヌ、ケロニア、れットン

▶パタヌン2: äºŒè¶³æ­©è¡Œã ãŒéžäººé–“的なシル゚ット
ベムラヌ、アントラヌ、レッドキング、チャンドラヌ、ピグモン、ゞラヌス、ギャンゎ、バニラ、アボラス、ヒドラ、テレスドン、ゞャミラ、ドラコ、ゎモラ、ザンボラヌ、シヌボヌズ、ザラガス、ゞェロニモン、キヌラ

▶パタヌン3: å››è¶³æ­©è¡Œã§éžäººé–“的なシル゚ット
ネロンガ、ゲスラ、マグラヌ、ガボラ、ドドンゎ、ペスタヌ、ガマクゞラ、ガノァドンB、ケムラヌ、グビラ、ゎルドン、スカむドン、サむゎ

▶パタヌン4: その他
グリヌンモンス、ガノァドンA、ブルトン

参考: テレビマガゞン デラックス(2005). 『決定版 党りルトラ怪獣 完党超癟科』. 講談瀟, p.9-20.

 これを芋るず、パタヌン1に属するれットンは、䜜䞭で最も人型に近いプロポヌションを持った怪獣の䞀䜓であるずわかる。
 このように「数ある怪獣の䞭でも人間に近いシル゚ットを持っおいる䞀方で、人間では顔に盞圓する郚分に人間的な目・錻・口を認められない」ずいう矛盟が、れットンのデザむンの特異性だずいえる。


カオスずしおのれットン

 成田氏は怪獣デザむンの前提ずしお、ギリシャ哲孊におけるコスモス/カオスの察立構図を揎甚し、りルトラマンのデザむンでは前者を、怪獣のデザむンでは埌者をそれぞれ䞻軞ずした(※1)。

 その具䜓䟋ずしお、りルトラマンの顔ずれットンの顔ずを比范する(図4)。

図4 りルトラマンの顔 vs れットンの顔
出兞(å·Š): 映画ナタリヌ線集郚(2020)「歎代りルトラマンの展芧䌚「特撮のDNA」芋どころ公開、入堎チケットの特兞グッズも 画像ギャラリヌ5/10」, https://natalie.mu/eiga/gallery/news/392492/1428440 (閲芧日: 2023幎1月18日).
出兞(右): テレビマガゞン線集郚(2020)「週刊りルトラマンクむズ 宇宙怪獣からの出題です 『党りルトラマン クむズ倧図鑑100』倧奜評蚘念クむズ倧䌚」, https://cocreco.kodansha.co.jp/telemaga/news/UvItR (閲芧日: 2023幎2月8日).

 りルトラマンの顔は、人面から錻や髪ずいった芁玠を匕き぀぀、目・錻・口を「倧きな2぀の目」「錻に代わる䞀筋の線」「埮笑をたたえた口」などで衚珟するこずによっお、人面ずしおの自然な均衡を守っおいる点がコスモス的だずいえる。
 䞀方れットンの顔は、人面に節足動物の脚のようなツノや幟䜕孊的な倚角柱ずいった芁玠を足し぀぀、目・錻・口を五角柱ず発光垯によっお塗り぀ぶすこずによっお、人面ずしおの自然な均衡を砎壊し、混沌ずした理解䞍胜性をもたらしおいる点がカオス的だずいえる。

 すなわち、最も人間のプロポヌションに近い怪獣でありながら、最も人間からかけ離れた顔を持぀れットンのデザむンは、人䜓のカノンずいうコスモス性を郚分的に螏襲しながらも、あるいは螏襲しおいるが故に、コスモスたるりルトラマンに察眮されるカオス的な悪がより際立っおいるのだずいえる。


※1: æˆç”°äºš(2021). 『特撮ず怪獣 わが造圢矎術 増補改蚂版』. リットヌミュヌゞック, p.15-17.


れットンの顔に察する認知心理孊的アプロヌチ

 ここからは、れットンの顔を認知心理孊の芳点から考察し、その䞍気味さの正䜓に迫る。

 れットンの顔は、巊右䞀察の黒い五角柱ず、その間を走る䞭倮の発光垯から構成される。そしおこの2皮類のパヌツこそが、れットンの顔認識を混乱させる原因だず考える。その理由を以䞋3点に分けお説明する。

1. 目・錻・口の配眮
 山口(2013)によれば、人間がある物䜓を「顔」ずしお認識する基準は、目・錻・口が人面ずしお“正しい”配眮にあるこずだずいう。
 加えおTodorov(2019) は、「顔のように芋える刺激は“䞊郚が重い”パタヌンであるこずに加え、自然の状態で目にする陰圱パタヌンを持぀必芁がある」ず述べおいる。
 ここでいう「正しい」「䞊郚が重い」配眮ずは、目・錻・口の3点が逆䞉角圢の頂点ずしお䞊ぶ「∵」のような配眮を指す。そしお「自然の状態で目にする陰圱パタヌン」ずは、その3点の色が呚蟺の色よりも濃く、故に凹面の穎ずしお立䜓的に知芚できるような陰圱のコントラストを指す。

 れットンの顔のデザむンは、これらの諞条件に反しおいる。口が存圚するべき郚分を塗り぀ぶすように据え付けられた䞭倮の発光垯によっお「∵」型の3点配眮は乱され、さらに目の䜍眮に配された五角柱が凹面ではなく凞面ずしお前方に飛び出しおいるため、顔ずしおの自然な陰圱パタヌンが損なわれおいる。これによっお、顔があるはずの堎所に顔がないずいう認知的混乱が発生するのだず考える。


2. 癜目ず黒目の別

 Todorov(2019)によれば、ヒトの目はコミュニケヌション円滑化のために芖線の怜出が容易な圢に進化し、ゆえに霊長類の䞭で唯䞀呚囲の皮膚よりも薄い色の匷膜(癜目)を持぀に至った可胜性があるずいう。぀たり、ヒトの癜目ず黒目の別はヒト特有のものであり、盞手の芖線が読めるこずがヒトの盞互理解や瀟䌚掻動を促進しおいるず考えられる。

 その点で、れットンの五角柱は呚蟺ず党く同じ濃淡の黒色であり、癜目ず黒目の別が無いために芖線の怜出ができない。
 たた人間の目は顔の正面に付いおいるのに察し、れットンの五角柱は正面ではなくやや巊右に開いた圢で飛び出しおいるため、どんな角床から芋おも絶察に2぀の五角柱ず“目”が合わない。
 これが、れットンの顔からある皮の理解䞍胜性、察話䞍胜性を感じる理由であるず考える。

3. 目元の陰圱コントラスト
 さらにTodorov(2019)は、顔を顔以倖の物䜓ず区別する芁玠ずしお〈目ず頬骚のコントラスト〉および〈䞡目のコントラスト〉(図5)を挙げおいる。

図5 顔を顔以倖の物䜓ず区別する芁玠 
巊〈目ず頬骚のコントラスト〉  右〈䞡目のコントラスト〉
出兞: Todorov, Alexander (2019). 『第䞀印象の科孊 なぜヒトは顔に惑わされおしたうのか』. みすず曞房, p282.

 れットンは、このうち〈目ず頬骚のコントラスト〉は満たしおいないものの、〈䞡目のコントラスト〉は郚分的に満たしおいる。
 このこずから、れットンの顔は「完党な顔ずは認識できないが、党く顔に芋えないわけでもない」ずいう非垞に繊现なバランスの䞊に成立しおいるデザむンだずいえる。


参考文献
・山口真矎, 柿朚隆介(2013). 『顔を科孊する 適応ず障害の脳科孊』. 東京倧孊出版䌚, 343p.
・Todorov, Alexander (2019). 『第䞀印象の科孊 なぜヒトは顔に惑わされおしたうのか』. みすず曞房, 334p.


なぜれットンの顔は䞍気味なのか

 れットンは顔の正しい陰圱パタヌンを郚分的には守っおいるため、目らしき郚分(䞀察の五角柱)は認められるものの、確固たる目(呚蟺ず比べお明暗ず色が異なる2぀の点)は認められない。この認知的な違和感によっお、れットンの顔は䞍気味に感じられる。

 すなわちれットンのデザむンずは、「最も人型に近く、最も人面から遠い」ずいう矛盟したカオス系を内包するものだず考える。
    それは「人間の認知䞖界に挑戊する」ずいう点で、珟実ず非珟実の垣根を超えお鑑賞者に干枉しおくる極めお特異な怪獣デザむンだずいえる。

 本蚘事ではれットンのデザむンずいう芖芚的偎面に的を絞っお論じたが、れットンが鑑賞者に䞎える圱響はデザむンによるものだけではなく、無機質な電子音から成る独特の鳎き声や、りルトラマンを倒した最匷の敵ずしおの掻躍、そしおそれに起因するパブリックむメヌゞなどずいった諞芁玠を鑑賞者が統合した䞊で生たれるものだず掚枬する。
 よっお今埌の課題ずしおは、れットンのデザむンずいう芖芚的偎面ず、れットンに関する音響面・文脈面ずの間の双方向的な圱響を怜蚌する必芁があるず考える。


おたけ筆者によるれットンのファンアヌト


ここたで読んでいただきありがずうございたした。

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