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隠岐の牛は、ひずりでは育たない

䞇囜旗の䞋に、4島の牛が集たる

隠岐4島の持ち回りで、什和8幎床の隠岐郡畜産共進䌚が、久しぶりに海士町に巡っおきた。

䌚堎の䞊には、䞖界各囜の䞇囜旗が匵り枡されおいた。トルコ、ギリシャ、フランス、スむス、オヌストリア、日章旗、星条旗、ドむツ  。畜産の品評䌚に䞖界の旗、ずいうのは少し䞍思議な取り合わせに芋える。

共進䌚の䌚堎

朝の䌚堎。匕き手にゆっくり連れられお、黒毛和皮が䞀頭、たた䞀頭ず歩いおくる。競銬のパドックに䌌た静かな緊匵感。芋守る生産者ず関係者。

挚拶の䞭で、ひず぀の蚀葉に耳が止たった。「茞出」。和牛はいた、海倖に売れおいる。確かにそうだ。2025幎の牛肉茞出量は11,860トン、茞出額717億円で過去最高。だが——そんなに䟛絊力、あったっけ

出品祚ずいう、戞籍

䌚堎のあちこちに、出品祚が掲げられおいる。

「出品番号6号、みさき941、個䜓識別番号16915-9462-5、生幎月日 什和7幎7月3日、月霢10-24、父名号 千寿剣、母名号 みさ4、登録番号 黒2586021、埗点81.0、母の父名号 亀次郎、産地 隠岐の島町、JA名 隠岐地区本郚隠岐の島町、出品者 (æ ª)だんだん牧堎」。

別の出品祚には「7こずぶき16、月霢10-9、父 癟合久勝、母の父 暁之藀、産地 隠岐の島町、出品者 (有)村䞊建蚭」ずある。

戞籍のような蚘茉である。䞀頭の牛がい぀生たれ、誰の血を匕き、どこで育ち、誰のもずから出おきたのか。共進䌚は「牛の矎人コンテスト」ず説明されるこずが倚いが、出品祚を眺めおいるず、

共進䌚は、和牛ずいう遺䌝資源の品評䌚である。1966幎に始たった党囜和牛胜力共進䌚は、皮牛の郚ず肉牛の郚に分かれ、前者は生きた牛の䜓型・骚栌・血統を、埌者は枝肉のサシや肉色を審査する。重み付けは察等。「いたの肉の出来栄え」ず「次の䞖代を担う玠質」が、同じ䟡倀を持぀。今回は前者のみ実斜

「䞀歩前に出る」ずいう所䜜

午埌、䌚堎に戻るず、比范審査が始たっおいた。

審査員が出品牛を䞀列に䞊べさせ、暪から芋比べおいく。そしお、ある牛に向かっお短く指瀺が飛ぶ。「䞀歩前ぞ」。リヌドマンが牛を䞀歩進たせる。

これが、共進䌚の序列の䜜り方である。絶察点数で採点するのではなく、耇数頭を暪に䞊べお盞察評䟡で優劣を確定させる。牛の物理的な前埌䜍眮が、そのたた評䟡順䜍になる。スコアボヌドはいらない。牛の䞊びを芋れば、誰が勝っおいるか䞀目でわかる。畜産の口承文化に根差した、極めお芖芚的で、極めお残酷な栌付け方匏。

「䞀歩前ぞ」ず指瀺が出た瞬間、リヌドマンは飛び䞊がるほど嬉しい。3〜5幎の準備が、ようやく報われる瞬間。逆に「䞀歩埌ろぞ」ず䞋げられた時の凍り぀くような空気も、珟堎にはある。

䌚堎で「䞀歩前に出た」牛の出品者の顔を芋おいるず、これが単なる品評䌚ではないこずがよくわかる。地域の血統管理、繁殖技術、肥育の手間、そのすべおが、䞀歩の前進ずいう圢で公匏に承認される瞬間だった。

建蚭業者が、牛を匕いおくる

出品祚には泚目すべき蚘茉がある。

「出品者 (有)村䞊建蚭」。

建蚭䌚瀟が、共進䌚に牛を出しおいる。海士町で朮颚ファヌムを営む飯叀建蚭も建蚭業を本業ずするが、隠岐の島町の村䞊建蚭も同じ。隠岐4島には、本業を建蚭業に眮き぀぀、傍らで畜産を担う事業者が耇数ある。

離島の経枈では、ひず぀の産業が単䜓で立぀のは難しい。建蚭業の人手ず重機ず土地利甚のノりハりが、畜産の珟堎に流れ蟌む。逆に畜産が成立するこずで、堆肥や飌料の流通、蟲地の維持、集萜の景芳が保たれる。蟲業ず畜産が支え合い、建蚭䌚瀟が牛を飌い、産業の境界を越えお生業が線み目になっお、島の経枈が回っおいる。

では、束阪牛や神戞牛ずは䜕が違うのか

ここで、和牛ブランドの定矩そのものを比べおみたい。

束阪牛は、䞉重県束阪垂呚蟺で肥育されたものをいう。だが、子牛は兵庫県、宮厎県、鹿児島県など党囜から買い集めお、束阪で肥育する。぀たり束阪牛は肥育地ブランドであっお、産地ブランドではない。幎間出荷頭数は玄7,000頭。さらに䜆銬牛系の子牛を未経産のたた長期肥育した䞀郚のものを「特産束阪牛」ず呌ぶ階局構造を持぀。

神戞牛は、兵庫県内で生たれ育った䜆銬牛のうち、肉質等玚A4・B4以䞊、BMS No.6以䞊などの厳しい基準を満たしたものに䞎えられる称号。぀たり血統県内䞀貫品質ハヌドルの䞉重定矩ブランド。幎間出荷頭数は玄3,000頭。

そしお隠岐牛は、「隠岐郡内で出生から出荷たで䞀貫飌育されたもの」。幎間出荷頭数は月12頭で玄144頭。束阪牛の50分の1、神戞牛の20分の1。

ブランドの建付けが、根本的に違う。束阪牛は「日本䞭の優秀な子牛を束阪の肥育技術で仕䞊げる」ずいうネットワヌク型。神戞牛は「兵庫の䜆銬牛血統だけを厳栌管理で守る」ずいう閉鎖型。隠岐牛は「離島ずいう地理が、出生から出荷たでの䞀貫を物理的に匷制する」ずいう地理芏定型。

そしお頭数の桁が違う。束阪牛・神戞牛は「党囜の高玚ブランド」を匵れる芏暡を持っおいるが、隠岐牛はそもそも党囜流通網に䞊べる物量がない。

戊うのか、棲み分けるのか

ここが、共進䌚の䌚堎でずっず考えおいた問いだった。

結論から曞くず、隠岐牛は束阪牛・神戞牛ず同じ土俵では戊えないし、戊う必芁もない。

A5至䞊䞻矩のレヌスで本土の倧ブランドず正面から競うのは消耗戊である。月12頭の出荷で、党囜の癟貚店・高玚料亭ネットワヌクに䞊ぶのは構造的に䞍可胜。広告予算も、知名床の蓄積も、桁が違う。

だが、隠岐牛にしかない匷みもある。

ひず぀は、出生から出荷たでの䞀貫飌育ずいう定矩そのものが垌少だずいうこず。束阪牛は「束阪で肥育されたが、子牛時代は宮厎にいた」ずいうケヌスが倧半。神戞牛も䜆銬牛の血統管理は厳栌だが、肥育地は兵庫県内に広く散らばる。䞀頭の牛の生涯が、ひず぀の島の䞭で完結しおいる和牛ブランドは、和牛業界党䜓を芋枡しおもかなり少ない。

ふた぀目は、朮颚で育った藁、ミネラル豊富な氎、攟牧で確保される運動量ずいう飌育環境。「島生たれ島育ち」ずいう蚀葉が、マヌケティング䞊のキャッチではなく、物理的な事実ずしお成立しおいる。

みっ぀目は、芏暡の小ささそのもの。幎間144頭の垌少性は、量で勝負しない高単䟡垂堎では匷みになる。銙枯やシンガポヌルの星付きレストランで「幎間数十頭しか流通しない島の和牛」ずしお䞊べた時の物語性は、幎間3,000頭の神戞牛より、むしろ匷い可胜性すらある。

぀たり戊略の軞は、「束阪牛・神戞牛が取れない䜍眮」を取るこず。具䜓的には、サシ偏重から赀身の旚味ぞず動き始めおいる䞖界の味芚の䞭で、「島で䞀貫しお育った赀身和牛の最高峰」ずいうポゞショニングを取る。倧ブランドが芏暡を掻かしお癟貚店・高玚料亭に流れおいる間に、少量・高単䟡・物語売りのチャネルに深く根を匵る。

これは戊いではなく、棲み分け。和牛のオリンピックで「䞀歩前に出る」こずを目指す䞖界ずは別の、隠岐にしかできない勝負がある。

挚拶で「茞出」ずいう蚀葉が出おきた時、曞き手は「そんなに䟛絊力あったっけ」ず疑問を抱いた。だが調べおみるず、和牛茞出の本圓の意味は、倖貚皌ぎではなかった。

神戞倧孊の䞊田修叞氏らの研究によれば、2023幎の牛肉茞出は、茞出れロの堎合ず比べお枝肉卞売䟡栌を339.9円/kg抌し䞊げる䞋支え効果を生んでいた。1侇6,148トンの生産量増加、1,050億円の生産額増加。茞出は、囜内の生産基盀を䟡栌面から守る装眮ずしお機胜しおいる。

隠岐牛は党頭が東京食肉垂堎に出荷される。茞出によっお垂堎党䜓の卞売䟡栌が支えられるなら、その恩恵は隠岐の手取りにも届いおいる。茞出は遠い話ではなく、共進䌚の挚拶で語られるべき身近な話だった。

隠岐の畜産は、隠岐4島の連携で成立し、本土の垂堎で倀付けされ、䞖界の食卓ぞず連なっおいる。

サシは、ほんずうに矎味いのか

幎を重ねお、脂の倚い肉が苊手になっおきた。アメリカで食べた赀身のステヌキ——あの噛みごたえず、肉そのものの旚味の方が、いたの舌には合う。A5のサシをひずくち、ふたくちは倩囜だが、200gは食べきれない。

調べおみるず、これは和牛業界党䜓に静かに広がっおいる揺らぎでもあるらしい。サシ偏重の和牛肥育は、日本食肉栌付協䌚のBMS基準に最適化された結果ずしお成立しおきた。30ヶ月霢たでの長期肥育、ビタミンA制埡による霜降り䜜り蟌み——A5を取れば単䟡が跳ね䞊がる構造が、肥育の方向性を決めおきた。

ずころが䞖界の味芚は動いおいる。銙枯やシンガポヌルの星付きシェフでも「A5は脂が倚すぎる、A3〜A4のほうが料理に䜿いやすい」ず公蚀する人が増えおいる。フランス料理界では経産牛ブヌムが起き、東京の高玚店では岩手の短角牛、土䜐あかうし、無角和皮が指名買いされ始めた。

隠岐牛は、朮颚で育った藁ず、ミネラル豊富な氎ず、攟牧で確保される運動量で育぀。サシ偏重の栌付け基準では「歩留たりの悪さ」ず評される個性が、赀身の旚味で勝負する次䞖代の䞖界基準では、むしろ匷みになり埗る。「ないものはない」を掲げる海士町の哲孊ず、量より物語で勝負する次䞖代の和牛像は、思いのほか盞性がいい。

講評は、倧川慶次郎のパドック解説のようだった

比范審査が終わり、講評の時間になった。

審査員が、牛の良し悪しを語っおいく。専門甚語が静かに䌚堎に響く。

聞いおいお、ふず思い出した。倧川慶次郎さんのパドック解説である。

競銬のパドックで、呚回する銬を䞀頭ず぀芋お、銬䜓の良し悪し、毛艶、歩様、気配を読み解いおいく。「いい銬䜓ですねぇ」「今日は走りたすよ」。淡々ずした口調の䞭に、䜕十幎も銬を芋続けおきた人だけが持぀確信が滲む。

共進䌚の講評も、それに䌌おいた。淡々ず、しかし的確に、牛の良いずころず足りないずころが蚀葉になっおいく。リヌドマンも生産者も、その䞀蚀䞀蚀にうなずく。

牛にも、良いスタむルずいうものがあるらしい。それは「矎味そう」ずか「立掟」ずかいう玠人の語圙では捉えられない、もっず粟密な䜕かである。骚栌のバランス、皮膚の質、月霢に応じた発育、血統に裏打ちされた玠質。それらを総合した「この牛の胜力」が、講評の蚀葉に翻蚳されおいく。

考えおみれば、和牛は明治期から150幎かけお改良されおきた、人ず牛の共同䜜業の結晶である。改良の方向性を決めるのは、垂堎䟡栌や栌付け制床だけではなく、こうした共進䌚の講評の積み重ねでもある。「腰の入り方が良い」ず蚀われた牛の血統が、次䞖代の繁殖に遞ばれる。「胎の䌞びが足りない」ず蚀われた血統は、少しず぀淘汰される。講評は、和牛の進化の方向を決める投祚のような営みでもあった。

倧川慶次郎のパドック解説が、競銬ずいう賭けごずの䞖界に「銬を芋る楜しみ」ずいう別の局を加えたのず同じように、共進䌚の講評は、和牛ずいう産業に「牛を芋る文化」を埋め蟌んでいる。ただ高く売れる肉を䜜る話ではない。良い牛ずは䜕か、ずいう問いに、業界党䜓で答え続ける営みである。

䞀頭の牛の向こうに

共進䌚の朝、匕かれおきた䞀頭の牛の向こうには、いろんなものがあった。4島の繁殖蟲家が積み䞊げおきた血統の遞抜、本業を別に持぀事業者たちの支え合い、本土の垂堎、海倖の食卓、そしお倉わり぀぀ある和牛業界。挚拶のひず蚀「茞出」から、ここたで連なっおいた。

午埌、「䞀歩前ぞ」ず指瀺された牛がいた。リヌドマンが嬉しそうな顔をしおいた。あの䞀歩のために、䜕幎もかけお準備しおきたのだろう。

講評を聞きながら思った。牛にも、良いスタむルずいうものがあるらしい。そしお、それを芋抜く目が、隠岐にはある。

䞀䜍、二䜍に遞定された牛達

参考

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いいなず思ったら応揎しよう

Hiroyuki A い぀も枩かい目で読んでくださり感謝しおおりたす。この蚘事が少しでもお圹に立おたなら嬉しいです。皆さんからの応揎が私の創䜜゚ネルギヌずなっおいたす。スキやコヌヒヌ䞀杯のチップをいただけるず創䜜の倧きな励みになりたす。これからもよろしくお願いしたす。​​​​​​​​​​​​​​​​