日本はモグラ天国? ナゾ多き生物モグラの生態を知る
身近にいるのになかなかお目にかかれない不思議な動物モグラ。
その生態を“モグラ博士”こと川田伸一郎先生に教えてもらいました。
モグラはどこに棲んでいる?
モグラは、欧州からアジア、北米に分布する一方、南米やアフリカ、オーストラリアには生息していません。赤道以南にモグラがいない理由は、暑い地域では土壌動物が少なく、土が硬いため、生活が困難だからです。東南アジアだと山の上の方にしか生息していません。その点、日本は湿気があり、落ち葉が豊富なので、都市部の公園や果樹園にもモグラが棲んでいるという世界でも珍しい国です。なお、「モグラ塚」という土の盛り上がりを作る動物は日本ではモグラだけなので、モグラ塚があれば、その下にモグラのトンネルがあると分かります。


他にサドモグラ、エチゴモグラ、センカクモグラ、ヒメヒミズがいる 写真提供=川田伸一郎
モグラ特有の身体構造とは?
モグラ最大の特徴は、地中生活に適応した身体構造にあります。
成体の体長はだいたい10〜15cm。土を掘るのに使う大きな手は縦横比がほぼ同じで、円盤のような形をしています。これは手首の骨が、手の面積が最大になるように発達したと推測されます。加えて上腕骨の形状が、他の哺乳類とは異なり平らなのは、重量を増やさずに筋肉の付着面積を最大化するための進化の結果です。
また、少ない力で大きな力を生み出すために、肩甲骨も大変長く伸びており、胸骨も人間と比べて格段に大きく厚みがあり、そこに強力な筋肉が着いています。一方、後ろ脚は比較的よくある構造で、これは哺乳類全般に共通する特徴なため、モグラの進化の焦点は、あくまで前脚の特殊化にあるといえます。



地下の暗闇世界で生きるために
1)目と耳の退化
目は非常に小さく、視力も光を感じる程度。耳も小さな穴が開いているだけです。これらは地中移動の邪魔にならないよう、極限まで簡素化された結果です。
2)鼻先にある特殊な感覚器官
目と耳の代わりに発達したのが、鼻先にある感覚器官「アイマー器官」です。この器官は触覚に優れており、微細な振動や接触を敏感に感じ取り、餌に触れた瞬間に、それが食べられるかどうかを判断できます。

3)短いしっぽと感覚毛
狭いトンネルの中で、モグラはUターンすることなく前後に進めます。後ろ向きに進むとき邪魔にならないよう、尾は短め。また、尾にまばらに生えている毛は、刺激を感知できる感覚毛と考えられています。
トンネル網が生命線
モグラは縄張り意識が強く、通常1つのトンネル網に1 匹しか棲みません。他のモグラが侵入すれば、どちらかが死ぬまで戦うこともあるのです。その背景には、餌の確保という切実な問題があります。
モグラは莫大なエネルギーを費やして掘ったトンネル網で1日3回ほどの周期で活動しており、眠ったり、昆虫やミミズを探して食べたりする生活を送っています。1匹のモグラが棲むトンネルの総延長は300mに及ぶこともあり、広大な縄張りを維持するには他のモグラの侵入を許すわけにはいきません。餌を奪い合うと自分の生存が脅かされるためです。
モグラはトンネルの異常に大変敏感です。トンネルの壁に穴が開いたり異物が置かれたりすると、必ず修復します。この几帳面さは、トンネル網がモグラの生命線であることの表れでしょう。

ナゾに包まれた繁殖行動
モグラの生態で最も謎が多いのが繁殖行動です。普段は縄張りを厳守し、他の個体を徹底的に排除するモグラが、どのように繁殖相手と出会い、交尾に至るのか。この問いへの明確な答えは、まだ判明していません。おそらく繁殖期にメスがオスを受け入れる特別な時期があると研究者は推測しています。隣接する縄張りは地下のどこかでつながっており、その境界部分で匂いによるコミュニケーションが取られているというものです。オスは毎日巡回しながら、隣のメスの状態を匂いで確認し、受け入れ可能な時期を見計らって侵入するのかもしれません。
妊娠期間は約1カ月で、メスは落ち葉を敷き詰めた巣室の中で出産します。一度に3~5匹の子どもを産み、育児期間は約1カ月。その間に子どもたちは成体とほぼ同じ大きさに育ちます。育児期間が終わると、母親は子どもたちを排除します。成長した子どもは餌を奪い合うライバルになるからです。
話:川田伸一郎(かわだ・しんいちろう)さん
国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹。1973年岡山県生まれ。弘前大学大学院理学研究科生物学専攻修士課程修了。名古屋大学大学院生命農学研究科入学後、ロシア留学を経て農学博士号取得。著書に『標本バカ』『モグラ博士のモグラの話』『はじめましてモグラくん なぞにつつまれた小さなほ乳類』『モグラ 見えないものへの探求心』など。
取材・文=江越美保
