『星を返す日』
ここ、セレスの丘には生まれた瞬間に一人ひとつ「星」を授かるという言い伝えがあった。
その星はそれぞれ胸の奥にあって、 誰かを本気で愛したときだけ、夜空に一瞬だけ光るのだという。
しかし、どれだけ待っても自分の星は光らないと嘆くカイルという男がいた。
彼は、小さな頃から星空が好きだった。
友人たちは恋をしたり、結婚したり、子供が出来たときを思い出して、
「あの日、確かに光ったんだ」と笑う。
自分だけが、空っぽだった…
やがてカイルは老人になる。
一度も誰かを愛せなかった人生だったのだと諦め、 最後の夜、丘の上で星空を見上げる。
すると、隣に見知らぬ老婆が座っている。
「あなたも、星を返しに来たの?」
老婆は微笑んで言う。
彼女は名をジュディと言った。
彼女の笑顔を見ていると、なぜか懐かしい感覚が想いおこされる。
「私はね、ずっと待ってたの。
あの人に『愛してる』って言われる日を。
でも、結局言われなかったのよ。」
カイルも苦笑する。
「僕もだよ。 結局、誰のことも愛せなかった…」
二人は黙って空を見上げる。
その時、夜空に二つの光がゆっくりと浮かび上がる。
ジュディが小さく笑う。
「……ああ、そういうことだったのね。」
カイルは聞き返す。
「なにが?」
ジュディは空を見たまま答える。
「"愛"って、誰かに渡すものだと思ってた。
でも本当は私、誰かと一緒に
同じ空を見たかっただけだったんだ...」
二人の星は寄り添うように近づいて、
やがて二つに並ぶ流れ星になり、夜空を横切る。
翌朝、丘には誰もいなかった。
ところで、この言い伝えには続きがあった。
「夜空を流れる二つ並んだ流れ星を見た者は、 来世でもまた必ず、逢いたかった人に逢える」 というものだった。
