🌸 Ep1/b ちいさなひかり(低学年向)
この物語でさがしたい"こえにならないことば"
「がんばりたいけど、できない。でも、おもってる」
ちいさなひかり
~てるちゃんの雨の日ものがたり~
1. あたらしい命
六月のある日の夕方、ゆいちゃんのお母さんは、真っ白なハンカチをそっと結びました。
「てるちゃん。あした、えん足なの。だから、お天気になってほしいの」
ゆいちゃんの小さな手が、できたばかりのてるてる坊主をやさしくなでました。その時、ハンカチの中に、小さな心が生まれました。
――ぼく、がんばる。あした、きっと晴れにしてみせる。
新しく生まれたてるちゃんは、まど辺にぶらさがって、灰色の空を見上げました。雲がもくもくと重なって、今にも泣き出しそうでした。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
てるちゃんは、小さな声でつぶやきました。おとなりにぶらさがっている、お兄さんのてるてる坊主が、そっと話しかけてきました。
「てるちゃんは、今日生まれたばかりだね。ぼくは、もう三日間ここにいるんだ」
「お兄さん、どうしたら空を晴れにできるの?」
お兄さんてるてる坊主は、こまったような顔をしました。
「それがね…ぼくにも、まだよくわからないんだ」
2. 雨のうた
次の朝、ぽつり、ぽつりと雨がふり始めました。
ゆいちゃんは、まどを開けて、てるちゃんを見つめました。
「てるちゃん、今日はお天気にならないの?」
てるちゃんの心が、ぎゅうっと痛みました。ゆいちゃんの悲しそうな顔を見ていると、自分も悲しくなってきました。
――なんで?なんで雨がやまないの?
雨つぶは、とんとんと屋根をたたきます。のき下のつばめたちも、じっとすの中で雨やどりをしていました。
「つばめさん、つばめさん。雨をやませる方法、知らない?」
つばめのお母さんが、やさしく答えました。
「てるちゃん、雨にも大切なお仕事があるのよ。お花に水をあげて、川に水を運んで。だから、雨と仲よくしてみて」
「でも、ゆいちゃんが悲しそうなの」
「そうね…でも、きっと何かいい方法があるわ」
3. 雲の切れ間
三日目の午後、厚い雲の間から、ほんの少しだけ光がさしこみました。
てるちゃんは必死に空に向かってよびかけました。
「おひさま、おひさま!こっちを向いて!」
でも、光はすぐに雲にかくれてしまいました。
その時、となりのお兄さんてるてる坊主が、そっと声をかけました。
「ねえ、てるちゃんは一生けん命だね。ぼくは、もうつかれちゃった」
「つかれちゃダメだよ。ぼくたちの仕事なんだもの」
「でも…空って、こんなに大きいのに、ぼくたちって、こんなに小さいんだよ」
てるちゃんは、はっとしました。そうです。空は、とてもとても大きくて、自分は、とてもとても小さなそんざいでした。
4. ひとつぶのなみだ
四日目の夜、雨はますますはげしくなりました。
ゆいちゃんは、お母さんにだかれながら、まどの外を見つめていました。
「てるちゃん、おつかれさま。雨の日って、すてきだね」
え?
てるちゃんは、びっくりしました。ゆいちゃんは、もうおこっていないのでしょうか。
「雨つぶがなみだみたいにガラスを流れるの。でも、ちっとも悲しくなくて、きれいなの」
その言葉を聞いた時、てるちゃんの目から、小さななみだがひとつ、ぽろりと落ちました。
そのなみだは、まどガラスの雨つぶとまざり合いました。そのとき、てるちゃんは気づきました。
雨は、まるで、やさしく歌っているみたいでした。
♪ぽつり ぽつり ♪
♪水を 運ぶよ ♪
♪お花に あげるよ ♪
♪みんなを うるおすよ ♪
5. あたらしいつとめ
五日目の朝、てるちゃんは目をさましました。
まだ雨はふっていましたが、なぜだか心が軽やかでした。
つばめのお母さんが、すから顔を出しました。
「てるちゃん、昨日の夜、きれいななみだを流していたわね」
「え?見てたの?」
「ええ。あなたのなみだと雨つぶがまざった時、雨の歌は、前よりもやさしくなったわ」
てるちゃんは、ふしぎに思いました。自分は、雨をやませることができなかった。でも、何かが変わった?
お兄さんてるてる坊主も言いました。
「てるちゃんのなみだを見ていて、ぼくも気がついたんだ。ぼくたちの仕事は、雨をやませることだけじゃないのかもしれない」
「どういうこと?」
「雨の日を、もっとすてきにすることも、ぼくたちの仕事なんじゃないかな」
6. 小さな光
その午後、きせきがおこりました。
厚い雲の切れ間から、細い光のすじが一本、まっすぐにさしこんできたのです。
その光は、てるてる坊主の真っ白な体を通りぬけて、部屋の中に小さなにじを作りました。
「わあ!」
ゆいちゃんが、手をたたいてよろこびました。
「ママ、見て!てるちゃんがにじを作ってる!」
お母さんもほほえみました。
「本当ね。雨の日には、こんなきれいなものが見られるのね」
てるてる坊主の心は、あたたかい光でいっぱいになりました。
――ぼく、できたんだ。雨はやませられなかったけれど、ゆいちゃんを笑顔にできた。
7. あたらしい始まり
その夜、雨は静かに上がりました。
あくる朝、てるてる坊主が目をさますと、空には美しい青空が広がっていました。
ゆいちゃんは、てるちゃんをまどから下ろすと、そっとだきしめました。
「ありがとう、てるちゃん。雨の日も、晴れの日も、いっしょにいてくれて」
えん足は、えん期になりましたが、ゆいちゃんはちっとも悲しくありませんでした。雨の日に見た小さなにじの美しさを、ずっとおぼえていたからです。
てるちゃんは、知りました。
自分の仕事は、ただ雨をやませることではなく、どんな日でも、小さな光をとどけることなのだと。
そして、時にはなみだを流すことも、けっして悪いことではないのだと。
なぜなら、そのなみだが、新しい美しさを生み出すことがあるから。
まど辺で風にゆれながら、てるちゃんは空を見上げました。そして思いました。
「今度雨がふった時には、雨といっしょに歌を歌おう」
おわり
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📚 この物語は、年齢に合わせて3つのバージョンをご用意しています
対象 | 特徴 |表記
🌸【幼児向け】3〜5歳 | ひらがな中心・読み聞かせに最適 | Ep1/c
🌿【低学年向け】5〜9歳 | 小学校低学年の一人読みに | Ep1/b
🌟【一般向け】9歳〜おとな | 深い感動をお届け | Ep1/a
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