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🌸 Ep2/b おもいでのあかり(低学年向)

おもいでのあかり

この物語で探したい "こえにならないことば"

「わすれたくない。けど、あたらしい大事もある」

1. さよならの日

「ぽんちゃん、どこ?ぽんちゃーん!」 みおちゃんの声が、からっぽになったお部屋に響きました。

小さなくまのぬいぐるみ、ぽんちゃんは、クローゼットの奥で、じっと隠れていました。大きなダンボール箱のかげに隠れて、だれにも見つからないように。

「みおちゃん、急がないと、引っ越しトラックが出ちゃうよ」 お母さんの声が聞こえました。

「でも、ぽんちゃんがいないの」 「きっと、もうトラックの中にいるわ。さあ、行きましょう」

足音が遠ざかっていきます。玄関のドアが、ばたんと閉まって、部屋の中はしーんとなりました。

ぽんちゃんは、小さく震えていました。本当は、みおちゃんにぎゅっとだきしめてほしかった。でも、どうしても動けませんでした。新しいお家に行くのが、なぜだか怖かったのです。

2. ひとりぼっちの暗やみ

夜がやってきました。 電気のついていない部屋は、真っ暗でした。お月さまの光だけが、まどからほそく差し込んでいます。

ぽんちゃんは、クローゼットの中で、小さく丸くなっていました。

――みおちゃん、新しいお家で、ぽんちゃんを探してる?

むねが、きゅうっと痛みました。みおちゃんの悲しい顔を思い出すと、ぽんちゃんも悲しくなりました。

「こんばんは」 ふと、やさしい声がしました。見ると、本だなのすみから、古い絵本が、ひょっこり顔を出していました。

「君も、わすれられちゃったの?」 ぽんちゃんは、こくんとうなずきました。

「ぼくはね、もう二年もここにいるんだ。でも、さびしくないよ」 「どうして?」 「だって、読んでもらった時のことを、ちゃんとおぼえているから」

絵本は、やさしくほほえみました。

3. 光る思い出

「君は、どんなことをおぼえているの?」 絵本に聞かれて、ぽんちゃんは、そっと目を閉じました。

すると、心の奥から、あたたかいものがわいてきました。

みおちゃんが、まだ赤ちゃんだった頃。小さな手で、ぽんちゃんの耳をぎゅっとにぎっていたこと。

みおちゃんが、はじめて歩いた日。ころんで泣いた時、ぽんちゃんをぎゅっとだきしめて、笑ってくれたこと。

みおちゃんが、お熱を出した夜。いっしょに寝て、ぽんちゃんをだいてくれたこと。

お買い物の時も、公園の時も、いつもいっしょだったこと。

「わあ......」 思い出を思い出していると、ぽんちゃんの体が、ぽうっとやさしく光りました。あたたかくて、やさしい光でした。

「すてきだね」絵本が言いました。「君の中には、みおちゃんの心が、たくさんつまっているんだね」

押し入れのすみから、小さな積み木も、ひょっこり顔を出しました。

「ぼくもそうだよ。見て!」 積み木も、ほのかに光っていました。

「ぼくたちはね、わすれられたんじゃないんだ」絵本が静かに言いました。「大切にされた時のことを、ちゃんとおぼえているんだよ」

4. 新しい家族

三日後の朝、玄関のドアが開きました。

「わあ、広いお部屋!」 元気な男の子の声が、部屋中に響きました。たろう君という名前でした。

「前の人が、忘れ物してるよ」 たろう君のお母さんが、絵本を見つけました。

「あら、かわいいぬいぐるみもいるわ」 ぽんちゃんは、見つかってしまいました。お母さんのやさしい手が、ぽんちゃんをそっとだき上げました。

「前のお家のものだから、連絡してみようか」お父さんが言いました。 「でも、連絡先なんてわからないわ......」

たろう君が、ぽんちゃんをじっと見つめました。 「このくまさん、なんだか悲しそうだよ」

ぽんちゃんは、びっくりしました。たろう君には、自分の気持ちがわかるのかな?

「きっと、前のお家の子のことが、大好きだったんだね」 たろう君の手が、ぽんちゃんの頭をそっとなでました。

その しゅんかん、ぽんちゃんの心に、新しいあたたもりが生まれました。

5. つながる心

その夜、たろう君は、ぽんちゃんをまくら元に置きました。

「くまさん、ぼくのこと、友だちになってくれる?」 ぽんちゃんは、心の中で答えました。

――ぼく、みおちゃんのことを、まだわすれられないよ。でも、たろう君のことも、大好きになりそう。

「前のお家の子のことも、ずっとおぼえててね。ぼくも、くまさんが幸せだった時のことを、大切にするから」

たろう君の言葉に、ぽんちゃんのむねが、ぽっとあたたかくなりました。

たろう君は、わかってくれるんだ。ぼくが、みおちゃんのことを、どんなに大切にしてたか。

たろう君がねむった後、ぽんちゃんは、絵本と積み木に、そっと話しかけました。

「ありがとう。おしえてくれて」 「どういたしまして」絵本がにっこりほほえみました。「ぼくたち、新しい光を見つけたね」

ぽんちゃんの体が、前よりも、少しだけ、明るく光っていました。

みおちゃんとの思い出の光と、たろう君への新しい気持ちの光が、いっしょにかがやいていたのです。

6. ふたつの笑顔

一週間後、たろう君は、ぽんちゃんに新しい名前をつけました。

「ぽんぽん!」 ぽんちゃんににているけれど、少しちがう名前。

でも、ぽんちゃんは、それがとてもうれしかったのです。

みおちゃんの「ぽんちゃん」でもあり、たろう君の「ぽんぽん」でもある。 二つの名前を持っていることが、なんだかほこらしく感じました。

たろう君は、ぽんぽんを連れて、公園に行きました。

ぽんぽんは、たろう君の笑顔を見ながら、ふと思いました。

――みおちゃんも、今ごろ笑っているかな。

風がほおをなでていきました。その風は、どこか遠いところから吹いてきたような気がしました。

もしかしたら、みおちゃんのところからかもしれません。

ぽんぽんは、風に向かって、小さく手をふりました。

――みおちゃん、ぽんちゃんは元気だよ。新しいお友だちができたよ。でも、みおちゃんのこと、わすれたりしないからね。

夕日が、ぽんぽんとたろう君を、やさしく照らしていました。

7. 愛のバトン

夜、ぽんぽんはまど辺に座って、星を見上げていました。

絵本が、となりにやってきました。 「どう?新しい生活は」 「とてもすてき。でも、ちょっとふしぎなの」 「何が?」 「みおちゃんのこと、わすれちゃいそうで怖かったのに、たろう君のことを好きになるほど、みおちゃんのことも、もっと大切に思えるの」

絵本は、深くうなずきました。 「それが、心のふしぎなところだね。だれかを大切にすると、他の大切なことも、もっと大事になるの」

積み木も、そっと近づいてきました。 「ぼくたちは、バトンをわたしてるんだね」 「バトン?」 「うん。前の子からもらったあたたもりを、次の子につないでいくんだ。リレーみたいに」

ぽんぽんは、自分の体を見下ろしました。 みおちゃんからもらったあたたもりと、たろう君にあげたいあたたもりが、いっしょに光っていました。

「ぼく、がんばる。たろう君にも、みおちゃんがくれたのと同じくらい、たくさんのやさしさをあげるよ」

星たちは、きらきらとまたたいていました。 まるで、「がんばってね」と、おうえんしてくれているようでした。

8. 新しい物語

それから、たくさんの日が過ぎました。 たろう君とぽんぽんは、毎日いっしょに過ごしました。

ころんで泣いた時、ぽんぽんをぎゅっとだきしめるたろう君。 お熱を出した夜、ぽんぽんをまくら元に置いて、すやすやねむるたろう君。

その度に、ぽんぽんは思いました。

――みおちゃんも、きっとこんな気持ちだったんだね。 だれかを大切に思うって、こんなにあたたかいことなんだね。

ある日、たろう君がぽんぽんに話しかけました。 「ぽんぽん、今度お家に、赤ちゃんが来るんだって!」

ぽんぽんは、びっくりしました。

「その時は、ぽんぽんもいっしょに、赤ちゃんのお世話をしてね」

ぽんぽんの心に、また新しい光が生まれました。 今度は、赤ちゃんにも、やさしさをあげられるかもしれません。

バトンは、まだまだ続いていくのです。

まどの外で、春の風がほおをなでていきました。 どこか遠いところから吹いてきた風は、新しい季節のかおりを運んできました。

ぽんぽんは、ほほえみました。

みおちゃんからもらったあたたもり。たろう君にあげるやさしさ。 そして、これから出会うかもしれない、たくさんの大切な気持ち。

すべてが、ぽんぽんの小さな体の中で、きらきら光っています。

わすれられることは、おわりではありませんでした。 新しい物語の、始まりだったのです。

おわり




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📚 この物語は、年齢に合わせて3つのバージョンをご用意しています
   対象       |  特徴            |表記
🌸【幼児向け】3〜5歳 | ひらがな中心・読み聞かせに最適 | Ep1/c
🌿【低学年向け】5〜9歳 | 小学校低学年の一人読みに   | Ep1/b
🌟【一般向け】9歳〜おとな | 深い感動をお届け     | Ep1/a

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