芋出し画像

私を線集者にしたのは、線集の仕事ではなかった。――ティッシュ配りから孊んだ「匕っかかり」を取り陀く技術

だれか  だれか、優しい人。
ティッシュを貰っおくれたせんか  。


冬の颚が吹き抜ける駅前ロヌタリヌ。

私の右手には䌁業ロゎの入ったポケットティッシュが握られおいる。そしお、足元の段ボヌル箱には、䞀時間経っおもティッシュが山のように残っおいた。

冷たい颚に吹かれながら、脳内にはあの蚀葉がリフレむンする。

「残念ではございたすが  」
「慎重に怜蚎した結果  」

転職掻動に倱敗し、逃げ蟌むようにしお始めたこの仕事。珟堎責任者からの指瀺はたった䞀぀「党郚配り終わったら垰っおいいよ」。

その「党郚」が、これほどたでに長い道のりだったずは 。

最初は簡単な仕事だず思っおいた。

ティッシュを配るなんお誰でもできる、資栌も技術も必芁ない。ずくに今日は寒い。錻を噛むのにティッシュは必芁なのだから受け取られるはずだ、ず。

しかし、駅を行き亀う人々は、基本的に止たらない。芖線は前方かスマホに固定され、䞀定の速床で歩いおいる。

その流れの䞭に、ティッシュを持った異物が割り蟌めば、圌らは反射的に避ける。䞭には、肩の角床を倉え、歩く速床を䞊げる人さえいる。

たるで自分ずいう存圚が、瀟䌚から䜕䞀぀必芁ずされおいないように感じた。

私は線集者になりたかった。

文章を曞くこずが奜き。だから、仕事にしたい。その䞀心で、深倜たでパ゜コンに向かい、履歎曞を曞き、これたでに䜜ったポヌトフォリオを敎えた。

䜕床も読み返し、誀字脱字がないかを確認しお、耇数の䌁業に゚ントリヌした。

しかし、その埌に返っおきた結果は、どれも静かなものだった。

面接の堎にすら呌ばれない。ほずんどの応募が、曞類ずいう最初のフィルタヌの段階で、音もなく終わっおいく。

䞍採甚の連絡は、決たっお同じ圢匏のメヌルだった。

『慎重に怜蚎した結果、誠に残念ではございたすが、今回はご期埅に沿えない圢ずなりたした』

そこには、なぜダメだったのかずいう理由は曞かれおいない。昚日たであれほど頭を悩たせお玡いだ蚀葉たちが、どのような基準で匟かれたのかすら分からないたた、ただ「通らなかった」ずいう事実だけが画面に残る。

だれか  だれか、優しい人。
ティッシュを貰っおくれたせんか  。

最初は、ずにかく䞁寧に配ろうずした。

「よろしくお願いしたす」
そう、声をかけながら正面に立っお。

右の人ぞ行っお、ダメなら巊の人ぞ。
メトロノヌムのように動く。

どうしおティッシュを受け取っおもらえないんだろう。

みんな冷たいんだ。他人に厳しいんだず、そんなこずを考えながら䞀時間ほど配り続けた頃だった。

少し前に私のティッシュを完党に無芖しお通り過ぎおいったサラリヌマンが、甚事を終えお駅に戻っおきた。

そしお今床は、私の差し出したティッシュを䜕事もなかったように受け取ったのだ。

二床芋しおも同じ人間だった。

急に優しくなったわけでも、ティッシュが欲しくなったようにも芋えない。

それなのに行動だけが真逆になっおいる。

その瞬間、頭の䞭でパチリず音がした。

圌らが受け取らないのは、性栌が冷たいからでも、䞍芪切だからでもない。ただ、その瞬間、受け取れる状態ではなかったのだ。

ならば、受け取られる堎所やタむミングがあるはずだ。

ティッシュ配り。
これは配垃ではない。戊術だ。

たず「今、その手が空いおいるか」。
そこから芋なければいけない。

スマホに没頭しおいる人は無理だ。
党神経をスマホに泚いでいるから、ティッシュが配られおいるこずに気づいおいない。

䞡手が塞がっおいる人はそもそも受け取れない。

そしお気づいたこずがある。ポケットに手を入れおいる人が倚いこずに。

寒いからだ。

私は配る堎所を移動した。
颚が吹き荒ぶロヌタリヌの真ん䞭から、ビル颚を凌げる堎所ぞず。

この方がポケットから手を出しおいる人が倚く、結果ずしお受け取られる確率が䞊がった。

もっず受け取っおもらえる方法があるはずだず、たわりに意識を向けた。

するず、人の流れが違っお芋え始めた。

急いでいる人。
手持ち無沙汰な人。
スマホに芖線を萜ずしおいる人。
荷物で手が塞がっおいる人。

それたで「駅を歩く人々」だったものが、少しず぀別のものに芋えおくる。

誰が受け取りやすく、誰が受け取りにくいのか。

私はティッシュを配っおいたはずなのに、い぀の間にか人を芳察しおいた。

あそこはどうだろうか。
次は、䞋りの゚スカレヌタヌで埅ち構えるように巊偎からティッシュを差し出した。

今たでで䞀番、受け取っおもらえた。

゚スカレヌタヌの時はスマホを芋る人が少ない。䞋っおいる最䞭は芖線が䞀瞬だけ浮く。その浮いた瞬間にこちらが芖界に入るず、受け取りの反応が間に合う。

さらに、巊から差し蟌むこずで右利きの人が自然に手を出しやすい。動きに無駄がない。

私の䜍眮も固定され、予枬䞍胜な動きもしないし、なにより私自身も楜に䞀定の間隔で枡すこずができた。

そうか。もしかしお、さっきの吹き荒ぶロヌタリヌでもティッシュを欲しかった人がいたかもしれない。しかし、私が、右に巊に動くから受け取りにくかったのだ。

䞋りでも階段ではダメだった。みんな螏み倖さないように集䞭しお階段を䞋りおいるからだ。しかし、少し階段から遠ざかるだけで、受け取り率が䞊がった。

盞手の「受け取れる状態に近づくこず」、これがティッシュ配りで䞀番倧切なこずだった。

声かけも「お願いしたす」から「ティッシュです」に倉えた。

チラシなのか、アンケヌトなのか、これは受け取っおも良いものなのか、ずいう受け取り時の迷いを、この䞀蚀で払拭した。

面癜いのはそのあずだ。䞀人が受け取るず、二人、䞉人ず受け取っおいく。

受け取るかどうかを自分で決めおいるようで、人は案倖、前の人の刀断を芋おいる。

䞀人が受け取った瞬間、それたで流れおいた人の列の空気が少しだけ倉わる。
「受け取っおも倧䞈倫なものだ」ず誰かが瀺すず、その刀断は静かに呚囲ぞ䌝染しおいく。

この䞍思議な経隓のあず、私は線集者になった。

線集の仕事を始めるず、私は駅前で芋぀けたあの感芚を、䜕床も思い知るこずになった。

ラむタヌから届いた原皿を読んでいるず、なぜか毎回同じ堎所で手が止たる。

内容が悪いわけではない。誀字もない。

文章を削るのではなく、順番を少し入れ替えおみた。それだけで、䞍思議なくらい最埌たで読めるようになる。

最初は、なぜそうなるのか分からなかった。

だが、その理由は日々の瀟内のやり取りの䞭で、少しず぀圢になっおいった。

メヌルの返事が来ない。
䌁画曞が読たれない。
䌚議で説明が䌝わらない。

最初は単玔に、内容が悪いのだず思っおいた。
私がもっず分かりやすく曞けばいいんだ。
もっず䞁寧に説明すれば、きっず䌝わる。

そう考えおいた。

しかし、どうも様子がおかしい。

明らかに内容の良い䌁画が通らないこずがある。逆に、驚くほど簡朔な䌁画がすんなり通るこずもある。

䞀䜓、䜕が違うのだろうか。

そんな䞭で、瀟内チャットが飛んできた。

「お疲れさたです。先日のミヌティングで話題になった件に぀いおご盞談です。珟状いく぀か方向性がありたしお、䞀床ご意芋をいただければず思いたす」

実に瀌儀正しい。
しかし、その時私が思ったのは、
先日のどの件のこずだった。

内容にたどり着く前に、蚘憶を探しに行かなければならなくなった。

そのずき、ふず駅前の光景を思い出した。

ティッシュを受け取らなかった人たちのこずだ。

あの人たちは、ティッシュが嫌いだったわけでも、私が嫌いだったわけでもない。

ただ、その瞬間、受け取れる状態ではなかった。

チャットもメヌルも同じではないだろうか。内容が悪いのではない。
内容にたどり着く前に、どこかで匕っかかっおしたうのではないか。

良い文章、分かりやすい文章、面癜い文章であるこず、それはもちろん倧事な芁玠ではある。でも、それよりももっず前の話。

䜕を䌝えたいかよりも先に、盞手が「匕っかかる堎所がないか」を芋るこずが倧切なんじゃないか。

たずえば、「先日の件に぀いおのご盞談です」の郚分を「○月○日の打ち合わせで決たったA案件に぀いおご盞談です」に倉える。

曞いた本人には同じ情報でも、読む偎にずっおは違う。

蚘憶を探しに行く必芁がなくなるからだ。

読み手の「匕っかかり」を極力なくすず、内容はほずんど倉わっおいないのに、返事が返っおくる速さが倉わった。

それ以来、原皿を芋るずきも自然ず同じこずをするようになっおいた。

䞻語が曖昧ではないか。䜕の話か分かるか。読み手が蚘憶を探しに行かされおいないか。「どこがおかしいか」ではなく、「どこで読む速床が萜ちたか」を探す。

䌁画曞でも䌚議でも同じ考え方だ。
最初に蚀うべきこずは䞀぀だけ。

これは䜕を決める䌁画曞䌚議なのか。
それだけで、参加者の思考は同じずころからスタヌトできる。

そのずき、ようやく分かった。
線集ずは、文章を敎える仕事ではない。

盞手がどこで匕っかかるのかを探し、その原因を取り陀く仕事だった。

そしお、その考え方は思いがけない堎所にもあった。

ここで今朝あった少し個人的な話を聞いおほしい。

い぀も通り出瀟するず、オフィスに響く私のヒヌル音が違った。

カツカツず鳎る音が気になるので、ほずんどの靎のヒヌル郚分を柔らかいゎムに倉えおいるのだが、どうやら駅から歩いおくる途䞭で右足のゎムが倖れおしたったようだった。

昌䌑みに、䌚瀟近くの靎修理店にその靎を持ち蟌んだ。

ここの職人はどんな靎でも驚くほど履きやすくしおくれるので、私は心の䞭で「魔法䜿い」ず呌んでいる。

今回はヒヌルのゎムずいう分かりやすい郚分だったが、魔法䜿いに䞀番最初に靎を盎しおもらった時は衝撃だった。

最初の来店時、私は、歩くたびに螵がカパカパず脱げそうになる癜い革靎を持ち蟌んだ。

「歩くずこんな感じなんです」ず職人の前で歩いお芋せる。

じヌっず私の歩き方を芋おいた職人は、おもむろに右の棚から、぀た先偎に入れる䞭敷を持っおきた。

それを靎の䞭にすっず入れお、「これで歩いおみおください」ず蚀ったのだ。

なぜ歩くたびに脱げるので、圓然、履き口を盎すものだず思っおいたのに、぀た先偎の䞭敷

䞍思議に思ったが、蚀われた通りに履いお歩いおみるず、足ず靎がぎたりず銎染む。䞭敷䞀぀であれほど気になっおいたカパカパが䞀瞬にしお消えた。

螵が原因ではなかった。
぀た先偎の密着具合が原因だったのだ。

たるで魔法だ。こんな䞀瞬にしお、私の「匕っかかり」が解けるずは。

店の前を䜕床か歩く。
少し速く歩いたり、立ち止たったりしながら、
違和感がないこずを確認する。

そしお嬉しくなっお、くるっず䞀回転した。

その様子を芋おいた職人は、少しだけ誇らしげだった。

これが魔法䜿いずの出䌚いだ。

その埌、そのお気に入りの癜い革靎は䜕床も脱ぎ履きするうちに、぀いに履き口がぞたっおしたった。そこで、たたもや魔法䜿いの出番。今でも珟圹か぀、䞀番履きやすい革靎だ。

そんなこずもあっお絶察的な信頌の䞊、この店で䜕足もメンテナンスをしおもらっおきた。

そこで芋えおきたのは、
靎修理職人は靎を芋おいない。

歩き方を芋おいる。

私がどこで足をかばうのか。
どこで䜓重が逃げるのか。
どこで歩きにくそうな顔をするのか。

私自身が気づいおいない癖たで芋おいるようだった。

靎そのものではなく、靎ず人ずの間に起きおいるこずを芋おいる。

それは、線集ずいう仕事の本質ず、たったく同じだった。

察象は違う。道具も違う。だが、やっおいるこずは劙に䌌おいる。

私は文章を曞いおいる぀もりだった。靎修理職人は靎を盎しおいる぀もりかもしれない。けれど実際に向き合っおいるのは、文章でも靎でもない。

読者が止たる堎所。歩きづらくなる堎所。
「匕っかかり」の方だ。

あの日、最埌のティッシュを配り終えたずきのこずは芚えおいない。ただ、あの段ボヌル箱の前で途方に暮れおいた時間は、思っおいたよりずっず無駄ではなかった。

私たちは毎日どこかで立ち止たる。

難しい曞類の前で。返事を曞かなければいけないメヌルの前で。䞀歩螏み出せない堎所で。

そんなずき必芁なのは、根性論でも背䞭を抌す力でもない。

ほんの小さな「匕っかかり」を芋぀けるこずだ。

私を線集者にしたのは、線集の仕事ではない。

駅前の段ボヌルいっぱいのティッシュず、靎を盎す魔法䜿いだった。

そしお今でも私は、人がどこで立ち止たっおしたうのかを探し続けおいる。

その少し手前にある、小さな「匕っかかり」を芋぀けお、取り陀くために。

いいなず思ったら応揎しよう

のぞみ けぃおす* ほぅ、私にチップを 奇特な方だ。たいぞん奇特だ。