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時を止めるバーミヤン

いま日本で、空前の大ブームとなっている中国料理「麻辣湯マーラータン」。

私の会社の近くにも専門店があるのだが、少し前まで歩道に溢れんばかりの長蛇の列ができていた。

麻辣湯とは、花椒ホアジャオの舌が痺れる「マー」と、唐辛子のヒリヒリする「ラー」が効いたスープに、自分好みの具材や麺を合わせて煮込む料理だ。

あの行列は、一説によると「具材を一から選ぶため一人あたりの所要時間が長くなり、結果として行列が伸びているだけ」という身も蓋もない説もあるらしいが、それにしてもすごい人気である。

麺の種類も豊富で中華麺や豆腐麺などもあるが、定番はモチモチ食感の極太「板春雨タンミョン」だという。

ミーハーな私としては、当然この流行の波には乗っかっておきたい。

しかし、なにぶん「具材を一から全部自分で選ぶ」という作業が圧倒的に面倒くさい。

うーむ、無理だ。

そう諦めかけていたある日、たまたま入った「バーミヤン」のメニューに「麻辣湯」を発見した。

並ばなくていい、選ばなくていい。
あなたは、そのままのあなたでいいの……。

バーミヤンがそう言ってくれた気がしたのだ。

そうして運ばれてきたのが、これだ。

1,044円(税込)


……辛そう〜〜〜!!!


さっそく実食。
麺をひと啜り。

……。
あ。

忘れてた〜!!
私、痺れる辛さがダメなの〜!!


なんでこれをチョイスしちゃったんだ。

しかし私には、「食べ物を残すは恥」という武士道がある。

なんとかひぃひぃしながら食べ切った先に残ったのは、落武者だった。

しかし!


バーミヤンの本当の凄さは、ここからだ。
見てほしい、これを。

なんと、ボトルキープができる。


黒霧島やいいちこのボトルが、税込1,869円。

これを1本買えば、どういうわけか6ヶ月間もキープできるのだ。

しかも、その間のお湯、お水、氷はすべて無料。

どうしてそんな慈善事業を??


さらに恐ろしいことに、ドリンクバーを税込175円でセットで付けられる。

つまり、お茶割りもジュース割りも、好きなだけ作り放題。

なんで??迷いはなかったの?

企画会議で「でもボトル管理するの大変だしっ」って誰か言わなかったの?

チームが一丸となって
「ボトルキープ……やりましょう!!」ってなったってこと?

すごくね?バーミヤン。

しかも、これってさ、
もちろん混んできたら速やかに退店するとして、混んでいなかったら……

住んでいいってこと?


話が飛躍しすぎて、よく分からない良い子のみなさん。なぜボトルキープ=住んでいいになるんだよ、とお思いでしょう。

大丈夫です。あなたの感覚の方が絶対的に合っています。その上で、私が酔っ払いの気持ちを代弁しますね。

いいですか…。みなさん、落ち着いて聞いてください。

酔っ払いというのはなかなか帰りません。

お察しの通り、酔っ払いの「あと一杯だけ」には、なんの意味もありません。露ほどにもそんなこと思っていないんです。

では、実際、その時に酔っ払いが何を思っているのか。

本当は「帰るの面倒くさいなぁ。もうここに住んじゃおうかなぁ」と思っています。

なので、ボトルキープができる店というのは、酔っ払いの受け入れを許可している、もしくは酔っ払いに住みつく隙を与えてしまっている状態なんですね。

バーミヤンは私に、
「並ばなくていい、選ばなくていい。あなたは、そのままのあなたでいいの……」と言ってくれた(気がした)。

つまり、ボトルキープができるということは、「今日からここを我が家だと思って暮らしていいよ」と、バーミヤンの親会社である、すかいらーくが公式に宣言しているようなもの。

懐が深すぎるだろぉ!!!

どうしてそんなに優しいの?

バサァっと羽を大きく広げて、優しく微笑むすかいらーくの鳥の姿が、私にははっきりと見える。

すかいらーくの鳥
※イメージです


こちらはただ、その温かでフワフワの胸のなかにいざなわれ、キープした「いいちこのボトル」を抱えて「うふふ、あはは」としているだけで良い。

バーミヤンの店のロゴは桃のマークだが、つまり桃源郷をイメージしているということだろうか?

あ、違うらしい。

桃李不言、下自成蹊とうりものいわざれども、したおのずからこみちをなす」という中国の故事が由来らしい。
桃やすももは何も言わなくても、花や実を求めて人が集まり、その下には自然と道ができる、という意味だそうだ。
……言い方は違えど、言ってることは完全に桃源郷である。

桃源郷…。

そう考えると、私はここで、とんでもないことに気づいてしまった。


私は普段、バーで飲むとき「20分で一杯飲まないと迷惑かな」などと考えてしまう。

「バーで一杯2,000円のカクテルを20分で飲む」

「バーミヤンで1,869円のボトルを6か月かけて飲む」

お分かりだろうか…。
たった131円しか違わないのに、

流れている時間がまるで違うのだ。

バーでは、2,000円を払って20分が過ぎる。
バーミヤンでは、1,869円を払って6ヶ月が過ぎる。


つまり…。

バーの人からバーミヤンにいる私を見ると、完全に止まっているように見えるということだ。

そんなことある?!
同じ世界にいるのに、次元が違うってこと?!

家賃も実質タダみたいなもんだし、今すぐ荷物をまとめてバーミヤンへ向かいたい。
次に私が投稿を更新しなくなったら、まあ……察してほしい。

私はきっと、すかいらーくの鳥の胸の中で、いいちこのボトルを抱え、微笑みながら止まっている。

今日からお世話になります。
不束者ですが、どうぞよろしく。

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のぞみ けぃおす* ほぅ、私にチップを? 奇特な方だ。たいへん奇特だ。