フィリア I-3
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(はあー、今日もやっと終わった)
終業後に店で買ってきた冷たい缶ビールを持ったまま歩は大きく両腕を天井に向かって伸ばし、昼間にため込んでいたものをようやく吐き出せるとばかりにしっかりとため息をついて自分を労った。
〝ブルッ〟
歩は湯を入れたカップラーメンの蓋を開けようとしたが着信に気づいてスマートフォンへ手を伸ばした。
「お、理来だ」
小学校以来の友人から三カ月ぶりの連絡だ。
(へぇー、仕事でチームリーダーを任されて大変だったんだ。
それでか、最近連絡来なかったのは)
返信しようと入力欄をタップしたのと同時に写真が送られてきた。
バーベキューをしている理来と、同僚と思われる人たちが写っている。
〝会社の親睦会〟とコメントも後から送られてきたので、〝楽しそうだな〟と返信してから、歩はようやくカップの蓋を開けて僅かに伸びてしまった麵をすすり、ビールを一口飲んだ。
(正社員か……)
昼間に斉田から言われた言葉を思い出し、ぼーっと壁を眺めていると、ふと部屋の角に置いてある木製のカラーボックスが視界に入った。
一番下の段には読み終えた雑誌や小説が数冊、倒れそうに傾いたまま並んでいるが、隅っこの方でキリっと立っている学生時代の卒業アルバムが目にとまり、なぜだか手に取ってみたくなった歩は棚から引っ張り出してきて適当なページを開いた。
「おー、懐かし!」
写真に納まった同級生や教師の多くはマスクをしている。
(いやもう、今となっては別世界みたいだ)
当時世界中で起きたパンデミックの影響により、卒業アルバムはマスク姿の同級生たちで埋め尽くされていた。
歩は一枚づつゆっくりとページをめくりながら、平穏な日々を送っている今とのギャップが余りにも大きいと感じ、〝これが本当に自分の過去なのだろうか〟とさえ感じてしまった。
(あの頃は今よりもうちょっとやる気あったような気がするな……)
ふと思い出した時くらいしか見ることがないのだからと最後のページまでパラパラめくっていると、文化祭の準備をしている理来と一緒に写った写真を見つけた。
(お、いたいた。理来もめっちゃ元気だったよな)
写真の中で大げさに笑う二人の顔を見ているうちに歩の顔も自然とほころんでいた。
パンデミックが起こるより以前、歩と理来は暇さえあれば学校帰りにカラオケに足しげく通っていた。
二人にとってはその時間だけが唯一幸せを感じられる拠り所だったのだ。
当時に想いを馳せながら、さっき送られてきた、部下たちと楽しそうに笑う
理来の写真を眺めていたら、歩は自分が急に情けなく思えてきた。
いつからこんな気持ちになってしまったのか記憶を辿ろうとしたが、やはり嫌な気持ちになりそうな気がして、すぐに考えるのをやめた。
「今日は、もう寝る」
誰に言うでもなく口をついて出た〝寝る〟という言葉が、昼間店の休憩室で寝ていた時に見た夢の場面を思い起こさせた。
(奇妙な夢だったな……。って、まだ覚えてる!)
夢の内容をまだ覚えていたことに気味が悪くなったが、モヤモヤする気持ちをとにかく早く忘れたいと、自分に言い聞かせるように「寝よ!」と再びつぶやくと、まだカップに残っている麺をすすってから立ち上がりビールを飲みながらキッチンの流し台へ向かった。
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