映画「I’m Still Here」
ウォルター・サレス監督、アカデミー国際長編映画賞受賞作「I’m Still Here」を見た。ブラジルの軍事政権下で元国会議員のルーベンス・パイヴァが国軍により連れ去られる。妻のエウニセ自身もその後数日に渡り監禁の上尋問される。反体制派に対する締め付けのようだ。
エウニセは子供達と共に夫の帰りを待つが、どこに問い合わせても夫の所在はわからず、軍は連れ去ったこと自体も認めようとはしなかった。夫を探し出すべく周囲に協力を求める。海外の主要紙も報道する中、メディアや司法を含め、あらゆる手立てを模索するが事は進展しない。経済的に追い込まれ、住み慣れた家を引き払い、大学で教える生活となりながら夫の帰りを待つ。そして、そのような生活の中で時間だけが過ぎていく。
民主化が進んだブラジルである日、夫の死亡証明がエウニセに渡される。これは国は軍が夫を連行し、死に至らしめた事を公に認めたという事だろう。エウニセも子供達もこれでひと区切りをつけたようだ。夫を奪われてもそれに屈せず、子供達を支えて強く生きるエウニセと家族の姿が印象的だ。この映画は実話をもとにした作品で、彼らの身に起こった悲劇に心を痛め、その生き様に感動する。
1970年代のブラジルの政治体制を知らずに見て軽くショックを受ける。1970年代といえば、自分は小学生で大阪万博に行った頃だ。何事も自由が尊重される時代の雰囲気の中で育った無知な自分には、万博で目にした国々も日本と同じく自由な国だとの思い込みがあった。映画を見て初めてブラジルの軍政権下の人々の苦しみを知った。
ポルトガルは1970年代半ばまで独裁政権だったと知ったのも、映画「Night Train for Lisbon(リスボンに誘われて)」を見てからだ。さすがにお隣韓国の軍政からの民主化の過程は把握できているが、遠いヨーロッパや南米、アフリカについては地理も政治も疎くて知らないことが多い。映画を通じて世界を感じ、知ることも映画の素晴らしい点だと改めて思う。
