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#107 前田勉著『江戸の読書会』 ディベートしていた日本人

 和をもって尊しとなす日本人は本来ディベート向きではないと言われてきたが、本書を読めばひっくり返る。江戸時代に各地で活況を呈した読書会では、対等かつ自由な討論で人々が切磋琢磨していたというのだから。

 舞台は私塾や藩校だ。そこでの学習方法は「論語」や「孟子」といったテキストをみんなで論じ合いながら読む読書会「会読」だった。

 身分、職業、年齢は不問、異論があれば師でも遠慮せずに論争する。下級武士だった福沢諭吉は身分かまわず相手をやり込めることができる会読で随分ハッスルしたそうだ。

 会読の起こりから衰退までを跡付ける中で、著者は会読がはやった背景に実利とは無縁の「遊び」の要素を挙げる。読解力を競い合う面白さ、パズル解きのような面白さ。

 楽しみながら知力と人間力を養う場は、来るべき明治維新という大事業を担う人材を育て、自由民権運動の原動力となった。しかし学問と立身出世が結びつくに従って会読は姿を消していく。

 荻生徂徠、伊藤仁斎、緒方洪庵、本居宣長、杉田玄白、吉田松陰……教科書で見かけた識者総出演だが、学術書なので多少のとっつきづらさは覚悟してほしい。随所に引用される識者の言説は、原文の古文のまま逐語訳がない。まさにパズルを解くように読解を楽しむべし。

 明治維新、敗戦後に次いで「第3の改革期」といわれる3・11後の日本。だが今のところ、改革を担う人材は見当たらない。

 長期戦を覚悟して、読書会から始めませんか。

(平凡社 3200円+税)


メモ

 初めて奈良の川口由一さんのもとで漢方に出会ったのが20代前半だから、もう40年になる。川口さんを講師として中国の古典医書『傷寒論』と『金匱要略』をひもとく学習会に通い始めた。

 奈良、東京、福岡の学習会は原文の漢文を一文一文読み解いていく、まさに「会読」だった。初めて「学ぶ」ということの意味を知った。生薬を上皿天秤で測って煎じて飲む。何度も救われた。

 漢方の世界はあまりに深く、浅学の身には難解極まりないが、川口さんの講義録『叢書 古方漢方の世界 傷寒論を読む』(言視舎、2023年)の編集に携わることができたことは何よりも有り難かった。

 川口さんは刊行された年に他界した。しかし講義録を開けば、その声が聞こえる。書物の価値をかみしめる。


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片岡義博 出版業界受難の時代ではありますが、今後も良書を見つけて紹介していきたいと思います。よろしくお願いいたします。