2. FlatSatの電波を日本でどう試す? 技適特例とシールドボックスを調べてみた
「FlatSat実験ノート」第1回では、購入したFlatSatを日本で安全に使うため、
日本国内で合法的に送信できることが確認できるまでは、RFを使わない
という方針を決めた。
ただ、せっかくLoRa無線を搭載した衛星セキュリティ教材なのだから、
本当にRFを使う方法はないのか?
も調べておきたい。
技適を正式に取得する方法だけではなく、日本には「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」もある。
さらに調べてみると、十分な遮蔽性能を持つ電波暗室などの試験設備内で実験する、という別の方法もあることが分かった。
そこで今回は、
FlatSatの現在のRF仕様
RFを完全に止めてUSBだけで使う
技適未取得機器の実験特例を使う
電波暗室・シールドボックスを使う
FlatSatそのものの技適取得を目指す
という選択肢を整理してみる。
なお、これは自分自身の調査記録であり、個別機器の電波法上の適法性を判断する記事ではない。実際にRF送信を行う前には、総合通信局や登録証明機関などへ確認するつもりだ。
まずFlatSatはどんな電波を使うのか
Electronic Catsによると、FlatSatにはRP2040と2基のSX1262 LoRaトランシーバーが搭載されている。
メーカーは使用周波数について「地域によって通常433MHzまたは915MHz」と説明している。
ただし、
「915MHzはISMバンドだから日本でも自由に使える」
という意味ではない。
各国で免許不要となる無線設備の条件は異なるため、日本では日本の電波法・技術基準を確認する必要がある。
そして公開ファームウェアを見てみると、もう少し具体的な設定が分かる。
現在公開されているDownlink設定は、
Frequency 916 MHz
Bandwidth 250 kHz
Spreading Factor 7
Coding Rate 5となっている。
さらにDownlink側の初期化処理では、SX1262に対して送信出力の設定値として10が渡され、その後916MHzへ設定変更している。実際に `transmit()` や `startTransmit()` を呼び出す処理も存在する。
つまり、FlatSatは単に「受信できる基板」ではなく、当然ながら実際にRF送信することを前提にした教材だ。
「USBだけ使えば大丈夫」とも限らなかった
ここは第1回を書いた後に公開コードを読んで、少し認識が変わったところ。
FlatSatのWorkerには、
Telemetry 14秒
Navigation 22秒
Sync 20秒
Idle 30秒
Beacon 18秒など、Radio関連の周期処理が定義されている。
さらに送信抑止用と思われる `block_tx` の初期値は `false` になっている。
つまり、
USBケーブルしか接続していないからRFは出ないだろう
とは考えない方がよさそうだ。
そのため、実機が届いても最初から通常起動するのではなく、
RF送信を無効化したファームウェアを先に用意する
という方針は維持する。

方法1:RFを完全にOFFにしてUSBだけで使う
これは一番確実な方法。
PC
│
│ USB
▼
FlatSat
LoRa TX : OFFとして、
CCSDS
APID
Telecommand
Telemetry
Command Injection
Replay
Fuzzing
Firmware解析
などをUSB経由で学ぶ。
少なくともFlatSatのプロトコルやファームウェアを理解する段階では、これでかなり進められる。
技適関係の調査が終わるまでは、この構成をデフォルトにする。
方法2:「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」
次に気になったのがこれ。
日本には、技適を取得していない無線機器でも、実験・試験・調査を目的として一定の条件を満たし、事前に届出を行うことで短期間使用できる制度がある。
期間は最長180日。
2025年には総務省の電波利用電子申請システムがリニューアルされ、現在は電子申請を前提とした案内になっている。
対象になるか確認する際には、
技適マークの有無
FCCやCEなど海外の電波認証
無線規格
周波数帯
使用目的
使用期間
などを確認する。
また、制度の適用には外国の認証に適合していることや、一定の資格者が技術基準への適合性を確認する方法などがあると説明されている。
これはFlatSatに使えたらかなり便利そうだ。
ただし「LoRaだから使える」とは言えない
ここで一つ重要な問題がある。
過去の制度案内では、LoRaWAN AS923が対象規格の一つとして紹介されている。
でも、FlatSatは「LoRa PHYを使っている」ということと、
LoRaWAN AS923準拠機器である
ことは同じではない。
Electronic Cats自身もFlatSatをSX1262によるLoRa通信教材として説明しているが、製品ページ上でLoRaWAN AS923機器とは説明していない。
さらに公開ファームウェアではDownlinkが916MHzになっている。
したがって現時点では、
FlatSatがこの特例制度をそのまま利用できるかは未確認
という扱いにしておく。
ここは実際に総務省または総合通信局へ問い合わせてみたい。
方法3:電波暗室・シールドボックスの中で試す
そして今回、個人的に一番興味を持ったのがこれ。
ARIBには、
「微弱無線局(電波暗室等の試験設備の内部で開設される無線局)の電界強度の測定方法」
というTR-G1がある。
そこでは、総務省告示で定められた40dB以上の減衰効果を持つ電波暗室等の試験設備の内部で使用する無線設備について、試験設備の減衰量を考慮した値が電波法施行規則の規定値以下なら、微弱無線局として無線局免許を不要にできる仕組みが説明されている。
さらにTR-G1では、
試験設備の外で実際に測定する「直接法」
試験設備の遮蔽性能から算定する「間接法」
という2つの確認方法が示されている。
これはFlatSatとかなり相性がいいかもしれない。
シールドケースに入れれば何でもOK、ではない
ここは誤解しないようにしたい。
Amazonなどで、
「RF Shield Box」
「電磁波シールドケース」
と書かれている箱を買って、その中にFlatSatを入れれば即合法、という話ではない。
ARIB TR-G1が前提にしているのは、40dB以上の減衰効果を持つ所定の試験設備で、さらに設備の遮蔽性能を加味して外部の電界強度が規定値以下になることだ。
つまり必要なのは、
FlatSatを箱に入れる
↓
電波が弱くなった気がする
↓
OKではなく、
送信条件を確定
↓
試験設備の遮蔽性能を確認
↓
外部への漏洩を測定または算定
↓
微弱無線局の条件内か確認という流れになる。
916MHzの場合、微弱無線局の基準はかなり厳しい
電波法施行規則では、322MHzを超え10GHz以下の微弱無線局について、無線設備から3m地点での電界強度基準が定められている。
916MHzはこの範囲に入る。
そのため、FlatSatのように通常のLoRa送信を行う機器を微弱無線局として扱うには、かなりしっかりした遮蔽が必要になる可能性が高い。
ここではまだ「何dBあれば絶対に大丈夫」とは決めない。
実際のFlatSatの送信電力、アンテナ利得、シールド設備の性能などを揃えたうえで算定・測定する必要があるからだ。
もし成立すれば、シールドボックス内でRFそのものを試せる
これができると面白い。
例えば、
RF Shield Environment
┌─────────────────────┐
│ │
│ Ground Station │
│ 📡 │
│ ~~~ │
│ 📡 │
│ FlatSat │
│ │
└─────────┬───────────┘
│
USB / Feedthrough
│
▼
PCのような環境を作れる。
箱の外へ電波を漏らさず、内部では、
LoRa Uplink / Downlink
SDR受信
RF版APID Enumeration
RF Command Injection
Replay
Eavesdropping
などを実際のRF経路で試せる可能性がある。
USBだけのシミュレーションより、一段本物に近い。

ただ、USBケーブルも意外な敵になりそう
シールドボックスを使うなら、単純に蓋を閉めるだけでは済まなそうだ。
PCとFlatSatをUSB接続する場合、
Shield Box
│
└── USB Cable ── PCという穴が必要になる。
しかしケーブルや開口部は、シールド性能を低下させる要因になりうる。
そのため実際に環境を作るなら、
RFフィルタ付きFeedthrough
シールドされたUSB接続
電源ラインのフィルタリング
開口部の構造
アンテナ配置
箱を閉じた状態での実効遮蔽量
なども考える必要がありそうだ。
ここまで来ると、単なる「箱を買う」ではなく、ちゃんとしたRF試験環境の構築になる。
方法4:FlatSatそのものの技適取得を目指す
もちろん王道も残しておく。
TELECには、
920MHz帯テレメータ用、テレコントロール用及びデータ伝送用特定小電力機器
という技術基準の区分がある。
FlatSatを日本向けの条件に合わせて、
周波数
送信電力
帯域幅
キャリアセンス
送信時間
アンテナ
不要発射
などを整理し、1台について技術基準適合証明を取得できる可能性も引き続き調べる。
これができれば、期間制限のある実験特例やシールド環境に依存せず、日本国内で通常のRF実験ができる可能性が出てくる。
ただし、FlatSatの標準設定をそのまま認証できるのか、日本向けFirmware変更が必要なのかはまだ分からない。
現時点では4つのルートが見えてきた
ここまでを整理すると、
$$
\small \def\arraystretch{1.5}
\begin{array}{|l|l|l|} \hline
\textsf{\textbf{方法}} & \textsf{\textbf{RF送信}} & \textsf{\textbf{現時点の印象}} \\ \hline
\textsf{RF Disabled+USB} & \textsf{なし} & \textsf{すぐ始められる} \\ \hline
\textsf{実験等の特例制度} & \textsf{あり} & \textsf{FlatSatが対象になるか要確認} \\ \hline
\textsf{電波暗室・シールド設備} & \textsf{箱の中のみ} & \textsf{かなり興味深い} \\ \hline
\textsf{技適取得} & \textsf{あり} & \textsf{王道だが手間・費用を要確認} \\ \hline
\end{array}
$$
となった。
自分としては、どれか一つに決める必要もないと思っている。
実機到着前にやることを変更する
第1回では、
技適取得の可能性を調べる
ことを主な課題にしていた。
今回調べた結果、もう少し範囲を広げる。
実機が届くまでに、
FlatSatのRF仕様をさらに整理
FCC・CE等の海外認証の有無をメーカーへ確認
実験等の特例制度が利用できるか確認
総務省/総合通信局への質問事項を整理
ARIB TR-G1を確認
916MHz付近で十分な性能を持つRFシールド設備を調査
シールド環境で必要な測定方法を調査
TELEC等へ技適取得可能性を相談
RF Disabled Firmwareを準備
というところまで進めたい。
実機が届いたときの初期方針は変えない
ここは重要。
特例制度やシールドボックスについて調べているからといって、
届いたFlatSatをいきなりRF ONで起動するつもりはない。
現時点での初回起動計画は、
開封
↓
実機Revision確認
↓
RF Disabled Firmware
↓
RF OFF状態で起動
↓
USB動作確認とする。
その一方で、
特例制度OK
または
シールド環境OK
または
技適取得という条件が整ったら、RF実験を解禁する。
個人的には「シールド環境」がかなり気になってきた
当初は、
技適を取れなければRFは諦める
くらいに考えていた。
でも今回調べてみると、
技適未取得機器の実験特例
電波暗室等の試験設備
微弱無線局
正式な技術基準適合証明
という複数のルートがあることが分かった。
特にシールド環境は面白い。
もし条件を満たす実験環境を作れれば、
FlatSat本体を日本向けに改造しなくても、実際のLoRa RF通信を使ったセキュリティ演習ができる可能性
がある。
これはちょっと調べてみたい。
海外製無線教材を日本でどう使うか
FlatSatを買った当初は、
「衛星セキュリティを勉強する」
のが主目的だった。
それが、
衛星セキュリティ
+
CCSDS
+
組み込みFirmware
+
LoRa / SDR
+
日本の電波法
+
RF試験環境まで広がってきた。
でも、これはむしろ面白い。
海外製のセキュリティ教材を輸入して、
「技適がないから使えない」
で終わらせるのではなく、
日本の制度の中で、安全かつ合法的にどう実験するかを実際に調べる。
これも「FlatSat実験ノート」のテーマにしていこうと思う。
次は、技適未取得機器の特例制度について、FlatSatの仕様を当てはめながらもう少し具体的に確認するか、シールド環境として実際にどんな設備が使えそうなのかを調べてみたい。

続きはこちら!
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップは活動費に使わせていただきます!