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そこに愛はあるんか?

 「パパ、昼飯代ないからPayPay送って」

 娘からLINEが届いた。

 昼飯代がないなら、弁当を持っていけばいい。家には米がある。冷蔵庫を開ければ何かしら入っている。水筒へ水を入れて持っていけば飲み物代もかからない。娘からすれば、食材費も水道代もパパとママが払っているのだから、実質ゼロ円である。

 それなのに、なぜ選択肢の最終地点が「パパ、PayPay送って」になるのか。

 アイフルは、CMの最後に「ご利用は計画的に」と言っている。娘にもよーく聞かせてやりたい。ただ、よく考えれば娘が利用しているのはアイフルではない。

 パパフルである。

 審査なし、金利なし、返済期限なし。スマホから申し込めば、わりと高い確率で愛が送られる。

¥❤︎¥

 給料日まであと五日だった。

 高校生になった娘はアルバイトをしている。欲しいものがあれば自分のお金で買う。コンビニへ行くのも、友達と遊ぶのも、自分の財布から出す。

 問題は、その財布に穴が開いていることである。

 パパが昼飯に具なしそうめんをズルズルすすっている横で、娘はコンビニの袋をガサガサと開ける。サラダ、サラダチキン、惣菜。日によってはデザートまで出てくる。

 同じ昼飯なのに、パパの食卓は百円未満。娘の食卓はコンビニのショーケースが出張してきたような品ぞろえである。

 パパが「家にあるもん食べたらええやん」と言うと、「自分で稼いだお金だからいいじゃん」と返ってくる。

 働いたのは娘だ。時給なんぼで何時間働いたのかも本人が一番よく知っている。その対価として振り込まれたお金を何に使おうが、パパが横から「そのサラダチキンを棚へ戻せ」と言う話やない。

 ただし、その言葉には一つ小さな条件がつく。

 「自分のお金があるうちは」である。

 パパはわざわざ水を買うという行為に、いまだ抵抗がある。だからスーパーへ行くときは、空のボトルを持ち、給水機で水を入れて四階までひーこら登る。

 一方、娘は喉が渇けばコンビニへ入る。パパからすれば、タダ同然の水に百数十円払うなんて、セレブの水遊びにしか見えない。

 もはや、チリツモである。百円、二百円、三百円。チャリンと鳴ってくれればまだ気づけるのに、娘の金は無音でスルスル消えていく。  
 給料日まであと五日のところで娘の財布は月末を迎えた。

 妻は怒った。

 「だから、お前は計画性がないって言ってるでしょ!」

 パパも横で深くうなずいた。夫婦の教育方針が、珍しく完全一致した瞬間である。

 その数時間後、パパのスマホがピコンと鳴った。

 「PayPay送って」

 パパフルへの融資申し込みである。

 申込者、高校二年生。職業、アルバイト。収入、毎月あり。返済実績、なし。過去の借入状況、何度かあり。資金用途、たぶん昼飯。

 普通の金融機関なら、ここで返済能力を確認するところだろう。

 「そこに愛はあるんか?」
 「ある」

 審査終了である。スマホから申し込み、「おねがい」と一言添えれば、最短一分で愛が送られる。


 翌日も似たようなLINEが来た。妻に知られたら業務停止命令が出そうなので、都度パパは速やかに送金する。娘は五日間を無一文で乗り切る必要などなかった。財布の中身がなくなっても、スマホの向こうに無担保無利息の融資先がある。

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 そして、ようやく娘にも給料日が来た。これでパパフルもしばらく休業である。

 娘は珍しく早起きし、お金を下ろしに行った。五日前に残高を使い果たし、妻から「計画性がない」と怒られ、パパから緊急融資を受けた高校生である。

 今月はなんぼ使うのか。コンビニへ行く回数を減らそうとか、水くらい家から持っていこうとか、十六歳なりの資金計画を立てるのではないか。

 そんなことを考えている間に帰宅した娘は、何か食べていた。

 ハーゲンダッツである。

 「そんなんしてるからなくなんねん!」
 「自分で稼いだお金だからいいじゃん」

 パパはスーパーでもらってきた水を飲みながら、そのハーゲンダッツを眺めた。娘の財布から見れば数百円。パパの具なしそうめん換算なら数食分である。

 「一口ちょうだい」

 五日間、無利息で融資してきたパパフルである。ハーゲンダッツを一口くらい、利息として受け取っても罰は当たらないだろう。

 「無理」

 ……。

 そこに愛はあるんか?

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