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ヤリハシハチドリの長すぎるクチバシに隠された、不便で愛おしい生活 @ダーウィンが来た (元教授、定年退職837日目)

今回は、番宣に釣られて正解だった

以前からテレビの「番宣」に弱い私です。すぐに釣られて本編を探してしまい、結局、番宣自体が一番面白かった、ということがよくあります。そして「プロはさすがにうまく作るものだ」と独りごちて終わるのが定番です。今回、NHK『ダーウィンが来た!』で視聴した「ハチドリ」も、その流れかと思い、あまり期待せずに見始めました。番宣では、体長と同じくらい長いクチバシを持つ「ヤリハシハチドリ」が登場し、いかにも面白そうだったのです。ちなみに、私のハチドリについての基礎知識は、クチバシが少し長く、蜜を吸うときに独特の飛び方で空中に静止できる、という程度。今回の主役であるヤリハシハチドリは、南米エクアドルの山岳地帯に生息する鳥でした。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

『ダーウィンが来た!』でヤリハシハチドリの特集(注1)

皆さんは、エクアドルという国がどこにあるかご存じでしょうか。私も中南米にあることは知っていましたが、今回、改めて地図で探しました。というのも、コロンビア、ベネズエラ、コスタリカ、ニカラグアなど、似た印象の国名が多く(失礼!)、関西人に「関東の地図を描け」と言うくらい難しいのです。ようやく、コロンビアとペルーの間にある国だと認識できました。そういえば、ガラパゴス諸島もエクアドル領でした。

<追記1> 今回のサッカーW杯では、中南米の国々が強かったですね。アルゼンチン、ブラジル、メキシコはもちろんですが、パラグアイ、コロンビア、エクアドルもベスト32 に入り、決勝トーナメントに進みました。しかもエクアドルは、一次リーグで強豪ドイツを破り、一躍有名になりました。


『ダーウィンが来た!』で知る、ヤリハシハチドリ

今回、ダーウィン取材班は初めてこの鳥への密着取材に成功し、驚きの行動を次々とスクープしました。撮影の出発点は、ノノという小さな村でした。ここはハチドリ推しの村で、村の中心部にはハチドリのモニュメントがあり、看板や植木までハチドリの形をしていました。実際に村では 14 種類ものハチドリが見られましたが、長いクチバシを持つヤリハシハチドリは、なかなか見つかりません。じっくり観察できる場所はごく限られているとのことで、取材班は手つかずの森が広がる標高 3000 メートルの山岳地帯へ向かい、この辺りに詳しい人に案内をお願いしました。(下写真もどうぞ)

ノノはハチドリ推しの村でした(注1)


赤道直下で冬がないため、森の中では年間を通して花が咲いています。そこには、木の枝からいくつもぶら下がる長い花「キダチチョウセンアサガオ」がありました。アンデス山脈の高地で見られる植物で、花の長さは 15 センチ以上もあり、ヤリハシハチドリが好む花なのだそうです。スタッフがカメラを構えて待っていると、ようやくヤリハシハチドリが現れました。名前の由来は、10 センチほどもある槍のように長いクチバシです。体の大きさに対するクチバシの長さは、鳥の中で世界一だそうです。(下写真もどうぞ)

この花の前で待っていると、ヤリハシハチドリが現れた(注1)


花と鳥の共進化──長すぎるクチバシが生み出す絆

観察していると、ヤリハシハチドリは、その長いクチバシを使って長い花の蜜を吸っていました。花の奥には黒っぽい五つの穴があり、そこから蜜が出ています。ヤリハシハチドリは、花に何度もクチバシを出し入れし、一つ一つの穴から蜜を吸っていました。不思議なのは、蜜は 15 センチもある花の付け根から出ているのに、クチバシの長さは 10 センチほどしかないことです。クチバシを入れただけでは届かないはずだと思っていると、驚くことに、クチバシの先からさらに5センチほど舌を伸ばせるのです。しかも、その舌には蜜を効率よく吸うための秘密がありました。舌は管を2本並べたような形をしており、伸ばすときには潰れた状態ですが、蜜に触れると元の形に戻ります。そして、スポイトと同じような仕組みで、蜜を舌の中へ吸い上げていました。つまり、特別な体の仕組みによって、ほかのハチドリでは届かない食べ物を手に入れていたのです。もちろん、花の側も、蜜を吸っている間に鳥の体へ花粉を付け、別の花へ運んでもらうことで子孫を残します。両者は、まさに持ちつ持たれつの関係にありました。(下写真もどうぞ)

蜜を吸うためには、さらに舌も必要。右下では羽虫も食べる(注1)

<追記2> ヤリハシハチドリの極端な進化の背景には、数百万年前に起きたアンデス山脈の激しい隆起があります。場所によっては 2000 メートル以上も標高が上昇し、寒冷化によって昆虫が生息しにくくなったため、ハチドリが受粉の担い手として大繁栄したのです。その環境下では、トケイソウなどの植物との間に「ランナウェイ共進化」が生じました。植物側は、クチバシの短いハチドリによる盗蜜を防ぎ、確実に同じ種類の花へ花粉を運んでもらうため、花筒を極端に長くしました。鳥側もそれに応じてクチバシを長くし、結果として、ヤリハシハチドリは蜜を独占でき、植物は専用の受粉パートナーを得るという、強固で「ウィンウィン」な共生関係が成立しました。


ヤリハシハチドリのホバリング法と虫の捕食

花の蜜を吸うために欠かせないのが、ハチドリ独特の飛び方です。1秒間に数十回も翼を動かし、まるでハチのような羽音を立てていました。これがハチドリという名前の由来でもあります。蜜を吸うときには、高速で羽ばたきながら花の前でピタリと静止します。その秘密は、翼の向きにありました。翼を前へ振り下ろすときも、後ろへ引くときも斜め下へ向け、常に空気を押し下げることで、体を浮かせる力を得ていたのです(下写真、上段もどうぞ)。このホバリング術で十分に蜜を吸った後は、いったん休憩します。こうして、食事と休憩を交互に繰り返しながら過ごしていました。さらに、花の蜜だけでなく、雨上がりには空中でユスリカなどの小さな虫を捕食している姿も、世界で初めてテレビカメラで撮影されました(上写真、右下)。虫を、貴重なタンパク源にしているのだそうです。

ホバリングの様子と、長いクチバシを武器にした争い(注1)


クチバシが長すぎて不便? でも武器にもなる

長いクチバシがもたらす、さまざまな特徴も紹介されました。まず、クチバシが重く、付け根に負担がかかるため、枝に止まるときには常に顔を斜め上へ向け、体のバランスを取っていました(そういえば、いつも妙に姿勢がよいのです)。また、普通の鳥はクチバシを使って羽繕いをしますが、ヤリハシハチドリには、もちろんできません。観察していると、足を使って羽の手入れをしていました。枝から移動するときにも、クチバシが周囲に当たらないよう、いったん後退してから回り込む必要があります。繁殖では、メスが単独で子育てを行いますが、長いクチバシで狭い巣の中にいる雛を傷つけてしまう恐れがあります。そのため母鳥は、巣とは別の枝に止まり、少し離れた上空からピンポイントで餌を与えていました。一方で、このクチバシは「強力な武器」にもなります。縄張りへ侵入したほかのハチドリに対しては、「フェンシングの剣」のようにクチバシを前方へ突き出し、圧倒的なリーチを生かして、空中で突き刺すように撃退していました。(上写真、下段もどうぞ)


ヤリハシハチドリは、自然選択によって生まれた「究極のスペシャリスト」であり、特定の植物と共進化を遂げたパートナーシップの関係にありました。しかし、その裏では、自らクチバシで羽繕いができず、休息や移動、子育てにおいても、常に制約と代償を背負っています。それでも、この「剣の担い手」は、厳しい自然環境の中で生き抜くための適応力と知恵を身につけていました。その不器用さを抱えながら懸命に生きる姿を、何とも愛おしく感じました。それでは、また。


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注1:NHK『ダーウィンが来た』の特集「ハチドリ」より

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