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なぜ今さらルッキズムが叩かれるのか


SNSに上がった自分の写真を見るのが嫌いでした。

大学生の頃、友達がSNSに上げた写真に自分が映っているのを見て、落ち込んだことがあります。

鏡で見る自分はだいたい真顔でした。でも写真の自分はいろんな表情をしていて、なんだか変な顔に見えた。

それが気になって、だんだんSNSから距離を取るようになりました。

最近、ルッキズムについての議論をよく見かけます。

外見が良いと得をする。それは昔からそうだったはずです。

なんで「最近」こんなに問題になっているんだろう。

外見"だけ"がなぜ特別か

ルッキズムは「外見で人を判断する偏見」のことです。

でも考えてみると、同じ構造は学歴や収入、能力にもあります。何か一つの指標で人を序列化してしまう問題は、外見に限った話ではない。

じゃあなぜ外見だけが「ルッキズム」と名前がつくほど問題視されるのか。

たぶん、視覚の力が他の感覚と桁違いだからだと思います。

大脳皮質の30%以上が視覚の処理に使われていて、聴覚はたった3%です[^1]。初対面の人の顔を0.1秒見ただけで、信頼性や魅力を無意識に判断してしまうこともわかっています[^2]。

声や文章ではここまで瞬時には起きない。外見は他の指標よりも速く、強く、僕たちの判断に入り込んでくる。

ただし、このこと自体は昔から変わらないはずです。

変わったのは価値観か、道具か

昔は自分の外見を客観的に見る手段が鏡くらいしかなかった。でも鏡で見る自分と、他人から見た自分は違います。

テレビが登場して、芸能人だけが「映像越しの自分」を見るようになりました。

芸能界に整形が多いのも、カメラを通して自分の顔を客観的に見続けることの副作用かもしれません。

そしてスマホの高画質カメラとSNSが、それを全員の日常にした。

自分の声を録音で聞いて「うわ、こんな声だったの」と思った経験がある人は多いと思います。あの驚きと似たことが、外見で全人類規模で起きている。

僕もそうでした。

友達のSNSにあがった自分を見て「他人の目で見た自分の顔」を突きつけられた感覚がありました。鏡の自分とは別人みたいでした。

ルッキズムという新しい価値観が生まれたわけではなくて、テクノロジーが「自分を見る道具」を全員に配った。

その結果、もともとあった「自分の気になるところが目につく」という心理が表に出てきただけなのかもしれません。

見えなかったものが見えるようになった

もう一つ、変わったことがあると思っています。

昔も外見が良い人は得をしていたはずです。でもその「得」は比較しにくかった。

SNSでは違います。外見が良い人にはいいね、フォロワー、再生数が集まりやすい。

そしてSNSには「アテンションを集めている人はすごい」という空気がある。

美しさへの報酬が数字で可視化されて、全員に見えるスコアボードができた。

昔は知らなかった差が、今は毎日目の前に並んでいます。

加害者のいない被害感

SNSで自分の顔を見る機会が増え、他人との差も可視化されてしまう。

この二つが重なって、誰にも何も言われていないのに勝手に傷つく、という構造ができたんだと思います。

反ルッキズムの主張は「差別するな」「美の基準を押し付けるな」「外見で人の価値を決めるな」です。

でも実際のところ、誰かに面と向かって「お前は醜い」と言われたわけではありません。差別した人も、基準を押し付けた人も、特定できない。

それでもSNSの構造の中にいるだけで、差別されているような、基準を押し付けられているような気分にさせられてしまう。

外見のたった一点が気になっただけなのに、自分全体がダメな気がしてくる。写真で落ち込んだ時の僕も、まさにそれでした。

昔からあったはずのものが今になって叩かれているのは、傷つく人がそれだけ増えたからだと思います。

だから「外見に言及するな」では問題の根に届きません。

問題の根は、「鏡」と「スコアボード」が揃った環境で、外見の比較が自分の存在全体の否定に変換されてしまう構造にあると思っています。

SNSをやめてみて

大学生の時、僕はSNSから離れることで「見ない」を選びました。

でもそれは構造から降りたのではなくて、ただ目を逸らしただけでした。

外見については、今はあまり気になりません。顔が良くなったからではないです。

歳を重ねて、人にどう思われるかが薄れた。妻と出会って、ほんの少しだけ自分を受け入れられるようになった。

ただ、比べる癖そのものは何も変わっていませんでした。今は仕事の評価と年収を見ています。

鏡もスコアボードも、僕の手の中にあります。載せるものが、顔から年収に変わっただけでした。


[^1] Colavita (1974) Human sensory dominance
[^2] Willis & Todorov (2006) First Impressions

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