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「まずいから金を返せ」飲食店で私が遭遇した、怪しい返金要求の話

飲食店を長くやっていると、いろいろなお客さんに出会う。

毎週のように通ってくれる人。

「おいしかった」と声をかけてくれる人。

黙って食べ、黙って帰り、また来てくれる人。

そんなありがたいお客さんがいる一方で、ときどき現れる。

「これは本当のクレームなのか?」

「それとも、お金を取ることが目的なのか?」

判断に迷うようなお客さんだ。

以前、私がラーメン店を経営していた頃、何度か不自然な返金要求を受けたことがある。

結論から言えば、私はどのケースでもお金を払わなかった。

私が優秀だったからではない。

ただ単に、

「いや、それはおかしくないか?」

と思ったからだ。

「9,000円のお釣りを取り忘れた」

ある日、券売機を使ったという客から言われた。

「1万円札を入れた。9,000円のお釣りを取り忘れたから返してくれ」

ずいぶん大胆な申告である。

それが通るなら、券売機のお釣りは自己申告制になってしまう。

もちろん、本当に取り忘れた可能性はある。

だから、最初から嘘だと決めつけることもできない。

だが、券売機の中のお金を調べれば、本当に9,000円多く入っているのかは確認できる。

私はその場でお金を渡さなかった。

すると、それ以上話は進まなかった。

お金が絡む話では、「相手が強く言っているから」という理由だけで返金してはいけない。

このとき、最初にそう学んだ。

「昨日、醤油でズボンが汚れた」

別の日には、クリーニング店の領収書を持った客がやってきた。

「昨日ここに座ったら、醤油がズボンに付いた。クリーニング代を払え」

という。

ところが、その人が前日に来店した事実を、私は確認できなかった。

当時は、飲食店で服が汚れたとしてクリーニング代を要求する手口が珍しくなかった。

私が支払いを断ると、相手は「法的に追及する」というようなことまで言ってきた。

法律の話を持ち出されると、こちらが悪いことをしたような気分になる。

店の中で「法的に」などと言われると、急に空気が重くなる。

さっきまでラーメンを作っていたのに、いきなり法廷ドラマである。

しかし、強い言葉を使っていることと、その人の主張が正しいことは別だ。

私はクリーニング代を払わなかった。

その後、法廷ドラマの続編が始まることもなかった。

一口食べて「まずい。金を返せ」

駅ビルの中でラーメン店を営業していた頃の話だ。

ある女性客にラーメンを出した。

ところが、一口か二口食べただけで、ほとんど手をつけていない。

そして、

「まずいから返金してくれ」

と言ってきた。

味の好みは人それぞれだ。

ラーメンが口に合わなかった可能性はある。

しかし、

「自分の好みではなかった」

と、

「店が代金を返さなければならない」

は、同じではない。

私は返金しなかった。

その後、駅ビル側へ相談したところ、その女性がほかの店舗でも同じような要求をしていたことが分かった。

別の店舗では、料理代を返金してしまっていた。

これで話が終われば、まだよかった。

女性は翌日、もう一度その店へやってきた。

「料理を食べて具合が悪くなった」

「近くのホテルに泊まった」

「延泊までしたので、ホテル代を払え」

店側は、ホテル代まで払ってしまったという。

料理代を返したら、翌日にはホテル代になって帰ってきた。

返金したことで要求が終わるどころか、さらに大きくなってしまったのだ。

狙われたのは、店長の弱いところだった

駅ビルや商業施設に入っている店舗には、本部や施設の管理部門がある。

本来なら、何かあったときに相談できる心強い存在だ。

ところが店長によっては、本部への報告を極端に怖がる。

「クレームを出した店長だと思われたくない」

「管理が悪いと怒られるかもしれない」

「自分の評価や経歴に傷がつくかもしれない」

そんな気持ちから、問題を自分だけで処理しようとする。

「本部に言うぞ」

「訴えるぞ」

「大きな問題にするぞ」

そう言われると、数千円を払って帰ってもらった方が楽に見える。

しかし、悪意のある人が狙うのは、まさにそこだ。

店長の「怒られたくない」という気持ちにつけ込む。

少額だからと料理代を返した結果、次はホテル代を要求されることもある。

一度お金を渡したことで、

「この店には通用する」

と思われてしまったのかもしれない。

一人で判断しないことが、店を守る

私は駅ビルの防犯を担当していた警察OBの方に相談した。

残念ながら、その女性を事件として捕まえることはできなかった。

ただ、ほかの店舗で起きたことも共有し、最終的には駅ビルから退去してもらうことになった。

もし各店舗が、

「自分の店だけの問題だ」

と思って黙っていたら、同じことが続いていたかもしれない。

怪しい要求を本部や施設へ報告することは、店長の失敗ではない。

店と従業員を守るために必要な仕事だ。

もちろん、本当のクレームには誠実に対応しなければならない。

最初から客を疑ってかかるのも違う。

だからこそ、難しい。

ただし、相手が怒っているからといって、その場でお金を渡す必要はない。

判断できなければ、

「私の一存ではお支払いできません。事実を確認してから対応します」

と一度止めればいい。

怖くても、その場で財布を開かない。

記録を残す。

一人で抱えず、本部や施設へ報告する。

飲食店を守るのは、店長の勘や度胸だけではない。

「おかしいと思ったら、一度止める」

そのルールが、店と働く人を守ってくれる。

昔は、客が店まで来て、直接お金を要求してきた。

しかし今は、予約、LINE、偽の振込画面、キャッシュレス決済まで使われている。

手口は、私がラーメン店をやっていた頃よりも巧妙になっている。

次回は、現在実際に報告されている「飲食店を狙う新しい手口」と、店側ができる対策について調べてみたい。

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