見出し画像

嘘は、いつか必ずバレるもの

ここ数日、例の事件、その真相を放置していた。放置するしかなかった。元々、他人事なのだが、気を抜くと何が真相であるのか気になってしまっていた。だから努めて他人事として、頭の何処かに放置してしまうより他なかった。

そりゃあ、真相が気になる。しかし、答えを見つけるのもまた怖ろしい。今日もまた、俺は矛盾を抱えていた。最強の矛と最強の盾が激しく衝突すると、どうなるのか。その答えを知りたくもあり、知るのが怖くもあった。

仕事柄、他人の秘密に触れることには慣れているつもりだったが。今回、目の前を通り過ぎた他人の秘密は、奇妙奇天烈複雑怪奇を極めていた。およそ考えられないことが起きていた。これにも慣れろ、というのは無理な話だ。俺は案外、好奇心の塊野郎なのかも知れない。慣れない、そして平気でもない。慣れは、麻痺でもなければ、耐性でもない。ボケ老人にでもならない限り、俺の下に、慣れは訪れない。

きっかけは、娘からの着信だった。依頼してきた故人の娘だ。画面に表示された名前を見た瞬間、俺は反射的に、深呼吸をひとつ挟んだ。深呼吸をひとつ挟むような緊張を覚えたが、心の何処かで待ち望んでいた進展でもあった。努めて緊張を隠し応答ボタンを押す。

父のスマホのことですが、

その一言だけで、心臓が数拍分、仕事を怠けた。指先が、机の端をなぞっていた。落ち着きのない中学生のような自分に苛立ち、動作を止めた。落ち着け、と自分に言い聞かせる声が、どこか遠いところから聴こえた。娘は続けた。携帯電話会社から、料金明細の紙が届き、解約したはずなのに、データ通信量が死後、数日間も増えていた期間があると言い出した。

初期化の前に、何か操作されたんですか。

声のトーンに、責めるような響きはないようだ。純粋な疑問、といった段階だろうか。だが、この手の疑問は放っておくと悪い方向に育つだろう。育ち育って、いずれは確信に変わる。俺は普段、もうご承知の通り他人の死後のデータを漁って疑問を確信に変える側の人間だから、わかる。当然、初期化されていないスマホは、バックグラウンドでの自動同期(クラウドバックアップ、SNSアプリ、メールなど)が普通に動き続ける。通話アプリの録音データや、note閲覧の履歴などが、クラウド同期のたびに通信を発生させる。故人の生前の設定次第では、位置情報アプリなども動き続けている可能性があるが、

嘘を重ねる。

バックアップ作業の過程で、通信が発生します。よくあることです。声のトーンを、いつも通りに保つ。落ち着いた、丁寧な、如何にも業者らしい口調。

電話を切る間際、娘がふと思い出したように付け加えた。

あ、これは別に関係のないことだと思うんですけど。

父は亡くなる少し前、母の外出のことを、

やけに気にしていたみたいで。

誰と会ってるのかとか、そういうこと聞いてきたって、

母が言ってました。

関係のないこと、という前置きが、逆に俺の耳には引っかかった。娘本人は、たぶん本当に世間話のつもりか、無意識にか、口にしただけなのだろう。だが、その一言が、俺の頭の中に、ずっと引っかかっていたもう一つの糸を、静かに引っ張り出した。

ここから先は

2,024字

¥ 250

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?