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接待

 何年か前に仕事で中国へ行き、得意先の社長から接待を受けた。
 随分なご馳走だった。こちらは数人いたので、先方はなかなかの出費だったはずである。
「百君、先方はこの分を製品代に乗せて回収する算段なのだからね、心して食いたまえよ」
 こちらの社長がそう言って、渋い顔をした。
 コースの内容はもう覚えていないけれど、終盤辺りで何だかデミグラスで煮付けたようなものが登場したのははっきり覚えている。
 そのソースをスプーンですくって食べ、大いに美味くて感心した。
「これは美味い……」
 通訳の陳さんにそう言うと、陳さんは「うん……」と何だか煮え切らない顔をする。彼はちょくちょくそういうリアクションを寄越す。恐らくこちらの発言の意図が理解できないのだろう。
 一頻りソースばかりを食べた後、いよいよ煮付けた本体に手を付けようとして、ふっとあることに気が付いた。
「陳さん、これはもしかして、ナマコかい?」
「うん、そうだね。ナマコだよ」
 ナマコはこれまで食べたことがないが、コリコリして美味しいのだとは聞いている。果たして周りはみんな黙々と食べているので、コリコリして美味しいのだろう。
 ただ、どうも自分は食べようという気が起こらない。
 目の前に鎮座しているのは丸ごと煮込んだナマコである。ソースに埋もれてわからないけれど、洗い流すとあのビジュアルが現れると思ったら、どうにも食欲が湧かないのである。
 結局、手を付けないでいるうちにナマコの皿は下げられた。ただ、最後にもう一口だけソースを舐めておいた。
 せっかくのご馳走を、先方には悪いことをしたと思うが、今同じものを出されても、やっぱり手を付けられる気がしない。


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