パパが死んだ!
つい先だっての早朝……バイトのため駅に向かう途中の道路半ば近くで、1匹のネズミが死んでいた。
たぶん、車に轢かれたのだろう。かなり大きなネズミで、腹からはピンク色の内臓やらがはみ出している。
どこかに通報すべきなのだろうか?
ちょっと迷ったのだが……どこに連絡すればいいのかも判らず、つい近くの交番まで戻ってはみたものの、生憎と警官は不在であった。
止むを得ず、そのまま駅に急ぐことにした。
ただし、その日一日……無惨なネズミの死体が脳裏に焼き付いてしまい……なんとも気分が悪いのだ。
少し前に、蝉の死体を見て雑文を綴ったはずだが……あの時の蝉は全うに一生を終えたとあって、いっそ静けさを湛えていたのだが……その朝目撃したネズミに対しては、殆ど真逆の印象を持ってしまったのだ。
当然、当のネズミの死体からは、先の蝉のような安らぎとは裏腹の、ちょっと目を背けたくなるような恨みツラミが湧き上がっていたのである。
僕はあまり動物等を擬人化して考えるのは好きではないが……かのネズミにして、可愛いお嫁さんや子供達がいたのかも知れない。
「ねぇママ。パパの帰り、遅いね……」
「きっと、美味しいご飯を探してるのよ」
もしかしたたら、パパが死んでしまったことも未だ知らず……その帰りを待っているのではないかと考えると、つい辛くもなる。
思えば、ネズミは我が家にも出没して……時に、フザケルナと言った悪事も働くわけで……好印象からはほど遠かったはずが、今回は何故か感傷的になってしまったのだ。
いずれにしても……その日は一日中……当のネズミの無惨な姿がチラついてやり切れなかった。
体腔からはみ出したピンク色の臓器は……見方によっては健康そのものの証でもあり、事故に遭わなかったならば、さぞや今ごろはどこぞで失敬した残飯にムシャブリついていたことだろう。
たかがネズミの死体だというのに……その生々しさと、出し抜けに断ち切られてしまった命への愛惜を思うと、なぜか悲しみ以上に怒りが込み上げてきたのだ。
そう。この瞬間にも世界では……ネズミどころか、多くの人間が事故や事件で、不当の命を落とし……いやそれ以上に、はるかに恐ろしい犯罪であるところの「戦争」によって、無辜の民がピンク色の内臓がはみ出した死体として転がっているのだろう。
ほんの少しでもいいから、想像力を働かせて欲しいのだ。
もし僕が、どこぞの国の兵士だとしても……あの、体腔からはみ出したピンク色の臓器を思うだけで……決して、決して銃の引き金を引くことはないだろう。
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