【連作短編】【奥義】《06:奥義》
【連作短編】【奥義】《06:奥義》
三題噺:疑問/気付き/勝てない
明らかな決着。
……本当にそうなのか?
睨む。切っ先はブレさせない。喉元を狙う。狙い続ける。腕は折れ、どうにか膝立ちしている親父。ここから戦況を跳ね返すのは常識的に有り得ない。
それでも。
それでも、睨み続ける。
油断はしない。親父はまだ、降参をしていない。まだ立っている。意識もある。格上なんだ、気は抜かない。
1秒が永遠に感じる。10秒が無限に感じる。
俺も、親父も。二人とも脂汗が滲む。
「ふは、ふはははは」
親父が笑いだした。声高らかに宣言する。
「見事。見事な『残心』だ。今回は俺の負けだ。こんなきっちり残心決められたら、不意を突くなんて出来ねえからな。ホントにやるようになったな」
「『残心』…………」
半分放心しかかる俺に親父は告げる。
「そうだ。技を打ち、その後の流れを見極め『倒した』と思っても油断せず最後まで心をその技に残す。これ即ち『残心』だ。俺たちみたいな剣術家にとって、この勝った!って瞬間の油断が一番ヤベぇ。基本中の基本なんだが、極めれば『奥義』と呼べると、俺は思う」
「そっか……ん、まぁそれだけでもなくてさ。親父、あのさ。酒とかタバコとか。あれ、相手を油断させる目的もあるんじゃねえのかな?ってのが引っかかって。最後、結果的に残心になった」
「ふはは。半分、当たりだな。そう、相手を油断させる目的もあるが、俺の場合それは『おまけみたいなもの』だと思ってる」
「おまけ?」
「前にも言ったな。『剣術家足るもの、いついかなる時も戦いに備えるべきだ』俺もそう思ってる。だから常に体調管理をしっかりと、ってお前の言い分もわかる。だがな、人間なんだ。いつでも体調が良いとは限らんだろ?熱出して寝込んでる時に敵が来たら、お前は『熱があるから待って』とか言うのか?……俺はな、BADコンディションでも戦えるように鍛錬するべきでは?って思ったってこった。『考え方は人それぞれ』だからな。……酒は、美味いしな。ふはッ」
ふはははは、と、笑う親父を見て、目からウロコが落ちるとはこの事か、と言葉を失う。
……やはり、親父は数段上の視点があるんだ。
ふと見ると親父は何事も無かったかのようにスっと立ち上がった。
ゾッ。身体中に鳥肌が立つ。
驚いて親父を見る俺に、サラリと。
「あ?大丈夫だ。折れてねぇぞ?……親友くんは前途有望だな。お前の成長のために『音を誤認する刀 』を打ってくれって頼んだんだ。見事にお前、騙されたもん」
…………だからあの時、なんかすごく変な空気だったのか。アイツめ。いや、それよりも。
残心してなきゃ、怪我してないから俺が負けてたのか……。
いや、そもそも親友にそんなもん打たせたり。
この『先に環境を支配する、やれる手をなんでも打つ事そのもの』が奥義……なんじゃ……
ゴクリ。息を飲む。背中にヒヤリと冷たいものが走る。
…………当分、俺は親父には敵わないな。ははは。
