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バイキング・ロー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
2026 FIFAワールドカップ・グループIでフランスと対戦したノルウェーのサポーターによるバイキング・ロー(2026年6月26日)

バイキング・ロー(英語: Viking Row、ノルウェー語: Viking-roing[1])は、サッカーのチャント。伝統的な北欧の角笛を吹くことから始まり、サポーターはバイキング(ヴァイキング)のロングボートを模した隊列を組んで床に座り、漕ぐような動きを一斉に行いながら、リーダーが最初はゆっくりと、しかし拍子を重ねるごとに速くドラムを叩きながら、ドラムの音の後に全員で「Ro!(ロー、ノルウェー語で『漕げ』)」と唱和する[2]。この応援は、バイキング時代のロングシップ(長船)を漕ぐ姿を表現したものであり、「全員が同じ方向へ漕ぎ、チームを勝利へ導く」という象徴的な意味が込められている[3]。

2026 FIFAワールドカップにおいてサッカーノルウェー代表のサポーターがこの応援を行って話題になり、ノルウェー代表の試合にとどまらず決勝戦のハーフタイムショーでも披露され[4]、2026 FIFAワールドカップを象徴する光景の一つとなった[5]ほか、サッカーにとどまらず学校やノルウェー議会、公園、タイムズスクエアなど様々な場面で用いられた[3][4][6]。2026年ワールドカップにおいて、ノルウェー代表が1998年大会以来のベスト16に進出した際には、オスロとベルゲンで大勢の歓喜したサポーターがバイキング・ローを披露し、その音は地震学者が地震として記録したほどだったという[7]。

起源

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グループI イラク対ノルウェー戦におけるノルウェーサポーター(2026年6月16日)

バイキング・ローは、ノルウェーのサポーターで、「ミスター・ロウ・ロウ」[5]として知られる小学校教師のオーレ・フロイスタ(英語版)(Ole Frøystad)が考案し、2025年末にノルウェーのサポータークラブ「Oljeberget(ノルウェー語版)」に提案された[3][7]。フロイスタは、バイキングたちは船を漕ぎ、岸に近づくと帆をたたみ、オールを使って上陸しており、それは戦いの直前に行われていたとして、「チームのために漕ぐことが重要」と語っている[8]。

ワールドカップ開幕前の2026年3月に行われたスイスとの親善試合で初めて試行された[2]。その後更なる修正を重ね、6月のスウェーデンとの最後の親善試合の前には、どのように行うのかを示す動画を投稿した[7]。この試合におけるバイキング・ローでは角笛も導入された[5]。試合後にフロイスタがInstagramに投稿したバイキング・ローの動画は、3,800万回以上再生され、300万件近くの「いいね」を獲得したという[2]。

ほとんどのサッカーの応援歌は、その正確な起源を特定することが不可能な場合が多い中、このバイキング・ローは意識的に考案され、入念にリハーサルされ、インターネット上で大規模に宣伝されたものと報じられた[7]。

なお、ノルウェーのサッカーファンに採用される以前から、協調した「バイキング漕ぎ」は、特にスウェーデンのメロディックデスメタルバンド、アモン・アマースのコンサートでよく知られた観客の儀式であり、しばしば「Put Your Back Into the Oar」という曲中に行われ、観客が地面に座ってバイキングのロングシップの漕ぎ方を真似るものであった[9][10]。ノルウェー代表はバイキングのイメージを積極的に取り入れており、2023年にはユニフォームに北欧バイキングなどが使用したルーン文字を採用した[11]ほか、2026年ワールドカップの公式チーム写真では、革や毛皮をまとい盾や弓を手にした姿が写っている[7]。

広がり

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スタジアムでの展開

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6月に開幕したワールドカップのグループステージにおいて披露された応援は話題を呼び、オーレ・フロイスタは「想像していたよりも、はるかに大きなものになった」と語っている[5]。6月23日(日本時間)[12]のグループステージ第2節・セネガル戦に勝利した際には、選手たちが腰を下ろし、キャプテンマークを巻いたMFマルティン・ウーデゴールが太鼓を叩き、ストーレ・ソルバッケン監督も参加し、サポーターと息を合わせてバイキング・ローを披露した[5][13][14]。この試合で2得点を挙げたFWアーリング・ハーランドは、すでにネットで観たことがあったとしたうえで、試合前にウーデゴールから、サポーターと一緒に参加するかと問われ、もし勝ったらやろうと答えたと振り返った[15]。6月27日(日本時間)[12]のグループステージ第3戦・フランス戦には1-4で敗れたが、サポーターは敗北を乗り越えるかのようにバイキング・ローを行った[11]。

7月1日(日本時間)[12]、決勝トーナメント初戦のコートジボワール戦に勝利した後も、選手たちはサポーターとともにバイキング・ローを行い、FIFAの公式Xに投稿された[16]。7月6日(日本時間)[12]に行われた決勝トーナメント2回戦のブラジル戦では、チームを初のベスト8に導く2ゴールを挙げたハーランドがバイキング・ローを先導する役割を担った[17]。

応援はワールドカップ開催地の16会場全体で見られた[3]。7月19日に行われたワールドカップ決勝戦のハーフタイムショーでは、ハーランドが太鼓を叩き、シモン・ボリバル交響楽団とマペットがそれに応えてチャントを歌うというコーナーとして取り上げられた[18]。

スタジアム外での展開

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バイキング・ローは、スタジアムだけでなく学校や公園、ノルウェー議会、さらにはニューヨークのタイムズスクエアなどでも行われるなど、大きな話題となった[3][4]。

グループステージ第2戦・セネガル戦直後には、ノルウェーサポーターが勝利を祝ってノルウェー王宮(英語版)前に集まり、「国王を起こそう」と早朝5時にバイキング・ローを披露[19]。さらに6月27日(日本時間)[12]のグループステージ第3戦・フランス戦を前に、オスロのカール・ヨハン通りに数千人が集まり、元クロスカントリースキー選手のペッテル・ノールトゥグ(英語版)が太鼓をたたきながらバイキング・ローを披露、ギネス世界記録に挑戦した[19]。

準々決勝でイングランドに敗れたノルウェー代表の帰国の際、選手や数千人のサポーターとともに、皇太子(のちのホーコン国王)が太鼓を叩き、バイキング・ローを披露した[20]。ノルウェーの国会議事堂でバイキング・ローが行われた際には、ヨーナス=ガール・ストーレ首相も参加した[11]。

バイキング・ローはノルウェー以外にも広まった。ワールドカップで優勝したスペインの数百人のサポーターは、試合後にタイムズスクエアに集まってバイキング・ローを披露した[21]。

MLBでも、ワールドカップ期間中の6月24日、ニューヨーク・メッツ対シカゴ・カブスのダブルヘッダーが行われたシティ・フィールドのライトスタンドを、赤いユニフォームと角付きヘルメットを身に着けたノルウェーのサポーターが埋め尽くし、バイキング・ローを披露した[22]。

北大西洋条約機構(NATO)首脳会議にあわせて7月8日にトルコで行われた韓国の李在明大統領とノルウェーのストーレ首相の首脳会談において、李大統領はノルウェー代表の8強進出を祝福するとともに、バイキング・ローのジェスチャーを披露し、「もう一度オールを漕ぐ姿を期待している」とエールを送った[23]。

日本における受容

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評価・影響

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2026 FIFAワールドカップでは、大会を代表するサポーター文化の一つとして各国メディアに取り上げられた。FIFAは、異なる国のサポーター同士が互いの応援を尊重し交流する事例として紹介しており、ノルウェー代表とフランス代表のサポーターがそれぞれの応援を披露し合った様子を「Football Unites the World」の一例として報じている[3]。

ノルウェーでは、国民を一体させる動作として、SNSでは企業、政治家、団体、個人、子どもたちが多くのバイキング・ローの様子を投稿しているほか、「正しい漕ぎ方」を議論したり、バイキングの歴史を改めて振り返る投稿も増えているといい、バイキングを通じた一体感がノルウェー全体を熱狂させたとも報じられている[19]。オスロにあるヴァイキング船博物館のエレン・マリー・ネスは、バイキング・ローを通じてより多くの人々のバイキングへの関心が高まるだろうと述べており[33]、ノルウェー最大級のバイキング船を展示するサガスタッド博物館(英語版)はワールドカップを契機にSNSでの注目度が大きく高まっているほか、ワールドカップの影響かどうかは一概に言えないとしながらも、カルモイ島(英語版)にあるバイキング農場でも、多くの観光客が押し寄せているという[34]。

一方で、グループステージ・セネガル戦におけるバイキング・ローのパフォーマンスに加わることを拒否したあるファンは、ノルウェーのソーシャルメディア上で批判を受けたといい、サッカージャーナリストのアレクサンデル・シャウは「まるで『ノー』と言うことが許されないような雰囲気だ」と語った[11]。応援を拒否したサポーターは、アイスランドのヴァイキング・クラップとの類似性を指摘した[11]。ノルウェーで最も発行部数の多い新聞・アフテンポスト(英語版)のコラムニストは、バイキング・ローについて、不健全な「男らしさの美学」「有害で男性らしい雰囲気」として批判し、別のコメンテーターも「ノルウェー人には少しうるさすぎてディズニーっぽい」と語った[7]。

また、バイキングはノルウェーにとどまらない地域文化全体の遺産として、特に隣国スウェーデンには、バイキング・ローに対してネガティブな感情を持つ選手やファンもいるという。スウェーデンのスヴェンスカ・ダーグブラーデットのコラムでは、スウェーデン系バイキングは河川を使って東ヨーロッパを征服したのに対し、ノルウェー系バイキングは外洋を横断してブリテン諸島や北アメリカへ向かっており、前者のほうがオールを多用していたはずだとして、船を漕ぐパフォーマンスは「ノルウェー的というよりスウェーデン的である」と主張された[11]。一方、同じ北欧でワールドカップ本大会出場を逃したデンマークでは、ノルウェー人の熱狂ぶりを「大人のいじめに近い」「これは到底耐えられない。ノルウェーよ、君たちは我々を嘲笑っているのだ」と評し、ノルウェーに対する羨望の眼差しを向ける声もあった[35]。

脚注

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  1. ↑ Johansen, Sebastian Melsom (2026年6月26日). “Måper av Norge: – Gåsehud!” (ノルウェー語). Nettavisen. 2026年7月30日閲覧。
  2. 1 2 3 O'Halloran, Connor. “How Norway's 'Viking Row' was made, and then took over the World Cup” (英語). www.espn.com. 2026年9月12日閲覧。
  3. 1 2 3 4 5 6 “Norway's Viking Row and French clapping: two sets of fans, one language at FIFA World Cup 2026” (英語). FIFA. 2026年9月12日閲覧。
  4. 1 2 3 “The Viking Row: Norway's viral football fan tradition” (英語). Visit Norway. 2026年9月12日閲覧。
  5. 1 2 3 4 5 “舟を漕ぐ数千人:世界を席巻するノルウェーの応援「バイキング・ロウ」誕生秘話”. FIFA (2026年7月4日). 2026年9月15日閲覧。
  6. ↑ USA Today (2026年6月26日). “Norway fans share powerful moment with players through viral Viking Row” (英語). Yahoo Sports. 2026年9月12日閲覧。
  7. 1 2 3 4 5 6 “Bigger than football’: Norway fans’ Viking row makes waves at World Cup” (英語). ガーディアン (2026年7月3日). 2026年9月12日閲覧。
  8. ↑ Juliet Nottingham (2026年6月23日). “ノルウェー代表の「バイキング・ロウ」で観客熱狂 その意味と誕生の背景とは? FIFAワールドカップ2026”. Olympics. 2026年9月15日閲覧。
  9. ↑ Radbourne, Lucas (2023年4月3日). “Something different happens in an Amon Amarth pit” (英語). Beat Magazine. 2026年9月12日閲覧。
  10. ↑ rituals, Stef LachDarkness Divided fans in Germany throw down the gauntlet for future 'epic Viking row' (2016年12月14日). “Eat your hearts out Amon Amarth – check out this Viking row” (英語). Louder. 2026年9月12日閲覧。
  11. 1 2 3 4 5 6 “オールを漕いでサッカーW杯を戦ったノルウェー 話題の応援「バイキング・ロー」の正体”. 朝日新聞GLOBE. 2026年7月22日. 2026年9月15日閲覧.
  12. 1 2 3 4 5 「ノルウェー代表 試合日程・選手情報」『朝日新聞』。2026年9月16日閲覧。
  13. ↑ 田中一毅 (2026年6月25日). “28年ぶり決勝Tのノルウェー 国中を巻き込む「バイキング・ロー」旋風”. 産経新聞. 2026年9月15日閲覧.
  14. ↑ “ド迫力…ノルウェー『勝利の儀式』が圧倒的な一体感で話題「かっこいい」…「バイキング・ロー」がネットも席捲”. 中日新聞. 2026年6月23日. 2026年9月15日閲覧.
  15. ↑ “決勝T決定のノルウェーが「バイキングロウ」を披露「ネットで見たことはあった」とハーランド”. 日刊スポーツ. 2026年6月23日. 2026年9月15日閲覧.
  16. ↑ “大迫力のサポーターたち! ノルウェー代表、勝利後の“バイキング・ロウ”が熱い! W杯で名物となったパフォーマンス”. FOOTBALL CHANNEL. 2026年7月1日. 2026年9月16日閲覧.
  17. ↑ “ワールドカップ2026名場面:セレソンを沈めたバイキングの英雄”. FIFA (2026年8月21日). 2026年9月15日閲覧。
  18. ↑ “How Erling Haaland was involved in World Cup final halftime show” (英語). www.hitc.com (2026年7月19日). 2026年9月15日閲覧。
  19. 1 2 3 鐙麻樹「フランス戦前にノルウェー王宮前で「RO!」1万人のバイキング・ロウ、ギネス記録に挑戦」『Yahoo!ニュース』2026年6月27日。2026年9月16日閲覧。
  20. ↑ “100,000 fans, one final 'Viking Row': Norway receive hero's welcome after historic World Cup campaign | Watch”. The Times of India (英語). 2026年7月14日. ISSN 0971-8257. 2026年9月15日閲覧.
  21. ↑ Agency, Anadolu (2026年7月20日). “Spain fans perform Viking rowing celebration in Times Square after World Cup final victory”. Reuters (アメリカ英語).
  22. ↑ Callahan, Ryan (2026年6月25日). “Norway's Viking Row Takeover at Citi Field” (英語). NY Sports Day. 2026年6月28日閲覧。
  23. ↑ “李大統領、ノルウェー首相との首脳会談で「バイキング・ロー」…W杯8強進出を祝福”. 中央日報日本語版. 2026年7月9日. 2026年9月15日閲覧.
  24. ↑ “【ソフトバンク】W杯で話題の「バイキング・ロー」は短命? 周東佑京ポツリ「もういいかな」”. 東スポweb. 2026年6月29日. 2026年9月17日閲覧.
  25. ↑ ノルウェー大使館 [@NorwayinJapan]「W杯⚽ノルウェーの夢よいつまでも…🥹」2026年7月14日。X(旧Twitter)より2026年9月12日閲覧。
  26. ↑ The DIGEST (2026年7月10日). “「ノルウェーのみなさん見てこれ!」歓喜の“バイキング・ロー”が日本の高校野球界でトレンドに! 地方大会スタンドでマネする応援続出「早速やってるわw」【W杯】”. 2026年9月12日閲覧.
  27. ↑ “【高校野球】花咲徳栄バイキングロー応援で鼓舞 井上隆世応援団長「サッカー好き多かった」/埼玉”. 日刊スポーツ. 2026年7月10日. 2026年9月15日閲覧.
  28. ↑ “W杯ノルウェーのバイキング・ロー 高校野球のスタンドにも出現”. 朝日新聞. 2026年7月13日. 2026年9月15日閲覧.
  29. ↑ “八幡商アルプス、「バイキング・ロー」で桑原太暉主将にエール…本人から「やってほしい」”. 読売新聞. 2026年8月7日. 2026年9月15日閲覧.
  30. ↑ “【甲子園】八幡商アルプスが甲子園史上初の「バイキング・ロー」でナイン鼓舞 桑原太暉主将が考案「メンタル面も鼓舞される」”. スポーツ報知. 2026年8月7日. 2026年9月15日閲覧.
  31. ↑ “ドルトムントがFC東京に勝利 山本天翔は凱旋試合で雨中の奮闘も反省「惜しいところで決めきれる選手に」”. デイリースポーツ. 2026年8月2日. 2026年9月17日閲覧.
  32. ↑ “ボルシア・ドルトムントとの夢の一戦。見えた現在地とこれから【FC東京 vs ボルシア・ドルトムント 観戦記】|west-v”. note(ノート) (2026年8月7日). 2026年9月16日閲覧。
  33. ↑ Schmidt, Martin Tangen (2026年7月1日). “Vikingarven får ro-hjelp: – Jeg er rett og slett direkte begeistret” (ノルウェー語 (ブークモール)). NRK. 2026年9月16日閲覧。
  34. ↑ Nyhammer, Ragnhild (2026年6月30日). “Turiststader merkar stor interesse for vikingtida etter at heile Noreg ror i VM” (ノルウェー語 (ニーノシュク)). NRK. 2026年7月2日閲覧。
  35. ↑ “Why Norway’s Viking Row World Cup celebration is annoying their Nordic neighbours” (英語). The Independent (2026年6月24日). 2026年9月15日閲覧。

関連項目

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